[Synonyms:CleidocranialDysostosis]
Gene Reviews著者: KarenMachol,MD,PhD,RobertoMendoza-Londono,MD,MS,andBrendanLeeMD,PhD
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、森貞直哉(兵庫県立こども病院)
GeneReviews最終更新日: 2023.4.13. 日本語訳最終更新日: 2023.8.6.
原文: Cleidocranial Dysplasia Spectrum Disorder
疾患の特徴
鎖骨頭蓋異形成(CCD)スペクトラム障害は、古典的CCD(頭蓋縫合閉鎖遅延・鎖骨の低形成ないし無形成・歯の異常の3徴候)から、軽度型CCD、さらには骨格症候を伴わない歯の異常のみのものに至るまで、臨床的連続性を示す骨系統疾患である。古典的CCDスペクトラム障害を有する例では、出生時、大泉門は異常に大きく開いた状態を呈し、これは生涯にわたって開存することがある。鎖骨の低形成のため、肩は細く、なで肩になり、両肩を正中で合わせられる場合がある。中等度の低身長がみられることが多く、大多数の罹患者は非罹患者の同胞より低身長となる。歯の異常としては、永久歯の萌出遅延、乳歯の脱落障害、過剰歯などがある。CCDスペクトラム障害の罹患者は、反復性の洞の感染症、反復性の耳の感染症とそれに続発する伝音性難聴、上気道閉塞といったことの発生に関し、高リスクとなる。知能はふつう正常である。
診断・検査
CCDスペクトラム障害の診断は、特徴的臨床所見・X線写真所見がみられること、ないし、分子遺伝学的検査でRUNX2のヘテロ接合性病的バリアントが同定されることをもって確定する。
臨床的マネジメント
症状に対する治療:
頭蓋冠の欠損が大きい場合には、鈍的外傷から頭部を保護する必要がある。高リスクの活動に際しては、ヘルメットの着用が考えられる。前額部の陥凹に対する美容外科的対応や、低形成の鎖骨に対する延長術が検討対象となる。頭蓋顔面ならびに歯に異常がみられるため、麻酔管理計画は注意深く進める必要がある。気道確保について耳鼻咽喉科医と綿密に打ち合わせるようにする。脊椎に異常を有する可能性を考慮し、脊髄幹ブロックなどの代替麻酔手段を検討する。骨密度が正常値を下回るときは、カルシウム・ビタミンD補充の治療を進める。乳歯の残存、過剰歯の存在、永久歯の萌出障害といった問題に対しては、歯科的対応を行う。具体的には、補綴的対応、過剰歯の抜去と永久歯の外科的移動術、埋伏している永久歯を積極的に萌出させ配列するための外科的手法と矯正歯科的手法の組合せといったものがある。言語治療を必要に応じて行う。副鼻腔や中耳の感染症に対しても積極的治療を行い、反復性の中耳感染症に対しては、鼓膜切開・チューブ留置を検討し、インフルエンザ等の予防接種を定期的に行う。閉塞性睡眠時無呼吸の症候を示す例については、睡眠検査を行う。上気道閉塞に対しては外科的介入が必要になる場合がある。
定期的追跡評価 :
子どもに対しては、整形外科的合併症、歯の異常、洞・耳の感染症、上気道閉塞、難聴、スピーチの問題に関し、モニタリングを行う。骨密度の評価を目的としたDXAスキャンは、思春期初期から始め、その後は5年から10年間隔で行う。
避けるべき薬剤/環境:
高リスクの活動に参加するときは、ヘルメットや防具を着用する必要がある。
妊娠に関する管理:
罹患女性が妊娠したときは、児頭骨盤不均衡に関するモニタリングを行う。
遺伝カウンセリング
CCDスペクトラム障害は、常染色体顕性の遺伝形式をとる。CCDスペクトラム障害罹患者は、denovoの病的バリアントが大きな割合を占める。CCDスペクトラム障害罹患者の子にRUNX2の病的バリアントが継承される可能性は50%である。家系内に存在するRUNX2の病的バリアントが既知の場合には、出生前検査や着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。
鎖骨頭蓋異形成(CCD)スペクトラム障害は、古典的CCD(頭蓋縫合閉鎖遅延・鎖骨の低形成ないし無形成・歯の異常の3徴候)から、軽症型CCD、さらには骨格症候を伴わない歯の異常のみのものに至るまで、臨床的にもX線的にも1つの連続体を成す骨系統疾患である。CCDスペクトラム障害の正式な臨床診断基準は、今のところ確立していない。
本疾患を示唆する所見
以下のような臨床所見、X線所見を呈する発端者については、CCDスペクトラム障害を疑う必要がある。
臨床症候
大泉門の開存は、生涯にわたって続くことがある。
前頭縫合が開存することにより、前頭骨が正中の溝を隔てて左右に分離する。
額は幅が広く平坦で、頭蓋は短頭形を呈する。
前額部や頭頂部の突出、眼間開離、中顔面の後退、低い鼻梁。
鎖骨の低形成ないし無形成のため、両肩を正中で合わせられることがある(図1参照)。
第二生歯の萌出遅延、乳歯の脱落不全、さまざまな数の過剰歯とそれに伴う叢生、咬合異常。
短指趾、先細りの指、幅広で短い拇指など。
低身長の程度は、通常、中等度。
図1: 鎖骨の低形成を有する罹患者については、両肩を正中で合わせられることがある。
X線写真所見
これは、完全欠損から、低形成ないし鎖骨が不連続的なものまで、幅がみられる。
鎖骨への影響は、内側寄りに比べ、外側寄りのほうに顕著に現れる(図2参照)。
これにより第2中手骨の特徴的な延長がみられることがある(図3参照)。
DXAスキャンにて骨密度の低下が明らかになる骨減少症/骨粗鬆症。
中に、多発性骨折をきたす例がみられる。
図2:鎖骨低形成を示す胸部X線写真
図3:鎖骨頭蓋異形成スペクトラム障害の2歳半男児の手のX線写真
a.第2、第3中手骨基部に偽骨端核がみられることに注目。
第4、第5中手骨基部には過剰成長軟骨板がみられる。
b.円錐形の骨端が、特に第3、第4中節骨に顕著にみられる。
指節骨の形成に異常があるように見受けられ、特に第2指から第5指の中節骨にそれが顕著にみられる。
診断の確定
発端者におけるCCDスペクトラム障害の臨床診断は、特徴的な臨床所見、X線写真所見がみられることで、また、発端者における分子診断は、これを示唆する所見がみられることに加え、分子遺伝学的検査でRUNX2にヘテロ接合性病的バリアント(pathogenicとlikelypathogenicの両方を含む)が同定されることをもって確定する(表1参照)。
注:(1)アメリカ臨床遺伝ゲノム学会(ACMG)/分子病理学会(AMP)のバリアントの解釈に関するガイドラインによると、「pathogenic」のバリアントと「likelypathogenic」のバリアントとは臨床の場では同義であり、ともに診断に供しうるものであると同時に、臨床的な意思決定に使用しうるものとされている[Richardsら2015]。本セクションで「病的バリアント」と言うとき、それは、あらゆるlikelypathogenicのバリアントまでを包含するものと理解されたい。
(2)ヘテロ接合性の意義不明バリアントが同定された場合、それは、本疾患の診断を確定するものでも否定するものでもない。
分子遺伝学的検査のアプローチとしては、単一遺伝子検査、マルチ遺伝子パネル、核型検査などが考えられる。
最初に、遺伝子内の小欠失/挿入、ナンセンス・スプライス部位バリアントを検出するためのRUNX2の配列解析を行う。
注:配列解析の手法によっては、単一エクソン、複数エクソン、遺伝子全体といったサイズの欠失/重複が検出されないことがある。そのため、配列解析でバリアントが検出されないようであれば、次いで、エクソン単位あるいは遺伝子全体の欠失や重複を調べるためのRUNX2の遺伝子標的型欠失/重複解析を行うようにする。
現況の表現型と直接関係のない遺伝子の意義不明バリアントや病的バリアントの検出を抑えつつ、疾患の遺伝学的原因を特定する上では、RUNX2その他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を含むマルチ遺伝子パネルも検討に値する。
注:(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、今このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。
(3)検査機関によっては、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
マルチ遺伝子パネル検査の基礎的情報についてはここをクリック。
遺伝学的検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。
CCDスペクトラム障害の症候を示すと同時に、他の先天異常症候群や発達遅滞を併せもつ例で、RUNX2の検査で診断に至らなかった場合には、6p21.1領域(RUNX2の座位)が関与しつつもRUNX2のコピー数変化には至らない複雑な染色体再構成や転座を調べるための核型検査も検討対象になろう。
表1:鎖骨頭蓋異形成スペクトラム障害で用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 手法 | その手法で病的バリアント2が検出される発端者の割合 |
---|---|---|
RUNX2 | 配列解析3 | 70%-80%近く4 |
遺伝子標的型欠失/重複解析5 | 15%近く4,6 | |
核型検査 | 脚注7参照 | |
不明 | 適用対象外 | 5%-15%近く |
臨床像
鎖骨頭蓋異形成(CCD)スペクトラム障害は、古典的CCD(頭蓋縫合閉鎖遅延・鎖骨の低形成ないし無形成・歯の異常の3徴候)から、軽度型CCD、さらには骨格症候を伴わない歯の異常のみのものに至るまで、臨床的連続性を示す骨系統疾患である[Golanら2000]。
古典的症候を有していることで診断に至る例が大多数を占める。CCDスペクトラム障害では、頭蓋や鎖骨のような膜性骨化を示す骨に最も強い影響が及ぶものの、軟骨内骨化により形成される骨についても、影響を受けることがある。Cooperら[2001]は、90人の発端者、ならびに56人の第1度・第2度近親について、自然歴を報告しており、その中で、同一の病的バリアントを共有する同一家系内の罹患者間にあってさえ、臨床的表現型には大きなばらつきがあることを強調している。Robertsら[2013]は、南アフリカで自らの経験した100人以上の罹患者についてレビューを行っている。
古典的CCD
古典的CCD罹患者で最も顕著にみられる所見は、「本症候群を示唆する所見」で述べた通り、出生時において異常に大きく開き、生涯にわたって開存する可能性のある大泉門、鎖骨の低形成によって生じる正中で左右の肩を合わせることのできる細いなで肩、歯の異常(本セクション中の「歯科的合併症」の項を参照)である。
CCDスペクトラム障害罹患者においてみられるその他の医学的問題としては、低身長、骨格的/整形外科的所見、歯科的合併症、耳鼻咽喉科的合併症、内分泌所見、軽度の発達遅滞といったものがある。
身長
CCDスペクトラム障害罹患者の多くは非罹患同胞より低身長で、出生後の発育不全を示す。
骨格的/整形外科的所見
罹患者は、骨に関連するその他の諸問題を有することが多い。
これらより低頻度の整形外科的問題としては、肩関節や肘関節の脱臼がある[El-Gharbawyら2010]。
歯科的合併症
CCDスペクトラム障害罹患者の94%に、第二生歯萌出障害と乳歯脱落不全をはじめとする歯科的問題がみられる[Golanら2003]。CCDスペクトラム障害罹患者に最も共通した歯科的所見は、第二大臼歯と乳歯の混在(80%)、下顎切歯部の大きな空隙、過剰歯胚の存在(70%)、左右下顎枝の平行化である[Cooperら2001,Golanら2003,Golanら2004,Bufalinoら2012]。CCDスペクトラム障害罹患者は下顎前突になりがちで、顎骨内の過剰歯周囲に嚢胞を形成しがちである[McNamaraら1999]。
耳鼻咽喉科的合併症
一般集団に比べ、CCDスペクトラム障害罹患者においては、反復性の洞感染症その他の上気道の合併症が明らかに生じやすい傾向にある。上気道閉塞を示唆する症候がみられるときは、睡眠検査が適応となり、場合によっては外科的介入を要するようなこともある。罹患者の39%に伝音性難聴がみられる。年齢を問わず、CCDスペクトラム障害罹患者には反復性の耳の感染症が多くみられる。
内分泌
CCDスペクトラム障害罹患者の中に、IGF-1レベルが低値を示す例がみられる。これまでに、骨粗鬆症という形での直接的影響が現れていないビタミンD低下の報告もみられる[DinçsoyBirら2017]。CCDスペクトラム障害罹患者は、稀にアルカリホスファターゼ値の低下を示すことがある[Moravaら2002,Ungerら2002,El-Gharbawyら2010]。
発達
通常、知能は正常である。5歳未満の子どもについては、軽度の運動発達遅滞、特に粗大運動技能の遅延を示すことがある。扁平足や外反膝などの整形外科的合併症に起因して、こうした遅延が生じる場合がある。小学生になると、周りの子どもたちに比べ、明らかな違いはみられなくなる。
遺伝型-表現型相関
CCDスペクトラム障害でみられる歯の症候については、遺伝型と表現型との間の相関が一部明らかになっている。遺伝型と鎖骨の病変との間の相関については、明確な形にはなっていない[Ottoら2002,Bufalinoら2012,Jarugaら2016]。
その場合の家系内のばらつきの幅はかなり大きい[Zhouら1999]。
浸透率
RUNX2の病的バリアントは高い浸透率を示す。今のところ、不完全浸透を示唆する報告はみられない。
疾患名について
鎖骨頭蓋異形成スペクトラム障害は、大家系中の数人にみられた歯-骨異形成症として最初に報告されたものである。
本疾患に対しては、かつては「鎖骨頭蓋異骨症」という用語が用いられたものの、RUNX2が骨の形成や維持に重要な役割を果たしていることを踏まえ、現在では異形成症という、より正確な捉えられ方がなされている。
発生頻度
Stevensonら[2012]は、アメリカ、ユタ州の集団について、10,000人あたり0.12人という数字を示し、それまで認識されていたより発生頻度が高い可能性を示唆している。
RUNX2の遺伝子内部分重複により、骨幹端異形成-上顎低形成-短指症(metaphysealdysplasia,maxillaryhypoplasia,andbrachydactyly;MDMHB)(訳注:「2019年版骨系統疾患国際分類の和訳」では、「上顎低形成を伴う骨幹端異形成症」と訳されている)(OMIM156510)が生じる。
罹患者には、低身長、長管骨と脊椎の異常、歯のジストロフィー、鎖骨内側半分の拡大がみられる。
頭蓋縫合早期癒合症と部分性無歯症を呈する複数の罹患者で、RUNX2の完全重複が報告されている[Meffordら2010,Greivesら2013,Molinら2015]。
鎖骨頭蓋異形成(CCD)スペクトラム障害と一部の症候を共有する疾患がいくつか存在する。CCDスペクトラム障害と共通の骨格要素が影響を受けることから考えて、こうした疾患は、下流ターゲットに対するRUNX2の作用に影響を及ぼす遺伝子群(うち、最も注目すべきはCBFB)の変異に起因するものであるように思われる(CBFBは、RUNX2とヘテロ二量体を形成して下流のターゲットの転写を活性化する)。
表2:CCDスペクトラム障害との鑑別診断に関連してくる遺伝子群
遺伝子/遺伝学的メカニズム | 疾患名 | 遺伝形式 | 頭蓋顔面と歯の症候 | 骨格の症候 | その他の症候 |
---|---|---|---|---|---|
ALPL | 低ホスファターゼ症1 | AR AD2 |
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CBFB(遺伝子内病的バリアント) | CBFB関連鎖骨頭蓋異形成症(OMIM620099) | AD |
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CBFB(CBFBを含む16q22.1の欠失) | 16q22欠失症候群(OMIM614541) | AD | 大きく開いた大泉門 |
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CTSK | 濃化異骨症 | AR | 大泉門の開存を伴う頭蓋縫合の閉鎖不全 |
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FIG4 | YunisVaron症候群(OMIM216340) | AR |
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LMNA ZMPSTE24 |
下顎先端症候群(OMIMPS248370) | AR |
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MSX2(遺伝子内病的バリアント) | 鎖骨頭蓋異形成症を伴う頭頂孔4 | AD |
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鎖骨低形成 | |
MSX2(MSX2の上流の微小重複) | MSX2関連多合指趾を伴う鎖骨頭蓋異形成症5 | AD | 鎖骨頭蓋異形成症の表現型模写 | 鎖骨頭蓋異形成症の表現型模写 | 多合指趾が一部の例でみられる |
AD=常染色体顕性,AR=常染色体潜性
CCDスペクトラム障害の鑑別診断に関係してくるその他の疾患/状況
これは致死性の疾患で、遺伝学的原因は明らかになっていない。
頭蓋冠の石灰化不良、大頭症、口唇裂口蓋裂、低位で異形成の耳介、頸椎の欠損を伴う重度の脊椎・四肢奇形、鎖骨・肩甲骨の低形成、指節骨の低形成と欠損、多発性関節拘縮、子宮内発育不全、性器低形成などがみられる。
RNU12をコードする核内低分子RNAの両アレル性病的バリアントに起因して生じる疾患で[Xingら2021]、縫合閉鎖の促進・骨化遅延という、見かけ上相反する病態生理学的プロセス、発生プロセスの組合せがみられる[Mendoza-Londonoら2005]。
CDAGS症候群では、大泉門の閉鎖遅延、鎖骨低形成、頭蓋縫合早期癒合症、肛門奇形、尿路性器奇形、皮膚病変(汗孔角化症)がみられる。
非症候群性の小臼歯部過剰歯[Baeら2017]。
甲状腺機能低下症においても大泉門の閉鎖遅延がみられることがある。
鎖骨頭蓋異形成(CCD)スペクトラム障害に関する臨床的管理のガイドラインは、今のところ公表されていない。
最初の診断に続いて行う評価
CCDスペクトラム障害と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、診断に至る過程ですでに実施済でなければ、表3にまとめた評価を行うことが推奨される。
表3:鎖骨頭蓋異形成スペクトラム障害罹患者の最初の診断後に行うことが推奨される評価
系/懸念事項 | 評価 | コメント |
---|---|---|
骨格 |
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二重エネルギーX線吸収測定法(DXAスキャン) | 骨減少症のリスクがあるため、思春期初期にDXAスキャンを行う必要あり。 | |
歯 | CCDスペクトラム障害とその管理に精通した歯科医による歯科的評価 | |
聴覚 | 聴覚評価 | |
遺伝カウンセリング | 遺伝の専門医療職1の手で行う。 | 医学的、個人的な意思決定の用に資するべく、本人や家族に対し、CCDスペクトラム障害の本質、遺伝形式、そのもつ意味についての情報提供を行う。 |
症候に対する治療
生活の質の改善、機能の最大限の賦活、合併症の低減といったことを目的とした支持療法が推奨される。関連各分野の専門家による多職種連携管理とするのが理想的である(表4参照)。
表4:鎖骨頭蓋異形成スペクトラム障害罹患者の症候に対する治療
症候/懸念事項 | 治療 | 考慮事項/その他 |
---|---|---|
頭蓋顔面症候 |
|
大多数の例で、大泉門は経時的に閉鎖するため、通常は、頭蓋の形態修正術を要しない。 |
麻酔に伴う気道管理 |
|
歯や頭蓋顔面に異常があると、気道管理がそれだけ難しくなると予測される。 |
鎖骨低形成 | 一部の例については、美容的観点から、低形成の鎖骨に対する延長術の検討がなされる1。 | |
骨粗鬆症 | DXAスキャンで骨密度が正常範囲を下回る例については、カルシウムとビタミンDの補充を行う。 | |
歯の症候 | 必要な処置を適切な時期に計画できるようCCDに精通した歯科医への紹介を早期に行う。 | 一般的には、乳歯を抜去して永久歯の開窓を行う複数の口腔外科的手術を協調させながら積極的に行っていくやり方が推奨される。 最初の萌出遅延が生じた後は、自然萌出を期待して注意深く経過観察を続けるというやり方は有効ではない3。 |
治療を要する歯科的症候:
|
||
治療の目標:
|
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目標を達成するための手段:
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スピーチの問題 | 歯科治療を行っている期間や、聴覚障害に起因するスピーチの問題を抱えている例については、必要に応じ言語治療を行う。 | |
洞や中耳の感染4 |
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上気道閉塞 |
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低身長 | 治療は推奨されない。 |
|
定期的追跡評価
現状の症候のモニタリング、支持療法に対する罹患者の反応様相のモニタリング、新たな症候の出現様相のモニタリングといったことを目的として、表5にまとめたような評価を行うことが推奨される。
表5:鎖骨頭蓋異形成スペクトラム障害罹患者で推奨される定期的追跡評価
系/懸念事項 | 評価 | 実施頻度 |
---|---|---|
骨格 | 骨格症候に関する整形外科的評価(扁平足,外反膝,脊柱側弯,反復性肩関節・肘関節脱臼) | 小児期を通じ、来院ごと |
骨密度測定のためのDXAスキャン(骨粗鬆症の評価のため) | 思春期初期(あるいは、骨折の増加をはじめとする骨減少症の症候を呈する例についてはさらに早く)から始め、5-10年に1度 | |
歯 | CCDスペクトラム障害とその管理に精通した歯科医による歯科的評価 | 3歳から始め、6ヵ月に1度、もしくは歯科医の推奨に従ってさらに高頻度に |
耳鼻咽喉 |
|
来院ごと |
聴覚評価 | 反復性の耳感染症を有する例については年に1度 | |
発達 | 言語評価 | 歯科治療中、ならびに反復性感染症や聴力の問題を有する例について、来院ごと |
避けるべき薬剤/環境
頭部の外傷を回避するため、高リスクのスポーツや活動に参加する際には、ヘルメットや防具を着用すべきである。
リスクを有する血縁者の評価
リスクを有する血族に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。
妊娠に関する管理
CCDスペクトラム障害の妊婦については、児頭骨盤不均衡に関するモニタリングを慎重に行う必要がある。児頭骨盤不均衡がある場合は、帝王切開による分娩が必要になる可能性がある。CCDスペクトラム障害女性の初産の際の帝王切開施行率は69%と、対照群より高い値を示す[Cooperら2001]。
研究段階の治療
さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「ClinicalTrials.gov」、ならびにヨーロッパの「EUClinicalTrialsRegister」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
鎖骨頭蓋異形成(CCD)スペクトラム障害は、常染色体顕性の遺伝形式をとる。
家族構成員のリスク
発端者の両親
(注:同一の病的バリアントを共有する親子間にあっても、表現型が大きく異なるということがありうる。)
*RUNX2の病的バリアントを体細胞・生殖細胞系列の両方で有する片親は、軽度、ないしごく軽微な症候を呈することが考えられる。
発端者の同胞
発端者の同胞の有するリスクは、発端者の両親の遺伝学的状態によって変わってくる。
発端者の子
CCDスペクトラム障害罹患者の子にRUNX2の病的バリアントが継承される確率は50%である。
他の家族構成員
他の血族の有するリスクは、発端者の両親の状態によって変わってくる。片親にCCDスペクトラム障害の症候がみられる、あるいは片親がRUNX2の病的バリアントを有しているということになれば、その血族に当たる人もリスクを有することになる。
関連する遺伝カウンセリング上の諸事項
家族計画
DNAバンキング
検査の手法であるとか、遺伝子・病原メカニズム・疾患等に対するわれわれの理解は、将来、より進歩していくことが予想される。そのため、分子診断が未確定の(すなわち、原因となった病原メカニズムが未解明の)発端者のDNAについては、保存しておくことを検討すべきである。より詳細な情報については、Huangら[2022]を参照されたい。
出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査
分子遺伝学的検査
家系内に存在するRUNX2の病的バリアントの内容が確定している場合には、CCDスペクトラム障害に関する出生前検査や着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。
超音波検査
親が罹患者である場合、古典的CCDに関しては、妊娠14週になれば、超音波検査によって子の診断を行うことが可能となる。一貫してみられる症候として最も多いのは鎖骨の異常で、短小(妊娠週齢で比較したとき5パーセンタイル未満)、部分欠損、全欠損などがみられる。これより出現頻度の低い特異的所見として、他に、低石灰化を伴う短頭形の頭蓋、前額部の突出、全身性の骨化遅延などがある[Stewartら2000,Hermannら2009]。
注:妊娠週齢については、最終月経の第1日から数えた週齢、もしくは超音波での計測値をもとにした週齢で表記される。
出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
Canada
Cleidocranial Dysplasia (CCD)
Phone:800-535-3643
Email:contactCCA@ccakids.com
www.ccakids.org
Phone:800-332-2373;423-266-1632
Email:info@faces-cranio.org
www.faces-cranio.org
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Email:contactus@magicfoundation.org
www.magicfoundation.org
Phone:310-825-8998
International Skeletal Dysplasia Registry
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A:鎖骨頭蓋異形成スペクトラム障害:遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体上の座位 | タンパク質 | Locus-Specific データベース |
HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
RUNX2 | 6p21.1 | RRunt関連転写因子2 | RUNX2 database | RUNX2 | RUNX2 |
データは、以下の標準資料から作成したものである。遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。
表B:鎖骨頭蓋異形成スペクトラム障害関連のOMIMエントリー(内容の閲覧はOMIMへ)
119600 | CLEIDOCRANIAL DYSPLASIA 1; CLCD1 |
600211 | RUNT-RELATED TRANSCRIPTION FACTOR 2; RUNX2 |
分子レベルの病原
RUNX2は、runt関連転写因子2(RUNX2)をコードする。RUNX2は、骨芽細胞の分化や骨格の形態形成に関与する転写因子である。RUNX2は、膜性骨化の際の骨芽細胞の分化、ならびに軟骨内骨化の際の軟骨細胞の成熟に不可欠なものである[Zhengら2005]。RUNX2は、N末端にQ/Aドメインと呼ばれるポリグルタミンとポリアラニンの反復構造をもつアミノ酸残基ストレッチ、1つのruntドメイン、C末端にプロリン/セリン/スレオニン(PST)リッチ活性化ドメインを有する。Runtドメインは、もともとショウジョウバエのrunt遺伝子で発見された128個のアミノ酸から成るポリペプチドモチーフで、DNAとの結合やタンパク質の二量体形成に関し、独立メディエーターとしての独特の働きをしている[Zhouら1999]。
古典的CCD罹患者で確認されているRUNX2の病的バリアントは、その大部分がruntドメインに影響を及ぼすもので、病的バリアントの大半はDNAとの結合能力の喪失につながるものと考えられている[Leeら1997,Mundlosら1997,Ottoら2002]。RUNX2の機能上、アルギニン225(p.Arg225)は決定的に重要な残基であるが、病的ミスセンスバリアントはこの部分に集中している。Invitroの研究で、p.Arg225の病的ミスセンスバリアントによりRUNX2タンパク質の核内蓄積が阻害されることがわかっている。
タンパク質の部分的機能喪失をきたすRUNX2のハイポモルフィックなアレルであるc.90dupCとc.598A>Gにおいては、軽度型のCCD、歯の異常のみのCCD、家系内で大きな表現型のばらつきを示すタイプのCCDといったものを生じる。
疾患の発症メカニズム
機能喪失型である。
RUNX2特異的な検査技術上の考慮事項
ゲノムのレベルで言うと、RUNX2の最長の転写産物バリアント(NM_001024630.4)には9つのエクソンがある。別のタンパク質アイソフォームをコードする転写産物バリアント[Geoffroyら1998]は、代替プロモーターを用いた選択的スプライシングにより産生される。
表6:RUNX2の注目すべき病的バリアント
参照配列 | DNAヌクレオチドの変化 | 予測されるタンパク質の変化 | コメント |
---|---|---|---|
NM_001024630.4 NP_00109801.3 |
c.90dupC | p.Ser31LeufsTer130 | ハイポモルフィックアレル(「遺伝型-表現型相関」の項を参照) |
c.598A>G | p.Thr200Ala | ||
c.673C>T | p.Arg225Trp | 「分子レベルの病原」の項を参照。 | |
c.674G>T | p.Arg225Leu | ||
c.674G>A | p.Arg225Gln | ||
c.1171C>T | p.Arg391Ter | ハイポモルフィックアレル(「遺伝型-表現型相関」の項を参照) | |
c.1205dupC | p.Pro403AlafsTer871 | 骨粗鬆症から反復性骨折に至る[Quackら1999] |
上記のバリアントは報告者の記載をそのまま載せたもので、GeneReviewsのスタッフが独自に変異の分類を検証したものではない。
GeneReviewsは、HumanGenomeVariationSociety(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に準拠している。
命名規則の説明については、QuickReferenceを参照のこと。