屈曲肢異形成症
(Campomelic Dysplasia)

[Synonyms:Camptomelic Dysplasia]

Gene Reviews著者: UngerS,SchererG,Superti-FurgaA.
日本語訳者:藤康守(たい矯正歯科)、山田崇弘(北海道大学臨床遺伝子診療部)

GeneReviews最終更新日: 2023.4.6.  日本語訳最終更新日:  2023.8.16.

原文: Campomelic Dysplasia


要約


疾患の特徴

屈曲肢異形成症(CD)は、特徴的顔貌、口蓋裂を伴うPierreRobinsequence、長管骨の短小化と彎曲、内反足を特徴とする骨系統疾患である。その他の所見としては、呼吸障害を伴う喉頭気管軟化症、46,XYの核型を有する罹患者の大多数にみられる判別不明性器あるいは正常な女性型外性器などがある。多くの罹患児は新生児期に死亡するが、長期生存例については、その他の所見として、低身長、脊髄圧迫を伴う頸椎不安定性、進行性の脊柱側彎、聴覚障害などが確認されている。

診断・検査

CDの診断は、通常、臨床所見とX線写真所見をもとに下される。臨床症候とX線画像所見だけで判定しにくいような場合は、分子遺伝学的検査でSOX9のヘテロ接合性病的バリアントを同定することで、診断の確認が可能である。

臨床的マネジメント

症状に対する治療:
口蓋裂を有する子どもについては、頭蓋顔面チームにより通常の手法で管理を行う。46,XYの核型で性器の男性化不全を呈する例については、性腺芽腫のリスク上昇がみられるため、性腺摘出が必要となる。股関節亜脱臼と内反足の管理は標準的なプロトコルで、聴覚障害を有する例に対しては補聴器で、頸椎不安定性、ならびに肺機能障害を引き起こすような進行性の頸胸椎後側彎に対しては、必要に応じ外科手術で対応する。

二次的合併症の予防:
頸椎の異常が確認されている例については、いかなる手術であっても、手術に際しては特別な注意が必要である。

定期的追跡評価:
脊椎彎曲に関するモニタリングを年に1度行う。

遺伝カウンセリング

CDは常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の形式をとる。現在のところ、発端者の大多数は、SOX9denovoの病的バリアントに起因してCDに至った例で、発端者の両親はふつう非罹患者である。ただ、ごく一部ではあるが、罹患児が誕生した後になってCDの存在が判明する成人もみられる。同胞への再発例が実際に存在し、また、体細胞・生殖細胞系列両方のモザイクの報告もみられる。家系内に存在する病的バリアントが同定されている場合は、高リスクの妊娠に備えた出生前検査が可能である。


GeneReviewの視点

屈曲肢異形成症:ここに含まれる表現型
  • 非屈曲性屈曲肢異形成症(Acampomeliccampomelicdysplasia)
  • 屈曲肢異形成症(Campomelicdysplasia)

別名、ならびに過去に用いられた名称については、「疾患名について」の項を参照。


診断

今のところ、屈曲肢異形成症(CD)に関するコンセンサスを得た臨床診断基準は公表されていない。CD(ギリシア語の「曲がった肢」に由来)の診断は、通常、臨床所見とX線写真所見をもとに明確に判断することができる。必ずみられるという必発の臨床症候が存在するわけではないが、X線写真でみられる諸症候は一貫しており、X線写真が最も信頼に足る診断上の鍵となる。

本疾患を示唆する所見

以下のような臨床症候、X線画像所見を有する例については、CDを疑う必要がある。

臨床症候

注:四肢の彎曲は、疾患名の基になった症候であるが、本疾患に特異的な症候でもなければ、本疾患で必発の症候でもない。四肢の彎曲がみられない例については、「非屈曲性屈曲肢異形成症」という名称が用いられる。四肢の彎曲は、その他数多くの骨系統疾患で現れる(例えば、骨形成不全症)。

X線画像所見(図1,図2,図3)

図1:古典型屈曲肢異形成症の11ヵ月男児にみられた頸椎の変化
異常な前後的彎曲と、C3上へのC2の前方転位(矢印)がみられる。

図2:分子診断のなされた「非屈曲性」屈曲肢異形成症
A.気管カニューレが挿入されており、肩甲骨は顕著な低形成を示す(矢印)。
B.縦向きになった横幅の狭い腸骨翼
C.まっすぐな大腿骨と脛骨

図3:胎生24週の屈曲肢異形成症胎児にみられた典型的X線画像所見
頸椎の異常、胸椎椎弓根の低形成、肩甲骨低形成、横幅の狭い腸骨翼、大腿骨と脛骨の彎曲、内反足に注目されたい。

診断の確定

発端者におけるCDの臨床診断は、「本疾患を示唆する所見」の項に記した臨床所見とX線写真所見をもとに確定させることができる。臨床所見やX線写真所見で確定が難しいような場合は、分子遺伝学的検査(表1参照)でSOX9にヘテロ接合性の病的バリアント(pathogenicとlikelypathogenicの両方を含む)を同定することで診断を確定させることができる。
発端者におけるCDの分子診断は、これを示唆する所見を有することに加え、分子遺伝学的検査で次のいずれか1つが確認されることをもって確定させることができる。

注:稀ながら、家族性転座の例がみられる。
したがって、発端者で異常が確認された場合は、親に対して核型分析を行う必要がある。
注:(1)アメリカ臨床遺伝ゲノム学会(ACMG)/分子病理学会(AMP)のバリアントの解釈に関するガイドラインによると、「pathogenic」のバリアントと「likelypathogenic」のバリアントとは臨床の場では同義であり、ともに診断に供しうるものであると同時に、臨床的な意思決定に使用しうるものとされている[Richardsら2015]。本セクションで「病的バリアント」と言うとき、それは、あらゆるlikelypathogenicのバリアントまでを包含するものと理解されたい。
(2)SOX9にヘテロ接合性の意義不明バリアントが同定された場合、それは、本疾患の診断を確定するものでも否定するものでもない。

分子遺伝学的検査のアプローチとしては、表現型に合わせて、遺伝子標的型検査(単一遺伝子検査,マルチ遺伝子パネル)、染色体マイクロアレイ核型分析網羅的ゲノム検査(エクソームシーケンシング,エクソームアレイ,ゲノムシーケンシング)を組み合わせるやり方が考えられる。

遺伝子標的型検査の場合は、臨床医の側で関与が疑われる遺伝子の目星をつけておく必要があるが、ゲノム検査の場合、その必要はない。「本疾患を示唆する所見」に記載した特徴的所見を有する例については遺伝子標的型検査(「方法1」参照)で診断がつくものと思われるが、表現型からはその他数多く存在する骨系統疾患ないし判別不明性器を伴う遺伝性疾患と区別しにくい例については、ゲノム検査(「方法2」参照)で診断がなされることになろう。

方法1

単一遺伝子検査

最初に、遺伝子内の小欠失/挿入、ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位バリアントといったものを検出するためのSOX9の配列解析を行う。
注:使用する配列解析の手法によっては、単一エクソン、複数エクソン、遺伝子全体といったサイズの欠失/重複が検出されない場合がある。配列解析でバリアントが検出されない場合は、次のステップとして、エクソン単位あるいは遺伝子全体の欠失や重複を調べるための遺伝子標的型欠失/重複解析を行うようにする。

染色体マイクロアレイ解析

染色体マイクロアレイ解析は、オリゴヌクレオチドあるいはSNPのアレイを用いて配列解析では検出できないような大きな欠失/重複をゲノムワイドに(SOX9も含め)調べようというものである。

核型分析

SOX9の検査で診断に至らなかった場合は、17q24.3-q25.1(SOX9の座位)が絡むもののSOX9のコピー数変化は生じていない相互転座に関する評価も検討に値しよう(屈曲肢異形成症罹患者で表現型が女性の場合に行う核型分析の推奨については、「臨床的マネジメント」の項を参照のこと)。

骨系統疾患用マルチ遺伝子パネル

現況の表現型と直接関係のない遺伝子の意義不明バリアントや病的バリアントの検出を抑えつつ、疾患の遺伝的原因の特定に最もつながりやすいのは、SOX9その他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を含む骨系統疾患用マルチ遺伝子パネルであるように思われる。遺伝子パネルの構成は、現れている症候の内容とそれが現れた年齢(例えば、胎児にみられた四肢の彎曲、新生児にみられたPierreRobinsequenceなど)によって変わってくることになろう。
注:(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。
(3)検査機関によっては、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
マルチ遺伝子パネル検査の基礎的情報についてはここをクリック。
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方法2

表現型からは、その他数多く存在する遺伝性骨系統疾患と見分けがつかないという場合は、網羅的ゲノム検査が最良の選択肢となる。この場合、臨床医の側で疑わしい遺伝子の目星をつけておく必要はない。エクソームシーケンシングが最も広く用いられているが、ゲノムシーケンシングを使用することも可能である。
エクソームシーケンシングで診断がつかない場合、中でも常染色体顕性遺伝(優性遺伝)を示すデータが存在する場合は、配列解析では検出できないエクソン単位の欠失や重複を検出することを目的に、臨床的に利用可能なようであればエクソームアレイを用いることも検討に値しよう。

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表1:屈曲肢異形成症で用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 方法 その手法で病的バリアント2が検出される発端者の割合
SOX9 配列解析(3’と5’の非翻訳領域を含む)3 90%-95%4
遺伝子標的型欠失/重複解析5,6 2%近く7
CMA8 1%近く9
核型分析 1%近く10
  1. 染色体上の座位ならびにタンパク質に関しては、表A「遺伝子とデータベース」を参照。
  2. この遺伝子で検出されているバリアントの情報については、「分子遺伝学」の項を参照のこと。
  3. 配列解析を行うことで、benign、likelybenign、意義不明、likelypathogenic、pathogenicといったバリアントが検出される。バリアントの種類としては、遺伝子内の小欠失/挿入、ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位バリアントなどがあるが、通常、エクソン単位あるいは遺伝子全体の欠失/重複については検出されない。配列解析の結果の解釈に際して留意すべき事項についてはこちらをクリック。
  4. データは、ヒト遺伝子変異データベース(HGMD)の購読ベースの専門家向けデータ[Stensonら2020]、Popら[2004]、vonBohlenら[2017]を基にしたもの。
  5. 遺伝子標的型欠失/重複解析では、遺伝子内の欠失や重複が検出される。具体的手法としては、定量的PCR、ロングレンジPCR、MLPA法、あるいは単一エクソンの欠失/重複の検出を目的に設計された遺伝子標的型マイクロアレイなど、さまざまなものがある。遺伝子標的型欠失/重複解析では、単一エクソンから遺伝子全体までの欠失が検出されるものの、大欠失や隣接遺伝子の欠失(例えば、Castoriら[2016]の報告した家系)の場合の切断点に関しては、こうした方法では検出できない可能性がある。
  6. SOX9の重複では、XX性逆転のみが現れる。
  7. Olneyら[1999],Popら[2004],Smykら[2007]
  8. 染色体マイクロアレイ解析(CMA)は、オリゴヌクレオチドあるいはSNPのアレイを用いて、配列解析では検出できないような大きな欠失/重複(SOX9を含む欠失/重複)をゲノムワイドに検出しようというものである。
  9. 欠失/重複のサイズを決定する能力は、使用するマイクロアレイの種類、ならびに17q24.3領域のプローブの密度によって決まる。現在、臨床で使用されているCMAは、17q24.3領域を標的としたデザインとなっている。

  10. 屈曲肢異形成症は、SOX9の欠失、あるいはその上流の調節領域の欠失によって生じる[Popら2004,Lecointreら2009,Kayhanら2019]。
  11. SOX9の座位近傍に生じた見かけ上、均衡型と思われる転座(切断点は上流あるいは下流に1Mb離れた距離にある場合もある)に起因して生じた屈曲肢異形成症(非屈曲性のものを含む)罹患者の報告が複数存在する[Ninomiyaら1995,Pfeiferら1999,Fonsecaら2013,Walters-Senら2014]。

注目すべきは、これらの例のうち少なくとも2例が、アレイCGHで不均衡が検出されていないことである[Fonsecaら2013]。


臨床的特徴

臨床像

SOX9の病的バリアントを有する人は、現在までに、胎児を含め約100例確認されている。そのデータは、多くが症例報告の形でばらばらに存在し、症例を集めての報告は、小規模なものが少数存在するのみである[Cameronら1996,Pfeiferら1999,Mansourら2002,Popら2004,Hill-Harfeら2005,Smykら2007,Lecointreら2009,Gentilinら2010,Corbaniら2011,Fonsecaら2013,Mattosら2015,Castoriら2016,Csukasiら2019]。
本疾患に関連して生じる表現型についての以下に述べる説明は、これらの報告を基礎にしたものである。
屈曲肢異形成症(CD)は、時として出生前の超音波検査で確認されることがあるものの、四肢の彎曲がみられない例については、生まれるまでわからないことも多い。
CDを有する新生児の多くは、出生後まもなく呼吸不全により死亡する。その他の致死性骨系統疾患と異なり、CDの死因は胸郭の低形成ではなく、気道の不安定性(気管気管支軟化症)、あるいは頸椎不安定性のほうにある。それでも、新生児期を乗り切ることのできるCD罹患児も数多く存在する[Mansourら2002]。
CDでみられる顔貌は、2型コラーゲン障害(例えば、Stickler症候群)に類似し、PierreRobinsequence(口蓋裂を伴う)や平坦な中顔面を呈する。新生児期、中顔面は低形成で、眼球が突出する。相対的大頭症(身長比で)が多くみられる。体幹に比して四肢長は短く、しばしば3パーセンタイルを下回る。四肢の彎曲がしばしばみられるものの、これは必発症状ではない。
46,XYの核型を有するCD罹患者の75%は判別不明性器あるいは女性型外性器を有する。内性器の状態には幅がみられ、しばしばミューラー管とウォルフ管が混在する。

文献の形で報告されている生存者の数がそれほど多くないため、一般的な自然経過を述べることは難しいものの、一応、以下のように言われている。

 


遺伝学的に関連のある疾患(同一アレル疾患)

OFD1の病的バリアントは、Joubert症候群、繊毛機能不全症、網膜色素変性症を有する複数の男性で報告されている(表3参照;Pezzellaら[2022]によるレビューあり)。

表3:OFD1の同一アレル疾患

疾患名 参考文献
OFD1関連Joubert症候群 Coeneら[2009],Fieldら[2012],Juric-Sekharら[2012],Thauvin-Robinetら[2013],Bachmann-Gagescuら[2015],Srourら[2015],Suzukiら[2016],Wenztzensenら[2016],Kaneら[2017],Mengら[2-17],Linpengら[2018],Aljeaidら[2019],Zhangら[2021],Huangら[2022],Liら[2023]
OFD1関連繊毛機能不全症 Bukowy-Bierylloら[2019],Hanahら[2019],Hasegawaら[2021],Yangら[2022]
OFD1関連網膜色素変性症 Webbら[2012],Wangら[2017],Chenら[2018]

OFD1の病的バリアントについての報告には、以下のようなものもある。

注:この家系の表現型は、もともとSimpson-Golabi-Behmel症候群2型(SGBS2;OMIM300209)であるとされていたが、その後の研究で、SGBS2はPIGAの病的バリアントに起因して生じることが明らかとなった[Fauth&Toutain2017]。

坐骨恥骨膝蓋骨症候群(ischiopubic-patellasyndrome;IPP)

IPPの表現型として報告されているものは、膝蓋骨低形成、小転子低形成、坐骨恥骨結合部の骨化不全など、骨盤と下肢の所見のみである。ところが、IPPの診断を受けた数例で、SOX9の病的バリアント、あるいはSOX9近傍の細胞遺伝学的変化が報告されている[Mansourら2002]。そうしたことから、現在では、IPPとは、屈曲肢異形成症の中の成人期まで生存できる1つの軽症型であるとの認識に至っている。

遺伝型-表現型相関

CDについては、明確な遺伝型-表現型相関が明らかになるところにまではなかなか至らない現状である[Meyerら1997]。ただ、次の2つの所見を有する例については、ある程度の相関がみられている。

染色体再構成

長期に生存できているCD罹患者、ならびに非屈曲性屈曲肢異形成症罹患者については、SOX9のコーディング領域の病的バリアントよりも、SOX9の上流に切断点をもつdenovoの転座もしくは逆位が多くみられる[Pfeiferら1999,Leipoldtら2007,Gordonら2009,Jakubiczkaら2010,Fukamiら2012]。一般に、切断点がSOX9から遠く離れているほど、男性の外性器への影響[Leipoldtら2007]や骨格所見をはじめとする表現型への影響が軽度になる傾向がみられる。

非屈曲性屈曲肢異形成症(ACD)

転座あるいは逆位を有する例は、軽度の屈曲肢ならびにACDという形で現れることが多く、切断点が明確に同定されている15例について言うと、9例がこの表現型である[Leipoldtら2007]。これに対し、SOX9のコーディング領域に病的バリアントを有する例がACDとなるのは、約10%でしかない。注目すべきは、そうした例のほとんどが、DNA結合ドメインに生じたミスセンスバリアントだという点である[Stafflerら2010,Corbaniら2011]。さらに言うと、互いに血縁関係のない2人のACD罹患者でみられたこのドメイン以外の1残基のミスセンスバリアントは、どちらもSOX9の二量体化ドメインに生じたものであった[Bernardら2003,Sockら2003]。付け加えると、数は少ないながらSOX9の上流に欠失を有する例は、そのすべてがACDであった[Popら2004,Lecointreら2009,Whiteら2011]。こうしたことから、CDを有する例と比べ、ACDをもつ例は、SOX9の上流に切断点をもつゲノム再構成、SOX9の上流の欠失、SOX9のミスセンスバリアントのいずれかである可能性がきわめて高いと言える。

浸透率

SOX9のコーディング領域内の病的バリアントは完全浸透である。SOX9から遠く離れたところに切断点をもつ例については、完全浸透ではない可能性がある。

疾患名について

「屈曲肢異形成症(campomelicdysplasia)」という病名は、1971年にMaroteauxが提唱したもので、ギリシア語の「曲がった肢」に由来している。屈曲肢異形成症を表す用語として過去に用いられたものには、屈曲肢小人症(campomelicdwarfism)、屈曲肢症候群(campomelicsyndrome)、屈曲肢小人症(camptomelicdwarfism)などがある。
「屈曲肢異形成症」はよく定着した病名になっているものの、一方で混乱を招きかねないものともなっている。というのは、CDの全例で四肢の彎曲がみられるわけではなく(ACDの存在)、逆に、四肢の彎曲した子どもの大多数は、骨形成不全症(OI)、低ホスファターゼ症、軟骨-毛髪低形成症(cartilage-hairhypoplasia)その他の、CDとは別の遺伝性疾患であるという現実があるからである(「鑑別診断」の項を参照)。
2023年改訂の骨系統疾患国際分類[Ungerら2023]において、CDには「SOX9関連屈曲肢異形成症」という名称が与えられ、彎曲骨異形成症グループに分類されている。

発生頻度

CDの発生頻度に関しては、信頼しうるデータが存在しない現状である。著者らは、40,000人に1人から80,000人に1人の間であろうと推定している。


遺伝学的に関連のある疾患(同一アレル疾患)

孤発性Pierre Robinsequence

稀とは思われるが、SOX9近傍の染色体転座により、CDでみられる所見を伴わない単発性のPierreRobinsequenceが生じることがある[Jakobsenら2007,Benkoら2009,Gordonら2009]。

孤発性性逆転

表現型の上では女性であるが核型は男性という3成人同胞例が報告されている。この報告ではX線写真が提示されていないが、この性逆転は単発性のものであったと記載されている。この3同胞は、いずれも父親から17q24の欠失を継承していた(46,XXで女性の表現型を有する2同胞にこの欠失はみられなかった)[Bhagavathら2014]。


鑑別診断

胎生期における鑑別診断

表2:胎生期の四肢彎曲を伴う屈曲肢異形成症との鑑別診断対象疾患

遺伝子 鑑別対象疾患 遺伝形式 コメント
ALPL 低ホスファターゼ症 AR1  
COL1A1
COL1A2
骨形成不全症(OI;周産期重症型あるいは進行性変形型) AD OIはCDより高頻度にみられ、出生前超音波検査で彎曲肢がみられる原因としてより多くみられる。
FGFR3 タナトフォリック骨異形成症 AD タナトフォリック骨異形成症1型では大腿骨の彎曲がみられる。
RMRP 軟骨-毛髪低形成症(「軟骨-毛髪低形成症―anauxetic異形成症」のGeneReviewを参照) AR  

AD=常染色体顕性遺伝(優性遺伝)、AR=常染色体潜性遺伝(劣遺伝性)

  1. 低ホスファターゼ症の中の周産期型、乳児型の大多数は、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)である。

出生後における鑑別診断

顔面症候、口蓋裂、短肢といった点で、出生後における鑑別対象疾患は、先天性脊椎骨端異形成症(SEDC;spondyloepiphysealdysplasiacongenita;「2型コラーゲン疾患概説」のGeneReviewを参照)が中心となる。また、顔面症候に大きな類似性があることから、より軽症の2型コラーゲン病であるStickler症候群も鑑別対象になりえよう。両疾患ともCOL2A1の病的バリアントに起因して生じ、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の形式をとる。
X線写真により、これらの疾患の鑑別が可能である。


臨床的マネジメント

最初の診断に続いて行う評価

屈曲肢異形成症(CD)と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、診断に至る過程ですでに実施済でなければ、新生児期を乗り切った乳児について、表3にまとめたような評価を行うことが推奨される。

表3:屈曲肢異形成症罹患者の最初の診断後に行うことが推奨される評価

系/懸念事項 評価 コメント
喉頭気管軟化症あるいは気管気管支軟化症に起因する呼吸窮迫 臨床的評価  
頸椎不安定性 頸椎の側面X線写真  
口蓋裂 摂食評価を含む頭蓋顔面チームによる評価  
女性の表現型を有する46,XY例における性腺芽腫のリスク 核型分析 46,XYの核型を有する例を特定することを目的として、女性の表現型を有する例に行う。
内反足 整形外科医への紹介  
聴覚障害 聴覚スクリーニング  
遺伝カウンセリング 遺伝の専門医療職1の手で行う。 医学的、個人的な意思決定の用に資するべく、本人や家族に対し、CDの本質、遺伝形式、そのもつ意味についての情報提供を行う。
  1. 臨床遺伝医、認定遺伝カウンセラー、認定上級遺伝看護師をいう。

症候に対する治療

表4:屈曲肢異形成症罹患者の症候に対する治療

症候/懸念事項 治療 考慮事項/その他
口蓋裂 頭蓋顔面チームによる管理と閉鎖術  
46,XYの核型の女性性器 性腺芽腫のリスク上昇に備えた性腺摘出術 この処置の至適年齢に関するデータはない。
股関節脱臼 整形外科医による治療  
内反足 整形外科医による外科的治療  
聴覚障害 聴覚士による補聴器を含めた治療  
頸胸椎の進行性後側彎 整形外科医/脳神経外科医による外科的治療 肺機能障害を有する例については、小児期に外科的処置が必要になることが多い[Thomasら1997]。
装具は有用でないことが多い。
頸椎不安定性 整形外科医/脳神経外科医による外科的治療  

二次的合併症の予防

画像診断や外科手術に先立って行う麻酔に伴うリスク

頸椎の異常が確認されている場合は、種類の如何を問わず、外科手術は特別な注意を払って行う必要がある。

定期的追跡評価

表5:屈曲肢異形成症罹患者で推奨される定期的追跡評価

系/懸念事項 評価 実施頻度
脊柱後側彎 脊椎の彎曲状態の臨床的評価とX線写真評価 長期生存者について年に1度

避けるべき薬剤/環境

避けるべき環境として現時点でわかっていることはない。ただ、頸椎奇形を有する長期生存者については極端な屈曲や進展を引き起こすような活動(例えば、でんぐり返し)を制限することが妥当であるように思われる。

リスクを有する血縁者の評価

リスクを有する血族に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。

研究段階の治療

さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「ClinicalTrials.gov」、ならびにヨーロッパの「EUClinicalTrialsRegister」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

屈曲肢異形成症(CD)は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)疾患で、SOX9denovoの病的バリアントに起因して生じるのがふつうである。ただ、稀ながら、SOX9を含む領域あるいはその上流にdenovoあるいは継承の形で生じた染色体再構成(例えば、欠失,転座,逆位)に起因するものもみられる。

家族構成員のリスク

発端者の両親

(注:家族性の転座は、報告例はあるものの稀である。)

発端者の同胞 

発端者の同胞の有するリスクは、発端者の両親の遺伝学的状態によって変わってくる。

発端者の子

CD罹患者の多くは乳児期を越えて生き延びることができない。それでも、一部に生殖にまで至った例がみられる。

他の家族構成員

他の血縁者の有するリスクは、発端者の両親の状態によって変わってくる。

関連する遺伝カウンセリング上の諸事項

家族計画

遺伝学的リスクの確定、出生前検査を受けるかどうかの話し合いに最も適しているのは、妊娠前の時期である。

DNAバンキング

検査の手法であるとか、遺伝子・病原メカニズム・疾患等に対するわれわれの理解が、将来はより進歩していくことが予想される。そのため、分子診断の確定していない(すなわち、原因となった病原メカニズムが未解明の)発端者のDNAについては、保存しておくことを検討すべきである。より詳細な情報については、Huangら[2022]を参照されたい。

出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査

分子遺伝学的検査

家系内に存在するOFD1の病的バリアントが同定されている場合は、出生前検査や着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。

超音波検査

高リスクの妊娠

低リスクの妊娠

通常の出生前超音波検査で、もともと高リスクとは考えられていなかった胎児にCDを疑わせるような骨格所見(例えば、nuchaltransparencyの拡大,小下顎症,彎曲し短い四肢,肩甲骨の低形成)が見つかることがある[Schrammら2009,Gentilinら2010]。出生前の段階で骨系統疾患の存在が確認されたとしても、超音波の所見だけで診断を確定させるところまでもっていくことは難しいことが多い。こうした場合は、SOX9の病的バリアントに関する分子遺伝学的検査を検討するのが適切である。超音波検査で確認された徴候が、四肢の彎曲や中顔面の低形成といった非特異的なものにとどまるときは、マルチ遺伝子パネル検査、あるいはエクソームシーケンシングを用いるほうが有効であるように思われる。


関連情報

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分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A:屈曲肢異形成症:遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体上の座位 タンパク質 Locus-Specificデータベース HGMD ClinVar
SOX9 転写因子SOX-9 SOX9 database SOX9 SOX9

データは、以下の標準資料から作成したものである。遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。

表B:屈曲肢異形成症関連のOMIMエントリー(内容の閲覧はOMIMへ)

114290 CAMPOMELIC DYSPLASIA; CMPD
608160 SRY-BOX 9; SOX9

分子レベルの病原

SOX9のコーディング領域内に病的バリアントが生じると、転写因子として機能する際の活性が損なわれたSOX9タンパク質ができることになる。一方、SOX9の上流1Mb以内に切断点をもつ染色体再構成(転座、逆位)やSOX9上流の欠失の場合は、SOX9のコーディング領域そのものに異常は生じないものの、長い領域を占めるシス調節ドメインが分断されることで、SOX9の発現低下につながっている可能性が高いものと思われる。どちらの場合でも、SOX9の発生調節因子としての機能が損なわれることになる。

SOX9は、軟骨細胞分化のさまざまな段階において、中心的調節因子としてCOL2A1COL11A2などのコラーゲン遺伝子やCD-RAPACANAGGRECANとも呼ばれる)の発現を調節していることが明らかになっている[Akiyama&Lefebvre2011]。

注目すべきは、SOX9の上流0.5Mb以内のありふれた領域の重複/欠失により、CDの症候を有しない単発性の性発達障害が生じるとの報告がみられることである[Benkoら2011,Coxら2011,Ventroら2011]。

こうしたことから、骨格異常、XY性逆転、膵異常(Langerhans島の大きさの縮小とインスリン分泌低下)、心疾患、感音性・伝音性難聴など、CDでみられる幅広いスペクトラムの病的症候は、多面的発生調節因子であるSOX9の器官形成段階における標的遺伝子活性化能が障害されることに直接起因するものであると考えられる。

疾患の発症メカニズム

SOX9の病的ナンセンスバリアントと大多数のフレームシフトバリアントでは、タンパク質のトランケーションが生じ、機能喪失アレルとなることが予測される。HMGドメイン(DNA結合ドメインの1つ)が保存された変異タンパク質を産生することになるSOX9の病的バリアントについては、ドミナントネガティブなアレルとして機能する可能性がある。


更新履歴:

  1. Gene Reviews著者: UngerS,SchererG,Superti-FurgaA.
    日本語訳者:藤康守(たい矯正歯科)、山田崇弘(北海道大学臨床遺伝子診療部)
    GeneReviews最終更新日: 2023.4.6.  日本語訳最終更新日:  2023.8.16..[in present]

原文: Campomelic Dysplasia

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