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カーニー複合
(Carney complex)

Gene Reviews著者: Constantine A Stratakis, MD, DSc and Margarita Raygada, MSc, PhD.
日本語訳者: 清水 日智(社会福祉法人恩賜財団済生会支部済生会長崎病院 小児科,長崎大学病院小児科)

Gene Reviews 最終更新日: 2018.8.16.  日本語訳最終更新日: 2020.8.26

原文: Carney Complex


要約

疾患の特徴

カーニー複合(CNC)は、皮膚の色素沈着異常、粘液腫、内分泌腫瘍や機能亢進、そして神経鞘腫によって特徴づけられる疾患である。淡褐色から黒色の多発性色素斑はCNCの最も特徴的な所見であり、典型的には思春期に増加する。心臓粘液腫は若年者においても発生し、心臓のいずれの房室にも生じうる。症状としては心内血流の閉塞、塞栓症、および/または心不全として発症する。他の粘液腫の発生部位としては、皮膚、乳房、口腔咽頭部、女性生殖路が挙げられる。クッシング症候群を引き起こす原発性色素沈着性結節性副腎皮質病変 (Primary pigmented nodular adrenocortical disease: PPNAD) は、CNCで最も多くみられる内分泌腫瘍であり、CNC患者の約25%に発生する。大細胞性石灰化セルトリ細胞腫 (large-cell calcifying Sertoli cell tumors: LCCSCT) は、男性患者の3分の1が10歳までに発症し、成人男性ではほぼ全例にみられる。CNC患者の最大75%に多発性甲状腺結節を認め、そのほとんどが非機能性甲状腺濾胞腺腫である。成長ホルモン産生腺腫による,臨床的に明らかな先端巨大症は成人患者の約10%に認められる。神経鞘由来のまれな腫瘍である砂腫状黒色神経鞘腫 (psammomatous melanotic schwannoma: PMS) は約10%の患者にみられる。診断時平均年齢は20歳である。

診断・検査

CNCの診断は、診断基準のうち主要項目を2つ以上満たす場合に行われる。分子遺伝学的検査でPRKAR1Aの病的変異を生殖細胞性に認めた場合も参考となる。

臨床的マネジメント

臨床症状に応じた治療:
心臓粘液腫に対する開心手術; 皮膚および乳腺粘液腫の外科的切除;クッシング症候群に対する両側副腎摘出術; 下垂体腺腫に対する経蝶形骨洞手術; 悪性甲状腺腺腫に対する手術; 急速に増大するLCCSCTおよび女性化乳房を有する男児に対する精巣摘出術により、早発性の骨端線閉鎖および中枢性思春期早発症を回避する (軽度の女性化乳房は医学的に治療されうる); 原発性および/または転移性PMSを除去するための手術

一次的症状の予防:
心不全、脳卒中、その他の塞栓症が発症する前に心臓粘液腫を外科的に除去する。

二次的合併症の予防:
クッシング症候群による内分泌代謝異常の出現、関節症、先端巨大症による臨床症状出現を予防するため、薬物療法または手術療法が選択される。

サーベイランス

すべての年齢層において追加として検討される検査: 原発性色素沈着性結節性副腎皮質病変 (PPNAD) に対するコルチゾールの日内変動、デキサメタゾン抑制試験、および副腎CT検査; 巨人症/先端巨大症に対する下垂体MRI、経口ブドウ糖負荷試験 (180分) 、TRH負荷試験 (90分) ; 砂腫状黒色神経鞘腫 (PMS) に対するMRI(脳、脊椎、胸部、腹部、後腹膜、骨盤)
リスクのある血縁者の評価: 家系において特異的な病原性変異がわかっている場合は、リスクのある親族の遺伝的状態を明らかにするための分子遺伝学的検査を行い、適切な評価とサーベイランスにより治療可能な症状の早期診断を行うようにする。

遺伝カウンセリング 

CNCは常染色体優性遺伝形式をとる。CNCと診断された者のうち約70%は親も罹患しており、約30%は新生突然変異 (de novo) の病原性変異を有している。CNC患者の子供はそれぞれ50%の確率で病原性変異体を受け継ぐこととなる。家族内の病原性変異が既知であった場合、妊娠中の出生前検査においてCNCに罹患するのリスクの程度を知ることが可能である。


診断

疑うべき所見

以下の特徴を持つ者はカーニー複合 (CNC) を疑うべきである。

CNCの診断基準 主要項目

補助診断項目

CNCの診断とはならないが、CNCを示唆するまたは関連する可能性がある所見

確定診断

発端者が診断基準のうち2つ以上の主要項目を認める場合にCNCと確定診断される (「疑うべき所見」の項を参照)。分子遺伝学的検査によってPRKAR1Aのヘテロ接合性病原性変異が生殖細胞性に同定される場合(表1参照)、診断基準の主要項目のうち2つ以上を満たす患者では診断確定となるが、臨床所見が決定的でない場合にも診断を確定することができる。
分子遺伝学的検査の方法には、単一遺伝子検査とマルチ遺伝子パネルの使用が検討される:

RKAR1Aの配列解析では、小さな遺伝子内欠失/挿入、ミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライスサイト変異が検出される。通常、エクソン単位または遺伝子全体の欠失/重複は検出されない。初めにシーケンス解析を行い、病的バリアントが見つからない場合は、遺伝子内欠失または重複を検出するために、遺伝子を標的とした欠失/重複解析を行う。

PRKAR1A およびその他の関心のある遺伝子 (「鑑別診断」の項を参照) を含むマルチ遺伝子パネルを検討することができる。以下のことに注意が必要である: (1) パネルに含まれる遺伝子や各遺伝子に用いられる検査の診断感度は検査室によって異なり、年代とともに変化する可能性がある。 (2) マルチ遺伝子パネルの中には本稿で扱っている病態とは関連のない遺伝子を含むものもあるので、臨床医は、意義不明の変異 (VUS) や患者の表現型とは合致しない遺伝子の病原性変異が検出されないよう考慮し、最善のコストで患者の病態の原因となる遺伝子変異を同定する可能性の高いマルチ遺伝子パネルを決定しなければならない。 (3) 検査受任機関によっては、パネルのオプションとして、臨床医によって指定された遺伝子を含むカスタムデザインのパネルおよび/または表現型に焦点を当てたエクソーム解析を含むことができる。 (4) パネルで使用される方法には、シーケンス解析、欠失/重複解析、および/または他の非シーケンス解析検査が含まれる。この疾患では、欠失/重複解析を含むマルチジーンパネルの使用が推奨される (1参照) 。
マルチ遺伝子パネルの紹介はここをクリックせよ。臨床医が遺伝子検査を注文するためのより詳細な情報はこちらを参照のこと。

表1. カーニー複合において用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 方法 各方法における発端者が病的変異を有する割合
RKAR1A シーケンス法3 60%4
PRKAR1Aを標的とした欠失/重複解析5 ~10%6
不明7,8,9 不明
  1. 染色体座と蛋白質については、A「遺伝子とデータベース」を参照。
  2. この遺伝子で検出されたアレル変異の情報については、Molecular Geneticsを参照。
  3. シーケンス解析によって得られる変異には、良性、良性の可能性が高い、意義不明、病原性の可能性が高い、病原性があるものがある。病原性変異には、小さな遺伝子内の欠失/挿入、ミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライスサイト変異が含まれることがあり、通常、エクソン単位または遺伝子全体の欠失/重複は検出されない。シーケンス解析結果を解釈する際に考慮すべき事項については、こちらを参照のこと。
  4. これまでに行われた最大規模の研究では、185家族のうち114家族 (62%) が同定可能なPRKAR1A病原性変異を有していた [Bertherat et al 2009] 。PPNADにより発症したクッシング症候群を伴ったCNC患者では、病原性変異の検出頻度は80%にまで増加していた [Cazabat et al 2007]。
  5. 遺伝子を標的とした欠失/重複解析は、遺伝子内の欠失または重複を検出する。使用される方法には、定量PCR法、long-range PCR法、MLPA法 (multiplex ligation-dependent probe amplification) 、単一エクソン欠失または重複を検出するように設計された遺伝子標的マイクロアレイ法などがある。
  6. PRKAR1Aにおける一塩基変異が同定されていないCNCを有する36名の無血縁個体の研究では、2つの大きなPRKAR1Aを含む領域の欠失が同定された [Horvath et al 2008] 。PRKAR1Aの他の病原性変異が検出されていないCNCを有する51名のうち、21.6%がPRKAR1Aの欠失を有していた [Salpea et al 2014] (表2を参照) 。これらの欠失は328bpから3Mbの範囲であり、PRKAR1Aの一部または全部に影響を与えていた。即ち、すべての欠失はPRKAR1Aハプロ不全をもたらしていた。
  7.  CNCを有する家族の約20%が2p16と関連していることが知られている [Stratakis et al 1996] 。
  8. 生殖細胞におけるPRKACAの病的な遺伝子重複は、副腎腫瘍とクッシング症候群を有するCNCを有する5名 (4家系) で検出されている (CNC罹患家系の1%未満) [Beuschlein et al 2014] 。これらの家系のうちの1つでは、PPNADとクッシング症候群を有する母と息子の両者に、PRKACA遺伝子重複が共通していた。他の重複を認めたCNC患者については、両親のいずれも重複を有しておらず、変異は新生突然変異 (de novo) であった [Beuschlein et al 2014] 。
  9. CNCを有する患者のうちの1名(CNCを有する家系の1%未満)では、生殖細胞における再配列に由来しPRKACBを4コピー有していた [Forlino et al 2014] 。PRKACBは、サイクリックAMP依存性プロテインキナーゼA (PKA) の触媒サブユニットCβをコードする。CβおよびPKA活性のレベルは、患者由来リンパ芽球および線維芽細胞において増加していた。著者らは、これがCNCを引き起こす機能獲得型変異であると推測している。

臨床的特徴

臨床像

カーニー複合 (Carney complex: CNC) の皮膚色素沈着異常、粘液腫、内分泌腫瘍や機能亢進、神経鞘腫は、出生時に出現していることもあるが、診断年齢の中央値は20歳である。

皮膚色素沈着異常

粘液腫

内分泌腫瘍

PPNADにおける臨床症状が出現する場合はクッシング症候群の形をとる。コルチゾール過剰の発症時期は明瞭ではない。小児では、コルチゾール過剰は最初に体重増加と成長率の低下として現れる。成人では、長期にわたるコルチゾール過剰は、中心性肥満、満月様顔貌、多毛、皮膚線条、高血圧、水牛肩 (buffalo hump) 様の脂肪分布、筋力低下、軽微な刺激による皮下出血、精神障害などをきたす。一部の患者では2-3歳までにPPNADを発症することがあるが、大部分では10-20歳台で発症する。

臨床的に明らかな先端巨大症は、CNCで比較的よくみられる臨床症状であり、成人ではCNC診断時に約10%で合併している。思春期以前にGH分泌過剰をきたすことによって生じる巨人症はまれである。しかし、患者の75%では無症候性ながらもGHおよびインスリン様成長因子1 (IGF-1) の過剰分泌や、軽度の高プロラクチン血症が認められる。GH産生腺腫の前段階である成長ホルモン・プロラクチン産生細胞 (Somatomammotroph) の過形成が存在することが、CNC患者における臨床的先端巨大症の発症時期が不明確で診断に時間がかかる理由であるかもしれない。

大細胞性石灰化セルトリ細胞腫  (large-cell calcifying Sertoli cell tumors: LCCSCT) は、発症時にCNC罹患男性の3分の1に認められ、その多くは10歳未満である。CNCを有する成人男性のほとんどがLCCSCTの徴候を有する。腫瘍は多中心性および両側性であることが多い。LCCSCTはほとんど全てが良性である。すなわち、悪性腫瘍は62歳の患者1名のみ報告されている。LCCSCTはホルモンを産生する可能性がある。すなわち、思春期前および思春期前後の男子にP-450アロマターゼ発現の増加に伴う女性化乳房を引き起こすことがある。LCCSCTを有する患者に発症する他の精巣腫瘍として、ライディッヒ細胞腫や (色素性結節性) 副腎皮質遺残腫瘍がある。

CNC患者の最大75%に多発性甲状腺結節を認める。そのほとんどが甲状腺濾胞腺腫であり、機能亢進を認めることはまれである。甲状腺癌は、乳頭癌の場合も濾胞癌の場合もあり、長期にわたる多発性甲状腺腺腫の既往をもつ患者に発症する。

砂腫状黒色神経鞘腫psammomatous melanotic schwannoma: PMS)

この神経鞘由来のまれな腫瘍はCNC患者の約10%に発症する。約10%では悪性変性をきたす [Watson et al 2000] 。PMSは中枢神経系および末梢神経系のどこにでも発症しうるが、特に消化管 (食道と胃) および傍脊髄の交感神経幹 (28%) に多くみられる。成人 (平均年齢32歳) では疼痛や橈骨神経症をきたす脊髄腫瘍が生じる。

乳管腺腫

乳管における良性腫瘍である。

妊孕性

LCCSCTの影響として精管の置換や閉塞、巨大精巣、乏精子症、精子無力症、ホルモン産生の異常およびアロマターゼ作用不足が生じる。これらの所見にも関わらず、妊孕性は多くの場合維持されている。

生命予後

CNC患者のほとんどは天寿を全うする。一方で、一部の患者は若年で死亡することがあるため、CNC患者の平均死亡時年齢は50歳である。死因には、心臓粘液腫による合併症 (粘液腫塞栓症、心筋症、不整脈、外科手術) 、転移性あるいは頭蓋内PMS、甲状腺癌、転移性膵腫瘍、精巣腫瘍がある。

遺伝子型と表現型の関連性

アメリカ国立衛生研究所 (メリーランド州ベセスダ) およびCôchin病院 (パリ) における20年以上にわたる研究から、380名以上の罹患者の臨床データおよび遺伝学的情報が得られている。80種類の異なるPRKAR1A病原性変異を持つ353名の表現型解析が報告されている [Bertherat et al 2009] 。

浸透率

PRKAR1Aの病原性変異を持つ患者におけるCNCの全体的な浸透率は、50歳までに95%以上である。
これまでのところ、CNCの不完全透過をもたらすPRKAR1Aの病原性変異は、スプライス変異 (c.709-7_709-2del) と開始コドンの置換を伴う変異 (p.Met1Val) の2つのみが知られている。これら2つの病原性変異を持つ患者が発症した場合、臨床症状は比較的軽度に留まる。すなわち、ほとんどがPPNADとして発現し、皮膚色素沈着を伴うことがある [Groussin et al 2006] 。

他の名称

CNCは以下の略語でも表記されることがある。

「カーニー3徴 (OMIM 604287) 」は消化管問質腫瘍 (GIST) 、肺軟骨腫、副腎外傍神経節腫からなる全く別の病態である。

有病率

文献上、700名以上のCNC患者が知られている。その中には、南北アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、アジアの白人、アフリカ系アメリカ人、アジア人が含まれる。


遺伝学的に関連する(アレルに関する)疾患

以下の表現型もまたPRKAR1Aの生殖細胞性の病原性変異と関連している。

散発性腫瘍 (歯原性粘液腫を含み、CNCの他の所見が認められない単独の腫瘍として発生する) は、PRKAR1Aの体細胞性変異と関連しており、生殖細胞性の変異は存在しない [Perdigão et al 2005] 。したがって、これらの腫瘍の発生感受性は遺伝しない。詳細については、がんおよび良性腫瘍を参照のこと。


鑑別診断

皮膚 色素斑をきたす疾患としては、良性家族性色素斑症 (OMIM_151001) 、Peutz-Jeghers症候群、多発性色素沈着を伴うヌーナン症候群、ヌーナン症候群、Bannayan-Riley-Ruvalcaba症候群がある。Bannayan-Riley-Ruvalcaba症候群はPTEN過誤腫症候群の一病型である。カーニー複合 (CNC) のカフェオレ斑は、McCune-Albright症候群、神経線維腫症1型、神経線維腫症2型、Watson症候群 (OMIM 193520) におけるカフェオレ斑と類似することがある。類上皮性青色母斑は、CNCを示唆する所見がない患者に単発性の病変として生じることがある。

心臓粘液腫 心臓粘液腫は成人の心臓腫瘍のうち最も頻度が高いものであり、小児でも心臓腫瘍の約30%を占める。遺伝学的研究では、CNCと散発性粘液腫との間に明らかな関連性は認めていない [Fogt et al 2002] 。
ミオシンファミリーに属するタンパク質のひとつに病原性変異があり、家族性粘液腫、CNC、心筋症を呈する家系が知られている [Veugelers et al 2004]。これはCNCとは別物であり、別個の疾患であるか、もしくは2つの疾患が同時に家系内に発症したものと考えられる [Stratakis et al 2004]。

内分泌腫瘍 甲状腺腫瘍は、PTEN過誤腫症候群の臨床型のひとつであるCawden症候群でもみられる。まれに、散発性甲状腺腫瘍においてPRKAR1Aの病原性変異を体細胞性に認めることがある [Sandrini et al 2002b] 。
大細胞性石灰化セルトリ細胞腫 (LCCSCT) は、Peutz-Jeghers症候群にもみられ、ホルモン産生性のこともある。Peutz-Jeghers症候群にみられるような卵巣腫瘍はCNCでは見られない [Stratakis et al 2000] 。
CNCは両側性小結節性副腎過形成の約80%を占める。一方で、CNC関連ではない散発性・孤発性の原発性色素性沈着結節性副腎皮質病変 (PPNAD) もまた、PRKAR1Aの病原性変異によって引き起こされることがある [Groussin et al 2002] 。孤発性の小結節性副腎皮質過形成は、二重特異的ホスホジエステラーゼをコードしているPDE11Aの機能喪失型病原性変異によって引き起こされることがある [Horvath et al 2006] 。

副腎皮質腫瘍は、Beckwith-Wiedemann症候群、Li-Fraumeni症候群、多発性内分泌腫瘍症1型 (MEN 1) 、21-ヒドロキシラーゼ欠損症に由来する先天性副腎過形成、McCune-Albright症候群においても認められる [Kjellman et al 2001] 。
成長ホルモン産生下垂体腫瘍は、多発性内分泌腫瘍症1型 (MEN 1) または家族性成長ホルモン産生腫瘍症 (OMIM_ 102200) において認められ,これらの原因遺伝子はそれぞれ11q13.1-q13.3と2p16に局在している [Stratakis & Kirschner 2000, Frohman 2003] 。CNCやMEN1によらない成長ホルモン産生腫瘍はあまりPRKAR1A変異と関係していない [Sandrini et al 2002a、Yamasaki et al 2003] 。

神経鞘腫 CNCは、神経線維腫症1型、2型、家族性神経鞘腫症を除けば唯一の神経鞘腫が生じる遺伝的病態である。


臨床的マネジメント

初期診断に続く評価

カーニー複合 (CNC) と診断された患者の疾患の重症度および治療必要性を確立するために、まだ実施していない場合には以下の評価を行うことが推奨される。

病変に対する治療

常以下の治療が行われる。

一次的症状の予防

無症状の患者における唯一の予防法は、心不全、脳卒中、またはその他の塞栓症が発症する前に心臓腫瘍(心臓粘液腫)を外科的に切除することである。

二次合併症の予防

クッシング症候群、関節症、先端巨大症に伴うその他の合併症による代謝異常の発症は、それぞれの内分泌症状の内科的もしくは外科的治療によって予防されることがある。

サーベイランス

CNC患者および発症リスクのある親族に対して推奨される臨床サーベイランスは、以下の通りである。

思春期発来前の小児に対して

思春期発来後の小児・成人に対して

すべての年齢層において、必要に応じて検討される追加検査

リスクを有する血縁者の評価

治療や予防を行うことで利益が得られる血縁者を可能な限り早期に特定するために、 リスクを有する血縁者の評価を行うことが重要である (「初期診断に際して評価すべきこと」および「サーベイランス」の項を参照) 。

遺伝カウンセリングを目的とした疾患リスクを有する血縁者の検査に関連する問題については、「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。

経過観察

3-6か月ごとに、自己免疫疾患を認めないか以下の検査によってモニタリングする。血算、甲状腺機能、HbA1cおよび血糖、腎機能(血清BUN, クレアチニン濃度の測定)、肝機能(血清AST, ALT濃度の測定)を検査する。成長指標、栄養の摂取、排便パターンを頻回にモニタリングすることが重要である。移植後で免疫抑制下にある場合は、標準的なガイドラインに沿って薬剤の副作用をモニターすべきである。

回避すべき薬物や環境

免疫の活性化(予防接種もしくは重篤な感染症など)は症状の悪化/再燃を起こすことが報告されている。一般的に、骨髄移植が行われるまでは予防接種は控えるのが賢明である。

リスクのある血縁者の評価

男性患者が著しい臓器障害をきたす前に早期診断や骨髄移植および/もしくはステロイド治療を行えるように、疾患リスクのある男性の遺伝学的状況を出生前もしくは出生後すぐに明らかにすることがのぞましい。
行いうる評価には以下がある。

遺伝カウンセリングとして扱われるリスクのある血縁者への検査に関する問題は「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。

今後の導入が検討されている治療法

米国では「ClinicalTrials.gov」、欧州では「EU Clinical Trials Register」と検索することにより、幅広い疾患や病態に対する臨床試験情報を得ることができる。注意 : CNCに対する臨床試験がない場合はある。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

カーニー複合 (CNC) は常染色体優性遺伝形式をとる。

患者家族のリスク

発端者の両親

発端者の同胞

発端者の同胞におけるリスクは、発端者の両親の遺伝的状態による

発端者の子

男性患者のFOXP3遺伝子変異は、

発端者の子孫

他の血縁者

他の血縁者に対するリスクは、発端者の両親の遺伝的状態による。もしも両親のいずれかがPRKAR1Aの病原性変異をヘテロ接合性に有している場合、その血縁者はCNCを有している可能性がある。

遺伝カウンセリングに関連した問題

リスクのある無症状の成人および小児の検査 適切な医学的管を行うために、若くてリスクのある血縁者の分子遺伝学的検査を考慮することは適切である (「臨床的マネジメント」、「リスクを有する血縁者の評価」の項を参照) 。
明らかな新生突然変異 (de novo) の病原性変異を持つ家族に対し考えること 常染色体優性疾患を持つ発端者の両親いずれにも発端者に特定された病原性変異が同定されなかった場合、または疾患の臨床徴候を認めない場合、病原性変異はde novoである可能性が高い。しかし、父子関係や母子関係が血縁を持たない場合(例えば、生殖補助医療など)や、公にされていない養子縁組など、医学的でない理由によりde novoと評価される場合もある。

家族計画

DNAバンキング

DNAバンクとは、将来使用する可能性を考慮し、DNA (通常は白血球から抽出されたもの) を保管することである。検査の手法や、遺伝子に対する理解、アレル変異に対する理解、疾患についての理解は、将来的に向上する可能性があるため、患者由来DNAをバンク化することが検討されるべきである。

出生前検査および着床前遺伝子検査

分子遺伝学的検査 血縁者の中にPRKAR1A病原性変異が同定された患者がいる場合、CNC発症リスクが高い妊娠について出生前検査や着床前の遺伝子検査が可能となる。

医療の専門家の間や家族内においても、特に検査が早期診断ではなく妊娠中絶を目的とした場合には、出生前検査に対する考え方の相違が存在しうる。多くの専門機関は出生前診断については夫婦の自己決定の問題だと考えているが、この問題については議論するべきである。

胎児超音波検査 リスクのある胎児の超音波検査で胎児の心臓腫瘍が出生前に検出された場合、胎児はCNCに罹患している可能性がある。しかしながら、そのような出生前の超音波検査所見がないからといって、CNCに罹患している可能性が除外されるわけではない。


支援団体

GeneReviews のスタッフは、本疾患を持つ患者とその家族のために、疾患特異的または包括的な支援を行う組織やレジストリーを、以下の通り選出した。他の組織が提供する情報について、GeneReviewsが責任を負うものではない。選定基準についてはこちらをクリックし参照のこと。

Carney complex

250 Williams Street Northwest
Atlanta GA 30303
Phone: 800-227-2345 (toll-free 24/7); 866-228-4327 (toll-free 24/7 TTY)
www.cancer.org

7272 Greenville Avenue
Dallas TX 75231
Phone: 800-242-8721 (toll-free)
Email: review.personal.info@heart.org
www.americanheart.org

www.cancernetwork.com


分子遺伝学的情報

Molecular GeneticsおよびOMIMの表の情報は、GeneReviewの表の情報とは異なる場合がある。すなわち、GeneReviewの表にはより新しい情報が含まれている場合がある。-編集者。

表A カーニー複合 (CNC) : 遺伝子とデータベース
遺伝子 染色体 遺伝子座 蛋白質 遺伝子特異的データベース HGMD ClinVar
PRKAR1A 17q24​.2 cAMP-dependent protein kinase type I-alpha regulatory subunit PRKAR1A database
PRKAR1A Mutation Database
PRKAR1A PRKAR1A

データは以下の標準的な参照サイトより収載した:遺伝子はHGNCから、染色体遺伝子座はOMIMから、蛋白質はUniProtから。リンク先のデータベース(Locus Specific, HGMD, ClinVar)の説明はこちらを参照のこと。

表B
CNCに関連するOMIM項目一覧 (OMIMで全てを見る)

160980 カーニー複合1型; CNC 1
188830 protein kinase cAMP-dependent type I regulatory subunit alpha;  PRKAR1A
605244 カーニー複合2型; CNC2

分子病態

遺伝子構造 PRKAR1Aは約21kbのゲノム長を持つ。最長のトランスクリプトバリアントであるNM_212472.1は11のエクソンで構成されており、エクソン1は非翻訳領域である。遺伝子および蛋白質の詳細な情報については、A遺伝子の項を参照のこと。

病原性変異 多様な人種に由来する血縁関係を有さない401家系より、合計125の異なるPRKAR1A病原性変異が同定されている (PRKAR1A変異データベースを参照) [Horvath et al 2010] 。

ミセンス、ナンセンス、フレームシフト、スプライス部位の変異、およびいくつかの比較的大きな欠失が報告されている [Horvath et al 2008, Salpea et al 2014] 。ほとんどの変異は非公開となっている [Bertherat et al 2009] 。現在までのところ、3家系以上の血縁関係の無い家系から、c.82C>T (p.Gln28Ter)、c.491_492delTG、およびc.709-7_709-2delATTTTTの3種類のみ、病原性変異が検出されている。これらの病原性変異は、異なる人種や民族的背景を持つ家系で発生しており、独立して発生したものと思われる。c.491_492delTGとc.709-7_709-2delATTTTTは新生突然変異 (de novo) による病原性変異であることが確認されており、おそらくホットスポットであると思われる [Kirschner et al 2000, Groussin et al 2006] 。

病原性変異のうち数少ない変異では、変異した蛋白質が発現しているものもある。その中にはインフレーム変異であるスプライス変異 (c.177+3A>G) も含まれる。

表2 PRKAR1A 病原性変異一覧 (GeneReview)
DNA 塩基変異
(Alias1)
予測される蛋白変化 参照配列
c.1A>G 2 p.Met1Val NM_212472​.1
NP_997637​.1
c.82C>T 2 p.Gln28Ter
c.177+3A>G --
c.491_492delTG 2 p.Val164ArgfsTer5
c.709-7_709-2delATTTTT 3
(c.709(-7-2)del6)
--
Exon 1 deletion4 --
Exon 2 deletion4 --
Exon 9-11 deletion4 --

  表に記載されている変異は、著者によって提供されたものである。GeneReviewsのスタッフは、変異の分類を独自には検証していない。
GeneReviewsは、Human Genome Variation Society (varnomen.hgvs.org) の標準的な命名規則に従っている。命名法の説明についてはQuick Referenceを参照のこと。

  1. 現在の命名規則に準拠していない変異の名称
  2. Kirschner et al [2000]
  3. Groussin et al [2006]
  4. Salpea et al [2014]

 正常遺伝子産物 PRKAR1A蛋白質は381アミノ酸残基より構成され、N末端にはPKA活性化阻害作用を持つ二量体形成/係留 (ドッキング) ドメインを持ち、C末端には2つのcAMPドメイン (cAMP:AおよびcAMP:B) がタンデムに並んでいる。間に存在するリンカー領域は、触媒サブユニットの主な係留部位となっている [Zawadzki & Taylor 2004] 。PRKAR1Aは腫瘍抑制遺伝子である。

異常な遺伝子産物 PRKAR1Aのハプロ不全はCNCを引き起こす。CNC患者に発生する腫瘍では両アレル性にPRKAR1Aの不活化が生じることにより、プロテインキナーゼA (PKA) の異常活性化に伴う細胞内シグナル伝達の増強が生じており、CNC患者由来腫瘍では非CNC患者由来腫瘍と比較してほぼ2倍cAMPに対する反応性が高いことが証明されている [Groussin et al 2002] 。

癌および良性腫瘍

顕性のクッシング症候群を有する患者において認められた片側性副腎腺腫の37%に、体細胞性のPRKACA病原性変異が検出されている [Beuschlein et al 2014] 。


更新履歴

  1. 初稿 日本語訳者 :櫻井晃洋(信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野)
    Gene Review 最終更新日: 2003.2.5. 日本語訳最終更新日: 2003.9.2.
  2. 更新 日本語訳者 :櫻井晃洋(信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野)
    Gene Review 最終更新日: 2005.3.22.     日本語訳最終更新日: 2005.12.15
  3. Gene Reviews著者: Constantine A Stratakis, MD, DSc and Margarita Raygada, MSc, PhD.
    日本語訳者: 清水 日智(社会福祉法人恩賜財団済生会支部済生会長崎病院 小児科,長崎大学病院小児科)
    Gene Reviews 最終更新日: 2018.8.16.  日本語訳最終更新日: 2020.8.26(in present)

原文: IPEX Syndrome

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