[Synonyms:DNMT3AOvergrowthSyndrome]
Gene Reviews著者: PaulKruszka,MD,MPH,MyronRolle,MD,KristopherTKahle,MD,PhD,andMaximilianMuenke,MD,FACMG.
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、石川亜貴(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 2023.3.30. 日本語訳最終更新日:2023.7.16.
原文: Muenke Syndrome
疾患の特徴
Muenke症候群は、表現型のばらつきの幅がかなり大きい疾患である。具体的には、冠状縫合の早期癒合(片側性より両側性が多い)、他の頭蓋縫合の早期癒合・全縫合の早期癒合(pansynostosis)・早期癒合なしといったさまざまな現れ方、あるいはまた、大頭症なども症候として現れる場合がある。冠状縫合早期癒合が両側性に生じた場合は、通常、短頭症の形で現れることが多いが、尖頭短頭蓋(「塔状」の頭蓋)あるいはクローバー葉頭蓋となる場合もある。冠状縫合早期癒合が片側性に生じた場合は、前方部が斜頭症(頭蓋や顔面の非対称)となる。それ以外の頭蓋顔面所見としては、側頭部の突出、眼間開離、眼瞼下垂あるいは軽度の眼球突出、中顔面の軽度の後退、高口蓋あるいは口唇口蓋裂といったものがある。
また、斜視が多くみられる。その他の所見としては、難聴、発達遅滞、知的障害、行動の問題、頭蓋内奇形、癲癇、眼の奇形、短指趾、手根骨や足根骨の癒合、幅広の拇指趾、彎指趾、幅広で短い指節骨ないし円錐形骨端などのX線写真所見がある。表現型のばらつきの幅は、同一家系内にあっても相当に大きい。注目すべきことは、p.Pro250Argの病的バリアントを有しているにもかかわらず、身体の診査でもX線検査でもMuenke症候群の徴候が一切みられない例が一部存在することである。
診断・検査
Muenke症候群の診断は、分子遺伝学的検査においてFGFR3にc.749C>G(p.Pro250Arg)の病的バリアントが同定されることをもって確定する。
臨床的マネジメント
症状に対する治療:
Muenke症候群や頭蓋縫合早期癒合症を有する子どもの治療は、小児頭蓋顔面クリニックにおいて、頭蓋顔面外科医や脳神経外科医、臨床遺伝医、眼科医、耳鼻咽喉科医、小児科医、放射線科医、心理士、歯科医、聴覚士、言語治療士、ソーシャルワーカーが関与して進めるのが最善である。重症度にもよるが、頭蓋縫合早期癒合の最初の修復術(前頭眼窩拡大術、頭蓋冠整形術)は、生後3-6ヵ月で行われるのがふつうである。それに代わる手法として、内視鏡下帯状頭蓋骨切除術がある。こちらのほうが低侵襲で、生後3ヵ月未満で行われることが多い。術後に頭蓋内圧の亢進をきたしたり、二次、三次の頭蓋外形修正術が必要になったりすることがある。難聴に対しては標準治療、発達遅滞・知的障害・行動の問題・難聴を有する罹患者に対しては早期言語治療と早期介入プログラム、斜視に対しては外科的矯正、兎眼角膜症に対しては潤滑剤といった対応を行う。
定期的追跡評価 :
罹患者は、出生から成熟に達するまで、集学的ケアと計画的管理を受けることが有益である。その具体的内容としては、後天性あるいは進行性の難聴に関するスクリーニングを目的として行うオージオグラム、発達と行動の評価、発作に関する神経学的評価、斜視に関する眼科的評価、ソーシャルワーカーの観点からの評価などがある。
リスクを有する血縁者の評価 :
リスクを有する血縁者に対しては、治療や予防処置を行うことで利益が得られる人を可能な限り早期に特定することを目的とした評価を行うことが適切である。
遺伝カウンセリング
Muenke症候群は、常染色体顕性の遺伝形式をとる。Muenke症候群罹患者の子が病的バリアントを継承する可能性は50%である。不完全浸透であること、ならびに家系内での表現型のばらつきの幅が大きいことから、病的バリアントを継承した子に現れる症候を、同一家系内の他のヘテロ接合者の呈する表現型をもとに予測するということはできない。家系内の1人がFGFR3のp.Pro250Argの病的バリアントを有していることがわかっている場合には、Muenke症候群に関する出生前検査や着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。
本疾患を示唆する所見
以下のような臨床所見、X線写真所見、家族歴を有する例については、Muenke症候群を疑う必要がある。その表現型は、認めうる特段の臨床症候がないといったものから、頭蓋縫合早期癒合に加えその他の古典的症候まで併せもつものまで、大きな幅がみられる。
臨床症候
X線写真症候
家族歴
常染色体顕性に一致した家族歴(例えば、複数世代にわたって男女両方の罹患者が現れる)を示す。ただ、家族歴がみられない場合でも、本疾患の可能性が排除されるわけではない。
診断の確定
発端者におけるMuenke症候群の診断は、分子遺伝学的検査でFGFR3にc.749C>G(p.Pro250Arg)の病的バリアントが同定されることをもって確定する(表1参照)。
分子遺伝学的検査のアプローチとしては、単一遺伝子検査あるいはマルチ遺伝子パネルの使用が考えられる。
最初に、FGFR3の配列解析を行うことが考えられる。
注:FGFR3のp.Pro250Argの病的バリアントに対象を絞った標的型解析が用いられるようなことはほとんどない。それは、Muenke症候群については、FGFR3やそれ以外の頭蓋縫合早期癒合症関連遺伝子のヘテロ接合性病的バリアントに起因して生じる頭蓋縫合早期癒合疾患と、臨床症候が重なるからである(「鑑別診断」の項を参照)。
FGFR3その他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を含むマルチ遺伝子パネルも検討対象になりうる。
注:(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。したがって、どのマルチ遺伝子パネルを用いれば、現況の表現型と直接関係のない遺伝子の意義不明バリアントや病的バリアントの検出を抑えつつ、疾患の遺伝的原因の特定につながる可能性が高いかという点を、臨床医の側で判断することが求められる。
(3)検査機関によっては、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
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表1:Muenke症候群で用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 方法 | その手法で病的バリアント2が検出される発端者の割合 |
---|---|---|
FGFR3 | 配列解析3 | 100%4 |
臨床像
Muenke症候群は、冠状縫合の(時として他の縫合も含めた)早期癒合、頭蓋縫合早期癒合例でみられる頭蓋形態の異常、特徴的顔貌、難聴、斜視を特徴とする疾患である。その他の症候として、発達遅滞、知的障害、癲癇、頭蓋内奇形、短指趾、幅広の拇指趾、彎指趾などがみられる場合がある。不完全浸透を示し、表現型のばらつきの幅は、同一家系内にあってもかなり大きい。中には、大頭症やごく軽微な顔面所見といった小さな臨床症候がみられるのみで頭蓋縫合早期癒合のない例や、X線写真症候がみられるのみといった例も存在する[Muenkeら1997]。FGFR3にp.Pro250Argの病的バリアントが同定された例は、これまでに100人を超える[Kruszkaら2016]。本疾患に関連してみられる表現型として以下に述べることは、これらの報告に基づいたものである。
表2:Muenke症候群:代表的症候の出現頻度
症候 | その症候がみられる例の割合 | コメント |
---|---|---|
冠状縫合早期癒合 | 85%近く | |
他の縫合の早期癒合 | 3%近く | |
難聴 | 70%超 | |
発達遅滞 | 60%超 | |
知的障害 | 40%超 | |
行動の問題 | 50%近く | |
眼の奇形 | 60%超 | 斜視が39%-66%を占める。 |
四肢所見 | 50%近く |
頭蓋縫合早期癒合と頭蓋顔面症候
冠状縫合の早期癒合は、両側性(罹患者の3分の2近く)のこともあれば、片側性(罹患者の3分の1近く)のこともある[Kellerら2007,Kruszkaら2016]。時に、他の縫合、例えば前頭縫合(三角頭蓋をきたす)、矢状縫合、鱗状縫合に生じることもあり、また、全縫合に生じるような場合(汎頭蓋縫合癒合症)もある[vanderMeulenら2006,Doumitら2014,Kruszkaら2016]。Muenke症候群の場合は、全例で頭蓋縫合早期癒合がみられるというわけではない。FGFR3のp.Pro250Argの病的バリアントをヘテロで有していた例の約12%-15%は、頭蓋縫合早期癒合を示さなかった[Renierら2000,Kruszkaら2016]。
両側性の冠状縫合早期癒合は、通常、短頭症の形で現れるが、尖頭短頭蓋(「塔状」の頭蓋)あるいはクローバー葉頭蓋の形で現れる場合もある。片側性の冠状縫合早期癒合の場合は、前頭部が斜頭症(頭蓋と顔面の非対称)となる。
多くみられるその他の頭蓋顔面所見としては、側頭部の突出、眼間開離、眼瞼下垂あるいは眼球突出(通常は軽度)、中顔面の後退(通常は軽度)などがある。
頭蓋顔面症候で比較的出現頻度の低いものとしては、頰骨の平坦化、上向きの鼻孔と低い鼻梁を伴う短い鼻、偏位した鼻中隔、垂れ下がった鼻尖、高口蓋、口唇裂口蓋裂、咬合異常、軽度の下顎後退、耳介低形成、耳介低位などがある。
難聴
ある大規模コホート国際研究では、Muenke症候群罹患者の70%超に難聴がみられ、その多くが両側性の感音性難聴(70.8%)で、残りが伝音性難聴(22%)、混合性難聴(8.6%)であったという。他のFGFR関連頭蓋縫合早期癒合症候群との比較で言うと、感音性難聴(通常は軽度で、中・低音域)が、Muenke症候群に特異的なものであるとするデータが存在し[Agochukwuら2014a]、時には、頭蓋縫合早期癒合を有しないMuenke症候群罹患者においてもこれがみられるという[Hollwayら1998]。
Muenke症候群をはじめとする頭蓋縫合早期癒合の子どもの中には、新生児聴覚スクリーニングで問題なしとされた後に難聴を発症する例もみられる[EDoherty&MMuenke,個人的観察]。
さらに、罹患者の中には、年齢とともに難聴が進行し、より重度になっていくような例もみられる。罹患者の中には、反復性中耳炎のため鼓膜切開・チューブ留置が行われた例もみられる[Didolkarら2009,Kruszkaら2016]。一部の罹患者にみられる伝音性難聴の背景には、こうしたものが係わっている可能性が考えられる。
罹患者の中には、進行性の難聴をもつような例もみられる。
発達遅滞と行動機能
大規模国際研究で、Muenke症候群罹患者の40.8%に知的障害、66.3%に発達遅滞がみられた。発達遅滞の種類別では、スピーチの遅延が最も多かった(61.1%)[Kruszkaら2016]。
発達遅滞/知的障害の程度は概して軽度である。Muenke症候群罹患者の知的障害の程度は、ふつう、Crouzon症候群より強く[Flapperら2009]、IQは、FGFR3のp.Pro250Argの病的バリアントを有しない他の頭蓋縫合早期癒合症罹患者よりわずかに低かった。[Arnaudら2002]
規範集団と比較したとき、Muenke症候群罹患者では、行動や情動の問題の発生リスクが高いとする報告もみられる[Maliepaardら2014]。Banninkら[2011]は、Muenke症候群の男児では行動の問題の発症頻度が50%と高めであったとしている。Muenke症候群罹患者の約24%が、注意欠如/多動性障害の診断を受けている[Kruszkaら2016]。
また、Muenke症候群罹患者は、適応機能や実行機能の問題の発生に関して高リスクであったという[Yarnellら2015]。興味深いことに、この罹患者のコホートでみられた行動の変化は頭蓋縫合早期癒合や難聴の有無とは関連がみられなかった。そのため、頭蓋骨の形の変化とは全く別の経路で、FGFR3のp.Pro250Argの病的バリアントが脳に対して直接的に影響を及ぼしているのではないかという疑問が生じることとなった。
神経学的異常
Muenke症候群でみられる発達遅滞や知的障害に関して言うと、中枢神経系の発現・形成・構造といったもののパターンの違いが一定の形で関与している可能性がある。
この例は、発達面は正常であったという。
より最近の研究では、Muenke症候群罹患者99人中20人(20.2%)に癲癇発作の既往がみられたとするものがある[Kruszkaら2016]。
眼の奇形
四肢の所見
Muenke症候群罹患者の大多数は、見た目の上では正常な手足をもち、あらゆる関節の可動域も正常である。Muenke症候群でみられる四肢の所見の多くはX線写真上で確認されるもので、具体的には、短く幅広の手指中節骨、足趾中節骨の欠損あるいは低形成、手根骨や足根骨の癒合、円錐形の骨端といったものがある[Hugesら2001,Kruszkaら2016]。
Muenke症候群罹患者では、幅広の拇指趾も報告されている。皮膚性合指趾が13人の罹患者で報告されている[Gollaら1997,Passos-Buenoら1999,Chunら2002,Trusenら2003,Shahら2006,Baynam&Goldblatt2010,deJongら2011]。
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)
閉塞性睡眠時無呼吸は、頭蓋縫合早期癒合症候群一般で多くみられる所見であるが、Muenke症候群罹患者では比較的少ない[Banninkら2011,Dentinoら2015]。
浸透率
不完全浸透を示す。FGFR3のp.Pro250Argの病的バリアントをヘテロで有していても、Muenke症候群の臨床症候やX線写真症候を一切有しない例がみられる[Robinら1998,Moko&BlandindeChalain2001,Kruszkaら2016]。106人のコホートでは、浸透率に性差はみられなかったとされている[Kruszkaら2016]。
疾患名
Muenke症候群を意味する用語として、「Muenke非症候群性冠状縫合性頭蓋縫合早期癒合症(Muenkenonsyndromiccoronalcraniosynostosis)」という表現が時として用いられる。
この表現は、Muenke症候群の原因として「遺伝子が関与しない」という誤った意味になることから、著者らは、この表現を用いるべきではないと考える。
Muenke症候群を表す用語としての「Adelaide型頭蓋縫合早期癒合症」は、現在ではもう用いられない。
発生頻度
出生時におけるMuenke症候群の発生頻度は、おおむね30,000人に1人である。
1993年から2005年までに生まれた頭蓋縫合早期癒合症の214人を用いた前向き研究で、Morriss-Kay&Wilkie[2005]は、分子診断の確定した60人中の28.5%がp.Pro250Argの病的バリアントであったと報告している。すなわち、214人中の8%がMuenke症候群であったということになる。
遺伝性の原因を有する頭蓋縫合早期癒合症全体の中でMuenke症候群の占める割合は、25%-30%と推定されている[Morriss-Kay&Wilkie2005,Wilkieら2010]。
FGFR3におけるp.Pro250Argの病的バリアントは、単数体ゲノムあたり7.6-8×10-6の割合で生じると推定されており、ヒトにおけるトランスバージョン変異としては、最も高率なものの1つとして知られている[Moloneyら1997,Rannan-Eliyaら2004]。
FGFR3の生殖細胞系列の病的バリアントに関連して生じるその他の頭蓋縫合早期癒合症を表3aにまとめて示した。また、同一アレル疾患ではあるものの、頭蓋縫合早期癒合をきたすとはされていない疾患群を表3bにまとめて示した。
表3a:頭蓋縫合早期癒合をきたす同一アレル疾患
疾患名 | FGFR3の病的バリアント1 |
---|---|
単発性片側性冠状縫合早期癒合症 | 1家系でc.749C>T(p.Pro250Leu)の報告あり2 |
黒色表皮腫を伴うCrouzon症候群 | c.1172C>A(p.Ala391Glu)3 |
Pfeiffer症候群 | Pfeiffer症候群の1例でc.1172C>A(p.Ala391Glu)の報告あり4 |
表3b:Muenke症候群とは別の同一アレル疾患と、そのFGFR3の病的バリアント
表現型 | 遺伝形式 | FGFR3の病的バリアント1 |
---|---|---|
軟骨無形成症 | AD | c.1138G>A(p.Gly380Arg)とc.1138G>C(p.Gly380Arg) |
屈指-高身長-難聴(CATSHL)症候群(OMIM610474) | AD AR |
c.1862G>A(p.Arg621His) |
軟骨低形成症 | AD | 多くみられる病的バリアントは、c.1620C>A(p.Asn540Lys)とc.1620C>G(p.Asn540Lys) |
涙-耳-歯-指症候群(OMIM149730) | AD | c.1537G>A(p.Asp513Asn) |
タナトフォリック骨異形成症(TD) | AD | TDⅡ型罹患者の99%超でc.1948A>G(p.Lys650Glu)が検出される |
重症軟骨無形成症-発達遅滞-黒色表皮腫(SADDAN)症候群(OMIM616482) | AD | c.1949A>T(p.Lys650Met) |
AD=常染色体顕性;AR=常染色体潜性
症候群性頭蓋縫合早期癒合症
表4は、Muenke症候群と、これに類似した常染色体顕性頭蓋縫合早期癒合症候群とを比較対照したものである。表現型が重なったり、表現型が軽度であったりといったことのため、これらの症候群は臨床的に鑑別困難なことがある。
表4:その他のFGFR関連頭蓋縫合早期癒合症候群ならびにSaethre-Chotzen症候群とMuenke症候群との比較
遺伝子 | 症候群 | その症候群でみられる症候 | |
---|---|---|---|
Muenke症候群と重なる症候 | Muenke症候群と異なる症候 | ||
FGFR1 FGFR2 FGFR3 |
Pfeiffer症候群 |
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|
FGFR2 | Apert症候群 |
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Beare-Stevenson脳回状皮膚症候群1 | ・両側性の冠状縫合早期癒合 ・正常な四肢 |
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Crouzon症候群1 |
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Jackson-Weiss症候群1,2 |
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TWIST1 | Saethre-Chotzen症候群 |
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その他の原発性、続発性の頭蓋縫合早期癒合症については、「FGFR頭蓋縫合早期癒合症候群概説」のGeneReviewを参照されたい。
最初の診断時における評価
Muenke症候群と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、診断に至る過程ですでに実施済でなければ、表5にまとめた評価を行うことが推奨される。
表5:Muenke症候群罹患者の最初の診断後に行うことが推奨される評価
系/懸念事項 | 評価 | コメント |
---|---|---|
頭蓋顔面 |
|
|
聴覚 | 聴覚評価 | |
発達 | 発達評価 |
|
精神/行動 | 神経精神医学的評価 | 12ヵ月超の罹患者について行う:注意欠如/多動性障害をはじめとする行動上の懸念に関するスクリーニング |
神経 | 神経学的評価 | 発作の懸念がある場合は脳波を検討する。 |
眼 | 兎眼角膜症に関する評価 | |
眼科的評価 | 視力低下、異常眼球運動、最良矯正視力、屈折異常、斜視に関する評価を行う。 | |
鬱血乳頭の評価を目的として行う眼底検査 | 鬱血乳頭は、頭蓋内圧亢進時にみられる。 | |
遺伝カウンセリング | 遺伝の専門医療職1の手で行う | 医学的、個人的な意思決定の用に資するべく、本人や家族に対し、Muenke症候群の本質、遺伝形式、そのもつ意味についての情報提供を行う。 |
家族への支援/情報資源 | 以下に関する必要性の評価
|
1.臨床遺伝医、認定遺伝カウンセラー、認定上級遺伝看護師をいう。
症状に対する治療
Muenke症候群の子どもは、小児の治療経験が豊富な頭蓋顔面専門クリニックに紹介する必要がある。こうした例については、集学的治療を行うことがきわめて有益である。主要な小児医療機関に設置されている頭蓋顔面クリニックは、通常、次のような構成となっている:外科チーム(頭蓋顔面外科医,脳神経外科医),臨床遺伝医,眼科医,耳鼻咽喉科医,小児科医,放射線科医,心理士,歯科医,聴覚士,言語治療士,ソーシャルワーカー。必要に応じ、これら以外の専門職が加わることもある。
頭蓋縫合早期癒合
重症度にもよるが、頭蓋縫合早期癒合に対する最初の修復術は、通常、生後3-6ヵ月で行われる。ふつうは経頭蓋法(すなわち、頭蓋骨を硬膜まで開頭し、例えば中顔面を前方移動させるといった形で骨を物理的に位置づけ直す)で行われる。頭蓋縫合早期癒合に対して早期に外科的再建を行うことで、審美障害などの合併症、ならびに頭蓋内圧亢進関連の続発症(例えば、行動の変化や、静脈血流の閉塞に起因する水頭症)のリスクを下げられる可能性がある。
現在施行されている新たな手法としては、内視鏡下帯状頭蓋骨切除術や後方部骨延長術などがある。
この手法にはそれなりのリスクが伴うものの、重大な合併症は稀である[Wibergら2012,Thomasら2014,Salokorpiら2021]。
Muenke症候群特異的病的バリアントを有しない他の頭蓋縫合早期癒合症罹患者に比べ、Muenke症候群罹患者の場合は、頭蓋縫合早期癒合の修復術後、さらに二次的処置を要する可能性がより高い。二次的処置を要する理由は個人によりまちまちであるが、以下のような理由がある。
一方、この病的バリアントを有しない例については、47人中2人(4.3%)のみであった。再手術率に関するこの差は、統計的に有意であった(p=0.048)[Thomasら2005]。
Muenke症候群においては、頭蓋顔面所見(例えば、中顔面の重度の後退、眼間開離)の上での重症度と、神経学的所見(例えば、頭蓋内圧亢進、水頭症、構造的脳奇形、重度の発達遅滞、重度の知的障害)との間にずれがあることが報告されている「Lajeunieら1999,Arnaudら2002,Honnebierら2008」。初期の所見が重度であったことを示す所見、例えば、変形が再発し、2度目の大きな処置が必要になったといった事柄と、術後の頭蓋内圧亢進のリスクとの間には、特段の相関はみられなかったという。
難聴
難聴は、多くの場合、感音性である。学齢期の子どもに対する特別な個別的対応、補聴器の使用、(場合によっては)人工内耳手術の施行といった標準治療が適用される(「遺伝性難聴・聴力喪失概説」のGeneReviewを参照)[Agochukwuら2014b]。
発達と神経行動上の問題
Muenke症候群罹患者は、発達遅滞、知的障害、行動の問題に関して高リスク状態にある[Maliepaardら2014,Yarnellら2015]。そのため、言語治療や早期介入プログラムへの紹介が必要となる。評価や治療に向けて、発達ないし行動の専門医への紹介が推奨される。
眼の異常
定期的追跡評価
プロトコルに基づく定期的追跡評価のアプローチで、現在用いられているものとしては、Flapperら[2009]によるものや、deJongら[2010]のものがある。定期的追跡評価は、関連各分野の専門家の手による集学的ケアとすることが理想である(表6参照)。
表6:Muenke症候群罹患者で推奨される定期的追跡評価
系/懸念事項 | 評価 | 実施頻度 |
---|---|---|
聴覚 | 聴覚評価 | 年に1度あるいは必要に応じて |
発達 | 発達の進行状況と教育上のニーズに関するモニタリング | 来院ごと |
精神/行 | 行動評価 | |
神経 |
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|
眼 | 斜視に関する眼科的評価 | 年に1度あるいは必要に応じて |
家族/地域社会 | ソーシャルワーカーの支援、ケアコーディネーション、新たな質問(例えば、家族計画関連)に対する追加の遺伝カウンセリングといったものに関する家族側のニーズの評価 | 来院ごと |
治療や予防策を講じることで利益が得られる人(特に、頭蓋縫合早期癒合、難聴、発達遅滞、高次脳機能障害を有する例)を可能な限り早期に特定することを目的として、リスクを有する血縁者に対しては評価を行うことが望ましい。評価としては、FGFR3のc.749C>G(p.Pro250Arg)の病的バリアントに関する標的型分子遺伝学的検査を行うことになる。
リスクを有する血族に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。
研究段階の治療
Mansourら[2009]は、Muenke症候群のマウスモデルにおいて、全マウスが低音障害型感音性難聴であることを明らかにした。この特徴的な感音性難聴は、おそらく、柱細胞の過剰、Deiters細胞の過少、コルチ器内の外有毛細胞の過剰をはじめとする内耳聴覚上皮の発生異常に起因して生じているものと思われる。FGF-10は、通常であればFGFR-2bやFGFR-1bを活性化するが、上記のマウスで生じた蝸牛機能や難聴といった表現型が、FGF-10を減少させることで救済できることが、その後の研究で明らかになっている[Mansourら2013]。
FGFR3を含めたFGFシグナル伝達経路におけるシグナル伝達の異常が、Muenke症候群でみられる聴覚感覚細胞の発生異常の原因になっている可能性が考えられる[Agochukwuら2014a]。
動物モデルでは、FGFR3が発生中の中枢神経系内で最大の発現を示していることがわかっている。
さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「ClinicalTrials.gov」、ならびにヨーロッパの「EUClinicalTrialsRegister」を参照されたい。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
Muenke症候群は、常染色体顕性の遺伝形式をとる。
家族構成員のリスク
発端者の両親
Muenke症候群を引き起こすdenovoの病的バリアントは、専ら父親由来のもののようで[Rannan-Eliyaら2004]、父親年齢の上昇と関連があるようである[Kruszkaら2016]。
両親に対して評価を行ってみると、片親がp.Pro250Argの病的バリアントをヘテロで有しているものの、表現型が軽度にとどまったことがわかるような場合もある。
注:親の白血球DNAの検査を行っても、体細胞モザイクの全例で検出が可能とは限らず、また、生殖細胞のみに存在する病的バリアントについては、一切検出されない。
したがって、見かけ上、家族歴が陰性であるように思われても、両親に対して分子遺伝学的検査を行って、両者ともp.Pro250Argの病的バリアントのヘテロ接合体ではないということが確認されない限り、家族歴陰性の確定はできない。
発端者の同胞
発端者の同胞の有するリスクは、発端者の両親の遺伝学的状態によって変わってくる。
不完全浸透であること、ならびに、家系内で表現型にばらつきがみられることから、病的バリアントを継承した同胞が示すことになる症候を、家系内に存在する他のヘテロ接合者の呈する表現型をもとに予測するということはできない(「浸透率」の項を参照)。FGFR3のp.Pro250Argの病的バリアントを継承した同胞は、親より重症の表現型を示すこともあれば、軽症の表現型にとどまる可能性も考えられる。同一家系の罹患者に片側性や両側性の冠状縫合早期癒合がみられることがある一方、早期癒合が全くみられないような場合もある。
発端者の子
Muenke症候群罹患者の子が病的バリアントを継承する可能性は50%である。
他の家族構成員
他の血縁者の有するリスクは、発端者の両親の遺伝的状態によって変わってくる。仮に片親がFGFR3のp.Pro250Argの病的バリアントを有していれば、その血族にあたる人はすべてリスクを有する。
関連する遺伝カウンセリング上の諸事項
リスクを有する若い血族に対しては、医学的管理(「臨床的マネジメント」の「リスクを有する血縁者の評価」の項を参照)の指針とすることを目的として、分子遺伝学的検査を行うことを検討することが望ましい。同胞、両親、その他の血縁者に対し検査を行うにあたっては、検査を行うことのリスク、利益、限界に関し、遺伝カウンセラーと事前によく話し合う場を設ける必要がある。
一般に、学齢期以上で、発達上の問題、発達遅滞、難聴、頭蓋縫合早期癒合、Muenke症候群のその他の症候を有しない人の場合、Muenke症候群である可能性はかなり低い。それでも、一見したところ非罹患者と思われた人でFGFR3のp.Pro250Argの病的バリアントが検出された例が実際に存在する[Kruszkaら2016]。FGFR3のp.Pro250Argの病的バリアントを継承した子どもは、親よりも症候が重症であることもあれば、軽症であることもある。同一家系内においても、冠状縫合早期癒合が片側性に現れること、両側性に現れることがあり、また、縫合の癒合がみられない場合もある。
家族計画
出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査
分子遺伝学的検査
FGFR3のp.Pro250Argの病的バリアントが家系内に存在することが判明している場合は、Muenke症候群を対象とした出生前検査や着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。
超音波検査
頭指数、頭蓋骨の形、胎児の顔の形に異常がみられる場合は、頭蓋縫合早期癒合症を疑う必要がある[Tonniら2011]。容易ではないものの、頭蓋冠の縫合の超音波検査により出生前診断が行える可能性もある。縫合の癒合に加えて、Muenke症候群の頭蓋顔面症候(すなわち、中顔面の低形成、眼間開離)が明らかになるようなこともありうる[Shawら2011]。
病的バリアントを有する家系において、出生前超音波検査で頭蓋縫合早期癒合その他の頭蓋顔面症候(すなわち、中顔面の後退、眼間開離)がみられる場合は、Muenke症候群を強く疑う必要がある。
Escobarら[2009]は、双生児に対してMuenke症候群の出生前超音波検査を行い、1人は解剖学的に異常なし、他の1人は先天奇形ありとした。出生後に分子遺伝学的検査を行ったところ、両者ともMuenke症候群であることが判明した。
出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。
現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。
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Craniosynostosis
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A:Muenke症候群:遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体上の座位 | タンパク質 | Locus-Specificデータベース | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
FGFR3 | 4p16.3 | 線維芽細胞増殖因子受容体3 | FGFR3 @ LOVD | FGFR3 | FGFR3 |
データは、以下の標準資料から作成したものである。遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。
表B:Muenke症候群関連のOMIMエントリー(内容の閲覧はOMIMへ)
134934 | FIBROBLAST GROWTH FACTOR RECEPTOR 3; FGFR3 |
602849 | MUENKE SYNDROME; MNKES |
分子レベルの病原
線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)ファミリーは、受容体型チロシンキナーゼの中の1グループである。FGFR1からFGFR4はいずれも、3つの免疫グロブリン様ループから成る細胞外リガンド結合ドメイン、1回膜貫通ドメイン、2つに分かれた細胞内キナーゼドメインを有する。FGFRは、線維芽細胞増殖因子(FGF)と結合して二量体化し、下流の細胞内シグナル伝達経路に影響を及ぼす[Greenら1996]。FGFR3は、発生途上にある内軟骨性骨(付属肢骨格)における軟骨細胞の分化や増殖に対して負の調節を行っている[Ornitz&Marie2002]。
膜性骨(頭蓋冠)形成の遺伝学的背景は複雑で、そこに果たすFGFR3の役割は未だよくわかっていない現状である。FGFR3は、冠状縫合における骨形成の前線で検出されはするものの、FGFR1やFGFR2に比べると低レベルにとどまる[Isekiら1999]。FGFR3が主として発現しているのは、成長軟骨板の成熟軟骨細胞である[Cunninghamら2007]。また、FGFR3のmRNAは、発生途上にある中枢神経系に最も多量にみられる[Robin1999]。これはまた、軟骨内骨化で静止層の時期にあるすべての骨格前駆体中においてもみられる[Robin1999]。
p.Pro250Argの病的バリアントの結果、FGFの結合が亢進されることになる[Ibrahimiら2004]。この病的バリアントは、2番目の免疫グロブリン様ドメインと3番目の免疫グロブリン様ドメインの間のリンカー領域に位置している(図1参照)[Parkら1995,Wilkieら1995]。このリンカー領域の病的バリアントに関するリガンド結合の動力学的研究、ならびにX線結晶解析研究の結果、この病的バリアントによりリガンドの親和性亢進(FGF9)と特異性の変化が生じることが明らかになっている[Cunninghamら2007]。FGFR3の活性化亢進により、骨の分化が加速され、結果として頭蓋縫合早期癒合に至る模様である[Funatoら2001]。
図1:FGFR3タンパク質の模式図
ループは、3つの免疫グロブリンドメインを表している(左から右へ、それぞれIgⅠ,IgⅡ,IgⅢ)。
p.Pro250Argというタンパク質の変化(黒点で示した部分)は、第2免疫グロブリンドメインと第3免疫グロブリンドメインとの間のリンカー領域に生じる。第3免疫グロブリンドメインに続くグレーの箱形は、左から右へそれぞれ、膜貫通ドメイン(小さなグレーの箱形)、第1チロシンキナーゼドメイン(濃色のグレーで示した2つ目の箱形)、第2チロシンキナーゼドメイン(濃色のグレーで示した3つ目の箱形)である[Cunninghamら2007]。
疾患の発症メカニズム
機能獲得型である。
表7:FGFR3にみられる注目すべき病的バリアント
参照配列 | DNAヌクレオチドの変化 | 予測されるタンパク質の変化 | コメント |
---|---|---|---|
NM_000142.5 NP_000133.1 |
c.749C>G | p.Pro250Arg | Muenke症候群関連の病的バリアント |
c.749C>T1 | p.Pro250Leu | 「遺伝学的に関連のある疾患」の項を参照 |
上記のバリアントは報告者の記載をそのまま載せたもので、GeneReviewsのスタッフが独自に変異の分類を検証したものではない。
GeneReviewsは、HumanGenomeVariationSociety(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に準拠している。命名規則の説明については、QuickReferenceを参照のこと。
Gene Reviews著者: PaulKruszka,MD,MPH,MyronRolle,MD,KristopherTKahle,MD,PhD,andMaximilianMuenke,MD,FACMG.
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、石川亜貴(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 2023.3.30. 日本語訳最終更新日:2023.7.16.[in present]
原文: Muenke Syndrome