Gene Reviews著者: Elizabeth McNally, MD, PhD, Heather MacLeod, MS, Lisa Dellefave-Castillo, MS,CGC
日本語訳者: 箕浦祐子(札幌医科大学大学院医学研究科修士課程遺伝カウンセリングコース),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
AMED「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」班(研究開発代表者:小杉眞司)
Gene Reviews 最終更新日: 2017.5.25 日本語訳最終更新日: 2018.9.18
原文: Arrhythmogenic Right Ventricular Cardiomyopathy
疾患の特徴
過去に不整脈原性右室異形成症(ARVD)として知られていた不整脈原性右室心筋症(ARVC)は、若年者やアスリートにおいて、心室頻拍や突然死を引き起こす心筋細胞の線維化脂肪組織への進行性置換を特徴とする。右心室の症状を主とするが、左心室にも影響を及ぼすことがある。症状は、家族内であっても非常に様々で、罹患者の中には確立された臨床診断基準に当てはまらない事例もある。診断の平均年齢は、31歳(±13歳: 4歳~64歳)である。
診断・検査
ARVCの診断は、心臓の構造と心調律を調べる非侵襲的および侵襲的検査法を組み合わせて行う。ARVCに関連する一般的な遺伝的要因としては、DSC2、DSG2、DSP、JUP、PKP2、TMEM43が知られている。あまり一般的ではない遺伝的要因としては、CTNNA3、DES、LMNA、PLN、RYR2、TGFB3、TTNが挙げられる。これら13の遺伝子のサブセットはデスモゾームの構成分子をコードする。
臨床的マネジメント
症状の治療:
臨床的マネジメントは個別に対応し、抗不整脈薬と植込み型除細動器の使用による、失神、心停止、突然死の予防に焦点を当てる。心臓移植は、ARVCが右または左心室の心不全まで進行した場合に検討されるが、拡張型心筋症のような心臓移植を必要とする、重度で広汎性の両室が関与するような状態は稀である。
回避すべき薬剤・環境:
競争的な運動を含む通常のあるいは激しい運動は、右心室への負担となり、ARVCや関連する不整脈を誘発するため、控えるべきである。
リスクのある血縁者の検査:
病的バリアントがわかっている家系の、リスクのある血縁者は分子遺伝学的検査を行い、家系内特有の病的バリアントが認められた場合は、10歳から50歳までの間、年一度の心機能と心調律の臨床的スクリーニングが必要とされる。遺伝学的検査を実施していない、あるいは罹患している家族に病的バリアントが認められなかった場合、リスクのある無症状の第一度近親者は、10歳以降、3~5年ごとの心臓関連の臨床的スクリーニングが推奨される。
遺伝カウンセリング
ARVCは、概して常染色体優性遺伝形式をとる。常染色体優性ARVCの発端者は、de novoの病的バリアントが生じたことで発症することもある。de novo変異により生じた症例の割合はわかっていない。常染色体優性ARVCの罹患者の子供は、50%の確率で病的バリアントを受け継ぐ。ARVCは二遺伝子遺伝形式をとることもある(すなわち、2つの異なる遺伝子の片方のアレルに、それぞれ病的バリアントがある)。病的バリアントが家族内で確認されている場合、高リスクの妊娠において出生前診断をすることは可能である。
訳注:日本では,本症に対する出生前診断や着床前診断は行われない.いずれにしても次世代への遺伝に関しては細心の遺伝カウンセリングが必要である。
診断
ARVCは、不整脈の所見が現れた後、最も一般的に診断される主要な心筋症である。診断基準は、はじめは国際的な特別委員会によって提唱され[McKenna et al 1994]、Marcus et al[2010]によって改訂された。診断基準は、心電図と加算平均心電図の組み合わせ、2次元心エコー検査、心臓MRIまたは右心室血管造影法の画像検査、無線テレメトリー方式のモニターによって記録された不整脈の症状、遺伝学的検査、家族歴に基づく。
不整脈原性右室心筋症が疑われる所見
下記の所見の何れかがある者に対しては,不整脈原性右室心筋症(ARVC)を疑うべきである。
国際的な特別委員会によって初期に提唱されたARVCの診断基準[McKenna et al 1994]は、診断の特異性を維持しながら診断の感度を高めるための新たな知見と技術を織り込み、Marcus et al[2010](全文参照)によって改訂された。大項目かつ/または小項目の診断基準にみられる症状の数に基づき、ARVCの「確定診断」、「境界型」、若しくは「可能性あり」と分類される(診断の立証参照)。
画像所見:全体的かつ/または局所的な心機能不全と構造変化
大項目
小項目
心内膜心筋生検または剖検所見
心電図所見
再分極異常
脱文極・伝導異常
不整脈
家族歴
大項目
小項目
診断の確定
発端者において異なるカテゴリーから下記所見があれば、ARVCの診断が確立する(疑われる所見参照):
特別委員会の診断基準では、分子遺伝学的検査によって同定されたTable. 1aあるいはTable.1bのリストにある遺伝子にヘテロ接合性の病的バリアントがあれば、大項目の基準を満たすとみなされる。
分子遺伝学的検査の手法は、マルチジーンパネル検査やより包括的なゲノム検査を含む:
マルチジーンパネル検査に関する概論はここをクリック。遺伝学的検査を発注する臨床医向けのより詳細な情報についてはコチラを参照のこと。
包括的なゲノム解析に関する詳細はここをクリック。遺伝学的検査を発注する臨床医向けの、より詳細な情報についてはコチラを参照のこと。
注:ARVCのための遺伝パネル検査の拡大により、2つの病的バリアントを持つ患者の同定に繋がることもある(二遺伝子遺伝/両アレル遺伝)。二遺伝子遺伝/両アレル遺伝は、4~47%と多様に見積もられている(Xu et al 2010, Bao et al 2013, Rigato et al 2013, Bhonsale et al 2015, Groeneweg et al 2015)。大多数の研究で、二遺伝子・両アレルの病的バリアント保有者は、より深刻な不整脈の形質を持つ。遺伝子型と表現型の関連参照。
包括的な遺伝学的検査についてはこちらをクリック。遺伝学的検査の発注を希望する臨床医向けのより詳細な情報についてはコチラをご覧ください。
表1a.
不整脈原性右室心筋症で実施される分子遺伝学的検査:最も一般的な遺伝的要因
遺伝子1 | この遺伝子の病的バリアントに原因があるARVCの割合2 | この方法で発見できる病的バリアント3の割合 | |
---|---|---|---|
配列解析4 | 対象となる遺伝子の欠失/重複解析5 | ||
DSC2 | 1%-2% | >90%6 | 不明7 |
DSG2 | 5%-26% | >90%6 | 不明7 |
DSP | 2%-39% | >90%6 | 0%-8%8 |
JUP | 0.5%-2% | >90%6 | 不明7 |
PKP2 | 34%-74% | >80%6 | 11.70% |
TMEM43 | 稀 | >90%6 | 不明7 |
不明9 | NA |
この表のリストにある遺伝子の病的バリアントは、いずれもARVCの1%以上を占める;遺伝子は、アルファベット順に表記している。
表1b.
不整脈原性右室心筋症の分子遺伝学:一般的でない遺伝的要因
遺伝子1,2 | 文献 |
---|---|
CTNNA3 | van Hengel et al (2013) |
DES | Klauke et al (2010), Otten et al(2010), Hedberg et al (2012), Lorenzo et al (2013) |
LMNA | Quarta et al (2012), Forleo et al (2015) |
PLN | van der Zwaag et al (2012) |
RYR2 | Roux-Buisson et al (2014) |
TGFB3 | Beffagna et al (2015) |
TTN | Taylor et al (2011), Brun et al (2014) |
この表のリストにある遺伝子の病的バリアントは、それぞれ数家族のみに報告され(ARVCの1%未満)、これらの遺伝子に関連する症状は、より広範囲の疾患である不整脈原性心筋症と重複する。遺伝子は、アルファベット順に表記している。
1.染色体座位とタンパク質については、Table. A. 遺伝子とデータベース参照。
2.表に含まれる遺伝子の詳細は、ここ(pdf)をクリック。
注:
(1)国際特別委員会の診断基準 (Marcus et al 2010)に基づきARVCの疑いがあるものの、明確に臨床診断基準を満たさない個人*に対しては、分子遺伝子検査を検討すべきである。こういった人の中には、ARVC関連の遺伝子の一つに病的バリアントが同定されることで、残りの基準を満たすこともある(疑われる所見を参照)。
*ARVCの境界型診断
*ARVCの可能性ありの診断
(2)改訂された診断基準(Marcus et al 2010)を満たす発端者において、検査可能な全遺伝子の遺伝学的検査の総括収率は、約50%である(Quarta et al)。従って、診断基準に適合する人に、分子遺伝学的検査で病的バリアントが確認されない場合でも、ARVCの臨床診断は変わらない。
診断基準外の検討:追加情報
注:ARVCの表現型は非常に多様であり、症状を示す患者でも特定の基準に合わない可能性がある(McKenna et al 1994, Marcus et al 2010)。しかし、このような患者でも、不整脈を含む心血管イベントのリスクがあるため、循環器専門医による継続的なケアが必要とされる。
心臓の構造と心調律の非侵入的および侵入的検査についての追加的考察は、ここ(pdf)に概説される。
臨床像
不整脈原性右室心筋症(ARVC)は、右心室に症状の表れる心筋障害で、症例によっては左心室に悪影響を及ぼす事もある。ARVCは進行性であり、心筋細胞の線維化脂肪組織への置換により心室頻拍や若年者の突然死が起こりやすいことを特徴とする(Marcus et al 1982, Thiene et al 1988, Corrado et al 1998, Fontaine et al 1998)。この疾患は、右室心尖部、右室下壁、右心流出路が好発部位である。ARVCの不整脈は、多くの場合右室で生じ、左脚ブロックの形態で起こる。
ARVCの病状によっては左心室にも拡大して影響を及ぼす事もある(Horimoto et al 2000, Hamid et al 2002)。ARVC罹患者に局所的な左心室機能障害が同定された心臓MRIの研究もある(Sen-Chowdhry et al 2006, Jain et al 2010)。遅延造影効果が左心室に見られる事もある(Marra et al 2012)。
症状。最も共通してみられる症状は、心悸亢進、失神、死亡である。予想通り、発端者/初発症例では、より深刻な症状となる。浸透率参照。
診断時年齢と生存率。ARVCは、一般には成人に現れるが、10歳代の子供に現れる事もある。ARVCの罹患者を追跡した2つの長期間の研究では、追跡6年目の生存率は72%より高い事を示している。ARVC全体では、移植を必要とする症例と心疾患による死亡率は5%未満である(Bhonsale et al 2015, Groeneweg et al 2015)。
性差。男性の方が、ARVCの発端者としてみつかりやすい一方、女性は、大規模コホート調査において、患者のほぼ半分を占める(45%)(Bhonsale et al 2015)。遺伝学的に確認されたARVC罹患者の多変量解析では、男性は不整脈イベントとの相関が高かった(Protonotarios et al 2016)。
進行。ARVCの4種類の段階(Dalal et al 2006):
左心室への関与は、上記の何れの段階においても起こりうる。(Sen-Chowdhry et al 2007)
不整脈の症状。不整脈の症状は、動悸、失神、異所性心室興奮あるいは、持続性ないし非持続性の心室頻拍に起因する失神性めまいを含む。
不整脈と突然死。不整脈原性心筋症の主な特徴は、明白な心室の機能低下がなくても、心室不整脈と突然死を起こす傾向があることである。ARVCで突然死のリスクが高まるのは、突発性心室不整脈に関連すると考えられる。
ARVCにおける不整脈の性質を調査した研究には、下記のものがある:
心筋症。Bhonsale et al(2015)によって実施されたARVC罹患者のコホート調査では、追跡期間中に全体の14%が左心室の機能障害、5%が心不全を発症した。
遺伝型と表現型の相関
特定のARVC遺伝型と臨床結果との関係性から、いくつかの遺伝型と表現型との関連が明らかになっている。一つ目の所見は、DSPのバリアントは、左心室の機能障害に関連する可能性がある(Lopez-Ayala et al 2014, Bhonsale et al 2015)。二つ目の所見は、一つ以上のバリアントの存在が、不整脈の質と心筋症の進行を増悪させる事である(Bao et al 2013, Rigato et al 2013, Bhonsale et al 2015, Groeneweg et al 2015)。PKP2の病的バリアントは、心室頻拍に関連する可能性が示唆されている(Bao et al 2013)。
浸透率
発端者は、彼らの家族よりも心室不整脈を起こしやすい(Groeneweg et al 2015)。病的バリアントを有する家族の中で、385人のうち324人は無症状で、これら324人の無症状者の内221人(68%)は特別委員会の診断基準を満たさなかった。従って、心室不整脈の浸透率は、この疾患では比較的低い。
病名
不整脈原性右室心筋症(Arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy : ARVC)は、ウール病(Uhl anomaly)や右室異形成症など多数の名前があった。1996年まで、ARVCは、不整脈原性右室異形成症(arrhythmogenic right ventricular dysplasia: ARVD)と呼ばれていた (Richardson et al 1996)。現在はARVCという用語がよく使われている。
頻度
ARVCの頻度は、一般集団において1000人に1人から1250人に1人と推定されている(Peters 2006)。
ARVCの頻度は、地域によってはこれよりも高い所がある。イタリアやギリシャ(ナクソス島)では、0.4%~0.8%高い割合で見られる(Thiene & Basso 2001)。
Table 2参照。注釈:他の表現型は、DSG2、PKP2、TMEM43の変異とは関連しない。
表 2
アレルに関連する疾患
遺伝子 | 表現型1 |
---|---|
DSC2 | 両親が近親婚である2人のきょうだいでは、ARVC、軽度の掌蹠角化症、羊毛状毛髪がみられた。このきょうだいは、塩基対が欠失したホモ接合型だった。2 |
DSP | カルバハル症候群(心室拡張型心筋症、掌蹠角化症、羊毛状毛髪)は、ホモ接合性の病的バリアントに関連する。3 |
JUP | ナクソス病(掌蹠角化症、特有の羊毛状毛髪を伴うARVC)は、ホモ接合性の病的バリアント4により起こる。青年期までに発症する。5 |
RYR2 | 常染色体優性遺伝疾患であるカテコールアミン誘発性多形性心室頻拍(CPVT)は、器質的心疾患とQT延長は認めず、ストレスに関連した両方向性心室頻拍を特徴とする。CPVTは、幼年期や青年期に失神を伴い現れる可能性がある。RYR2の変異は、早期の心臓死と関連がある。6,7 |
ARVCと前極白内障(APC)。ARVCと、水晶体が混濁する稀な遺伝形式である嚢下白内障に罹患した一家族についての報告がある (Frances et al 1997)。発端者と彼の姉(妹)は、ARVCとAPCに罹患した。APCの責任遺伝子は14q24qterと過去に関連付けられている。このきょうだいの両親は、又いとこであった(OMIM 115650)。
DES。DESの病的バリアントは、下記のものと関連する。
特有のDESバリアントがARVCの表現型の原因となるかどうかについては、現時点では不明である。しかし、デスミンタンパクの最初と最後をコードするDESの遺伝子領域の病的バリアントは、デスミノパシーに関連するARVCを引き起こす原因として同定されている(van Tintelen et al 2009, Otten et al 2010)。
心筋症。心筋症の多くの病態は、ARVCの様々な面で似ている。心筋症は、遺伝、毒性物質、免疫学的要因に起因して発症する可能性がある。臨床検査は、ARVCと心筋症との鑑別に有用である。Dilated Cardiomyopathy Overview参照。
活動型心筋炎。急性心筋炎は、心筋の炎症によって定義される。心筋炎は、毒性物質ないし免疫学的要因、あるいはウイルス性または他の病原体暴露に起因する可能性がある。臨床検査は、ARVCと心筋炎との鑑別に有用である。
冠動脈疾患と心筋梗塞。冠動脈疾患またはアテローム性冠動脈狭窄は、ARVCの症状に似た急性あるいは慢性の虚血状態を引き起こす事がある。臨床検査は、ARVCとこれらの症状を鑑別するのに有用である。
右室流出路頻拍(RVOT)は、ARVCにみられる構造的心疾患とは概して関連のない、臨床的不整脈の状態である。心電図と心臓画像診断は、これらの疾患の鑑別に有用である。
ブルガダ症候群は、心電図上のV1-V3誘導のST部分の異常、心室不整脈の高リスク、突然死を特徴とする。ARVCとの無視できない臨床的重複がみられることがある。識別要因: ARVCに特徴的な右心室拡張や線維化脂肪組織の浸潤は、ブルガダ症候群では滅多にみられない。
サルコイドーシス。ARVCの心臓の特徴である線維化脂肪組織の浸潤は、心臓サルコイドーシスにおいてMRIで確認される非乾酪性肉芽腫に似ている(Dechering et al 2013)。
激しい運動。ARVCは、心臓突然死に至るアスリートの4%~22%に現れる(Corrado et al 2003, Maron et al 2009)。非常に激しい持続性の運動がARVCの症候を促進するかどうかについては、いくつか議論がある。La Gerche et al(2010)は、右室由来の不整脈の既住歴があるアスリートが、1994年の診断基準を満たすか検証するための研究を実施した(McKenna et al 1994)。デスモゾームタンパク質をコードする5つの遺伝子(DSC2、DSG2、DSP、JUP、PKP2)のシークエンス解析では、予期されるバリアントの割合よりも低いことが明らかとなり、特に最も運動をするアスリートにその傾向が見られた。最近では、ARVC罹患者の研究で、激しい運動(例:持久性のランニング)の経験がある人ほど、若くしてARVCを発症することがわかった(James et al 2013)。
初回診断後の評価
不整脈原性右室異形成症/心筋症(ARVC)と診断された人の病気の程度とニーズを評価するために、診断時に実施されていなければ、下記の検査が推奨される。
症状の治療
罹患者は、ARVCについて知識のある循環器専門医によって継続的に診察されるべきである。ARVCの罹患者は様々な経過をたどり、不整脈のリスクを予測するための臨床的所見の特異性が限られているため、そのマネジメントは複雑である。マネジメントは、個別に、詳細な臨床的かつ遺伝的検査の具体的な結果を基になされるべきである。
罹患している大人や子供の両親への突然死のリスクについての教育は、治療の重要な一面である。
身体活動—特に通常~激しい運動は、ARVCとそれに関連した不整脈を促進すると考えられる。従って、完全にARVCと診断された人には、通常、長期の運動や競争的なスポーツに参加する機会を減らす、あるいは避ける事を勧める(James et al 2013)。激しい運動はARVCの発症を早めるという考えを支持するように、Ruwald et al (2015)は、競争的なスポーツへの参加歴は、早期発症と関連している事を報告した。これらの発見は、確認できる遺伝的体質がなくても、激しい運動がARVCを引き起こす可能性があるという考えを支持している。
心臓移植は、ARVCが右室または左室の心不全まで進行している際に考慮される。拡張型心筋症に類似する、重度で広汎性の、両室が関与するような状態まで進行し、心臓移植が必要とされることは稀である。
初期症状の予防
前向き無作為化試験は、ARVC患者の不整脈の予防については行われていない。マネジメントは、臨床的評価を基にした個別の推奨事項に頼っている。
植込み型除細動器(ICDs)。観察研究では、ICDの植込みは、ARVCにおいて心臓突然死のリスクを軽減させる効果があることを支持している。ICDの植込みは、ARVCの臨床的診断を受けたすべての人に考慮されるべきである。Corrado et al (2010)は、診断基準に適合したARVCの罹患者106人に施術したICDの植込み術の結果を報告した。不整脈のリスク要因を失神、突然死の家族歴、非持続性の心室頻拍と定義し、これらの症状のある者を対象に、装置の移植時に心室頻拍もしくは心室細動が電気生理学に誘導可能かどうかを評価し、装置の植込みを行った。58ヶ月の追跡期間において、対象者のうち24%でICDが適切な放電をしたことが確認されている。ICDの適切な放電は失神によって予測される事がわかった。一次予防のためのICD植込みの適否は、未だ議論の対象である (Zorzi et al 2016)。
ACC・AHA(アメリカ心臓病学会・アメリカ心臓協会)とヨーロッパ心臓病学会(ESC)のガイドラインでは、経験と先行報告に基づき、持続性心室頻拍ないしは心室細動が記録された個人において、ICD植込み術により健全な状態で少なくとも一年以上の生存が見込め、心臓突然死の防止が可能だと見込める場合は、Class Ⅰに分類(すなわち処置・治療が行われるべきとして推奨)される。ICD植込み術がClass Ⅱに分類(つまり処置・治療を行うことが妥当であると)される状況には、広範な疾患(例:左心室まで関与している場合)、突然死の家族歴がある、あるいは個人が最適の医学療法を受けながらも、原因が同定されていない失神を経験し、心室細動ないしは心室頻拍が失神の原因として除外できずにいる場合などが含まれる(Tracy et al 2013, Priori et al 2015)。
経過観察
ARVCと診断された人において、心疾患の程度のスクリーニング検査によって経時的に重症度と病気の進行度を確認する事は必須である。スクリーニング検査の推奨事項:
避けるべき薬剤と環境
右心に負担を与える原因になるので、ARVC罹患者は、競争的なスポーツを含む激しい運動への参加は控えるべきである(Corrado et al 2015)。
リスクのある血縁者の診断
罹患率と死亡率は、早期の診断と治療により軽減されるので、病的バリアントが罹患家族に確認されている場合、ARVCのリスクのある血縁者(18歳未満であっても)に分子遺伝学的検査を提供する事は適切である。発症前診断は、正式な遺伝カウンセリングの中で提案されるべきである。
注釈:二遺伝子性のヘテロ接合(2つの異なる遺伝子におけるヘテロ接合性の病的バリアント)が高率で存在するため、また遺伝子検査の収率を上げるために、発端者の最初の分子遺伝学的検査は、ARVC関連遺伝子を遺伝子パネルとして包含するべきである(Barahona-Dussault et al 2010, Bauce et al 2010, Christensen et al 2010, Xu et al 2010, Nakajima et al 2012)。1つ(あるいはそれ以上)の家族特有のバリアントが確認されれば、対象となるバリアントの検査を血縁者に実施する。
ARVCのリスクのある無症状の第一度近親者に対する、心疾患スクリーニング検査のガイドラインがある(Hershberger et al 2009, Charron et al 2010)。:
心疾患スクリーニング検査には、下記のものが含まれる(Hershberger et al 2009, Charron et al 2010):
リスクのある第一度近親者は、臨床スクリーニング検査で心臓に関わる何らかの異常が発見された場合、一年以内に再度スクリーニング検査を受けることを検討すべきである(Hershberger et al 2009)。
ARVCの症状は、通常10歳未満の子供には見られないので、その年齢の子供には、一般的にはスクリーニング検査は行われない。若年層におけるARVCのスクリーニング検査のレビューについてはHamilton & Fidler(2009)参照。若年層におけるARVCの最近のMRI研究では、MRIの感度が上がっても、10歳未満の子供においてARVCを確認することは、まだ稀であることが示された(Etoom et al 2015)。
遺伝カウンセリングに関して、リスクのある血縁者の検査に関する問題については遺伝カウンセリング参照。
妊娠中のマネジメント
症例報告では、ARVC罹患女性の妊娠および出産に関する成功例の報告がある(Agir et al 2014, Cozzolino et al 2014)。妊娠期間中のARVCのマネジメントについての特別なガイドラインはまとめられてない。しかし、罹患者は多くの学問領域にわたるチームによって、モニターされる必要がある。
研究中の治療
広範囲の疾患と症状についての臨床試験情報の詳細のアクセスへは、USにおいてはClinicalTrials.govを、ヨーロッパにおいてはwww.ClinicalTrialsRegister.euを検索。注釈:この疾患に対する臨床試験はないと思われる。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
不整脈原性右室心筋症(ARVC)は、通常、常染色体優性遺伝形式で受け継がれる。また、二遺伝子性あるいは、常染色体劣性形式をとることもある。
発端者がナクソス病やカルバハル症候群のようなARVCに関連する特定の症候群に罹患している場合、常染色体劣性形式に関するカウンセリングが必要となる。
患者家族のリスク―常染色体優性遺伝
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
他の家族
他の家族へのリスクは発端者の両親の状態による。片親に症状が見受けられる、または病的バリアントを持つ場合、その家系の家族はリスクを抱える。
家族のリスク―常染色体劣性遺伝
二遺伝子性のARVCは、2つの病的バリアントがあることによって起こる。1つのARVC関連の遺伝子における1つのバリアントと、異なるARVC関連の遺伝子におけるもう1つのバリアントである。二遺伝子遺伝の割合は、4~47%と多様に見積もられている(Xu et al 2010, Bao et al 2013, Rigato et al 2013, Bhosale et al 2015, Groeneweg et al 2015)。
発端者の両親
・両親は臨床的所見のある場合もあれば、ない場合もある。
発端者の同胞
発端者の子
子供が1つまたは2つの病的バリアントを受け継ぐリスクは、75%である。
ほかの血縁者
発端者の両親の各々の同胞は、発端者の親の遺伝子の状態によって、0、1つまたは2つのARVC関連の病的バリアントを持つ可能性がある。
遺伝カウンセリングに関連した問題.
早期の診断と治療の目的のためにリスクのある血縁者を評価することに関する詳細については、Management, Evaluation of Relatives at Riskを参照。
de novoの病的バリアントが疑われる罹患者の家族に対する考慮。常染色体優性遺伝の発端者の親が、発端者に確認された病的バリアントを持たず、疾患の臨床的証拠がない場合、病的バリアントはおそらくde novoである。しかし、父親が異なるあるいは代理母(例:生殖補助医療によるもの)や開示されていない養子縁組のような非医学的な説明による可能性も念頭におく必要がある。
家族計画
DNAバンクは、将来的に利用するために(通常は白血球から抽出した)DNAを保管しておくことである。検査方法と遺伝子,アレルの変異,疾患への理解は将来改善する可能性が高いので、罹患者のDNAを保管しておくことは考慮されるべきである。
出生前検査と着床前の遺伝的診断
ARVC関連の病的バリアントが罹患家族員に確認されれば、リスクの高い妊娠に対する出生前検査や着床前のARVC遺伝学的検査を提供することは可能である。
訳注:一般に本症に対して出生前診断の適応があるとは考えられていない.
特に出生前検査が早期診断よりもむしろ妊娠中絶の目的のために考慮される場合、医療従事者や家族内での見解の違いがみられることがある。大抵の医療機関では出生前検査については両親の判断に任せるとしながらも、この問題については話し合うことが適切である。
訳注:日本では行われない.
GeneReviewsの担当者は、疾患を持つ個人やその家族のために、下記の疾患特異的支持組織や登録所を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供された情報への責任は負わない。情報の選択基準の詳細は、ここをクリック。
下記の記述は最新の情報が含まれているため、GeneReviewsに記載されているほかの情報と異なる場合がある。
表 A.
不整脈原性右室心筋症:遺伝子とデータベース
座位名 | 遺伝子 | 染色体座位 | タンパク質 | 座位特異的データベース | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|---|
ARVD1 | TGFB3 | 14q24.3 | トランスフォーミング増殖因子β3 | TGFB3@LOVD ARVD/C遺伝的バリアントデータベース(TGFB3) Loeys-Dietz 症候群変異データベース-TDFB3 |
TGFB3 | TGFB3 |
ARVD2 | RYR2 | 1q43 | リアノジン受容体2 | 心臓関連遺伝子-リアノジン受容体変異データベース RYR2データベース |
RYR2 | RYR2 |
ARVD3 | 不明 | 14q12-q22 | 不明 | |||
ARVD4 | 不明 | 2q32.1-q32.3 | 不明 | |||
ARVD5 | TMEM43 | 3p25.1 | 膜貫通タンパク質43 | TMEM43@LOVD ARVD/C遺伝的バリアントデータベース(TMEM43) |
TMEM43 | TMEM43 |
ARVD6 | 不明 | 10p14-p12 | 不明 | |||
ARVD7 | 不明 | 10q23.2 | 不明 | |||
ARVD8 | DSP | 6p24.3 | デスモプラーキン | DSP@LOVD ARVD/C 遺伝的バリアントデータベース(DSP) 心臓関連遺伝子-デスモプラーキン(DSP) |
DSP | DSP |
ARVD9 | PKP2 | 12p11.21 | プラコフィリン2 | PKP2@LOVDARVD/C 遺伝的バリアントデータベース(PKP2) 心臓関連遺伝子-プラコフィリン変異データベース(PKP2) |
PKP2 | PKP2 |
ARVD10 | DSG2 | 18q12.1 | デスモグレイン2 | DSG2@LOVD ARVD/C 遺伝的バリアントデータベース(DSG2) |
DSG2 | DSG2 |
ARVD11 | DSC2 | 18q12.1 | デスモコリン2 | DSC2@LOVD ARVD/C 遺伝的バリアントデータベース(DSC2) |
DSC2 | DSC2 |
ARVD12 | JUP | 17q21.2 | ジャンクション プラコグロビン | JUP@LOVD ARVD/C 遺伝的バリアントデータベース(JUP) 心臓関連遺伝子;ナクソス病データベース(JUP) |
JUP | JUP |
データは以下の標準的参考資料をもとに作成した。遺伝子はHGNC;染色体座位はOMIM;タンパク質はUniProt。リンク先が提供されたデータベース(座位特異的、HGMD, ClinVar)の解説は、ここをクリック。
Table B
OMIMにおける不整脈原性右室心筋症(OMIMを全て参照)
107970 | 不整脈原性右室異形成症、家族性、1;ARVD1 |
125645 | デスモコリン2;DSC2 |
125647 | デスモプラーキン;DSP |
125671 | デスモグレイン2;DSG2 |
173325 | ジャンクション プラコグロビン;JUP |
180902 | リアノジン受容体2;RYR2 |
190230 | トランスフォーミング増殖因子、ベータ3;TGFB3 |
600996 | 不整脈原性右室異形成症、家族性、2;ARVD2 |
602086 | 不整脈原性右室異形成症、家族性、3;ARVD3 |
602087 | 不整脈原性右室異形成症、家族性、4;ARVD4 |
602861 | プラコフィリン2; |
604400 | 不整脈原性右室異形成症、家族性、5;ARVD5 |
604401 | 不整脈原性右室異形成症、家族性、6;ARVD6 |
607450 | 不整脈原性右室異形成症、家族性、8;ARVD8 |
609040 | 不整脈原性右室異形成症、家族性、9;ARVD9 |
609160 | 未確認 |
610193 | 不整脈原性右室異形成症、家族性、1族;ARVD10 |
610476 | 不整脈原性右室異形成症、家族性、11;ARVD11 |
611528 | 不整脈原性右室異形成症、家族性、12;ARVD12 |
612048 | 膜貫通タンパク質43;TMEM43 |
分子遺伝学的病因
細胞間結合の障害は、不整脈原性右室心筋症(ARVC)を引き起こす1つの病因である。これは、デスモゾームタンパク質である、デスモプラーキン(DSP)、デスモコリン2(DSC2)、デスモグレイン2(DSG2)、プラコフィリン2(PKP2)、αカテニン(CTNNA3)、プラコグロビン(JUP)をコードしているARVC関連遺伝子のサブセットにおける、病的バリアントによって起こると考えられる。
RYR2の病的バリアントが示すカルシウムの恒常性の変化は、ARVCの別の発病経路を規定する。RYR2は、筋小胞体からの カルシウム放出と興奮収縮連関の調整において重要な役割を担っている。細胞間のカルシウム含有量の減少と興奮収縮連関の変化により、不整脈を起こしやすくなる可能性がある。加えて、細胞間のカルシウムの減少は、細胞壊死や線維化と脂肪組織への置換の促進をもたらす可能性がある(Tiso et al 2001)。
遺伝子のバリアントのデータベースは、Leiden Open Variation Databaseあるいは、ARVD/C遺伝的バリアントデータベースで参照できる。(www.arvcdatabase.info)(van der Zwaag et al 2009, Lazzarini et al 2015)(このデータベースへのリンクは、LSDBの項のTable Aで参照できる。)
多数の研究結果にて示唆されているように、過去に病的バリアントとして見られたものが一般集団にもみられるようなこともあるため、ARVCの病因である配列の変化を解釈することは困難である(Kapplinger et al 2011, Lahtinen et al 2011, Andreasen et al 2013)。遺伝的バリアントの病原性の判断は、常に表現型を注意深く観察した上でなされなければならない。
DSC2
遺伝子の構造
転写バリアントNM_024422.4は、16のエクソンを有し、より長いデスモコリン1タンパク質のアイソフォームであるDSC2a(NP_077740.1)をコードする。転写バリアントNM_004949.4は、フレームシフトの結果として3’末端に追加のエクソンを有し、より短いデスモコリン1タンパク質のアイソフォームであるDSCb(NP_004940.1)をコードする。遺伝子とタンパク質の情報の詳細な概要については、Table A、遺伝子を参照。
病的バリアント
50種以上の病的バリアントが報告されている(Table A、座位特異的参照)。加えて、DSC2バリアントと他のデスモゾーム関連遺伝子変異(Bhuiyan et al 2009, Groeneweg et al 2015)との間に、複合へテロ接合(Lorenzon et al 2015)やホモ接合(Wong et al 2014)の二遺伝子遺伝の多くの実例がみつかっている。
正常な遺伝子産物
デスモコリン2(DSC2)は、デスモゾームの組織の中に広範に現れるが、三種類あるデスモコリンのアイソフォームのうち心臓組織に現れるのはこのDSC2のみである。DSC2は、エクソン16の交互のスプライシングによって生成されるDSC2a とDSC2bの2つの形態がみられる。プレプロタンパク質は、それぞれ901個と847個のアミノ酸からなり、プロセッシングでタンパク分解を受け、成熟タンパク質をつくる。Ca2+依存的に細胞外領域と細胞質領域を通してデスモグレインと結合するデスモコリンは、プラコグロビンの結合部位を有する。
異常な遺伝子産物
DSC2aのカルボキシル末端ドメインの最後の37のアミノ酸残基が不足しているデスモコリンの病原性アイソフォームは、プラコグロビンと結合する事ができない。バリアントがどのようにデスモゾームの形態に影響をあたえるのかは不明であるが、結果としてデスモゾームの構造と機能を阻害すると推測さていれる。
DSG2
遺伝子の構造
この遺伝子は、48.6kbにわたる15のエクソンをもつ。転写物は、NM_001943.4である。遺伝子とタンパク質の情報の詳細については、Table A、遺伝子を参照。
良性バリアント
DSG2では、20種以上の良性バリアントが報告されている(www.arvcdatabase.info)。
病的バリアント
20種以上の病的バリアントが報告されている(Table A、座位特異的参照)。加えて、他のデスモゾーム関連遺伝子変異との間に、二遺伝子遺伝の多くの実例がみつかっている。(Rigato et al 2013, Groeneweg et al 2015)。複合ヘテロ接合性バリアントのARVC について、両アレル遺伝についても報告されている(Awad et al 2006, Pilichou et al 2006, Bhuiyan et al 2009)。
正常な遺伝子産物
デスモグレイン2(DSG2)は、デスモグレインファミリーの1つであり、デスモゾームの必須成分である。DSG2は心筋に発現する(Awad et al 2006, Pilichou et al 2006)。プレプロタンパク質は、1118種のアミノ酸を持ち(NP_001934.2)、プロセッシングでタンパク分解を受けて成熟糖タンパク質をつくる。
異常な遺伝子産物
DSG2の病的バリアントの根本的な病因の多くは未だに不明であるが、DSG2の発現低下が、心筋細胞間の細胞同士の接着を阻害すると考えられている(Kant et al 2015)。
DSP
遺伝子構造
最も長い転写バリアント(NM_004415.3)は、24のエクソンからなり、2871個のアミノ酸からなるデスモプラーキンタンパク質をコードする(NP_004406.2)。遺伝子とタンパク質の情報の詳細については、Table A、遺伝子を参照。
良性バリアント
DSPでは少なくとも7つの異なる良性バリアントが確認されており、主にスプライスコンセンサス領域のミスセンス変異である。(Barahona-Dussault et al 2010)
病的バリアント
80種以上の病的バリアントが報告されている(Table A、座位特異的参照)。加えて、他のデスモゾーム関連遺伝子変異との間に、二遺伝子遺伝の多くの実例がみつかっている。(Rigato et al 2013, Groeneweg et al 2015)。
正常な遺伝子産物
デスモプラーキンは、デスモゾームの構成分子である。デスモゾームは、特に上皮細胞と心筋細胞に多く発現する、主要な細胞間結合物質である(Gallicano et al 1998, Smith & Fuchs 1998)。デスモプラーキンは、プラコグロビンと共にデスモゾームカドヘリンに定着し、非膜貫通タンパク質の秩序配列を形作り、ケラチン中間径フィラメントと結合する(Kowalczyk et al 1997, Smith & Fuchs 1998, Leung et al 2002)。デスモゾーム内で、デスモプラーキンは、カドヘリン、プラコグロビン、PKP複合体と中間径フィラメントを結合する。デスモプラーキンの構造は、大きなN末端ドメインであり、中間径フィラメントと結合するC末端領域と二量体化する中央コイルドコイル桿状体である(Choi & Weis 2016)。
異常な遺伝子産物
デスモプラーキンの異常は、デスモゾームの不安定性を引き起こす事が推測される。不完全なデスモゾームは、収縮する心筋細胞の中で一定の力学的負荷を維持できず、心機能不全や細胞死を引き起こす(Yang et al 2006)。
デスモプラーキンを欠損させたマウスモデルからのデータは、異常なデスモゾームが、Tcf-Lefl転写因子を通したβカテニンの異常なシグナル伝達を引き起こし、筋細胞の脂肪細胞への脱分化を誘導する事を示唆している(Garcia-Gras et al 2006)。心臓伝導系のDspを欠失させたHcn4-Creアレルを用いてDspを条件付きで欠失させると、洞結節機能不全を引き起こし、心臓伝導系が完全な状態であるためのデスモゾームの重要性が強調された(Mezzano et al 2016)。
JUP
遺伝子の構造
転写バリアントNM_002230.2は、14のエクソンからなり、1番目はコードしない。遺伝子とタンパク質の情報の詳細 については、Table A、遺伝子を参照。
良性バリアント
1つの良性バリアント(c.2089A>T)が、デスモプラーキンのバリアントと共分離するものとして同定されている。トルコ人集団では、2089の位置にある遺伝型の頻度は、TT/AT/AAがそれぞれ0.57/0.37/0.07である。追加のアレル頻度と文献については、ARVD/C Genetic Variants Databaseを参照。良性バリアントc.2089A>Tは、エクソン3の受容体部位の後ろ+4に位置する。これゆえ、Uzumcu et al (2006)は、c.2089Aのホモ接合においてもスプライシングの効果を仮定すると、心臓の表現型に影響しない可能性を除外できなかった。
病的バリアント
15種以上の病的バリアントが報告されている(表 A, 座位特異的参照)。
表 3
JUPバリアント
バリアントの分類 | DNAヌクレオチド変化 (別表記1) |
予測されるタンパク質の変化 | 参照配列 |
---|---|---|---|
良性 | c.2089A>T | p.Met967Leu | |
病原性 | c.116_118dupGCA (118_119insGCA) |
p.Ser39dup | NM_002230.2 NP_002221.1 |
c.2038_2039del (PK2157del2) | p.Trp680GlyfsTer11 |
バリアントの分類についての注釈:表に記録されているバリアントは、執筆者によって提供された。GeneReviewsのスタッフは、バリアントの分類を自主的に立証していない。
命名法についての注釈:GeneReviewsは、the Human Genome Variation Society(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に従った。命名法の説明については、Quick Referenceを参照。
1. 最新の命名規則に従わないバリアントの称号
正常な遺伝子産物
JUPの転写物NM_002230.2は、ジャンクション・プラコグロビン、γカテニンとしても知られる細胞質タンパク質をコードするものであり、デスモゾームの膜直下プラークと接着帯の両方にみられる。タンパク質は、カドヘリンとデスモゾームカドヘリンと共に、別の複合体を形成する。それは、アルマジロリピートと呼ばれる明瞭なアミノ酸反復モチーフを持つ745個のアミノ酸(NP_002221.1)である。Swope et al(2012)は、プラコグロビンとβカテニンの関係性を、両方の正常なタンパク質が、ギャップ結合が正常に機能するために必要であることを証明した(Swope et al 2012)。
異常な遺伝子産物
罹患者から心筋を生検すると、N-カドヘリンとプラコフィリン-2がコントロールと同等のレベルで発現している。しかし、プラコグロビン、デスモプラーキン、コネキシン43は、介在板で著しく減少した。
In vivoモデルでは、JUPの病的バリアントが、物理的、電気的な細胞間結合の構造と分布に影響を与え、Wntシグナル伝達によって介在される調節メカニズムを妨害した(Asimaki et al 2007)事を示唆している。蛍光レポーターを用いたノックアウトマウス内の遺伝的原基分布図の研究によると、ARVCの脂肪産生細胞の出所は二次心臓領域であり、核プラコグロビン経由でWntシグナル伝達が抑制されることにより、脂肪を産生するようにリプログラミングされることが示唆された(Lombardi et al 2009)。
PKP2
遺伝子の構造
より長い転写バリアントNM_004572.3は、14のエクソンからなる。この座位によく似たprocessed タイプの偽遺伝子が、染色体 12p13の上に位置することに注意したい。遺伝子とタンパク質の情報についての詳細の概要は、Table A、遺伝子参照。
良性バリアント
少なくとも3つの異なる良性バリアントがPKP2で確認されており、すべてミスセンス変異である(Barahona-Dussault et al 2010)。
病的バリアント
全体の欠失を含む170種以上の病的バリアントが報告されている(Li Mura et al 2013, Robert et al 2013)(Table A、座位特異的参照)。PKP2の病的バリアントともう1つのデスモゾーム関連遺伝子変異との間に、二遺伝子遺伝の多くの実例がみつかっている(Cox et al 2011, Bao et al 2013, Bhonsale et al 2015, Groeneweg et al 2015)。
正常な遺伝子産物
NM_004572.3は、881個のアミノ酸(NP_004563.2)からなるプラコフィリン-2のアイソフォーム2bをコードする。デスモプラーキンに類似して、プラコフィリン-2はデスモゾームのタンパク質で、隣接細胞を構造的かつ機能的に正常化させる。
異常な遺伝子産物
プラコフィリンの異常は、細胞間結合を混乱させ、不整脈を引き起こすと考えられている。
TMEM43
遺伝子の構造
TMEM43の転写バリアントNM_024334.2は、400個のアミノ酸(NP_077310.1)からなるタンパク質をコードした12のエクソンで構成される。遺伝子とタンパク質の情報についての詳細の概要は、Table A、遺伝子参照。
病的バリアント
推定上の病的バリアントであるミスセンス変異p.Ser358Leuは、大部分がニューファウンドランドに祖先を持つ多数の家系内で同定された(Merner et al 2008, Christensen et al 2011, Baskin et al 2013)。このバリアントは、心伝導に必須なタンパク質を再配置し、それによって、心伝導速度を低下させるようなギャップ結合機能の変化をもたらす(Siragam et al 2014)。
Table 4
TMEM43の病的バリアント
DNAヌクレオチドの変化 | 予測されたタンパク質の変化 | 参照配列 |
---|---|---|
c.1073C>T | p.Ser358Leu | NM_024334.2 NP_077310.1 |
バリアントの分類についての注釈:表に記録されているバリアントは、執筆者によって提供されている。GeneReviewsのスタッフは、バリアントの分類を自主的に立証していない。
命名法についての注釈:GeneReviewsは、the Human Genome Variation Society(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に従った。命名法の説明については、Quick Referenceを参照。
正常な遺伝子産物
TMEM43は、膜貫通タンパク質43と命名された新規タンパク質をコードするもので、核膜と小胞体の膜組織に限局する。TMEM43は、エミリンとラミンA、Bと相互に作用し、LINC複合体(核骨格と細胞骨格のつなぎ役)の結合相手となりうる(Bengtsson & Otto 2008, Meinke et al 2011)。
異常な遺伝子産物
異常な遺伝子産物の病原性メカニズムは不明である。
追加のARVCの遺伝的要因
Table 1bに記載されている遺伝子についての詳細は、ここをクリック(pdf)。
Gene Reviews著者: Elizabeth McNally, MD, PhD, Heather MacLeod, MS, Lisa Dellefave-Castillo, MS,CGC
日本語訳者: 箕浦祐子(札幌医科大学大学院医学研究科修士課程遺伝カウンセリングコース),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
AMED「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」班(研究開発代表者:小杉眞司)(in present)