NR0B1関連先天性副腎低形成
(NR0B1-Related Adrenal Hypoplasia Congenita)

[Synonyms: DAX-1遺伝子異常によるX連鎖性先天性副腎低形成、Xp21欠失]

GeneReviews著者: John C Achermann, MB, MD, PhD, FRCPCH and Eric J Vilain, MD, PhD, FACMG.
日本語訳者: 清水日智(済生会長崎病院小児科)

GeneReviews最終更新日: 2018.1.25 日本語訳最終更新日: 2021.3.24

原文 NR0B1-Related Adrenal Hypoplasia Congenita


要約

疾患の特徴 

NR0B1関連先天性副腎低形成 (NR0B1-Related Adrenal Hypoplasia Congenita) には、X連鎖性副腎低形成(X連鎖性AHC: adrenal hypoplasia congenita)とXp21欠失 (以前は複合グリセロールキナーゼ欠損症と呼ばれていた)の両者が含まれる。X連鎖性AHCは、原発性副腎不全および/または低ゴナドトロピン性性腺機能低下症 (HH: hypogonadotropic hypogonadism) を特徴とする。副腎不全は、罹患した 男性の約60%では乳児期の急性発症 (平均生後3週) であり、約40%では小児期の発症 (1~9歳) である。低ゴナドトロピン性性腺機能低下症は通常、思春期遅発症 (すなわち、思春期発来年齢>14歳) として副腎不全を持つ男性に症状出現を認める。それほど多くはないが、タナー段階 (Tanner Stage) 第3期で思春期の進行が止まってしまうこともある。まれに、X連鎖性AHCは、遅発性副腎不全、部分的な低ゴナドトロピン性性腺機能低下症、および/または不妊症として成人期早期に最初に見つかることがある。ヘテロ接合性の女性は、ごくまれに、副腎不全または低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の症状をきたすことがある。

Xp21欠失には、NR0B1の欠失(X連鎖性AHCを引き起こす)およびGKの欠失 (グリセロールキナーゼ欠損症を引き起こす)、および場合によってはDMDの欠失 (デュシェンヌ型筋ジストロフィー [Duchenne muscular dystrophy] を引き起こす) が含まれる。欠失領域が近位方向に延長しDMDを含む場合や、より大きな欠失が遠位方向に延長しIL1RAPL1DMDを含む領域が欠失する場合、Xp21欠失を持つ男性では発達遅滞が生じることが報告されている。

診断・検査 

NR0B1関連先天性副腎低形成の診断は、NR0B1のヘミ接合性 (病原性バリアントたは非再発性のNR0B1を含むXp21欠失 のいずれかを検出することにより、男性発端者 (proband) において確立される。

臨床的マネジメント 

症状に応じた治療
急性副腎不全が生じた場合は、通常、集中治療室で血圧、水分、臨床症状、血糖値および血清電解質の値について綿密な管理を行いながら治療する。初回の急性副腎不全のエピソードが治療された後、患者はグルココルチコイドとミネラルコルチコイドの補充療法を開始され、低年齢の小児では塩化ナトリウムの経口投与を開始される。ステロイドの投与量は、ストレス時 (例えば、併発した疾患、手術、外傷) には増量する必要があり、ブドウ糖とナトリウムが必要となる場合もある。低ゴナドトロピン性性腺機能低下症は、年齢に応じた思春期を誘導するためにテストステロンを増量していくことで治療可能であり、小児内分泌科医によって適切に管理されるべきである。治療は、通常、おおよそ思春期の発来が期待される年齢の後に開始される (男児においては12歳)。

定期検査 (サーベイランス) 
 診断時において、ミネラルコルチコイド産生能が十分保たれていた場合、副腎ミネラルコルチコイド産生能の長期フォローアップが必要となる。診断時において、グルココルチコイド産生能が十分保たれていた場合、副腎グルココルチコイド産生能の長期フォローアップが必要となる。
14歳までに思春期発来を認めない場合は、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の可能性を評価するためにLH、FSH、テストステロン、インヒビンBの血清濃度の測定が必要である。思春期が自然に発来している場合には、思春期の進行が停止する可能性が高いため、LH、FSH、およびテストステロン値を1年に1回のペースで定期的にモニタリングすることが必要である。

リスクのある血縁者の評価 
出生時: リスクのある血縁者のうち男児の遺伝的状態が、出生前分子遺伝学的検査 (によって出生前に判明していない場合、生後数日内に、副腎不全を示唆する生化学検査所見がないかを確認することが適切である。というのも、塩類喪失を伴う副腎クリーゼの発症を避けるためにグルココルチコイドおよびミネラルコルチコイドホルモンの補充療法を速やかに開始することが有益かどうかを判断する必要があるためである。小児期の後半: 家系内のNR0B1病原性バリアント が判明している場合、罹患した 男性の約40%は小児期以降まで副腎不全を発現しないため、無症状の母系親族のうち、男性でリスクがある者の遺伝的状態を分子遺伝学的検査で明らかにすることが妥当である。

遺伝カウンセリング 

NR0B1関連先天性副腎低形成はX連鎖性に遺伝する。

X-連鎖性先天性副腎低形成: 同胞 (兄弟姉妹) へのリスクは母親の遺伝的状態に依存する。すなわち、母親がNR0B1病原性バリアント をヘテロ接合性に有する場合、各妊娠において、子は50%の確率で病原性バリアントを受け継ぐ。病原性バリアントを受け継いだ男性は罹患者となるが、病原性バリアントを受け継いだ女性は通常罹患しておらず、キャリアとなる。先天性副腎低形成を持つ男性のほとんどは不妊である。

Xp21欠失 (deletion): Xp21欠失と診断された者の母親は、ほとんどの場合キャリア であるが、発端者は新生の隣接遺伝子欠失の結果としてXp21欠失を発症することもあるかもしれない。母親がXp21欠失をヘテロ接合性に有している場合、各妊娠において、子が欠失を受け継ぐ確率はそれぞれ50%である。Xp21欠失を受け継いだ男性は罹患者となるが、Xp21欠失を受け継いだ女性は通常発症することはない。

NR0B1病原性バリアントまたは Xp21欠失が、罹患者のいる家系内でひとたび同定されれば、出生前および着床前遺伝子検査 が可能となる。


本稿の記載範囲

NR0B1関連先天性副腎低形成(NR0B1-Related Adrenal Hypoplasia Congenita): 以下の表現型が含まれる
  • X連鎖性先天性副腎低形成 (X-linked adrenal hypoplasia congenita)
  • Xp21欠失 (Xp21 deletion) (複合グリセロールキナーゼ欠損症: complex glycerol kinase deficiency)

同義語や過去に用いられていた名称については、他の名称を参照のこと。


診断

NR0B1関連先天性副腎低形成には、X連鎖性副腎低形成 (X-linked AHC: adrenal hypoplasia congenita) とXp21欠失 (Xp21 deletion) (以前は複合グリセロールキナーゼ欠損症 [complex glycerol kinase deficiency] と呼ばれていた) の両者が含まれており、NR0B1の欠失 (X連鎖性AHCの原因) 、GKの欠失 (グリセロールキナーゼ欠損症の原因)、場合によってはDMDの欠失 (デュシェンヌ型筋ジストロフィー [Duchenne muscular dystrophy] の原因) を伴うことがある。

疑うべき所見

X連鎖性先天性副腎低形成 (X-linked AHC) またはXp21欠失 (の臨床所見を有し、かつ診断を支持する臨床検査)所見および画像所見を有する男性では、NR0B1関連先天性副腎低形成を疑うべきである。

臨床所見

X連鎖性先天性副腎低形成 (X-linked AHC) とXp21欠失

Xp21欠失のみに認める臨床所見

臨床検査所見

X連鎖性先天性副腎低形成 (X-linked AHC) とXp21欠失

Xp21欠失 のみに認める臨床検査所見

画像検査所見

X連鎖性先天性副腎低形成 (X-linked AHC) Xp21欠失 腹部CT、MRI、超音波検査にて、副腎サイズが小さいことが確認されることがある。

注: (1) 超音波画像検査はCTやMRIよりも特異性が低いものの、CTにおける放射線被曝や、病気の可能性のある小児に対するMRI検査のために必要な鎮静を避けることができる。(2) 画像検査で一見副腎が欠損しているかのように見える場合に、まれながら正常サイズの副腎が異所性に存在していることがある。

診断の確立

NR0B1関連先天性副腎低形成は、男性の発端者 において、NR0B1のヘミ接合性 病原性バリアントを認めるか、またはNR0B1を含む非再発性Xp21欠失 のいずれかが検出されることにより、診断が確立される (表1を参照)。
分子学的検査の手法には、単一遺伝子検査 (single-gene testing)染色体マイクロアレイ解析 (CMA: chromosomal microarray analysis)、およびマルチ遺伝子パネル (使用などがある。

マルチ遺伝子パネルの詳細については、こちらを参照のこと。遺伝子検査をオーダーする臨床医のためのより詳細な情報は、ここをクリックのこと。

表1.
NR0B1関連先天性副腎低形成 (NR0B1-Related Adrenal Hypoplasia Congenita) に用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 検査手法 各検査手法によって、病原性バリアントが発端者において同定される割合2
NR0B1 シーケンス解析3,4 ~75%&5
遺伝子標的欠失/重複解析 6,7 ~25%8
染色体マイクロアレイ解析 (CMA)9,10 <25%8,9
  1. 色体座 とタンパク質については、 表A.遺伝子とデータベースを参照のこと。
  2. この遺伝子 で検出されたアレルバリアントの情報については、分子遺伝学的情報を参照のこと。
  3. シーケンス解析は、良性、良性の可能性が高い、意義不明病原性の可能性が高い、または病原性のあるバリアントを検出する。病原性バリアントには、小さな遺伝子内欠失/挿入、ミスセンスバリアント、ナンセンス バリアント、スプライスサイト バリアントが含まれることがあり、通常、エクソンまたは全遺伝子 (whole-gene) の欠失/重複は検出されない。シーケンス解析 の結果を解釈する際に考慮すべき事項については、こちらを参照のこと。
  4. シーケンス解析に先立って行われる PCR検査にてPCR産物の増幅が得られなかった場合、罹患している (男性のX染色体上には、 (複数の) エクソン または遺伝子全体の欠失があると推定される。確認のためには、(まだ実施されていない場合には) 遺伝子標的欠失/重複解析や染色体マイクロアレイ検査 (CMA) による追加検査が必要である。
  5. Lin et al [2006], Suntharalingham et al [2015], Bizzarri et al [2016], Guran et al [2016]
  6. 遺伝子標的欠失/重複解析 は、遺伝子内の欠失または重複を検出する。使用される方法は、定量PCR (quantitative PCR)、ロングリードPCR (long-range PCR)、MLPA法 (multiplex ligation-dependent probe amplification) 、単一エクソン欠失や重複を検出するために設計された遺伝子標的マイクロアレイなどの方法が用いられる。
  7. 遺伝子標的欠失/重複解析 では、隣接遺伝子の欠失を検出できない場合がある (脚注8参照)。
  8. 遺伝子標的欠失/重複解析 はゲノム 欠失/重複解析よりも小さな欠失/重複を検出することがあるかもしれないが、遺伝子標的欠失/重複解析ではより大きな欠失/重複を検出する。しかしながら、その検出サイズは決定できない場合があることに注意が必要である。報告されている遺伝子内欠失および重複、ならびにXp21欠失の大部分はCMAで検出可能である。これらの方法では、さらに小さな欠失や重複が検出される可能性がある。
  9. 欠失/重複 解析(ゲノム的 アプローチ)では、NR0B1と他の連続する遺伝子の欠失を、この遺伝子/染色体 断片を特異的に含む染色体マイクロアレイ (CMA: chromosomal microarray) を用いて検出している。
  10. Xp21欠失 には、デュシェンヌ型筋ジストロフィー (Duchenne muscular dystrophy) (DMDの欠失による) は含まれることもあれば含まれないこともあるが、X連鎖性 AHC (NR0B1の欠失による) および、グリセロールキナーゼ欠損症 (GKの欠失による) が含まれる。

臨床的特徴

臨床症状

NR0B1関連先天性副腎低形成には、X連鎖性 副腎低形成 (AHC: adrenal hypoplasia congenita) と、Xp21領域の遺伝子の一部、すなわち、NR0B1(X連鎖性AHCを引き起こす)およびGK (グリセロールキナーゼ欠損症)、ならびに場合によってはDMD (デュシェンヌ型筋ジストロフィー [Duchenne muscular dystrophy])、を欠失 したことに起因する表現型の両方が含まれる。。

X連鎖性副腎低形成 (X連鎖性AHC: X-linked Adrenal Hypoplasia Congenita)

X連鎖性 (X-linked) 先天性副腎低形成 (X連鎖性AHC: adrenal hypoplasia congenita) は、原発性副腎不全および/または低ゴナドトロピン性性腺機能低下症 (HH: hypogonadotropic hypogonadism) を特徴とする。
副腎不全は、罹患した男性の約60%で乳児期の急性発症 (平均齢: 生後3週) を示し、約40%では小児期の発症 (1~9歳) を示す [Peter et al 1998, Reutens et al 1999, Guran et al 2016]。

低ゴナドトロピン性性腺機能低下症は通常、副腎不全を伴う男性において、思春期遅発症 (すなわち、思春期発来年齢>14歳) を認める。一般的ではないが、タナー段階 (Tanner Stage) 第3期で思春期の進行が止まってしまうこともある。まれながら、X連鎖性AHCの初発症状が、成人期早期に、主に生殖器における表現型 (例えば、不妊症) の形で現れることがある [Tabarin et al 2000, Mantovani et al 2002]。

発症年齢は同一家系内でもばらつきがある [Wiltshire et al 2001]。しかしながら、2名の兄弟が罹患している 家系では、臨床的に疑われることが多くなるため、通常、弟の方が若年で診断される [Achermann et al 2001]。
副腎不全 初発の臨床症状は、典型的には、急性発症であり、特に乳児では、嘔吐、哺乳困難、脱水、および塩類喪失によるショックを伴う。いくつかの症例では、低血糖、頻回のけいれん発作、またはミネラルコルチコイド欠乏症として副腎不全の症状が現れるかもしれない [Wiltshire et al 2001, Verrijn Stuart et al 2007]。

年長の小児では、副腎不全は併発する疾患やストレスによって促進されることがある。

グルココルチコイドおよびミネラルコルチコイドで治療をされなかった場合、副腎不全は高カリウム血症、アシドーシス、低血糖、およびショックを引き起こし、結果としてごく短時間で致死的となる。小児期に副腎不全と診断され、治療を受けなければ、急性副腎不全およびその合併症である低血糖とショックにより、神経学的な異常や、発達遅滞をきたす可能性がある。

まれなケースでは、遅発性副腎不全は成人期早期に明らかとなる [Mantovani et al 2002, Ozisik et al 2003, Guclu et al 2010, Kyriakakis et al 2017]。これらの患者では、低形成である副腎皮質に、グルココルチコイドおよびミネラルコルチコイド活性が残存していることが、発症が遅いことの説明となっているかもしれない。これらの患者では、あからさまな副腎不全の徴候ではなく、代償的な副腎不全の生化学的証拠 (例えば、血清ACTH高値) を有している可能性がある。いくつかの症例では、進行性の副腎不全をきたし、その結果、成人期の早期に臨床的に深刻な副腎不全が生じている。

副腎不全は通常、下垂体におけるPOMC (プロピオメラノコルチン; proopiomelanocortin) の産生量が増加することにより引き起こされる様々な程度の色素沈着を伴う。すなわち、X連鎖性HCの最初の報告では、手のひらと足の裏を除いた皮膚に「石炭のように黒色の色素沈着」を認めた、罹患した新生児例が報告されている [Sikl 1948]。診断時に存在する色素沈着は、通常、適切なステロイド補充療法により時間経過とともに退色する。
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症 (HH: Hypogonadotropic hypogonadism) は、視床下部性と下垂体性が混合している。乳児期の "ミニ思春期 (mini puberty)"は、X連鎖性 AHCを有する男児では正常に認めることから、視床下部-下垂体-性腺軸の機能損失は、早期乳児期を過ぎた後に発生することが示唆される。いくつかの症例で報告されているが、X連鎖性AHCの一般的な特徴として停留精巣を認めることはない。実際、出生時の巨大陰茎 (macrophallia; 大きな陰茎) および小児期における初期の思春期徴候の発来が、X連鎖性AHCを有する一部の男児において報告されることが、近年増えてきている [Domenice et al 2001, Landau et al 2010, Durmaz et al 2013]。中枢性思春期早発症を有し副腎機能が正常でありながら、NR0B1の病原性バリアントを有していた男性の症例報告が最近なされていることに、注目すべきである [Shima et al 2016]。

典型的には、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症は罹患した 男性では思春期遅延症 (思春期発来年齢>14歳) として顕在化する。さらに、男性のうち一定数は、思春期の進行停止を経験することがある。すなわち、彼らは正常に思春期が発来し、タナー段階  (Tanner Stage) 第3期 (または精巣容積6-8 cc) まで進行した後に、思春期の進行が停止する。テストステロンによる治療なしでは、二次性徴が完全に達成されることはほとんどない。

古典的なX連鎖性 AHCの男性は、典型的には、無精子症を有し、外因性ゴナドトロピン療法またはゴナドトロピン放出ホルモン (GnRH) パルス療法による治療が実施されたとしても、不妊である [Seminara et al 1999, Mantovani et al 2006]。X連鎖性AHCを有する男性の中には乏精子症を有する者もいるが、時間の経過とともに精子形成能が減衰する可能性がある [Tabarin et al 2000, Raffin-Sanson et al 2013]。
その他 NR0B1の病原性バリアントを有する1人の男性において、副腎不全の他に、高身長および異所性腎が認められた [Franzese et al 2005]。

14歳ごろから始まる進行性の高周波数の感音性難聴が、NR0B1の状態は不明なX-連鎖性 AHCを有する患者2名で報告されている [Zachmann et al 1992, Liotta et al 1995]。著者らの知る限りでは、難聴と古典的なX連鎖性AHCを有する患者は他に報告されていない。したがって、難聴が本疾患に関連する特徴である可能性は低いものと思われる。
ヘテロ接合性の女性 時折、ヘテロ接合性に病原性バリアントを有する女性は、副腎不全または低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の症状を示すことがあるが、これはX染色体不活性化の偏りによって引き起こされている可能性がある。

極端な思春期の遅発を認めたヘテロ接合性 の女性例が報告されている [Seminara et al 1999]。
罹患した (男性が居る1家系において、NR0B1病原性バリアント をホモ接合性に持つ女性が、孤発性 の低ゴナドトロピン性性腺機能低下症を有していた [Merke et al 1999]。

Xp21欠失 (Xp21 Deletion)

Xp21領域の遺伝子の一部の欠失に起因する表現型には、X連鎖性 AHC (NR0B1の欠失)、グリセロールキナーゼ欠損症 (GKの欠失)、およびデュシェンヌ型筋ジストロフィー (Duchenne muscular dystrophy) (DMDの欠失) がある。
グリセロールキナーゼ欠損症の臨床所見は様々であり、飢餓時の代謝異常発作、低血糖、けいれん発作、発育遅延、および発達遅滞を含むことがある。
発達遅滞は、Xp21欠失 (の男性において、欠失領域が近位に拡大してDMDを含む場合、またはより大きな欠失が遠位にまで拡大しIL1RAPL1およびDMDを含む場合に報告されている [Zhang et al 2004]。

L1RAPL1欠失は、全般的な発達遅滞/知的障碍、そして時に自閉症スペクトラム障害と関連している。
ヘテロ接合性の女性 軽度の副腎不全とデュシェンヌ型筋ジストロフィー (Duchenne muscular dystrophy) を有する女性が報告された [Shaikh et al 2008]。分子生物学的検査では、Xp21の領域における極めて偏ったX染色体の不活性化 が確認され、その結果、異常アレルが優先的に発現することが確認された。
DMDGKNR0B1IL1RAPL1が関連するXp21欠失により、発達遅滞とミオパチーを伴った女児2名には、副腎機能障害は合併していなかったことが報告された [Heide et al 2015]。

遺伝型と表現型の相関

NR0B1の単一ヌクレオチドバリアント 起因するX連鎖性 HCでは、以下に概説する場合を除き、バリアントの位置またはタイプと臨床表現型との間に明確な相関関係は存在しない:

他の名称

「先天性副腎低形成 (congenital adrenal hypoplasia)」という用語は、より一般的に認められる疾患である先天性副腎過形成 (congenital adrenal hyperplasia) と容易に混同されるため、使用されることが少なくなっている。どちらの用語も「CAH」と略されることがあり、混同の可能性がある。したがって、先天性副腎低形成 (AHC: adrenal hypoplasia congenita) が好ましい用語である。
Xp21欠失 は、Xp21隣接遺伝子欠失 (contiguous gene deletion) または複合グリセロールキナーゼ欠損症とも呼ばれる。

有病率

NR0B1関連X連鎖性副腎低形成の発生率は不明である。現在の推定値は、男性70,000名に対して1名未満である [Lin et al 2006, Guran et al 2016]。
この疾患のリスクが高い、または低い特定の集団は知られていない。

遺伝子に関連する疾患

本GeneReviewで議論されている以外の表現型は、NR0B1の病原性バリアントまたは欠失によって引き起こされることが知られていない。
NR0B1の重複は、46,XY性腺形成不全 (gonadal dysgenesis) (OMIM 300018) と関連している [Barbaro et al 2007, Barbaro et al 2012]。


鑑別診断

塩類喪失型の原発性副腎不全を有する男性で、X連鎖性副腎不全の家族歴またはNR0B1関連X連鎖性副腎低形成 (AHC) の他の特徴 (例えば、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症) のいずれかを有する場合には、NR0B1病原性バリアントを認める可能性が高くなる [Lin et al 2006]。対照的に、塩類喪失型の原発性副腎不全を有する男性であっても、副腎不全の家族歴がなく、NR0B1関連X連鎖性ACHの他の特徴を認めない場合で、さらに先天性 (副腎過形成症などの他の原発性副腎不全が除外された場合には、NR0B1病原性バリアントが検出される可能性は約20%~40%となる [Lin et al 2006, Suntharalingham et al 2015, Bizzarri et al 2016, Guran et al 2016]。
NR0B1関連先天性副腎低形成 (X連鎖性AHC) の鑑別診断には、以下の原因による先天性副腎過形成症 (CAH: congenital adrenal hyperplasia) が含まれる。

以下の疾患は、NR0B1関連X連鎖性副腎低形成に見られるものと類似した所見を呈することがある:

以下の疾患は、副腎低形成または副腎低形成に類似した所見を呈することがある:

副腎低形成 (AHC) またはAHC様症状を特徴とする染色体異常:

原発性副腎不全を呈する男児では、他の形態の原発性副腎不全を考慮する必要があるだろう:

保因者である女性の約20%は、AMNに似た神経学的症状を呈するが、発症は男性よりも遅く (35歳以上) 、疾患の程度は罹患 男性と比べて軽度である。ABCD1はX-ALDと関連していることが知られている唯一の遺伝子である。


臨床的マネジメント

初期診断後の評価

NR0B1関連先天性副腎低形成と診断された患者の疾患の程度およびニーズを評価するために、経験豊富な小児内分泌専門医のケアの下で以下の評価を行うことが推奨される。

NR0B1関連先天性副腎低形成 (X連鎖性AHCまたはXp21欠失) を有する全ての患者

副腎機能の評価:

思春期早発症または低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の評価:

その他:

Xp21欠失

Xp21欠失 には、上述した副腎機能や性腺機能低下症の評価に加えて、以下のような評価が必要である。

症状に対する治療

副腎不全

小児および成人における副腎不全の治療に関するいくつかのガイダンスは、最近の内分泌学会の臨床実践ガイドラインによって提供されている [Bornstein et al 2016] 。

急性期 急性副腎不全のエピソードの際は、通常、集中治療室で、血圧、水分、臨床状態、血糖値および電解質を綿密にモニタリングしながら治療される。高カリウム血症の補正が必要な場合もある。患者には生理食塩水、ブドウ糖、ヒドロコルチゾン (例:ソルコーテフ®) の静脈内投与が行われる。電解質の値が改善しない場合には、ミネラルコルチコイド (フルドロコルチゾン: fludrocortisone; フロリネフ) を追加するか、またはソルコーテフ®を増量する。低血糖のモニタリングを行うと共に、十分な量のナトリウム補充が必要となる。
慢性期の治療 初回の急性エピソードが治療された後、患者はグルココルチコイドとミネラルコルチコイドの補充療法を開始され、乳児期には塩化ナトリウム (NaCl) の経口サプリメントを投与される。

ストレス時の治療 ステロイドの投与量は、ストレス時 (例:併存疾患、手術、外傷) には増量されなければならない。ブドウ糖とナトリウム補充が必要な場合もあるだろう。

その他 ステロイド補充療法は、内分泌専門医によって、臨床所見およびホルモンの値をモニタリングしながら管理される。補充療法が適切であれば、ACTH値は正常化されるべきである。ステロイド治療中にもかかわらずACTHが急激に上昇した患者において、下垂体腺腫を合併していたことが、1例報告されている [De Menis et al 2005]。
メディックアラート® (Medic Alert®) ブレスレットの着用が強く推奨される。

患者家族および若年患者にとっては、適切な援助へのアクセスと同様に、継続的な教育およびサポートが重要である。

低ゴナドトロピン性性腺機能低下症

ホルモン補充療法 低ゴナドトロピン性性腺機能低下症と診断された場合には、年齢に応じた思春期を誘導するためにテストステロンの漸増が必要な場合があり、小児内分泌専門医によって管理されるべきである。治療は通常、おおよそ思春期が期待される時期 (男児では12歳) もしくはちょうどの時期に開始される。テストステロンの用量は、成人量に達するまで、2〜3年の期間にわたって徐々に増量される。生涯に渡るホルモン補充が必要である。
成長と、骨のミネラル化においてもテストステロン補充は重要である。
妊孕性 古典的な早期発症のX連鎖性 (X-linked) 副腎低形成の男性において、十分な量のゴナドトロピン補充を行った後、精巣内精子採取 (testicular sperm extraction)、卵細胞質内精子注入法 (intracytoplasmic sperm injection) を用いて妊娠成立させることが可能であった [Frapsauce et al 2011]。この成功が一般的に可能なのか、それともこの症例のみ可能であっただけなのかは、未だ分かっていない。

心理カウンセリング

ホルモン補充療法に関連する問題や、将来の妊孕性の問題について話し合うために、患者家族や若年の患者は必要に応じて心理カウンセリングを受ける必要がある。

その他 発達遅滞はルーチンに評価され、管理される必要がある。

定期検査 (サーベイランス)

原発性副腎不全

初診時に十分なミネラルコルチコイド産生が確認された場合、副腎ミネラルコルチコイド産生能 (ナトリウム、カリウム、アルドステロン、血漿レニン活性) の長期フォローアップが必要である。モニタリングは、生後最初の2年間はかなり集中的に (例えば、4ヵ月ごと) 行われるべきであり、その他臨床的に疑われる時にも検査が実施されるべきである。年齢とともに、ミネラルコルチコイドの感受性 は改善するが、年に一度は見直しをすべきであり、塩分摂取の制限時、水分摂取の制限時、水分喪失時 (例えば、嘔吐、下痢)、また極度に暑い時には、注意が必要である。年長児に臨床的な懸念 (例えば、立ちくらみやめまい) が生じた場合は、精査が必要である。

初診時に十分なグルココルチコイド産生が確認された場合、副腎グルココルチコイド産生能 (ACTH基礎値、コルチゾール、コシントロピン [cosyntropin: ACTH] 負荷試験) の長期フォローアップが必要である。ACTH基礎値はグルココルチコイド機能障害の有用なマーカーであり、2歳になるまではコルチゾールとともに測定すべきである。何らかの懸念がある場合には、コルチゾール基礎値の評価では不十分であり、コルチゾール反応の障害を評価するためにコシントロピン (ACTH) 負荷試験を行うべきである。真性のX連鎖性 先天性副腎低形成を持つ男児で、グルココルチコイド分泌不全をまだ発症していない場合には、ACTH基礎値/コルチゾールの年1回の検査と、場合によってはコシントロピン (ACTH) 負荷試験を考慮すべきである。臨床的な懸念事項 (例えば、疲労感、低血糖症状、体重増加不良、色素沈着) を認める場合には、ACTH値の測定とコシントロピン (ACTH) 負荷試験を緊急で行うべきである。

低ゴナドトロピン性性腺機能低下症

思春期が14歳までに発来していない場合、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の可能性を評価するために、LHとFSH (基礎値とGnRH刺激試験)、テストステロン、インヒビンBの血清濃度を確認するべきである。これらの検査の結果、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症である可能性が高いことが示唆された場合、若年患者は同世代のグループと一緒に行動するため、より早く思春期の誘導を開始して欲しいと望むかもしれない。
思春期が自然発来した場合も、その進行が停止してしまう可能性が高い。したがって、テストステロン、LH、およびFSHの値は1年に1回定期的に測定する必要がある。

リスクのある血縁者の評価

出生時 

スクのある男性血縁者で、遺伝的状態が出生前の分子遺伝学的検査 判明していない場合には、塩類喪失型副腎クリーゼを回避するためにグルココルチコイドおよびミネラルコルチコイド補充療法を速やかに開始する必要があるかどうかを判断するため、出生後数日内に、副腎不全を示唆する異常がないかの生化学的検査を実施することが必要である。電解質およびコルチゾール基礎値は、初期は正常範囲内にあるかもしれないが、徐々に変化する可能性があることに注意が必要である。ACTH基礎値は、迅速な検査が可能であれば、補助的な検査として有用である。コシントロピン (cosyntropin; ACTH) 負荷試験は、通常、罹患している 小児ではコルチゾール反応の障害を示す。

小児期の後期

家系内のNR0B1病原性バリアント が判明している場合には、罹患している (男性の約40%は小児期以降まで発症しないため、リスクのある無症候性の母方男性親族の遺伝的状態を分子遺伝学的検査 (で明らかにすることは合理的である。症状前診断により、塩類喪失性副腎クリーゼを回避するためのグルココルチコイドおよびミネラルコルチコイドホルモン補充療法を迅速に開始することが可能となる [Achermann et al 2000]。

遺伝カウンセリング を目的としたリスクのある血縁者の検査に関する問題については、遺伝カウンセリングを参照のこと。

今後の導入が検討されている治療法

米国のClinicalTrials.govと欧州の EU Clinical Trials Registerを検索することで、幅広い疾患や症状の臨床試験に関する情報にアクセス可能である。注:この疾患に関する臨床試験が存在しない可能性もある


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

NR0B1関連先天性副腎低形成 (NR0B1-related adrenal hypoplasia congenita) には、X連鎖性先天性副腎低形成 (X-linked AHC) とXp21欠失がある。

血縁者へのリスク -X連鎖性副腎低形成

家族構成員のリスク

発端者の両親

発端者の同胞 (兄弟姉妹) 

男性発端者  の子孫 

他の血縁者 

発端者 の母方の叔母とその子孫は、キャリアとなるリスクや、罹患する リスクがある (性別や血縁関係、発端者の母親の遺伝的状況によってそのリスクは異なる)。

血縁者へのリスク -Xp21欠失-

家系内における、Xp21欠失 の範囲は、一般に、すべての血縁者に同様に影響を及ぼす。ある家系では、NR0B1GK、およびDMDを含む欠失を有する (NR0B1関連先天性副腎低形成、グリセロールキナーゼ欠損症、およびデュシェンヌ型筋ジストロフィー [Duchenne muscular dystrophy] がそれぞれ生じる)。一方、他の家系では、NR0B1およびGKのみを含む欠失を有する。

男性発端者 の両親

男性発端者 の同胞 (兄弟姉妹)

発端者の子孫 

Xp21欠失の男性は、通常、青年期または若年期にデュシェンヌ型筋ジストロフィーの合併症で死亡するか、重症化しているため、子孫を持つことがない。
他の血縁者 発端者 の母方の叔母とその子孫は、ヘテロ接合性 に病原性バリアントを持つか、または罹患している 可能性がある (性別や血縁関係、発端者の母親の遺伝的状態によって異なる)。

ヘテロ接合性に病原性バリアントを持つ者 (キャリア) の検出

リスクのある女性血縁者の遺伝的状態を決定するための遺伝学的検査は、NR0B1病原性バリアント (pathogenic variant) またはXp21欠失 が、罹患者のいる 家系の中で同定されている場合に最も有益である。

注: (1) まれに、このX連鎖性 疾患のヘテロ接合体が、例えばX染色体の不活化 (X-chromosome inactivation) の結果として、この疾患に関連した臨床所見を発現することがある [Shaikh et al 2008]。(2) ヘテロ接合性 に病原性バリアントを有するの女性の同定には、(a) 家族内のNR0B1病原性たはXp21欠失 の事前に同定されていること、または (b) 罹患した 男性の検査ができない場合には、まずNR0B1シーケンス解析による分子遺伝学的検査を行い、病原性バリアントが同定されない場合には、CMAによるXp21欠失の検出を行うことが必要である。

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断と治療を目的としたリスクのある血縁者の評価に関する情報については、管理、リスクのある血縁者の評価を参照のこと。

家系解析 

詳細な家族歴を聴取することで、副腎不全を発症するリスクのある未検査の男性血縁者を特定できる可能性がある。

家族計画

DNAバンク 

DNAバンクとは、将来使用する可能性を考慮し、DNA (通常は白血球から抽出されたもの) を保管することである。検査の手法や、遺伝子に対する理解、アレル変異に対する理解、疾患についての理解は将来的に向上すると思われるため、患者由来DNAをバンク化することを検討するべきである。

出生前検査および着床前遺伝子検査

(訳注:米国においては) 家系内で罹患者にNR0B1の病原性バリアント またはXp21欠失が同定された場合、リスクの高い妊娠のための出生前検査 や着床前遺伝子検査 可能となる。注:通常はまず胎児の性別が決定され、核型 が46,XYであれば遺伝子検査が行われる。


資源

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここクリック。

X-linked adrenal hypoplasia congenita

505 Northern Boulevard
Great Neck NY 11021
Phone: 516-487-4992
Email: nadfmail@aol.com
www.nadf.us


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

A.  NR0B1関連先天性副腎低形成 (NR0B1-Related Adrenal Hypoplasia Congenita): 遺伝子とデータベース

遺伝子名 染色体座 タンパク質 遺伝子座特異的データベース HGMD ClinVar
DMD Xp21​.2-p21.1 ジストロフィン
(Dystrophin)
DMD homepage - Leiden Muscular Dystrophy pages DMD DMD
GK Xp21​.2 グリセロールキナーゼ
Glycerol kinase)
GK homepage - Leiden Muscular Dystrophy pages GK GK
IL1RAPL1 Xp21​.3-p21.2 インターロイキン-1レセプターアクセサリープロテインライク1
Interleukin-1 receptor accessory protein-like 1
IL1RAPL1 @ LOVD IL1RAPL1 IL1RAPL1
NR0B1 Xp21​.2 核内受容体サブファミリー0グループBメンバー1
 (Nuclear receptor subfamily 0 group B member 1)
NR0B1 @ LOVD NR0B1 NR0B1

データは以下の標準的な参照サイトより収載した:遺伝子はHGNCから、染色体遺伝子座はOMIMから、タンパク質は UniProtから。リンク先のデータベース(Locus Specific, HGMD, ClinVar)の説明はこちらを参照のこと。

B.  NR0B1関連先天性副腎低形成 (NR0B1-Related Adrenal Hypoplasia Congenita) に関連するOMIM項目 (OMIMで全てを見る)

300143 X連鎖精神遅滞21
MENTAL RETARDATION, X-LINKED 21; MRX21
300200 先天性副腎低形成
ADRENAL HYPOPLASIA, CONGENITAL; AHC
300206 インターロイキン-1レセプターアクセサリープロテインライク1
INTERLEUKIN 1 RECEPTOR ACCESSORY PROTEIN-LIKE 1; IL1RAPL1
300377 ジストロフィン
DYSTROPHIN; DMD
300473 核内受容体サブファミリー0グループBメンバー1
NUCLEAR RECEPTOR SUBFAMILY 0, GROUP B, MEMBER 1; NR0B1
300474 グリセロールキナーゼ
GLYCEROL KINASE; GK
307030 グリセロールキナーゼ欠損症
GLYCEROL KINASE DEFICIENCY; GKD
310200 デュシェンヌ型筋ジストロフィー
MUSCULAR DYSTROPHY, DUCHENNE TYPE; DMD

遺伝子構造 NR0B1参照配列NM_000475.4 は2つのエクソンを有し、ATG開始コドン (ヌクレオチド1) で始まり、TAA停止コドン(ヌクレオチド1410)で終わる1つのオープンリーディングフレーム が含まれている。ヌクレオチド1167と1168の間に3kbのイントロン が1つ挿入されている。

NR0B1は、この遺伝子 の標準的な名称であるが、歴史的にはDAX1 (および場合によってはAhch) として知られてきた。遺伝子およびタンパク質情報の詳細な要約については、表A遺伝子を参照のこと。
病原性バリアント NR0B1関連の先天性副腎低形成を有する患者におけるNR0B1の一塩基変異および欠失が、200例以上が報告されている。

1980年代後半から1990年代初頭にかけて、これらの報告は、Xp21欠失を有する患者およびその家族に焦点を当てていた [Muscatelli et al 1994, Zanaria et al 1994]。その後の研究ではNR0B1のシーケンス解析を行い、遺伝子配列のバリアントが報告された。Linら [2006] はこれらのデータを組み合わせ、NR0B1関連先天性副腎低形成の少年の約25%がNR0B1の欠失を有しており、このうち約33%では、この欠失が隣接遺伝子欠失にまで及ぶ可能性があると推定した。

シーケンス解析では、残りの約75%の発端者で病原性バリアント を検出できる [Lin et al 2006, Suntharalingham et al 2015]。ミセンスバリアントは、リガンド様結合ドメインの重要な領域に集積する傾向がある [Achermann et al 2001, Suntharalingham et al 2015]。これらのうちのいくつかは、機能の部分的な喪失および遅発性の発症に関連している可能性がある (例えば、p.Ile439Ser、p.Tyr380Asp)。
NR0B1のアミノ末端リピート領域における2つのミスセンス バリアントが臨床的表現型 と関連している。p.Trp105Cysバリアントはミネラルコルチコイド不全と関連しており [Verrijn Stuart et al 2007]、p.Cys200Trpは遅発型の副腎低形成を有する8歳の女児で同定された。彼女の父親はこのバリアントのヘミ接合体 であったが、副腎の表現型は明らかに認められなかった。このバリアントはExACデータベースに低いアレル頻度 で存在する(rs143141578, 8/19356 ヨーロッパ人)。
遅発型のX連鎖性 副腎低形成はNR0B1のアミノ末端領域におけるナンセンスバリアントと関連している。p.37またはp.39の位置に停止コドンを有する何名かの患者または家族が報告されている [Ozisik et al 2003, Guclu et al 2010, Raffin-Sanson et al 2013]。コドンp.83のメチオニンからの翻訳が再開始され、部分的に機能が保存されたアミノ末端切断タンパク質が生成されると提唱されている [Ozisik et al 2003]。

表2.GeneReviewにて議論されているNR0B1バリアント一覧

DNA ヌクレオチド変化 予測されるタンパク質の変化 参照配列
c.315G>C p.Trp105Cys NM_000475​.4
NP_000466​.2
c.600C>G p.Cys200Trp
c.775T>C p.Ser259Pro
c.836C>T p.Pro279Leu
c.1138T>G p.Tyr380Asp
c.1316T>G p.Ile439Ser

表に記載されているバリアントは、著者によって提供されたものである。GeneReviewsのスタッフは、バリアントの分類を独自に検証していない。GeneReviewsは、Human Genome Variation Society (varnomen​.hgvs.org) の標準的な命名規則に従っている。命名法に関する説明は Quick Reference を参照のこと。

正常遺伝子産物 (gene product)  予測されるタンパク質 (NP_000466.2) のサイズは470アミノ酸である。NR0B1 (NM_000475.4) がコードするタンパク質は転写因子 (transcription factor) の構造を持ち、オーファン核内受容体 (orphan nuclear receptor) に分類される。

NR0B1のカルボキシル末端領域は核内受容体のリガンド結合ドメインに類似した構造を有している。NR0B1のアミノ末端領域は繰り返しモチーフを含み、他の核内受容体に見られる典型的なDNA結合ドメイン (domain) を欠いている。結晶研究により、NR0B1は、2つのNR0B1転写産物が関与する複合体の一部として、NR5A2に直接結合することが示されている [Sablin et al 2008]。

NR0B1は、副腎、視床下部、下垂体、卵巣、精巣の正常な発育において重要な役割を果たしており、発生から出生後の長期にわたり、これらの組織で発現している。NR0B1の正確な生物学的役割は不明である。ほとんどの研究では、NR0B1は、ステロイド産生因子1 (SF1: steroidogenic factor 1) によって媒介されるトランス活性化を含む他の核内受容体シグナル伝達経路の、負の調節因子として作用することが示されている [Iyer & McCabe 2004]。他の研究では、NR0B1が遺伝子 の転写を活性化することが示されている [Verrijn Stuart et al 2007, Ferraz-de-Souza et al 2009, Xu et al 2009]。1つの仮説として、NR0B1は臓器の発生過程で幹細胞の分化速度を制御するリプレッサーとして機能していると考えられている [Lalli & Sassone-Corsi 2003]。このような多能性幹細胞が、あらかじめ細胞数を十分に増加させることなく成熟細胞へと早期分化してしまうことにより、一過性の過剰な活性を引き起こし、その後、多能性細胞プールの枯渇による臓器の低形成が引き起こされる可能性がある。この仮説を支持するいくつかの証拠は、Nr0b1 (エクソン2 [exon 2])欠失のマウスモデルから得られている [Scheys et al 2011]。

X連鎖性 先天性副腎低形成の病態における役割に加えて、NR0B1は性決定にも大きな役割を果たしている。NR0B1は、Xp21の160kbの領域であるDSS (dosage sensitive sex reversal) 遺伝子座 に位置しており、重複した場合には、量依存性に、性の反転へと関与する。NR0B1は、男性の主な性決定遺伝子 であるSRYのアンタゴニストとして作用すると考えられている。

異常遺伝子産物NR0B1の機能喪失型病原性バリアント (欠失[ナンセンス フレームシフト) では、NR0B1が存在しないか、または短縮型となる。NR0B1のミセンス変異は、NR0B1の正常な構造と機能に欠失的な影響を与えるか、またはタンパク質の核内局在に影響を与えると予測されている。


更新履歴:

  1. GeneReviews著者: John C Achermann, MB, MD, PhD, FRCPCH and Eric J Vilain, MD, PhD, FACMG.
    日本語訳者: 清水日智(済生会長崎病院小児科)
    GeneReviews最終更新日: 2018.1.25 日本語訳最終更新日: 2021.3.24[ in present]

原文 NR0B1-Related Adrenal Hypoplasia Congenita

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