BAP1腫瘍易罹患性症候群
(BAP1 Tumor Predisposition Syndromet)

[Synonyms:BAP1 Cancer Syndrome; Cutaneous/Ocular Melanoma, Atypical Melanocytic Proliferations, and Other Internal Neoplasms (COMMON Syndrome)]

Gene Reviews著者: Robert Pilarski, MS, LGC, MSW, Maria I Carlo, MD, Colleen Cebulla, MD, PhD, and Mohamed Abdel-Rahman, MD, PhD.
日本語訳者: 入部康弘(横浜市立大学泌尿器科学),古屋充子(ジェネティックラボ)

GeneReviews最終更新日: 2022.3.24  日本語訳最終更新日: 2023.1.1

原文: Polycystic Kidney Disease, Autosomal Dominant


要約

疾患の特徴 

BAP1腫瘍易罹患性症候群(BAP1-TPDS)は、特異な皮膚病変であるBAP1不活化メラノサイト腫瘍(BIMT;かつては非典型Spitz腫瘍と呼ばれていた)と、以下の腫瘍発症リスク上昇に関連している:頻度の高い順に、ぶどう膜悪性黒色腫、悪性中皮腫、皮膚悪性黒色腫、腎細胞癌、基底細胞癌。肝細胞癌、胆管癌、髄膜腫もBAP1-TPDSと関連している可能性がある。罹患者は複数の原発がんを発症することがある。一般的に、これらの腫瘍を発症する年齢の中央値は一般集団と比較して若い。ぶどう膜悪性黒色腫は予後の悪いクラス2腫瘍で、一般集団に発症するぶどう膜悪性黒色腫よりも転移リスクが高く、生存率が低い。今日までに限られた数の家系しか報告されていないため、BAP1関連腫瘍の浸透率、自然史、頻度は未だわかっていない。上記以外にBAP1-TPDS との関連が疑われるが不確定の腫瘍として、アルファベット順に乳癌、神経内分泌癌、非小細胞肺癌、甲状腺癌、膀胱癌がある。

診断・検査 

BAP1-TPDSの診断は、発端者に対する分子遺伝学的検査でBAP1の生殖細胞系列におけるヘテロ接合性病的バリアントを同定することにより確定される。

臨床的マネジメント 

病変の治療
皮膚悪性黒色腫と基底細胞癌の治療は、確立された診療ガイドラインに準じる。BAP1関連ぶどう膜悪性黒色腫は予後が悪いため、クラス2あるいは3番染色体モノソミーのような予後のより悪い腫瘍と同様にマネジメントしていくべきである。悪性中皮腫の治療は、BAP1関連悪性中皮腫の診療経験がある腫瘍専門医によってなされるべきである。腎細胞癌の治療は、確立された診療ガイドラインに準じる。

初発症状の予防:
ぶどう膜悪性黒色腫:アーク溶接を避ける。
悪性中皮腫:アスベスト(天然のトレモライトやエリオナイトも含む)曝露と喫煙を避ける。
皮膚悪性黒色腫と基底細胞癌:直射日光を日焼け止めや衣服で避け、定期的に皮膚科検診を受ける。

サーベイランス:
BAP1不活化メラノサイト腫瘍、皮膚悪性黒色腫、基底細胞癌:18歳くらいから毎年全身の皮膚検診を行う。多数病変を有する人には全身画像検査を行い、必要に応じ繰り返す。BAP1不活化メラノサイト腫瘍の生検は、病変増大や形状もしくは色調が変化しない限り推奨されない。
ぶどう膜悪性黒色腫:11歳くらいから毎年散瞳検査を行い、眼底画像検査は少なくともベースライン評価として行う。眼球内に色素沈着病変があれば眼科腫瘍専門医にフォローとマネジメントを依頼する。
悪性中皮腫:スクリーニング手法はない。しかし、毎年の身体診察は推奨される。腹部MRIを施行することが腎細胞癌について推奨されるならば、腹膜と胸膜についても一緒に評価することを考慮する。アスベスト曝露歴のある人には無症状でも胸部ヘリカルCTを推奨する医師がいる一方で、放射線被曝による発癌リスク上昇を考慮して推奨しない医師もいる。
腎細胞癌:毎年検査を行う。30歳になったら腹部エコーとMRIを毎年交互に行う。

回避すべき物質や環境:
アーク溶接、天然のトレモライトやエリオナイトも含むアスベスト、喫煙、不必要で長い直射日光、定期的胸部X線およびCT検査。

スクのある血縁者の評価:
迅速なスクリーニング開始や予防策による恩恵を受ける家系員を可能な限り早期に同定するため、BAP1の病的バリアントの分子遺伝学的検査を行い、リスクのある家系員の遺伝子状態を明らかにする。

遺伝カウンセリング 

BAP1-TPDSは常染色体顕性(優性)遺伝形式で遺伝する。今日までにBAP1-TPDSと診断された人のほとんどは罹患者の親をもつ;de novo病的バリアントによって引き起こされるBAP1-TPDSの割合は不明である。BAP1-TPDS罹患者から子がBAP1病的バリアントを受け継ぐ確率は50%である。しかし浸透率は不完全で、BAP1関連腫瘍のタイプは同一家系でも家系員により異なりうる。生殖細胞系列のBAP1病的バリアントが家系員で同定されたら、出生前および着床前遺伝子検査の適応はある (訳注:本邦ではコンセンサスを得られていない)。


診断

BAP1腫瘍易罹患性症候群(BAP1-TPDS)の診断基準は刊行されていない。あるレビューによると、BAP1の生殖細胞系列に病的バリアントを有する家系の90%が下記の示唆的所見のクライテリアに合致する[Rai et al 2016]。

示唆的所見

BAP1-TPDSは下記のいずれかでも有する人は疑われるべきである。

*基底細胞癌and/or皮膚悪性黒色腫2つというのは、一般集団での頻度が高いことから除外される。
BAP1-TPDS確定腫瘍とは以下を含む(可能性が高い順)。

不確定の腫瘍(BAP1-TPDSのスペクトラムに含めるかに関して相反するエビデンスが出ている)には以下のものがある(アルファベット順)。

確定診断

発端者におけるBAP1-TPDSの診断は、分子遺伝学的検査で生殖細胞系列にBAP1のヘテロ接合性病的バリアントを同定することにより確定する(表1参照)。
分子遺伝学的検査には、単一遺伝子検査またはマルチ遺伝子検査パネルが含まれる。

マルチ遺伝子パネルについての概説はこちらをクリック。遺伝学的検査をオーダーするにあたっての臨床家向けのより詳しい情報はこちらで得られる。

表1. BAP1腫瘍易罹患性症候群の診断に用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 手法 この手法で発端者の病的バリアント2を同定している割合
BAP1 シークエンス解析3 >87.5%4
標的遺伝子の欠失/重複解析5 <12.5%6
  1. 染色体上の遺伝子座と蛋白質については A. 遺伝子とデータベースを参照。
  2. この遺伝子で同定されるバリアントの情報は分子遺伝学的事項を参照。
  3. シークエンス解析で同定されるバリアントにはbenign、likely benign、of uncertain significance (訳注:いわゆるVUS)、likely pathogenic、pathogenicのものがある。典型的には、エクソン単位あるいは遺伝子全体にわたる欠失/重複は同定できない。シークエンス解析を解釈するにあたり考慮すべき問題点に関してはこちらを参照。
  4. データはHuman Gene Mutation Database [Stenson et al 2017](有料版)から得た。
  5. 標的遺伝子の欠失/重複解析では遺伝子内の欠失または重複を同定できる。用いられる手法には定量的PCR、ロングレンジPCR、Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification (MLPA)法、1エクソン単位のの欠失/重複を同定するためにデザインされた標的遺伝子マイクロアレイといったものがある。
  6. Haugh et al [2017], Carlo et al [2018], Huang et al [2018], Walpole et al [2018], Boru et al [2019]

臨床的特徴

臨床像

BAP1腫瘍易罹患性症候群(BAP1-TPDS)は多種類のがんと特異的な皮膚病変、すなわちBAP1不活化メラノサイト腫瘍(BIMT、旧称非定型Spitz腫瘍)を発症するリスクの上昇に関連している。罹患者は1種類の癌を発症するだけにとどまらないことがある [Abdel-Rahman et al 2011, Testa et al 2011, Wiesner et al 2011, Popova et al 2013, Walpole et al 2018]。

これまでに報告された家系数は限られており、また各研究グループがぶどう膜悪性黒色腫、悪性中皮腫、皮膚悪性黒色腫のいずれかにフォーカスしている確認バイアスもあるため、様々なBAP1関連腫瘍の浸透率や頻度は未だわかっていない。確認バイアスを補正する試みとして、WalpoleらはBAP1-TPDS発端者とBAP1病的バリアントを有する家系員での各種腫瘍の有病率を比較した [Walpole et al 2018]。以下の腫瘍はBAP1-TPDSとの関連が確立している。

BAP1不活化メラノサイト腫瘍(BIMT;旧称非定型Spitz腫瘍) この疾患の自然歴ははっきりわかっていない。BAP1-TPDSの罹患者は典型的には多発病変を生じる [Haugh et al 2017]。BIMTは赤褐色の皮膚を呈し、直径は平均5mmである。Spitz母斑と皮膚悪性黒色腫の中間的な組織像を示す。BAP1の両コピーが不活化されており、免疫組織化学染色でBAP1蛋白質は陰性となる。加えて、BIMTは通常体細胞系列でBRAFの病的バリアント(p.Val600Glu)を有する。

ぶどう膜悪性黒色腫(UM)はBAP1-TPDSの罹患者において最も高頻度に報告されているがんであり(報告されているBAP1-TPDS発端者36%、家系員16%)、診断時年齢が最も若いがんである(16歳)[Walpole et al 2018]。BAP1-TPDS 罹患者のUM発症年齢中央値は53歳で、一般集団(62歳)よりも若い。腫瘍は概してより予後の悪いクラス2(転移リスクが高い)腫瘍であり、生存率は低くなる[Njauw et al 2012, Rai et al 2016]。ある研究によると、BAP1蛋白質の発現が欠損しているUM患者の平均生存期間は4.74年、BAP1蛋白質が発現している腫瘍の患者は9.97年であった[Kalirai et al 2014]。

悪性中皮腫(MMe)はBAP1-TPDS罹患者に2番目に高い頻度で認められるがんである(発端者25%、家系員19%)[Walpole et al 2018]。BAP1-TPDS罹患者におけるMMe発症年齢中央値(55-58歳)は、散発性MMe(68-72歳)に比べ有意に若いことが複数の研究で示されている[Baumann et al 2015, Ohar et al 2016, Walpole et al 2018]。一般集団では胸膜MMeが約80%を占め、残りは腹膜MMeである。しかしBAP1-TPDS罹患者では腹膜病変の胸膜病変に対する比は有意に高い[Carbone et al 2015, Cheung et al 2015, Ohar et al 2016, Walpole et al 2018]。BAP1-TPDSでは腹膜MMeの大半は女性に発症し、一般集団では男性のほうがこの腫瘍に罹患しやすいのと対照的である[Walpole et al 2018]。

BAP1関連皮膚悪性黒色腫、UM、腎細胞癌とは対照的に、BAP1関連MMe、特に胸膜悪性中皮腫の患者生存期間は有意に長い[Baumann et al 2015, Pastorino et al 2018, Wang et al 2018, Hassan et al 2019]。

エビデンスの集積により、BAP1病的バリアントと環境中のアスベスト曝露とが相互作用してMMeリスクが上昇することが示唆されている[Xu et al 2014, Kadariya et al 2016]。

皮膚悪性黒色腫(CM) BAP1-TPDSとの関連で報告されたのは2011年が最初である。CMは今やBAP1-TPDSに生じる3番目に頻度が高いがんとして知られており、罹患者の13%に発症する[Wiesner et al 2011]。興味深いことにWalpoleら[2018]によるとBAP1-TPDSの発端者45%にCMを認めた一方、BAP1-TPDS罹患家系員では認められなかった[Walpole et al 2018]。原発性皮膚悪性黒色腫は多発しやすい。BAP1-TPDS 罹患者のCM発症年齢中央値は一般集団より若い(39歳 vs 58歳)。BAP1関連CMは一般集団のCMに対し予後が悪そうだが、現在のところ一致したデータとはなっていない[Gupta et al 2015, Kumar et al 2015, Rai et al 2016, Liu-Smith & Lu 2020]。

腎細胞癌(RCC)生殖細胞系列におけるBAP1ヘテロ接合性病的バリアントはRCC、とりわけ淡明細胞型のリスク上昇に特異的に関連している[Haas & Nathanson 2014]。Walpoleらは発端者および家系員10%にRCCを認めたと報告したが、特定の組織型が必ずしも知られているわけではなく、乳頭状や嫌色素性など他の組織型も認められている。RCC診断時年齢中央値はBAP1-TPDS 罹患者のほうが一般集団よりも若いようである(47-50歳 vs 64歳)。生存期間はBAP1-TPDS関連RCC罹患者のほうが短い[Rai et al 2016]。これらの腫瘍組織所見はBAP1病的バリアントに関連しない腫瘍とは異なり、診断時点でグレードがより高く体細胞系列のPBRM1病的バリアント(BAP1病的バリアントと関連せず、RCCで頻度が高い)を欠く[Peña-Llopis et al 2012]。

基底細胞癌(BCC)は最近になってBAP1-TPDSスペクトラムであることが確認された[de la Fouchardière et al 2015b, Mochel et al 2015, Wadt et al 2015]。多発原発性基底細胞癌の頻度は高い。Walpoleら[2018]は悪性黒色腫ではない皮膚腫瘍(原発性BCC)の診断時年齢中央値は44歳と報告している。

髄膜腫、特にハイグレード・ラブドイド・サブタイプはBAP1-TPDSとの関連が示唆されている[Abdel-Rahman et al 2011, Cheung et al 2015, de la Fouchardière et al 2015a, Wadt et al 2015, Shankar et al 2017]。これはBAP1-TPDSの発端者8.5%と、BAP1病的バリアントを有する家系員2.2%にこの腫瘍が同定されたことからも支持される。

胆管癌BAP1-TPDSの一症状であることが示唆されている[Njauw et al 2012, Pilarski et al 2014, Wadt et al 2015]。Walpole ら[2018]は、BAP1-TPDS発端者1.4%にこの癌を認めたが家系員には認められなかったと報告している。

肝細胞癌(HCC) 生殖細胞系列におけるBAP1病的バリアントはHCC罹患者0.5%に認められる[Huang et al 2018]。Walpoleら[2018]は、BAP1-TPDS発端者0.7%、BAP1病的バリアントを有する家系員1.6%にHCCを認めたと報告している。

その他の癌でBAP1-TPDSスペクトラムに包含されることを支持するエビデンス(報告によって違いはあっても)があるのは以下のとおりである (アルファベット順):

遺伝子型と表現型の関連

BAP1-TPDSにおける遺伝子型と表現型の関連については現時点で報告はない。
多くの家系(141家系中104家系)は異なるBAP1病的ヌルバリアントを有していた;既知の病的バリアントも報告された[Walpole et al 2018](分子遺伝学的事項を参照)。

病名

BAP1不活化メラノサイト腫瘍には以下の呼称もある。

有病率

BAP1-TPDSの有病率は不明である。Genome Aggregation Database(gnomAD)データに基づけば、一般集団でのキャリアー頻度は1:26,837である。TCGAによるがんコホートでの頻度は8:10,389(1:1,299)である。

BAP1-TPDSの有病率はUM1-2%、MMe1-3% [Huang et al 2018, Panou et al 2018]、RCC1-1.5% [Carlo et al 2018, Wu et al 2019]、HCC0.5%である。いくつかの大規模スタディにより、CM罹患者のうちBAP1-TPDSは稀少(0.1%)と示されている[Aoude et al 2015, O'Shea et al 2017]。他のがん種罹患者におけるBAP1-TPDSの有病率はわかっていない。

ぶどう膜悪性黒色腫(UM) 生殖細胞系列におけるBAP1病的バリアントの有病率はUM罹患者全体の1-2%である[Aoude et al 2013a, Gupta et al 2015, Repo et al 2019]。対照的に、UM家族歴があるUM罹患者での有病率は20-30%である[Turunen et al 2016, Rai et al 2017]。

悪性中皮腫 (MMe) 生殖細胞系列におけるBAP1病的バリアントは散発例の1-3%、家族性MMe患者の6-7.7%(9:153)に認められる[Betti et al 2015, Ohar et al 2016, Betti et al 2018]。

皮膚悪性黒色腫(CM) 散発性CMに関する2つの大規模スタディによれば、生殖細胞系列におけるBAP1病的バリアントはまれであり、それぞれ3:1,197(0.25%)、0:1109の頻度で認めたと報告されている[Aoude et al 2015, O'Shea et al 2017]。生殖細胞系列におけるBAP1病的バリアントは家族性CMでも稀で(0-0.7%)、特に家系内に他のがん罹患者がいない場合はそうである[Njauw et al 2012, Boru et al 2019, Potjer et al 2019]。

遺伝学上関連のある疾患

生殖細胞系列におけるBAP1de novoヘテロ接合性病的バリアントは11例報告があり、発達遅延と知的障害のいずれかあるいはその両方、そのほかにも筋緊張低下、けいれん、行動障害、特徴的顔貌、骨格奇形、低身長、眼・心臓・尿路の先天的異常といった様々な特徴を有する[Küry et al 2022]。


鑑別診断

BAP1以外の遺伝子病的バリアントがぶどう膜悪性黒色腫、皮膚悪性黒色腫、悪性中皮腫、腎細胞癌に関連することがある。しかし、他の遺伝子でBAP1腫瘍易罹患性症候群(BAP1-TPDS)と同程度にこれらのがん種組み合わせのリスクを上昇させるものはない。

表2. BAP1腫瘍易罹患性症候群との鑑別診断で考慮すべき遺伝子

がん種 遺伝子/遺伝学的機序 コメント/参照文献
ぶどう膜悪性黒色腫 BRCA1
BRCA2
MBD4
PALB2
Sinilnikova et al [1999], Iscovich et al [2002], Scott et al [2002], Moran et al [2012], Abdel-Rahman et al [2020a], Abdel-Rahman et al [2020b]
悪性中皮腫 CDKN2A1 Panou et al [2018]
皮膚悪性黒色腫 CDKN2A
CDK4
MC1R
MITF
膵癌はCDKN2A病的バリアントと関連がある[Marzuka-Alcalá et al 2014]。
遺伝性腎細胞癌 VHL Von Hippel-Lindau病のページを参照。
Xp11転座 Xp11転座腎細胞癌(OMIM300854
(訳注:遺伝性ではない)
FH 遺伝性皮膚平滑筋腫症、腎細胞癌、子宮平滑筋腫(子宮筋腫)。FH腫瘍易罹患性症候群のページを参照。
FLCN
  • 腎腫瘍:ハイブリッド腫瘍、嫌色素性、オンコサイトーマ、乳頭状、淡明細胞型
  • 皮膚:線維毛包腫/毛盤腫
  • 肺:肺嚢胞、自然気胸
Birt-Hogg-Dubé症候群のページを参照。
MET 遺伝性乳頭状腎細胞癌(OMIM605074

この表に挙げた単一遺伝子疾患は常染色体顕性(優性)遺伝形式をとる。

  1. Panouら[2018]は他にもいくつかの遺伝子の関与を挙げつつも、ボンフェローニ補正を適用するとBAP1CDKN2Aだけが有意な関連がある遺伝子として残るとしている。

臨床的マネジメント

初期診断後の評価

BAP1腫瘍易罹患性症候群(BAP1-TPDS)と診断された人の疾患範囲、必要なことを確定するために、表3に要約した評価を(もし診断に至る過程で評価していなければ)集学的チームアプローチで行うことが推奨される[Rai et al 2016, Star et al 2018]。

表3.BAP1腫瘍易罹患性症候群と診断されたら最初に行うことが推奨される評価

臓器/問題点 評価法 コメント
BAP1不活化メラノサイト腫瘍(BIMT)
皮膚悪性黒色腫 (CM)
かつ/または
基底細胞癌(BCC)
  • 悪性黒色腫を専門とする皮膚科医による全身皮膚診察
  • 多数病変がある場合は全身の画像評価を考慮する。
  • BIMTが示唆される病変を切除すべきかには議論がある。
  • その他のメラノサイト病変やBCCについては確立された診療ガイドラインに沿ってマネジメントを行う。
18歳頃に開始する。
ぶどう膜悪性黒色腫(UM)
  • 散瞳検査および初期眼底検査
  • 正確な診断とマネジメントのため、いかなる疑い病変もUMマネジメントを専門とする眼科医(眼科腫瘍専門医)に紹介する。
11歳頃に開始する。
悪性中皮腫(MMe)
  • スクリーニング法についてコンセンサスはない。
  • 腹部および肺の診察を行い、いかなる疑わしい病変も精査する。
  • 無症状の場合はエコー(腎/胸腹部)かMRI(胸腹部を拡散強調像ありで)で画像サーベイランスを行う。
  • 30歳で開始する。
  • RCCの評価と併せて行う。
腎細胞癌(RCC) 腹部診察を行い、いかなる疑わしい病変も精査する。
  • 30歳で開始する。
  • MMeの評価と併せて行う。
遺伝カウンセリング 遺伝学の専門家1が行う。 罹患者とその家族にBAP1-TPDSの性質、遺伝形式、派生する影響について情報提供し、以て医学的あるいは個人の意思決定を支援する。
  1. 遺伝専門医、認定遺伝カウンセラー、遺伝看護専門看護師

症状の治療

BAP1-TPDS腫瘍の治療は標準的なプラクティスに沿って行う。

表4.BAP1腫瘍易罹患性症候群の罹患者の症状に対する治療

症状/問題点 治療 考慮すべき事項/その他
BAP1不活化メラノサイト腫瘍(BIMT)
皮膚悪性黒色腫 (CM)
基底細胞癌(BCC)
  • 安定した無症状BIMTには年1回の皮膚診察と全身画像評価が推奨される。
  • CMとBCCの治療は確立された診療ガイドラインに沿って行う。
BIMTの切除生検は提案されてよいが、無症状で安定した病変に対して全例に推奨されているわけではない[Star et al 2018]。
ぶどう膜悪性黒色腫(UM)> UMは予後不良腫瘍(すなわち遺伝子発現プロファイルでクラス2の例および3番染色体モノソミーの例)とみなしてマネジメントする。 BAP1関連UMは進行度が高いため[Njauw et al 2012]。
悪性中皮腫(MMe) BAP1関連MMeに精通した腫瘍専門医が治療を行う。
  • MMeは拡大切除術や集学的治療を含む通常治療に対し抵抗性が高く、それゆえ根治困難である。
  • 近年、BAP1関連MMeは化学療法に反応良好である可能性が示唆されてきている。
  • PARP阻害薬を含むいくつかの臨床試験が進行中である。
腎細胞癌(RCC) 確立された診療ガイドラインに沿って診療を行う。 PARP阻害薬を含むいくつかの臨床試験が進行中である。

症状の一時予防

ぶどう膜悪性黒色腫(UM アーク溶接はUMリスクと関連があるため可能ならば避けるべきである。
UVAおよびUVBからの保護効果の高いサングラスは眼瞼癌リスクを減らす可能性があるが、サングラスによるUM予防効果に関するデータはない。

悪性中皮腫(MMe 全ての人にとってそうであるように、アスベスト曝露(自然界に存在するトレモライトやエリオナイトも含む)と喫煙は避けるべきである。

皮膚悪性黒色腫(CM 一次予防は日光曝露を制限すること、日焼け止めおよび肌を防護できる服を日常的に使用すること、定期的な皮膚診察といった典型的なCMリスク低減策に限られる。

サーベイランス

推奨されるマネジメントについてのコンセンサスは確立していない。しかし、いくつかのグループが下記のような提案を行っている(表5参照)[Carbone et al 2012, Battaglia 2014, Rai et al 2016, Star et al 2018]。

表5.BAP1腫瘍易罹患性症候群罹患者に推奨されるサーベイランス

臓器/問題点 評価 頻度
BAP1不活化メラノサイト腫瘍(BIMT)
皮膚悪性黒色腫 (CM)
基底細胞癌(BCC)
  • 悪性黒色腫を専門とする皮膚科医による全身皮膚の診察
  • 多数の病変がある場合は全身の画像評価も考慮する。
  • BIMTを示唆する病変の切除(生検)には議論がある。
  • その他のメラノサイト病変やBCCについては確立された診療ガイドラインに沿ってマネジメントを行う。
毎年の評価を18歳頃に開始する。
ぶどう膜悪性黒色腫(UM)
  • 散瞳試験および散瞳薬を用いたベースライン評価の眼底検査を、できればUMの診断とマネジメントに習熟した眼科医(眼科が腫瘍専門医)が行う。
  • あるいは、一般眼科医がフォローアップを行い、疑わしい病変があった場合に適切な診断とマネジメントのために眼科腫瘍専門医に紹介することでもよい。
毎年の評価を11歳頃に開始する。
悪性中皮腫(胸膜および腹膜MMe
  • スクリーニング手法に関しコンセンサスは存在しない。
  • 胸膜炎、腹膜炎、胸水、腹水の症状、すなわち胸痛、咳嗽、発熱、息切れ、嚥下困難、嗄声、体重減少、上半身・顔面の浮腫、腹痛、嘔気、嘔吐、便秘に対する臨床評価を行う。
  • RCCに推奨されている腹部MRIを撮像する場合は、併せて胸膜・腹膜評価も行うことを考慮する。
  • アスベスト曝露歴があれば無症状でも胸部ヘリカルCTを推奨する臨床医がいるが、放射線被爆による発癌リスクの上昇がありうるので推奨しない医師もいる。
  • X線あるいはCTによるルーティンのサーベイランスは避けるべきである。
腎細胞癌(RCC)
  • 毎年診察を行い、腹痛や血尿といった疑わしい症状があれば精査する。
  • 無症状者に対してはエコー(腎/胸腹部)やMRI(胸腹部、拡散強調像あり)で画像サーベイランスを行う。
  • 30歳で開始する。
  • MRIは2年ごとに撮像する。
  • エコーは2年ごと(MRIと交互)に行う。

避けるべき物質/環境

下記を避けるべきである。

リスクのある血縁者の評価

罹患者の血縁者で有リスクとみなされる者にBAP1病的バリアントを調べる分子遺伝学的検査を行い遺伝子の状態を明らかにすることは適切である。BAP1病的バリアントを有する家系員には生涯にわたり定期的なサーベイランスを勧めるべきである。病的バリアントを受け継いでいない者とその子孫は一般集団と同程度のリスクを有するのみである。

遺伝カウンセリング目的で有リスク血縁者に検査施行する際の問題点は、遺伝カウンセリングの項を参照のこと。

研究中の治療法

BAP1-TPDS罹患者に限定した治験は現在行われていないが、体細胞系列でBAP1病的バリアントを有する人を対象としたPARP阻害薬単剤あるいは他剤との併用療法試験は現在進行中である。
転移ぶどう膜悪性黒色腫に対するボリノスタットを用いたNCI後援治験(NCT01587352)では、BAP1変異状態を副次評価項目として評価している.

米国のClinicalTrials.govや欧州のEU Clinical Trials Registerにアクセスすると、多様な疾患や病態に対する臨床試験の情報が得られる。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

BAP1腫瘍易罹患性症候群(BAP1-TPDS)は常染色体顕性(優性)遺伝形式で遺伝する。

家族構成員のリスク

発端者の両親

発端者の同胞 

発端者の同胞におけるリスクは、親の遺伝子状態による。

発端者の子

BAP1-TPDS罹患者の子どもはBAP1病的バリアントを各自50%の確率で受け継ぐ。しかし浸透率は不完全なようであり、発症しうるBAP1関連腫瘍の種類は同一家系内でも各々異なる可能性がある。

他の家族構成員

その他の家系員リスクは発端者の親の遺伝子状態による。もし親が生殖細胞系列でBAP1病的バリアントを有していたら、その家系員は有リスクの可能性がある。

関連する遺伝カウンセリング上の問題

早期診断と治療を目的としてリスクのある血縁者の評価を行う際の情報は臨床的マネジメントの、リスクのある血縁者の評価の項を参照のこと。

予防的検査をリスクのある無症状家系員に施行するのであれば、先行して当該家系の生殖細胞系列のBAP1病的バリアントを同定しておく必要がある。

遺伝性がんのリスク評価とカウンセリング

分子遺伝学的検査の有無によらずがんのリスク評価を通じてリスクのある人を同定することの医学的、精神社会的、倫理的影響について包括的な解説は、Cancer Genetics Risk Assessment and Counseling – Health Professional Version (part of PDQ®, National Cancer Institute)を参照のこと。

家族計画

出生前検査および着床前遺伝検査

生殖細胞系列のBAP1病的バリアントが家系員に同定されたら、BAP1-TPDSの出生前および着床前遺伝子検査は可能になる(訳注:本邦ではコンセンサスを得られていない)。

医療専門家間、また家族内でも出生前診断の利用に関して見解の相違が存在することがある。殆どの施設では出生前診断利用は個人の判断にかかるものと考えているが、これらの問題を議論し合うことは有用かもしれない。


関連情報

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報についてはここをクリック。

Phone: 800-227-2345
www.cancer.org

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22nd Floor
New York NY 10001
Phone: 800-813-4673
Fax: 212-712-8495
Email: info@cancercare.org
www.cancercare.org


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A.BAP1腫瘍易罹患性症候群:遺伝子とデータベース

遺伝子 遺伝子座 タンパク 遺伝子座特異的データベース HGMD ClinVar
BAP1 3p21.1 Ubiquitin carboxyl-terminal hydrolase BAP1 BAP1 @ LOVD BAP1 BAP1

表B.BAP1腫瘍易罹患性症候群についてのOMIMの記事すべてをOMIMで見る

603089 BRCA1-ASSOCIATED PROTEIN 1; BAP1
614327 TUMOR PREDISPOSITION SYNDROME 1; TPDS1

分子病態

BAP1はBAP1というユビキチンカルボキシル基末端加水分解酵素をコードする。BAP1蛋白質は核に局在する脱ユビキチン化酵素であり、クロマチン関連蛋白質として多数の蛋白質からなる大きな複合体の一部をなし、細胞増殖を促進する方向にも抑制する方向にも制御する(Daou et al [2015]レビュー参照)。細胞増殖に関与する遺伝子のプロモーター領域にリクルートされて転写を活性化し、また相同組換えを通じてDNA二本鎖切断修復を促進する[Daou et al 2015]。BAP1は細胞質においてはアポトーシスに重要な役割を担っていると考えられている[Bononi et al 2017]。

疾患発症のメカニズム

機能喪失による。BAP1の片側アレル病的バリアントが、がん抑制蛋白質であるBAP1のハプロ不全を引き起こす。もう一方のアレルに第2の病的バリアントが生じてBAP1蛋白質のがん抑制力が完全に喪失すると腫瘍が発育する。Wiesnerら[2012]の解析では、BAP1不活化メラノサイト腫瘍の殆どで多様な体細胞変異により、残っていた正常BAP1アレルが失われ、全例で核内BAP1蛋白質が喪失していた。

表6.注目すべきBAP1病的バリアント

リファレンス配列 DNAの塩基変化 予測されるタンパクの変化 コメント[参照文献]
NM_004656​.4
NP_004647​.1
c.1717delC p.Leu573TrpfsTer3 共通の祖先を持つと思われる米国の複数家系から同定された創始者バリアント [Carbone et al 2015, Walpole et al 2018, Boru et al 2019]
c.1780_1781insT p.Gly594ValfsTer49 フィンランドの創始者バリアント
c.178C>T p.Arg60Ter 異なる集団から複数被験者で認められている。ハプロタイプ解析で、それらは各々独立して複数生じたと示されている[Walpole et al 2018]。

がんと良性腫瘍

散発性腫瘍(胆管癌、肝細胞癌、悪性中皮腫、腎細胞癌、ぶどう膜悪性黒色腫を含む)は他臓器にBAP1-TPDSの所見がなく単独で生じる可能性があり、しばしば生殖細胞系列にはないBAP1体細胞系列バリアントを有している(Raiら[2016]がレビュー)。このような場合、これらの腫瘍の易罹患性は遺伝しない。


更新履歴:

  1. Gene Reviews著者: Robert Pilarski, MS, LGC, MSW, Karan Rai, BS, Colleen Cebulla, MD, PhD and Mohamed Abdel-Rahman, MD, PhD
    日本語訳者: 朝倉 一 ,古屋充子(横浜市立大学医学研究科分子病理)
    GeneReviews 最終更新日:2016.10.13 日本語訳最終更新日: 2019.3.22.
  2. Gene Reviews著者: Robert Pilarski, MS, LGC, MSW, Maria I Carlo, MD, Colleen Cebulla, MD, PhD, and Mohamed Abdel-Rahman, MD, PhD.
    日本語訳者: 入部康弘(横浜市立大学泌尿器科学)・古屋充子(ジェネティックラボ)[in present]

原文: BAP1 Tumor Predisposition Syndrome

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