AIP家族性単発性下垂体腫瘍
(AIP Familial Isolated Pituitary Adenomas)

[Synonyms:Chitayat-Hallsyndrome]

Gene Reviews著者: Márta Korbonits, MD, PhD and Ajith V Kumar, MD.
日本語訳者:箕浦祐子,櫻井晃洋 (札幌医科大学医学部遺伝医学)

GeneReviews最終更新日: 2020.4.16  日本語訳最終更新日:  2023.8.4.

原文: AIP Familial Isolated Pituitary Adenomas


要約


疾患の特徴

AIP家族性単発性下垂体腫瘍(AIP - FIPA)は,(家族歴に関係なく)AIP生殖細胞系列病的バリアントを伴う下垂体腫瘍と定義される.

この病態で最もよく発生する下垂体腫瘍は,成長ホルモン産生腫瘍(somatotropinoma),続いてプロラクチン産生腫瘍(prolactinoma),成長ホルモンおよびプロラクチン共産生腫瘍(somatomammotropinoma),および非機能性下垂体腫瘍(NFPA)である.まれにTSH産生腫瘍(thyrotropinoma)が観察される.臨床所見は,過剰なホルモン分泌,ホルモン分泌の欠如,および/または腫瘍による物理的影響(頭痛,視野欠損など)に起因する.同じ家族内でも,下垂体腫瘍は同じタイプのことも異なるタイプのこともある.AIP - FIPAの発症年齢は10~20歳代であることが多い.

診断・検査

AIP - FIPAの診断は,下垂体腫瘍を発症した発端者において,ヘテロ接合性の生殖細胞系列AIP病的バリアントが同定されることで確定する.

臨床的マネジメント

症状に対する治療
AIP -
FIPA患者で見つかる下垂体腫瘍の治療は,通常,他の原因不明の下垂体腫瘍と同様である:薬物療法(ソマトスタチン誘導体,成長ホルモン受容体拮抗薬,ドーパミン作動薬),手術および/または放射線療法で治療される.通常,AIP - FIPA患者では手術が行われるが,多くの場合,腫瘍を完全に制御することはできない.したがって,ホルモン産生と腫瘍の成長を制御するには,手術後の薬物療法と放射線療法が必要になる場合がある.AIP - FIPA腫瘍は第1世代のソマトスタチン誘導体では反応が鈍いことが多く,データからは第2世代の複数のリガンドを持つ誘導体の方が,反応がよい可能性が示唆されている.プロラクチノーマはドーパミン作動薬療法あるいは手術による治療が行われるが,進行性で治療が困難なことがある.NFPAは手術による治療と,必要に応じて放射線療法がおこなわれる.

二次的合併症の予防:
腫瘍の大きさや手術,放射線療法によって生じうる下垂体機能低下症に対する専門家による管理.糖質コルチコイド補充療法を受ける人は,病気やストレスの状態に応じてステロイドの投与量を増加させる必要がある.

サーベイランス:
症状のない人では:4歳から成人期まで,下垂体腫瘍の徴候や症状と思春期発育についての評価と成長評価を毎年おこなう.30歳までは毎年,下垂体腫瘍の徴候や症状について評価をおこない,30~50歳の間は5年ごとに実施する.下垂体機能検査(血清IGF-1,プロラクチン,エストラジオール/テストステロン,LH,FSH,TSH,遊離T4)は4歳から開始して30歳まで毎年実施する;10歳からは下垂体MRIを定期的に(5年ごとが示唆されている)あるいは臨床的・生化学的パラメーターに基づき必要に応じて,30歳まで実施する.30~50歳のサーベイランス間隔は緩めてもよい.

症状のある人では:
毎年の臨床評価および下垂体機能検査(血清IGF-1,GH基礎値,プロラクチン,エストラジオール/テストステロン,LH,FSH,TSH,遊離T4,および朝のコルチゾール);適応があれば,ホルモンの過不足を評価するための年1回の負荷試験(耐糖能試験,インスリン負荷試験など);臨床状態,以前の腫瘍の範囲,および治療法に応じた頻度での下垂体MRI.腫瘍および/またはその治療の二次的合併症の臨床モニタリング(糖尿病,高血圧,変形性関節症,性腺機能低下症,骨粗鬆症など);先端巨大症の患者では,40歳時に大腸内視鏡検査を行い,大腸病変の数とIGF-1レベルに応じて3年から10年ごとに繰り返し実施する.

リスクのある血縁者の評価:
AIP - FIPAのリスクのある家系員は,家系固有の病的バリアントの分子遺伝学的検査を行い,バリアントを保持していて下垂体腫瘍のサーベイランスが必要な人を特定することが妥当である.

遺伝カウンセリング

AIP - FIPAは,常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式で遺伝する.AIP - FIPA罹患者の子はいずれも,50%の確率で病的バリアントを受け継ぐ.罹患家系員のAIP病的バリアントが特定されている場合,リスクが高い妊娠における出生前診断が可能である;ただし,AIP - FIPAは低浸透率であるため,出生前にAIP病的バリアントを同定しても,腫瘍が発生するかどうか,腫瘍の種類,発症年齢,予後,治療の有効性および/または結果を正確に予測することはできない.


診断

AIP - FIPAの疑われる所見

AIP家族性単発性下垂体腫瘍(AIP - FIPA)は,以下のような患者において疑うべきである:

注:(1)小児発症成長ホルモン産生下垂体腫瘍の孤発例の約20%に,生殖細胞系列AIP病的バリアントが同定されている [Chahal et al 2010Cazabat et al 2011Tichomirowa et al 2011].(2) 若年(30歳未満)発症の下垂体マクロアデノーマの孤発例11%に,生殖細胞系列AIP病的バリアントが同定されている [Tichomirowa et al 2011].

注:(1)FIPAの家族歴のある約20%  [Chahal et al 2010],また成長ホルモン産生腫瘍のみが見られる家系の40%に,生殖細胞系列AIP病的バリアントが同定されている .(2) 現在のところ,微小プロラクチノーマ(プロラクチン産生腫瘍径<10mm)2人の成人のいる家系においては,生殖細胞系列AIP病的バリアントは同定されていない;したがって,このような家系においてAIP病的バリアントが同定される可能性は低い.

AIP - FIPAの下垂体腫瘍には以下のものがある:

注:成長ホルモン分泌細胞(somatotroph)の過形成もAIP - FIPA患者で報告されているが,極めて稀である.

注:多くのAIP関連NFPAでは,腫瘍組織においてGHおよび/またはPRLの免疫染色反応を示す.

副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生腫瘍(corticotropinoma)の明確な症例は報告されていない.

確定診断

AIP - FIPAの診断は,下垂体腫瘍を発症した発端者に,分子遺伝学検査によってヘテロ接合性生殖細胞AIP病的バリアントが同定されることによって確定する( 表1参照).
分子遺伝学検査の手法には,表現型に応じて,遺伝子標的検査(単一遺伝子検査,多遺伝子パネル検査)や包括的ゲノム検査(エクソームシークエンス,エクソームアレイ,ゲノムシークエンス)の組み合わせがある.
遺伝子標的検査を行う場合は,臨床医がどの遺伝子に関連がありそうか決める必要があるが,ゲノム検査の場合はその必要はない.AIP - FIPAの表現型は他の病態でも生じるため,疑われる所見  に記載のあるような特徴的な所見があれば,遺伝子標的検査で診断がつくかもしれないが( Option 1参照),下垂体腫瘍を発症しうる他の遺伝性疾患と見分けのつかない表現型の場合は,包括的なゲノム検査を利用した方が診断がつきやすいかもしれない(Option 2参照).

Option 1

表現型や検査所見からAIP - FIPAの診断が疑われる場合,分子遺伝学的検査は単一遺伝子検査多遺伝子パネル検査が利用可能である.

多遺伝子パネル検査に関する概要は ここをクリック.遺伝学的検査を発注する臨床医向けのより詳細な情報については こちらを参照のこと.

Option 2

他の下垂体腫瘍を特徴とする遺伝性疾患と鑑別が難しい表現型の場合,包括的ゲノム検査(医師が関連のありそうな遺伝子を決める必要がない)はよい選択肢となる.エクソームシークエンスが一般的に用いられるが,ゲノムシークエンスも可能である.
エクソームシークエンスで診断がつかない場合,-特に常染色体顕性遺伝(優性遺伝)が考えられる場合-(臨床的に可能であれば)配列解析では検出できない(複数)エクソンの欠失や重複を検出しうるエクソームアレイを検討してもよい.
包括的ゲノム検査に関する概要はここをクリック.ゲノム検査を発注する臨床医向けのより詳細な情報についてはこちらを参照のこと.

表1.AIP - FIPAで使用される分子遺伝学的検査

遺伝子1 解析方法 検出方法ごとの病的バリアントの見つかる割合2
AIP 配列解析3 ~95%4,5
重複/欠失解析6 ~5%7

  1. 染色体座位とタンパク質については 表A. 遺伝子とデータベースを参照のこと.
  2. この遺伝子で検出されるバリアント情報については,分子遺伝学の項を参照.
  3. 配列解析では良性,おそらく良性,臨床的意義不明,おそらく病的,病的のバリアントが検出される.病的バリアントには小規模な遺伝子内欠失/挿入,ミスセンス,ナンセンス,スプライス部位バリアントが含まれる.通常はエクソンまたは遺伝子全体の欠失/重複は検出されない.配列解析結果の解釈に関して考慮すべき問題についてはこちらを参照のこと.
  4.  Georgitsi et al [2008]Igreja et al [2010]Hernández-Ramírez et al [2015]; 著者の個人的見解
  5. 1つのプロモーターバリアントが報告されている.(分子遺伝学の項参照).
  6. 遺伝子標的欠失/重複解析は,遺伝子内の欠失や重複を検出する.定量的PCR,広域PCR,多重ライゲーション依存プローブ増幅(MLPA)や,単一エクソンの欠失や重複を検出するために設計された遺伝子標的マイクロアレイなどの多様な手法が用いられる.
  7. 現在までに,エクソン欠失または複数のエクソン欠失が4人/家系で,全遺伝子欠失が2家系で同定されている[Georgitsi et al 2008Igreja et al 2010Hernández-Ramírez et al 2015Marques et al 2020].

臨床的特徴

臨床像

これまでに,生殖細胞系列AIP病的バリアントが300人以上に同定されている[Beckers et al 2013Hernández-Ramírez et al 2015].以下のこの病態に関連する表現型の特徴は,これらの報告に基づいている.

表2.AIP - FIPAにおける下垂体腫瘍

下垂体腫瘍の種類 腫瘍の種類における人数の割合 参照
Somatotropinoma(成長ホルモン産生) 70% Hernández-Ramírez et al [2015]
Somatomammotropinoma (成長ホルモンおよびプロラクチン産生) 10%
Prolactinoma> (プロラクチン産生) 10%
非機能性下垂体腫瘍 8%
Thyrotropinoma (TSH-産生)

AIP家族性単発性下垂体腫瘍(AIP - FIPA)の発症年齢中央値は23歳である.AIP病的バリアント保持者の中で,最年少の下垂体腫瘍の診断は4歳である[Dutta et al 2019].

内分泌機能異常

Somatotropinoma(GH産生下垂体腫瘍)

先端巨大症を小児期/青年期に発症すると,下垂体性巨人症を引き起こす可能性がある.

生殖細胞系列AIP病的バリアントを有する患者の3分の1および.AIP - FIPA関連GH産生腫瘍を有する人の40%〜50%は,下垂体性巨人症を呈する [Daly et al 2010] .

Prolactinoma(PRL産生腫瘍).AIP病的バリアント保持者の約10%がプロラクチノーマを発症する [Daly et al 2010Igreja et al 2010] .PRL産生腫瘍は,PRL過剰の徴候および症状(すなわち,無月経,性機能問題,乳汁漏出,および不妊症)をもたらし,また,物理的影響(視野欠損,頭痛など)を引き起こす可能性がある.

ほとんどすべてのAIP -関連PRL産生腫瘍は,男性に多くマクロアデノーマである[Daly et al 2010Igreja et al 2010] .

非機能性下垂体腫瘍(NFPAs).NFPAは,AIP病的バリアントを持つ人の4%〜7%に見られる.

NFPAは通常,両耳側性半盲または性腺機能低下症などの腫瘍の局所的な影響により診断される.これらの非機能性腫瘍が,臨床的に認識可能なレベルのホルモンを放出しない理由は不明である;しかし,完全に機能する腫瘍と完全に非機能的な腫瘍の間には連続性がある可能性が高い[Drummond et al 2019].NFPAをPRL産生腫瘍と区別することは,ストーク効果(PRL産生腫瘍が存在しない場合に下垂体茎[stalk]の圧迫によりPRL値が上昇する)のために困難になる場合がある.

AIP - FIPAでは,切除されたNFPAは(常にではないものの)多くの場合,非機能性のGH産生腫瘍またはPRL産生腫瘍である[Igreja et al 2010Villa et al 2011] .AIP - FIPA家系では,NFPAは生殖細胞系列病的バリアントのない人のNFPAよりも若い年齢で診断される [Daly et al 2010] .臨床的には発症していないAIPヘテロ接合体に対するスクリーニングにより,一般集団における偶発性腫瘍と同等の小さな非機能性下垂体病変を同定できる [Caimari et al 2018].

(甲状腺機能亢進症によって生じる)TSH産生腫瘍(Thyrotropinomas)は,AIP - FIPAではほとんどみられない.

AIP - FIPAとTSH産生腫瘍を有する患者は,1人報告されている [Daly et al 2007] .

AIP - FIPAでは,ACTH産生腫瘍(corticotropinoma)のリスクは増加しない. 以前クッシング症候群を有すると報告されていたFIPA患者は,結果的にAIPのおそらく良性のバリアントや臨床的意義不明なバリアント(VUS)が同定された,あるいは,腫瘍細胞でヘテロ接合性の欠損(LOH)が確認されなかった [Cazabat et al 2012].

不妊症は下垂体腫瘍の患者でよくみられる.AIP -FIPAの不妊に関する具体的なデータはない.

腫瘍の影響.大きな下垂体腫瘍は,他の下垂体ホルモンの欠乏による症状,すなわち不妊,甲状腺機能低下症,副腎機能低下症,成長ホルモン低値,および汎下垂体機能低下症を引き起こす可能性がある.

マクロアデノーマ(直径>10mm)も視交叉および視路を圧迫し,両耳側性半盲を引き起こすことがある.腫瘍が隣接する海綿静脈洞に浸潤する場合がある.頭痛はあらゆる種類の腫瘍に見られるが,先端巨大症では特によくみられる;頻度が増加するメカニズムは不明である.

より大きな下垂体腫瘍は自然梗塞を起こし,下垂体卒中(突然の重度の頭痛,視覚障害,脳神経麻痺,低血糖,および低血圧ショック)を引き起こすことがある.下垂体卒中は,AIP - FIPAの患者で報告されている[Chahal et al 2011] .

下垂体がん.これまでに,AIP - FIPA患者において下垂体がんは報告されていない.

その他,下垂体以外の腫瘍AIP - FIPAの家系で認められている;しかし,背景となる集団の腫瘍リスクはかなり高く,一貫したパターンは観察されていないため,現時点では,AIP生殖細胞系列病的バリアントが他の腫瘍のリスクを高めるという決定的な証拠はない.加えて,AIPヘテロ接合体の非下垂体腫瘍について,AIP遺伝子座位のヘテロ接合性欠損(LOH)状態が解析されたが,異常は認められなかった[Hernández-Ramírez et al 2015].

遺伝型-表現型相関

AIPの短縮型病的バリアントを持つ人は,非短縮型病的バリアントを持つ人よりもやや若年で発症し診断されるようだ [Hernández-Ramírez et al 2015].

浸透率

AIP病的バリアントを有する大家系に関する研究では,下垂体腫瘍の臨床的浸透率は約23%(15%〜30%)であることが示されている [Vierimaa et al 2006Naves et al 2007Williams et al 2014Hernández-Ramírez et al 2015] .AIP - FIPAの家系は高い浸透率を示すことがあるが,一部の家系で最初に報告された高い浸透率は,おそらくリスクのある家系員全員に関する情報が不十分であったこと(医療記録,下垂体ホルモン検査の情報や画像検査の不足など)による確認バイアスによるものである [Daly et al 2007Leontiou et al 2008] .
浸透率に影響する要因は不明である;第2の遺伝子座位の可能性は調査されているが,確認されていない [Khoo et al 2009Hernández-Ramírez et al 2015].

病名

以前は,下垂体腫瘍易罹患性(PAP)症候群が,AIP病的バリアントを有する個人を指すために使用されていた;この用語は,あまり使われていない.

頻度

AIP - FIPAの正確な有病率は不明である. 現在までに,AIP- FIPAの約150家系と約150の孤発例(すなわち,家系内で1人だけが発症)が特定されている[Daly et al 2010Hernández-Ramírez et al 2015Caimari et al 2018] .


遺伝学的に関連のある疾患(同一アレル疾患)

このGeneReviewに記載されている事項以外に,AIPの生殖細胞系列病的バリアントに関連する表現型は知られていない.


鑑別診断

成人よりも小児では,下垂体腫瘍は遺伝性疾患が関連していることが多い.遺伝性に起因する下垂体腫瘍は,単発性と症候群性のカテゴリーに分けられる.

家族性孤発性下垂体腫瘍(FIPA)

FIPAは,下垂体腫瘍に関連する遺伝性疾患であり,下垂体腫瘍に関連することが知られている症候群の他の特徴を有さないものと定義される.

X連鎖性先端巨大症(XLAG)は,遺伝学的に特徴づけられるFIPAの第二のタイプであり、GPR101の重複によって発症する.XLAGは浸透率の高い病態であり,下垂体過形成または腫瘍に伴い成長ホルモンが過剰となって乳児期に発症し,通常高プロラクチン血症を伴う [Trivellin et al 2014].XLAG患者の多くはde novo(新規の)体細胞モザイクの遺伝子変化であり,親からの遺伝ではない.

原因が既知または未知のFIPA家系では,同種下垂体腫瘍の表現型(同じタイプの下垂体腫瘍)または異種の表現型(異なるタイプの下垂体腫瘍)を呈することがある.

生殖細胞系列AIP病的バリアントが同定されている家系と同定されていない家系とで異なる傾向があるFIPAの側面としては,発症年齢,家系内の罹患者数,男女の比率, 典型的な腫瘍の種類が挙げられる.腫瘍の多様性としては,サイズ,増殖性,および治療に対する反応も含まれる場合がある [Hernández-Ramírez et al 2015]( 表3参照).

表3. 孤発性下垂体腫瘍患者の家族歴および生殖細胞系列AIP病的バリアントの有無による所見の比較

特徴 家族性孤発性下垂体腫瘍 孤発性GH産生腫瘍 1
AIP - FIPA XLAG 原因不明のFIPA
臨床像 発症年齢2 4-24 歳 乳児期/幼少期 40歳 43歳
平均家系内罹患者数 3 3-4 1 2-3 NA
男女比 4 1:1~2:1 1:2 1:1 1:1
腫瘍の特徴 GH産生腫瘍/GH/PRL共産生腫瘍 70%-80% ~100% ~50% NA
腫瘍サイズ 大多数がマクロアデノーマ 下垂体過形成-マクロアデノーマ 多くはマクロアデノーマ 5 より小さい
増殖性 より強い 多様 より強い 弱い
治療に対する反応 不良 不良 不良

FIPA= 家族性単発性下垂体腫瘍;NA= 該当なし

  1. 孤発例 = 家系内に1人だけが罹患
  2. Daly et al [2010]Igreja et al [2010]Hernández-Ramírez et al [2015]Daly et al [2016]
  3. Igreja et al [2010]
  4. Cazabat et al [2009]Daly et al [2010]Igreja et al [2010]
  5. Marques et al [2020]

表4. 下垂体腫瘍に関連する症候群

遺伝子 疾患名 遺伝形式 下垂体腫瘍の特徴 その他の特徴
MEN1 多発性内分泌腫瘍症(MEN1) AD 下垂体腫瘍は罹患者の~40%で発症, 多くはPRL産生腫瘍
  • 胃腸・膵管腫瘍
  • 高カルシウム血症を伴う副甲状腺腫瘍
  • その他の症状
CDKN1A
CDKN1B
CDKN2B
CDKN2C
MEN1-様症候群 1 AD 下垂体腫瘍は罹患者の~40%で発症, 多くはGH産生腫瘍
  • 稀な病態
  • 臨床所見はMEN1と類似
PRKAR1A
PRKACB 2
カーニー複合 AD ~80%の罹患者は,GH分泌細胞の過形成あるいは小さい下垂体腫瘍を呈する
  • 皮膚の色素斑
  • 様々な臓器の粘液腫
  • 神経鞘腫(シュワン細胞腫)
  • 原発性色素性結節状副腎皮質病変
  • 大細胞石灰型セルトリ細胞腫
  • 甲状腺結節
  • 先端巨大症
GNAS McCune-Albright 症候群 NA (体細胞性)
  • 罹患者の~30%が,下垂体疾患を呈する
  • 成長ホルモン分泌上昇を伴う下垂体腫瘍
  • プロラクチン血症を伴うPRL分泌細胞の過形成
  • 多骨性線維性骨異形成
  • カフェオレ斑
  • 多発性内分泌疾患 (多結節性甲状腫瘍,多結節性副腎過形成,思春期早発症など)
MAX
SDHA
SDHB
SDHC
SDHD
RET
遺伝性パラガングリオーマ-褐色細胞腫症候群 AD
  • 下垂体疾患については低浸透率
  • 下垂体癌の報告あり,空洞化した組織像
  • パラガングリオーマ
  • 褐色細胞腫
  • GIST
  • 腎腫瘍
DICER1 DICER1 症候群 AD
  • 下垂体疾患については低浸透率
  • ACTH-産生下垂体芽腫
2歳未満で発症
MSH2
MSH6
MLH1
?PMS2
Lynch 症候群 AD
  • 下垂体疾患については低浸透率
  • ACTH-産生マクロアデノーマ
大腸癌, 子宮体癌, 卵巣癌などの癌
USP8 下垂体腫瘍4 (OMIM 219090) AD 下垂体腫瘍を伴う 発達遅滞

AD = 常染色体顕性遺伝(優性遺伝); GIST = 消化管間質腫瘍

  1. Agarwal et al [2009]
  2. カーニー複合の患者1名で(カーニー複合家系の<1%),PRKACBの4コピー重複という生殖細胞系列の再構成が見つかっている[Forlino et al 2014]. PRKACBは,環状AMP依存性プロテインキナーゼA (PKA)の触媒サブユニットCβ をコードする.CβおよびPKA活性レベルは,当該患者のリンパ芽細胞と線維芽細胞で増加していた;著者らは,これがカーニー複合の原因となる機能獲得型バリアントであると提唱している.

注:剖検や放射線学的研究によると,全人口の14%~22%が下垂体腫瘍を有している可能性があり,これらのほとんどは無症状である [Ezzat et al 2004].つまり,特にPRL産生腫瘍については,偶然,家系内で散発的に2人発症することもありうる.

その他の占拠性病変

下垂体腫瘍に加えて,下垂体窩には様々な占拠性病変が発生する可能性がある [Saeger et al 2007].下垂体腫瘍に次いで一般的な占拠性病変は頭蓋咽頭腫であり,これは正常な下垂体を圧迫することにより症状を引き起こし,その結果,ホルモン欠乏および周囲の組織および脳に圧迫性の影響を生じる [Zacharia et al 2012].


 

臨床的マネジメント

最初の診断に続いて行う評価

 AIP家族性単発性下垂体腫瘍(AIP - FIPA)患者の疾患の程度と必要性を確認するために,表5 の評価が推奨される(詳細については Katznelson et al [2011]を参照).

表5.AIP - FIPA患者における初回診断後の推奨評価項目

病態 評価方法 備考
下垂体腫瘍
  • LH, FSH, テストステロン/エストラジオールの測定
  • 視野評価
  • 内分泌内科医へ紹介
  • 腫瘍が疑われる場合: 大きさや広がりを検証するための下垂体MRI
  • 性腺機能低下症に対するDXA検査
Somatotropinoma
GH産生腫瘍
  • 徴候や症状の評価 (身長,顔貌の変化,靴のサイズの変化,指輪のサイズの変化,頭痛,過度の発汗,関節痛,手根管症候群など).
  • 血清GH基礎値, IGF-1の測定
以下を含む:
  • 先端巨大症の変化を見るための経時的な画像評価
  • 親の身長測定
  • 先端巨大症の所見があればGTT検査
  • 必要に応じてACTH予備能の評価
Prolactinomas
PRL産生腫瘍
  • 徴候や症状の評価(月経歴, 月経困難症, 不妊症, 性欲減退, 勃起不全など).
  • 血清プロラクチン値の測定
注: (1) 高プロラクチンレベルはストーク効果による可能性もある; (2) 下垂体に起因しない高プロラクチン血症も多い.
NFPAs 徴候や症状の評価(頭痛,他の下垂体ホルモン欠乏,視野障害など). 多くの非機能性腫瘍は,臨床的または生化学的事象を伴わず偶発的に見つかる.
Thyrotropinoma
TSH産生腫瘍
TSH, 遊離T4の測定 他の要因で生じる甲状腺機能抵抗性を考慮する.
その他 臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーへ紹介

GTT= 耐糖能検査;NFPAs= 非機能性下垂体腫瘍

病変に対する治療

臨床症状を伴うFIPA患者の下垂体腫瘍の治療経験はあるが,FIPAの家族歴および/またはヘテロ接合性生殖細胞系列AIP病的バリアントの存在により,臨床的スクリーニングを通じて前向きに特定された人の管理および治療に関する経験はほとんどない.しかし,AIP - FIPAと同定される年齢はより若く,予後は概して良好である.偶発的下垂体腫瘍の有病率を考えると,このような腫瘍がAIPの病的バリアントを有する人において,完全に偶然に発生する可能性があることを覚えておくことが重要である.以下の推奨事項は Katznelson et al [2011]Melmed et al [2011]Williams et al [2014], および Hernández-Ramírez et al [2015]の報告に基づく.

表6.AIP - FIPAの症状に対する治療

症状 治療 備考/その他
下垂体微小腫瘍 薬物療法(ソマトスタチン誘導体,成長ホルモン受容体拮抗薬,ドーパミン作動薬など), 手術および/または 放射線療法

臨床的・生化学的に正常な所見の場合,頻回に微小腫瘍を観察する

下垂体マクロアデノーマ

経蝶形骨手術, 薬物療法,および/または 放射線療法

手術では腫瘍を完全に制御できないことが多い;腫瘍が近傍の解剖学的構造(海綿静脈洞など)に浸潤している場合,再発性の大きな腫瘍では,放射線療法が必要となる.

Somatotropinomas GH産生腫瘍
  • 成長性の腫瘍で,再手術によるホルモンレベルの制御が困難な場合,放射線療法を(通常療法または放射線手術)おこなう.
  • 先端巨大症に対する心血管およびリウマチ・整形外科的合併症の標準治療
第1世代ソマトスタチン誘導体を用いる薬物療法に反応しない腫瘍が多く1

; 第2世代がより効果的である.2

Prolactinomas
PRL産生腫瘍

  • ドーパミン作動薬療法 (カベルゴリンなど)
  • マクロプロラクチノーマに対しては手術適応となることが多い (直径>10 mm)
AIP - FIPA におけるプロラクチノーマは進行性で治療困難. 1

非機能性下垂体腫瘍

手術と必要に応じて放射線療法

通常は従来のソマトスタチン誘導体には反応しない

  1. Daly et al [2010]
  2. Daly et al [2019]

二次病変の予防

腫瘍の大きさ,手術および/または放射線療法は,下垂体機能低下症を引き起こす可能性があり,慎重な専門家のフォローアップが必要である.

糖質コルチコイド補充療法を受けている患者は,病気やストレスがかかったときにステロイドの投与量を増やす必要がある.

サーベイランス

AIP - FIPA患者のサーベイランスに関する正式なガイドラインは確立されていない.以下の推奨事項は,文献による専門家の意見と,症候性または無症候性AIP - FIPA患者 200人以上に関する著者らの個人的な経験に基づいている.

表7. AIP - FIPA患者に対して推奨されるサーベイランス

病態 評価方法 頻度
下垂体腫瘍
  • 身長と体重の測定; 発育速度の計算.
  • 徴候や症状の評価および思春期の発達評価
4歳から開始し成人になるまで毎年 1
徴候や症状の評価 30歳までは毎年,30~50歳は5年ごと,症状のある場合は早める
血清 IGF-1, プロラクチン, エストラジオール/テストステロン, LH, FSH, TSH, 遊離T4測定 4~30歳は毎年;これまでのところ,30歳の時点で所見が正常であった人に30歳以降に機能性下垂体腫瘍が発生したことはない.30歳以降に症状があれば血液検査.
下垂体MRI
  • ベースラインは10歳(臨床所見によりそれ以前とされた場合を除く)
  • 30歳までは5年ごとにMRI測定を実施 (臨床的および下垂体機能検査が正常であれば)
  • 30~50歳の間は,臨床的あるいは生化学的に問題がある場合に実施
  1. 4~10歳の小児では,毎年の採血は難しいかもしれない.その場合,非成長ホルモン産生腫瘍が10歳未満で発症することはまれであるため,症状や成長の経過観察は許容されうる代替手段である.

表8. 症状のあるAIP - FIPA患者に対して推奨される付加的なサーベイランス

病態/懸念事項 評価方法 頻度
下垂体腫瘍の既往
  • 臨床的評価
  • 血清IGF-1, GH基礎値, プロラクチン, エストラジオール/テストステロン, LH, FSH, TSH, 遊離 T4, 朝のコルチゾールの測定
  • 必要に応じて,ホルモンの過不足評価のための負荷試験 (耐糖能検査, インスリン負荷試験など)
毎年
下垂体MRI 頻度は臨床状況および事前の腫瘍の広がり,治療法による.
性腺機能低下症に伴う骨粗鬆症 DXA検査 ガイドラインに基づく
先端巨大症の合併症 糖尿病,高血圧,性腺機能低下症,変形性関節症の経過観察 ガイドラインに基づく
大腸内視鏡
  • 40歳時
  • 初回大腸内視鏡時の大腸病変やIGF-1レベルに応じて,3-10年ごとに実施.1
  1. Cairns et al [2010]

リスクのある血縁者の検査

家系内のAIP病的バリアントが分子遺伝学的検査で同定されている罹患者の,リスクのある無症状の血縁者の遺伝学的状態を明らかにすることは,早期の診断と治療により罹患率と死亡率を低減できるため,適切である.リスクのある家系員の同定は,病的バリアントを受け継いでいない家系員に対するスクリーニング費用を削減できる可能性もある.

遺伝カウンセリング目的のリスクのある血縁者の検査に関連する問題については, 遺伝カウンセリングの項を参照のこと.

妊娠管理

妊娠は,GH産生腫瘍またはPRL産生腫瘍(特にマクロアデノーマ)を増大させる可能性がある;したがって,下垂体マクロアデノーマを有する妊婦は視野欠損を生じるリスクがある.各妊娠期ごとに頭痛について質問し,視野検査を実施することが適切である.妊娠中は薬物療法は中止する.

妊娠中の薬剤使用についての,より詳細な情報は MotherToBabyを参照のこと.

研究中の治療法

FIPAまたは小児発症下垂体腫瘍の患者を対象として現在実施されている研究は,ClinicalTrials.gov.に掲載されている.

GH受容体拮抗薬は内因性GHの作用を遮断し,それにより頭痛,軟部組織肥大,糖尿病,高血圧,および高IGF-1レベルなどの症状の発現を制御する.GH受容体拮抗薬は,AIP - FIPA,先端巨大症および下垂体性巨人症の患者で使用され効果を得ている[Goldenberg et al 2008].第1世代ソマトスタチン誘導体に治療抵抗性を示したAIP関連下垂体腫瘍の患者2人において,複数のソマトスタチン受容体に親和性のある第2世代マルチリガンドソマトスタチン誘導体パシレオチドは,長期の病勢制御を示した [Daly et al 2019].GH受容体拮抗薬は現在小児用には認可されていないが,特に異常な急成長を防ぐためにIGF-1レベルをすぐに下げる必要がある場合に有効であることが,いくつかの症例報告で示されている [Higham et al 2010Dutta et al 2019].

広範な疾患や症状の臨床研究に関する情報は,米国については ClinicalTrials.gov を,ヨーロッパについてはEU Clinical Trials Register を参照すること.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

 AIP家族性単発性下垂体腫瘍(AIP - FIPA)は,浸透率が低い常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式で遺伝する.

家族構成員のリスク

発端者の両親

*見た目上のde novo病的バリアントの他の理由として,生物学的な親が異なっている可能性もありうる.

発端者の同胞

同胞のリスクは両親の遺伝学的状態による:

発端者の子

AIP病的バリアントのヘテロ接合体の子は,それぞれ50%の確率で病的バリアントを受け継ぐ.

他の家族構成員

その他の家系員のリスクは,発端者の両親の遺伝学的状態による;片方の親がAIP病的バリアントのヘテロ接合体である場合,その家族はAIP - FIPAのリスクを有する可能性がある.

関連する遺伝カウンセリング上の諸事項

早期診断と治療を目的としたリスクのある血縁者の評価に関する情報については,管理,リスクのある血縁者の検査 を参照のこと.

家族計画

DNAバンキングは,将来の使用に備えてDNA(通常は白血球から抽出)を保存することである.検査方法や我々の遺伝子,バリアント,および疾患に関する理解は将来進展する可能性が高いので,それに影響を受ける可能性がある個人のDNAの保管を考慮する必要がある.

出生前診断および着床前遺伝学的検査

家系内でAIP病的バリアントが特定されると,リスクが高い妊娠のAIP - FIPAについての出生前および着床前遺伝学的検査が可能になる.AIP - FIPAは浸透率が低いため,出生前にAIP病的バリアントを同定しても,腫瘍,腫瘍の種類,発症年齢,予後や治療の有効性および/または結果を正確に予測することはできない.

特に早期診断ではなく妊娠中絶を目的として検査が検討されている場合,医療の専門家間や家族内においても,出生前診断に対する考え方の相違が存在しうる.出生前診断については自己決定の問題であるが,この問題について議論することは有用である.
訳注:日本では本症における出生前診断および着床前診断は行われていない.


関連情報

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報についてはここをクリック。


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A. AIP家族性単発性下垂体腫瘍:遺伝子およびデータベース

遺伝子 染色体座位 タンパク 座位特異的データベース HGMD ClinVar
AIP 11q13.2(訳注:原文には記載なし) AH 受容体関連タンパク AIP データベース
AIP 遺伝子変異
AIP AIP

データは以下の標準的参照資料をもとに作成した.遺伝子は HGNC;染色体座位はOMIM;タンパク質は UniProtを参照した.リンクが提供されたデータベース(座位特異性, HGMD,ClinVar)の詳細についてはこちらを参照のこと.

表B. に関するOMIMの登録 ( OMIMですべて見る)

102200 下垂体腫瘍, 成長ホルモン産生, 1; PAGH1
605555 アリル炭化水素受容体相互作用タンパク; AIP

分子病理学

AIPは複数の相互作用パートナーを持つコシャペロンであるAIPをコードする.下垂体腫瘍の関連では,AIPは腫瘍抑制遺伝子としての役割を持つ[Leontiou et al 2008].以前はB型肝炎ウイルス(HBV)X関連タンパク(XAP2),あるいはアリル炭化水素受容体(AhR)関連タンパク(ARA9)として知られていたAIPは,330アミノ酸からなる37kDのタンパク質である[Kuzhandaivelu et al 1996Carver & Bradfield 1997].タンパクのC末端には3つのテトラトリコペプチド反復配列(TPR)と最後にαヘリックスがある.3つのTPRドメインは,2つのヘリックスが逆平行に配置する34アミノ酸の縮退配列で,AIPのタンパク質間相互作用を仲介する上で重要な役割を果たす[Kazlauskas et al 2002].

疾患を引き起こすメカニズム

AIP病的バリアントの多く(75%)は,短縮型タンパクを生じる,あるいは生じることが予測される.ミスセンス病的バリアントの多くは,TPR構造の構造的に重要な保存アミノ酸に影響を与える [Vargiolu et al 2009Igreja et al 2010Cai et al 2011].臨床的データおよび機能研究のどちらも,AIPの腫瘍抑制因子としての役割を示している.
特筆すべきは,タンパク質のいたるところで短縮型バリアントが報告されていることである.ナンセンスコドン介在的分解機構を起こすと予想されるものや,機能的に重要なC末端のαヘリックスが失われることが予測されるものなどがある.加えて,短縮型バリアントは半減期の短いタンパク質となる可能性がある.半減期が短縮されたタンパク質は,ミスセンス病的バリアントの多くでも示されている [Hernández-Ramírez et al 2016].

表9. 注目すべきAIP病的バリアント

参照配列 DNA 塩基変化 予測されるタンパク質変化 備考 [参照]
NM_003977​.3
NP_003968​.3
c.40C>T p.Gln14Ter フィンランド人の創始者バリアント [Vierimaa et al 2006]
c.241C>T p.Arg81Ter ブラジル,USA,インド,UKの明らかに血縁のない家系において同定されたホットスポット変異[Chahal et al 2010Beckers et al 2013]
c.805_825dup p.Phe269_His275dup イングランド人/ヨーロッパ人の創始者バリアント [Salvatori et al 2017]
c.910C>T p.Arg304Ter 最も一般的なホットスポット変異; アイルランド人, ルーマニア人, イングランド人, イタリア人, インド人およびメキシコ人の家系が報告されている; 地方によっては創始者効果(アイルランドなど) [Chahal et al 2010Beckers et al 2013]

表に掲載されているバリアントは著者らから提供された.GeneReviewsのスタッフはバリアントの分類分けの検証はおこなっていない.
GeneReviews はHuman Genome Variation Societyの標準的な命名規則に従っている(varnomen​.hgvs.org).命名法の解説については,Quick Referenceを参照のこと.


更新履歴:

  1. Gene Reviews著者:Marta Korbonits, MD, PhD and Ajith V Kumar, MD.
    日本語訳者: 櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
    Gene Reviews 最終更新日: 2012.6.21. 日本語訳最終更新日: 2019.9.6.
  2. Gene Reviews著者: Márta Korbonits, MD, PhD and Ajith V Kumar, MD. 日
    本語訳者:箕浦祐子・櫻井晃洋 (札幌医科大学医学部遺伝医学)
    GeneReviews最終更新日: 2020.4.16  日本語訳最終更新日:  2023.8.4.[in present]

原文: AIP Familial Isolated Pituitary Adenomas

印刷用

grjbar