Gene Review著者: Stephanie E Wallace, MD and William R Wilcox, MD, PhD.
日本語訳者: 清水日智(済生会長崎病院小児科)
Gene Review 最終更新日: 2017.10.12. 日本語訳最終更新日: 2020.11.11.
要約
疾患の特徴
カムラティ・エンゲルマン病 (CED: Camurati-Engelmann Disease) は、長骨および頭蓋骨の過剰な膜内骨化、近位の筋力低下、四肢痛、がに股 (外旋位) 歩行、動揺性歩行、および関節拘縮を特徴とする。巨頭症、前額部の突出、下顎拡大、眼球突出、重症化すると顔面神経麻痺を来すことがある脳神経圧迫、といった顔面における特徴は、後年、罹患者において明らかとなる。
診断・検査
CEDの診断は、発端者において特徴的な放射線画像所見を認めるか、発端者において放射線画像所見が明らかでない場合には分子遺伝学的検査によりTGFB1にヘテロ接合性の病原性バリアントを同定した場合に行われる。
臨床的マネジメント
症状に応じた治療 :
症状をコントロールするために、必要に応じて、コルチコステロイドによる治療を行う; 疼痛コントロールに用いるステロイドの必要量を最小限に抑えるためには、ロサルタンが補助療法として有用である。疼痛は鎮痛薬や非薬物療法においても管理される。頭蓋骨硬化症を有する患者においては、頭蓋内圧を低下させ、症状を緩和するために、減圧開頭術が時に必要となることがある。滲出性中耳炎に起因する伝音難聴は、両側鼓膜切開術にて改善されることがある。
二次合併症の予防:
コルチコステロイド療法を受けている患者の血圧を測定し、必要に応じて高血圧に対する治療を行う; ロサルタンを服用している患者は低血圧のリスクが高まるため、この場合も定期的な血圧測定が必要である; 骨粗鬆症および脊椎圧迫骨折のリスクを軽減するために、コルチコステロイドの投与量を許容範囲内で漸減させる。
サーベイランス:
コルチコステロイド治療の開始後は、血圧測定が毎月実施されるべきである; ステロイドの維持量が達成された後は、全ての神経学的検査、全血球計算値 (CBC) 測定、血圧測定、聴力検査、眼科的評価、骨密度測定を含む評価が1年に1回のペースで実施されるべきである; 成長障害や成長停止といった副作用が生じうるため、小児においける成長曲線作成がルーチンに行われるべきである; 患者に頭蓋骨の骨化過剰症 (外科的治療を受けたものを含む) がある場合、頭蓋内圧上昇の徴候や症状がないかの確認が継続して行われるべきである。
遺伝カウンセリング
CEDは常染色体優性遺伝形式を示す。浸透率は低い。病原性バリアントが新生 (de novo) に生じる場合、その発生率は不明である。CEDを有する患者の子供はそれぞれ、TGFB1病原性バリアントを50%の確率で受け継いでいる。[訳注:米国においては] リスクの高い妊娠のための出生前検査および着床前遺伝子診断は、病原性バリアントが同定されている家系においては可能な選択肢である。
カムラティ・エンゲルマン病:含まれている表現型 |
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診断
カムラティ・エンゲルマン病 (CED: Camurati-Engelmann disease) の診断に関するガイドラインは現在のところ公表されていない。
疑うべき所見
以下の臨床所見を認める患者では、カムラティ・エンゲルマン病 (CED) を疑うべきである。
診断の確立
発端者において特徴的な放射線画像所見を認める場合に、もしくは放射線画像所見が決定的でない症例においては分子遺伝学的検査 (表1参照) によりTGFB1のヘテロ接合性病原性バリアントが同定された場合に、CEDの診断が確定される。
放射線画像所見
注:骨化過剰症を脊椎に認めることはない。
分子遺伝学的検査のアプローチには、単一遺伝子検査、マルチ遺伝子パネルの使用、およびより包括的なゲノム検査がある。
注:CEDは機能獲得のメカニズムによって発症すると推測されている。CED患者においては遺伝子内の大きな欠失や重複は報告されていないため、遺伝子内の欠失や重複の検査は適応とならない。
マルチ遺伝子パネルの詳細については、こちらを参照のこと。遺伝子検査をオーダーする臨床医のためのより詳細な情報は、ここをクリックのこと。
表1. カムラティ・エンゲルマン病に用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 検査手法 | 各検査手法によって、病原性変異が発端者において同定される割合2 |
---|---|---|
TGFB1 | シーケンス解析3 | 90% |
標的遺伝子における 欠失/重複解析5 |
不明6 | |
不明 | 該当なし |
臨床所見
カムラティ・エンゲルマン病 (CED: Camurati-Engelmann disease) の患者は、四肢痛、近位の筋力低下、筋肉の発達不良、がに股 (外旋位) 歩行、動揺性歩行、易疲労性、そして頭痛を呈する。報告された306名における発症年齢の平均は13.4歳であり [Carlson et al 2010]、出生時から76歳までと幅がある [Wallace et al 2004]。
筋骨格系 筋量の低下および筋力低下は下肢近位筋に最も顕著となり、その結果、座位からの立ち上がりが困難となる。がに股 (外旋位) 歩行および動揺性歩行 (waddling gait) は、48%~64%の患者にみられる。関節拘縮は43%の患者にみられる。一部の患者においては、マルファン症候群様の体型が報告されている [Wallace et al 2004, Janssens et al 2006]。筋骨格系の症状は、様々な程度の腰椎前弯症、後弯症、側弯症、外反股、橈骨頭脱臼、外反膝、外反母趾、扁平足、および前額部の突出をきたすことがある [Yuldashev et al 2017]。
骨痛は患者の68~90%で報告されている [Wallace et al 2004, Janssens et al 2006]。骨痛の重症度は、軽度 (治療を必要としない) から重度 (麻薬性鎮痛剤を必要とする) まで幅があることが報告されている [Yuldashev et al 2017]。疼痛は絶えず続き、疼き、下肢で最も強いと言われている。疼痛は、運動、ストレス、および寒冷に伴い増悪することが多い。多くの患者が、激しい痛みのため何もできなくなるエピソードを繰り返している。骨痛のために、一部の患者では歩行ができなくなる。肥大した骨幹は、触診にて触知可能であり、圧痛を伴うこともある。罹患者の52%が触診時に骨の圧痛があったと報告されている [Wallace et al 2004]。四肢の間欠的な腫脹、発赤、熱感もまた生じる。
CED患者において測定された股関節および大腿骨頚部の骨密度は増加していたが、CED患者3名の同胞例において、骨衝撃マイクロインデンテーション法 (bone impact microindentation) により測定された骨強度は、正常値を下回っていた。サンプルサイズが小さいため、骨強度の差は統計的に有意ではなかった [Herrera et al 2017]。CED患者が骨折しやすいとの報告はない。骨折した場合には、その治癒が遅れる可能性がある [Wallace et al 2004]。
神経学的所見 脳神経が通過する様々な孔の硬化により、直接的な神経圧迫または神経血管の障害が引き起こされる可能性がある。脳神経障害は、患者の38%にみられる。最も一般的な障害は、難聴、視力障害、顔面神経麻痺である。
CED患者の約19%は伝音難聴および/または感音難聴を有している [Carlson et al 2010]。伝音難聴は、外耳道の狭窄、耳小骨への病変浸潤、卵円窓 (前庭窓) や正円窓 (蝸牛窓) の狭窄などが原因で生じうる。感音難聴は、内耳道の狭窄や蝸牛神経や血管系の圧迫によって生じる。また、顔面神経の減圧を試みた場合にも、感音難聴が生じることがある。
眼窩に症状が及んだ場合は、視界がぼやける、眼球突出、乳頭浮腫、流涙症、緑内障、および眼球の亜脱臼といった症状が生じうる [Carlson et al 2010, Popiela & Austin 2015].
まれに、クローヌス [Neuhauser et al 1948]、感覚喪失、不明瞭な発語、嚥下障害、小脳性運動失調、および膀胱直腸障害が報告されている [Carlson et al 2010]。頭蓋骨における骨化過剰症は頭蓋内圧亢進や頭痛を引き起こす可能性がある。
外科的に減圧術を実施した後に再発性頭蓋内圧亢進症を発生することがある [Wong et al 2017]。
顔面の特徴 CEDを有する小児では、通常、認識できるほどの特徴的な顔貌の変化は認めない。重症化した高齢者では、頭蓋骨の骨硬化により、巨頭症、前額部の突出、下顎拡大、眼球突出および顔面麻痺を引き起こす脳神経の圧迫が生じうる。
リビング病 (Ribbing disease) リビング病とは、長骨の骨硬化性疾患であり、CEDとは放射線学的に区別がつかず、通常、思春期以降に骨痛を伴う疾患であるが [Makita et al 2000]、TGFB1の病原性バリアントによって引き起こされることが知られている [Janssens et al 2006]。このように、CEDとリビング病は同じ疾患の表現型の違いを現したものである。
その他 まれな症状としては、貧血 (髄腔が狭小化するため引き起こされるとの仮説がなされている)、食欲不振、低い体格指数 (BMI)、肝脾腫、皮下組織の減少、皮膚の萎縮、手足の多汗症、生歯遅延、広範性齲蝕、思春期遅発症、および性腺機能低下がある [Gupta & Cheikh 2005, Yuldashev et al 2017]。
妊娠 ステロイドによる除痛を行っていた1名の患者は、妊娠中に骨痛の減少と筋力の改善を認めたため、ステロイド療法の中止が可能となった。第2子出産の数時間後に実施されたメチレンジホスホン酸 (MDP) を用いた骨シンチグラフィでは、妊娠前および分娩6週間後の画像と比較して、取り込み量の減少が認められた。
遺伝型と表現型の相関
TGFB1 病原性バリアントの性質と、臨床的または放射線学的所見の重症度との間には、既知の相関関係は存在しない [Campos-Xavier et al 2001]。
浸透率
TGFB1病原性バリアントがヘテロ接合性に同定された患者であると思われる人の中には、正常な放射線画像所見が得られたものもある [Wallace et al 2004]。正確な浸透率の数値は知られていない。
表現促進現象
世代を重ねることで発症年齢がより早くなることや、より重度の症状や骨病変を認めることが、いくつかの家系で報告されている [Wallace et al 2004, Janssens et al 2006]。これらの所見が確認バイアスではなく表現促進現象であるとすれば (確認バイアスである可能性が高いだろう)、表現促進現象のメカニズムは不明である。アミノ酸ロイシンのコピー数の増加を引き起こし得るエクソン1の病原性バリアントが報告されているが、これらの家系においてこの病原性バリアントは検出されなかった。
他の名称
エンゲルマン (Engelmann) は、1929年に2番目に報告されたCEDの患者を "整骨を要する幼児多発性骨化過剰症 (骨硬化症) : osteopathic hyperostotica (sclerotisans) multiplex infantilis "と記述した。
エンゲルマン病および骨幹異形成症 (diaphyseal dysplasia) という用語は、ノイハウザーら [1948] が進行性骨幹異形成症 (progressive diaphyseal dysplasia) という用語を造語するまでは、一般的に使用されていた。
グレッジとホワイト [1951] は、進行性骨幹骨化過剰症 (progressive diaphyseal hyperotosis) いう用語を提案したが、これは広く使用されていなかった。
有病率
有病率は不明である。300名以上の患者が文献上報告されている。
この疾患は民族を超えて普遍的に認められる。
TGFB1病原性バリアントと関連する表現型は、このGeneReviewで議論されているもの以外に知られていない。
カムラティ・エンゲルマン病 (CED: Camurati-Engelmann disease) の臨床所見および放射線画像所見と共通の所見を呈する疾患はほとんど存在しない。正しい診断は、身体検査および骨格の調査によって行われる。
表2. CEDの鑑別疾患とみなされる疾患一覧
鑑別疾患 | 遺伝子 | 遺伝形式 | 臨床的特徴 | |
---|---|---|---|---|
CEDと重複する症状 | CEDと区別される症状 | |||
頭蓋骨幹異形成症 (CDD: Craniodiaphyseal dysplasia) (OMIM 218300) |
不明 | AR (推測) |
骨幹の硬化症 頭蓋の骨化過剰症 |
|
ケニー・キャフェイ症候群2型 (Kenny-Caffey syndrome type 2) (OMIM 127000) |
FAM111A | AD | 長骨の硬化症 骨皮質の肥厚 髄質の狭小化 |
低カルシウム血症 副甲状腺機能低下症 大泉門の閉鎖遅延 |
若年性パジェット病 (Juvenile Paget disease) (OMIM 239000) |
TNFRSF11B | AR | 頭蓋骨骨化過剰症 感音難聴 長骨の硬化症 |
易骨折性 長骨の湾曲 |
ゴーサル型貧血を伴う骨幹異形成 (Ghosal hematodiaphyseal dysplasia) (OMIM 231095) |
TBXAS1 | AR | 骨幹の硬化症 | 重症貧血、白血球減少症、血小板減少症 [訳注: ゴーサル型貧血を伴う骨幹異形成においては、歩行障害、筋病変、四肢の疼痛を認めないとされる] |
骨内膜性骨化過剰症 Endosteal hyperostosis, AD (OMIM 144750) |
LRP5 | AD | 骨幹 (骨内膜) の硬化症 一部の患者では脳神経障害を呈する |
下顎角の拡大を伴う、幅広で深い下顎 (CEDにおける下顎拡大とは一線を画す) |
SOST関連硬化性骨異形成症 (骨硬化症とファン-ブッヘム病を含む) (SOST-related sclerosing bone dysplasias incl sclerosteosis & van Buchem disease) |
SOST | AR | 頭蓋骨骨化過剰症 脳神経障害 骨幹の硬化症 |
合指症 爪の異形成または欠損 |
AD = 常染色体優性遺伝形式; AR = 常染色体劣性遺伝形式
初期診断後の評価
カムラティ・エンゲルマン病 (CED: Camurati-Engelmann disease)と診断された患者の症状の程度とニーズを判定するために、まだ完了していない場合には、以下の内容を含む初期評価を実施するべきである。
合併症の治療
現在までにコンセンサスが得られている管理ガイドラインは作成されていない。
コルチコステロイド コルチコステロイドはカムラティ・エンゲルマン病 (CED: Camurati-Engelmann disease) の症状の多くを緩和する可能性がある。いくつかの研究においてコルチコステロイド治療の奏効が報告されており、歩行状態の改善・運動耐容性の改善・屈曲拘縮の改善といった、疼痛や筋力低下軽減への効果や、貧血や肝脾腫の改善などの効果がある [Lindstrom 1974, Baş et al 1999, Wallace et al 2004]。ステロイド療法が奏効しなかった成人が1名報告されている。
重度の症状がある患者には、プレドニゾロン1.0-2.0mg/kg/日をボーラス投与し、その後、許容される最低用量まで急速に漸減させる。症状が軽い患者には、0.5~1.0mg/kg/隔日投与から開始する。患者によっては、症状が安定している時期にステロイド治療を中止できる場合もある。
高用量のステロイドは、急性期の疼痛管理にも有効であろう。
注:ステロイド投与により、骨化過剰症の発症を遅らせ、頭蓋骨病変の発症を予防したり、遅らせたりすることができるだろう。ステロイド治療後の組織学的研究では、骨吸収の増加と、骨芽細胞活性の増加および層板骨沈着の減少を伴う二次的リモデリングが示されたが、いくつかの論文では、放射線画像検査 [Verbruggen et al 1985] および骨シンチグラフィ検査 [Baş et al 1999] では骨硬化症の退縮は認められなかったと報告されている。Lindstrom [1974] と Başら [1999]の報告によると、ステロイド治療後の放射線画像検査では骨硬化症が減少したことを報告している。 Verbruggenら [1985]と稲岡ら [2001] は、骨シンチグラフィにおける核種集積の減少を報告している。貧血、肝脾腫、頭痛、および脳神経圧迫症状について、コルチコステロイド療法の予防効果を評価するためには、長期追跡研究が実施されるべきである。
カルシトニン カルシトニン点鼻薬により疼痛が緩和されたと、患者1名の症例報告がある [Trombetti et al 2012]。
ロサルタン ロサルタンで治療された2名の患者において、骨痛の軽減および身体活動の増加が報告された [Ayyavoo et al 2014, Simsek-Kiper et al 2014]。ロサルタンには抗 TGFβ作用があり、 マルファン症候群の患者で試験が行われている。ロサルタンによる治療によっても骨痛が改善されない患者が一部存在する [Yuldashev et al 2017]。
その他 疼痛の緩和には、他の鎮痛剤や非薬物療法が頻繁に用いられている。
外科的治療
持続的な骨痛に対する骨髄腔のリーミングによる外科的治療が、リビング病(Ribbing disease) と診断され22歳の女性において報告されている [Oztürkmen & Karamehmetoğlu 2011]。脛骨の痛みは術後に完全に消失し、5年間の経過観察期間において疼痛の再燃を認めなかった。
減圧開頭術により、頭蓋内圧上昇と頭痛が緩和されている [Carlson et al 2010]。結果として、頭蓋内圧の上昇を伴う再発性の頭蓋骨骨化過剰症は、チタンメッシュによる頭蓋形成術を用いた根治的な減圧開頭術によって管理されている [Wong et al 2017]。
難聴
耳鼻咽喉科医による難聴の評価には、聴性脳幹誘発反応 (BAER) と内耳の薄層スライスCT検査が含まれるべきである。CEDにおける難聴の治療が奏効したという報告は稀である。内耳道を外科的に減圧することで聴力は改善する。しかしながら、頭蓋骨における骨化過剰症は進行性であり、神経圧迫症状は再発することが多い。
コルチコステロイドは頭蓋骨骨化過剰症と脳神経圧迫の進行を遅らせることができる。Lindstrom [1974]は、ステロイド療法を行っても伝音難聴の程度に変化がなかったことを報告している。右側に75dBの感音難聴、左側に65dBの感音難聴を有する30歳の女性は、プレドニゾン (prednisone) により、いくらかの聴力改善を経験した。彼女は、右内耳道の減圧術を実施された後、聴力の安定を得ている。
CED患者における、滲出性中耳炎に起因する伝音難聴は、両側鼓膜切開術で改善することがある。
両側の伝音難聴があり、内耳道の狭窄がなく開存している71歳の女性において、人工内耳埋込み術が実施された結果、音声の検出が75dBから45dBへと改善した [Friedland et al 2000]。人工内耳埋込み術の一般的な禁忌事項としては、内耳道の狭窄と、内耳神経の機能不全が挙げられる。
Carlson ら [2010] は、両側の感音難聴を有するCED患者6名を報告した。3名は内耳道の減圧術を受けたが、結果はまちまちであった。残りの3名には保存的治療が行われたが、症状の悪化はみられなかった (遺伝性難聴と難聴の概要も参照のこと)。
一次合併症の予防
近位筋の筋力低下および/または骨の硬化性変化が発症する前に、ステロイド治療を開始したとの報告は、現在までになされていない。症状が多彩であり、浸透率も低いため、無症状の患者に対する治療は推奨されない。
二次合併症の予防
コルチコステロイドが投与されている患者について、血圧のモニタリングを行い、必要に応じて高血圧の治療を行う。
ロサルタンを服用している患者についても、低血圧のリスクが高まるため、定期的な血圧測定が必要である。
骨粗鬆症および脊椎の圧迫骨折のリスクを減らすために、コルチコステロイドの用量は許容範囲内で漸減させる。
サーベイランス
コルチコステロイド療法を開始した後は、ステロイドを許容できる範囲内で最低限まで漸減させるよう努力しながら、患者を毎月フォローする必要がある。ステロイド療法の開始後は高血圧が発症する可能性があるため、受診毎に血圧を測定する必要がある。
ステロイドの維持量が達成された場合、継続的に実施すべき評価項目には以下のようなものがある:
注:CEDは脊椎の骨密度を増加するようではない。したがって、ステロイド治療は脊椎の骨粗鬆症を引き起こす可能性がある [著者、個人的見解]。
著者らは、10代の患者が1名、拡張を伴う上行大動脈解離で死亡したことを知っている。このことがCEDと関連があるかどうかは不明である。CEDのメカニズムはTGF-β1シグナルの機能亢進と関係しており、マルファン症候群 (Marfan syndrome ) や ロイス・ディーツ症候群 ( Loeys-Dietz syndrome) にも同様のメカニズムが認められるため、この患者の死亡はいくつかの懸念材料である。他のCED患者において、類似の症例は知られていない。注: 現時点では大動脈のルーチンな評価は推奨されない。
回避すべき薬剤や環境
ビスホスホネート製剤 パミドロン酸が4名の患者で投与され、症状を改善しなかった [Inaoka et al 2001, Janssens et al 2006]。クロドロン酸の投与は、CEDを有する1名の患者において骨痛の増加を引き起こし、また Castroら [2005]によって報告された別の患者では、改善がみられなかった。
過剰なリン酸塩 リン酸セルロースによる治療は、それぞれ別の患者において、低カルシウム血症と近位筋筋力低下の増悪をもたらした。
リスクのある血縁者の評価
可能な限り早期に診断し、誤診の可能性を回避し、四肢痛に対して適切な治療を行うために、リスクのある血縁者を評価することが望ましい。
評価には以下のようなものが含まれる:
遺伝子カウンセリングを目的としたリスクのある血縁者の検査に関する問題については、遺伝カウンセリングを参照のこと。
今後の導入が検討されている治療法
米国のClinicalTrials.govと欧州の EU Clinical Trials Registerを検索することで、幅広い疾患や症状の臨床試験に関する情報にアクセス可能である。注:この疾患に関する臨床試験が存在しない可能性もある。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
カムラティ・エンゲルマン病 (CED: Camurati-Engelmann disease) は常染色体優性遺伝形式をとる。
血縁者のリスク
発端者の両親
もし、親のいずれかの白血球由来DNAから病原性バリアントが検出されない場合には、発端者において新生 (de novo) に病原性バリアントが生じた場合、またはどちらかの両親に生殖細胞系列モザイクがある場合などが考えられる。理論的には起こりうるが、生殖細胞系列モザイクの症例は報告されていない。
注:報告されてはいないが、両親のいずれかにおいて病原性バリアントが最初に発生した場合、彼/彼女はそのバリアントを体細胞モザイクに有していて、臨床症状をほとんど持たないか、ごく軽度である可能性がある。
発端者の同胞
発端者の子
CEDを持つ患者の子供はそれぞれ、50%の確率でTGFB1病原性バリアントを受け継ぐ。
発端者のその他の他の家族
他の血縁者へのリスクは、発端者の両親の遺伝的状態に依存する。すなわち、親のいずれかがTGFB1病原性バリアントを有している場合、その血縁者にはリスクが存在する。
遺伝カウンセリングに関連した問題
早期診断および早期治療を目的としたリスクのある血縁者の評価に関する情報については、管理、リスクのある血縁者の評価の項目を参照のこと。
明らかな新生 (de novo) 病原性バリアントを有する家系において考慮すべき事 CEDを発症した発端者の両親のどちらにもTGFB1の病原性バリアントが同定されなかった場合、またはCEDの臨床所見が存在しない場合、TGFB1の変異は新生突然変異 (de novo) である可能性が高い。しかしながら、例えば生殖補助による出産などいずれかの両親との血縁関係が存在しない場合や、非公開の養子縁組である場合などの、医学的でない理由も存在しうる。
家族計画
DNAバンク DNAバンクとは、将来使用する可能性を考慮し、DNA (通常は白血球から抽出されたもの) を保管することである。検査の手法や、遺伝子に対する理解、アレル変異に対する理解、疾患についての理解は将来的に向上すると思われるため、患者由来DNAをバンク化することを検討するべきである。
出生前検査および着床前遺伝子検査
TGFB1 病原性バリアントが患者の家系内で同定された場合、リスクの高い妊娠について、[訳注: 米国においては] CEDの出生前検査および着床前遺伝診断が可能となる。
浸透率が低いため、出生前検査の結果は、発症年齢、重症度、症状の種類、または進行率を正確に予測する上で有用ではないだろう。
医療の専門家の間や家族内においても、特に検査が早期診断ではなく妊娠中絶を目的とした場合には、出生前検査に対する考え方の相違が存在しうる。多くの専門機関は出生前診断については夫婦の自己決定の問題だと考えているが、この問題については議論することが適切である。
GeneReviews のスタッフは、本疾患を持つ患者とその家族のために、疾患特異的または包括的な支援を行う組織やレジストリーを、以下の通り抽出した。他の組織が提供する情報について、GeneReviewsが責任を負うものではない。選定基準については こちらを参照のこと。
800 Florida Avenue Northeast
Suite 2047
Washington DC 20002-3695
Phone: 800-942-2732 (Toll-free Parent Hotline); 866-895-4206 (toll free voice/TTY)
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United Kingdom
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Suite 820
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www.nad.org
UCLA
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Fax: 310-206-5266
Email: Salon@mednet.ucla.edu
International Skeletal Dysplasia Registry
Molecular GeneticsおよびOMIMの表の情報は、GeneReviewの表の情報とは異なる場合がある。すなわち、GeneReviewの表にはより新しい情報が含まれている場合がある。-編集者。
表A. カムラティ・エンゲルマン病: 遺伝子とデータベース
遺伝子名 | 染色体座 | タンパク質 | 遺伝子座特異的データベース | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
FB1 | 19q13.2 | トランスフォーミング増殖因子-β1 Transforming growth factor beta-1 proprotein |
TGFB1 homepage TGFB1 homepage - LOVD Australian Human Variome Project |
TGFB1 | TGFB1 |
データは以下の標準的な参照サイトより収載した:遺伝子はHGNCから、染色体遺伝子座はOMIMから、タンパク質は UniProtから。リンク先のデータベース(Locus Specific, HGMD, ClinVar)の説明はこちらを参照のこと。
表B. カムラティ・エンゲルマン病に関連するOMIM項目 (OMIMで全てを見る)
131300 | カムラティ・エンゲルマン病 (CAMURATI-ENGELMANN DISEASE; CAEND) |
190180 | トランスフォーミング増殖因子-β1 (TRANSFORMING GROWTH FACTOR, BETA-1; TGFB1) |
601477 | リビング病 (RIBBING DISEASE) |
遺伝子の構造 TGFB1は7つのエクソンから構成される。遺伝子およびタンパク質に関する情報の詳細な要約については、表A 遺伝子を参照のこと。
病原性バリアント TGFB1のエクソン4における3つの病原性バリアントは、CEDで観察される病原性バリアントのうち約80%を占める [Janssens et al 2000, Kinoshita et al 2000, Campos-Xavier et al 2001, Hecht et al 2001, Mumm et al 2001, Janssens et al 2003, Kinoshita et al 2004, Wallace et al 2004, Janssens et al 2006]。
より詳細な情報については、表Aを参照のこと。
表3. 当GeneReviewにおける特記すべきTGFB1の病原性変異一覧
DNA ヌクレオチド変異 | 予想されるタンパク質の変化 | 参考配列 |
---|---|---|
c.30_38dup | p.Leu11_Leu13dup | NM_000660.4 NP_000651.3 |
c.241T>C | p.Tyr81His | |
c.652C>T | p.Arg218Cys | |
c.653G>A | p.Arg218His | |
c.664C>G | p.His222Asp | |
c.673T>C | p.Cys225Arg |
表に記載されているバリアントは、著者によって提供されたものである。GeneReviewsのスタッフは、バリアントの分類を独自には検証していない。
正常な遺伝子産物
トランスフォーミング増殖因子-β1 (TGF-β1: Transforming growth factor beta-1) は、大きな前駆体として合成される。TGF-β1前駆体は、タンパク質分解により切断される29アミノ酸からなるシグナルペプチドを含んでいる。TGF-β1は、278番目のアミノ酸の後ろで更に切断され、TGF-β1の活性化を阻害する潜伏関連ペプチド (LAP: latency associated peptide) ドメインと、活性型TGF-β1が形成される。LAPドメインは、223番目と225番目のシステインを介してジスルフィド結合することにより二量体化する。TGF-β1は、小さな潜伏型複合体 (SLC: small latent complex) と呼ばれる、成熟TGF-β1ドメインのホモ二量体と、LAPドメインホモ二量体とが、LAPドメイン上の53番目のイソロイシン残基から59番目のロイシン残基における非共有結合により結合された状態で分泌されうる。LAPはTGF-β1におけるタイプⅡ受容体結合部位を遮蔽する。ほとんどの細胞ではTGF-β1を、大きな潜伏型複合体 (LLC: large latent complex) と呼ばれる、TGF-β1/LAPにおけるLAPドメインの33番目のシステインと、潜伏型TGFB結合タンパク質 (LTBP: latent TGFB-binding protein) との間で共有結合した状態で分泌する。LTBPはTGF-β1タンパクのフォールディングや分泌を促進し、場合によっては細胞外マトリックスへの結合を促進する。LLCにおけるTGF-βの活性化は、細胞外マトリックスに結合するLTBPのN末端ドメインを介して生じる。
異常な遺伝子産物
CED患者における病原性バリアントの大部分は、TGF-β1潜伏関連ペプチド (LAP: latency associated peptide) におけるC末端の単一アミノ酸置換に起因する。この置換は、LAPホモ二量体における鎖間ジスルフィド結合部位の近傍である。これらの病原性バリアントは、LAP の二量体形成や、LAPの活性型 TGF-β1 への結合を阻害し[Walton et al 2010]、細胞からの活性型 TGF-β1 の放出を増加させた。CED患者由来変異であるp.Arg218Hisを持つ線維芽細胞は、正常線維芽細胞と比較して、細胞培地中の活性TGF-β1の増加を示した [Saito & Kinoshita 2001]。また、p.Arg218Cys、p.His222Asp、p.Cys225Argバリアントについての試験管内の (in vitro) 解析でも、トランスフェクションされた細胞培地において活性TGF-β1の増加が認められた。対照的に、p.Leu11_Leu13dupおよびp.Tyr81His病原性バリアントは、TGF-β1分泌量の減少を引き起こした。しかしながら、TGF-β1誘導転写応答に特異的なルシフェラーゼレポーターアッセイでは、これらの変異細胞はルシフェラーゼ活性の増加を示し、細胞内におけるTGF-β1の受容体の活性増加が示唆された [Janssens et al 2003]。