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MYH9関連疾患(MYH9異常症)
(
MYH9-Related Disorders)

Gene Reviews著者: Anna Savoia, PhD and Alessandro Pecci, MD, PhD
日本語訳者: 箕浦祐子(札幌医科大学大学院医学研究科遺伝医学),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)

Gene Reviews 最終更新日: 2015.7.16.  日本語訳最終更新日: 2020.6.13.

原文: MYH9-Related Disorders


要約

疾患の特徴 

MYH9関連疾患(MYH9RD)は,巨大血小板(血小板の>40%が直径3.9μm)と血小板減少(血小板数<150 x 109/L)を特徴とし,どちらも出生時から観測される.MYH9RDは,若年成人発症の進行性感音性難聴や早発性白内障,肝酵素の上昇,糸球体腎症を初発とする腎疾患などと関連する.MYH9遺伝子変異が原因であると判明する以前は,MYH9RD患者は,診断時の様々な異なる臨床所見に基づき,Epstein症候群,Fechtner症候群,May-Hegglin異常,あるいはSebastian症候群と診断されていた.しかしながら,これらすべてがMYH9遺伝子のヘテロ接合性病的バリアントによるものであり,血液学的徴候以外の症状は遅発性であるために,臨床所見がしばしば生涯にわたって悪化するということがわかってきたため,この4つの病態を1つの疾患とみなすようになり,現在MYH9RDとして認識されるようになった.

診断・検査 

末梢血塗抹標本の免疫蛍光染色分析によって検出される好中球中の典型的なMYH9タンパクの凝集,および/または,MYH9遺伝子のヘテロ接合性病的バリアントの同定により,確定診断となる.好中球中のMYH9タンパクの凝集がみられなければ,MYH9RDは除外診断となる.

診断・検査

症状の治療 活動性出血に対しては,局所的な処置やデスモプレシン(DDAVP),抗線溶薬が適用となる;血小板輸血は,これらの処置で止血困難であるか,致命的な出血,あるいは重症部位での出血の場合に必要となる.難聴や腎症,白内障については,通常の診療と同様に管理する.高度/重度難聴の患者に対しては,人工内耳が有効である.

症状の予防
出血リスク低減のために,手術や侵襲的処置に先行して,血小板輸血,デスモプレシン,抗線溶薬,あるいはエルトロンボパグ(eltrombopag)を使用する;経口避妊薬は過多月経の予防や治療に効果がある可能性がある;定期的な歯科診療は歯肉出血を予防する.

サーベイランス
出血エピソードのある患者では,貧血がないか確認するために,少なくとも6か月ごとの血球計数検査を実施する.すべての罹患者で,1年ごとに尿検査(24時間タンパク量,あるいは随時尿におけるタンパク[アルブミン]/クレアチニン比)と,腎疾患発症に先行する血清クレアチニン濃度を測定する;血清肝酵素測定と聴力検査,眼科的検査は3年ごとに実施する.

リスクのある血縁者に対する評価
その家系特有の病的バリアントが同定されている場合は,分子遺伝学的検査によって,リスクのある新生児をスクリーニングする;もしくは,血小板数と大きさを評価する.

妊娠時のマネジメント.

分娩については,他の病態の血小板減少症の女性と同様に管理する必要がある;安全な分娩のためには,通常血小板数50 x 109/L以上が推奨されている.

遺伝カウンセリング 

MYH9RDは常染色体優性遺伝の形式をとる.およそ35%の罹患者が孤発例であり,その半分がde novoの病的バリアントとして記録されている. MYH9RD患者の子は,それぞれ50%の確率で病的バリアントを受け継ぐ.家系内の病的バリアントがわかっている場合には,妊娠時の出生前診断が可能である.

訳注:日本では,本症に対する出生前診断は行われない.いずれにしても次世代への遺伝に関しては細心の遺伝カウンセリングが必要である.


本稿の記載範囲

MYH9関連疾患 には以下の病態が含まれる.1
  • Epstein症候群
  • Fechtner症候群
  • May-Hegglin異常
  • Sebastian症候群

同義語と旧名については,Nomenclature(病名)を参照すること.

1. これらの表現型の他の遺伝的要因については,鑑別診断を参照のこと


診断

MYH9関連疾患(MYH9RD)は,共通の分子遺伝学的基盤が判明する以前は,先天性巨大血小板性血小板減少症に関連する別々の病態として考えられていた.

MYH9RDが疑われる所見
以下の臨床所見や検査所見のある患者では,MYH9関連疾患(MYH9RD)を疑うべきである.

臨床所見

  • 血小板減少症の症状
    • 痣ができやすい
    • 特発性粘膜皮下出血
    • 止血処置後の過剰出血(大手術または小手術,分娩,抗血小板薬治療時)
  • 感音性難聴. 難聴を検出するための聴力検査の方法については,遺伝性難聴および聾概説を参照のこと.
  • 腎不全の可能性のある糸球体腎症(下記の検査所見参照)
  • 早発性白内障(細隙灯顕微鏡評価で検出された青年期または中年期発症のもの)
  • 常染色体優性遺伝形式をとる家族歴

注:MYH9RDの家族歴がなくても,除外診断にはならない.

検査所見

  • 一般的な血球計数検査で血小板減少がみられる.(血小板数<150 x 109/L [基準値:150~400 x 109/L])

・止血処置後の過剰出血(大手術または小手術,分娩,抗血小板薬治療時)

  • 従来の(May-Grünwald-Giemsaなどの)染色後,末梢血塗抹の顕微的評価で以下の所見がみられる. 
    • 大型血小板(血小板の直径中央値が>3.7μmかつ/または,血小板の>40%が直径>3.9μm[赤血球の半分程度])
       注:自動血球計数装置ではMYH9RD患者の巨大血小板は認識できず,血小板数および大きさが過小評価となる.
    • 好中球細胞質中のデーレ様小体(Döhle-like bodies)(微量,感染症患者でみられるようなデーレ小体様の淡青の好塩基性封入体)
       注:デーレ様小体は,MYH9RD患者の42-84%にみられる.これらは非常に微量で,かつ/または小さいため,検出されないこともある[Kunishima et al 2003Seri et al 2003].
  • 末梢血塗抹の免疫蛍光染色で,好中球の細胞質内にMYH9タンパクの凝集体が観測される.これらの凝集体は:
  • 肝酵素値の上昇(血清アラニンアミノトランスフェラーゼ[ALT],および/または,アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[AST],時折γ-グルタミルトランスフェラーゼ[GGT/γ-GTP])
  • 尿検査で蛋白尿と顕微鏡的血尿を認める.

注:蛋白尿は腎障害の前兆である.

  • 血清クレアチニン濃度の上昇(腎障害の進行と末期腎不全[ESRD]のリスクを示す)

確定診断

MYH9RDの診断は,末梢血塗抹の免疫蛍光染色分析で好中球中に典型的なMYH9タンパクの凝集体が検出される,かつ/または,MYH9のヘテロ接合性病的バリアントの同定により確定する( Table 1参照).
分子遺伝学的検査は,単一遺伝子検査マルチジーンパネルがある.

単一遺伝子検査. まず初めにMYH9の配列解析を行い,病的バリアントが検出されなければ,標的遺伝子欠失/重複解析を行う.
配列解析やエクソン番号のつけ方の段階的アプローチ法は,研究室ごとに多様である(分子遺伝学の項のエクソン番号情報参照).

  • 第一段階.MYH 9をコードする40のエクソンのうち,84%の症例で病的バリアントが検出される5つのエクソンを最初にシーケンスする.アミノ酸残基96(エクソン1),702(エクソン17),1165(エクソン27),1424(エクソン31),1841(エクソン39)のミスセンスの病的バリアント,またはエクソン41のナンセンスまたはフレームシフトの病的バリアントは,罹患者の79%でみられる( Table 2参照).
  • 第二段階.第一段階の検査で病的バリアントが検出されなければ,残りの16%で病的バリアントが検出される,エクソン2, 11, 25, 26, 32, 33, 35, 38も解析する.
  • 第三段階.第一または第二段階の検査で病的バリアントが検出されなければ,全コードエクソンの配列解析を行う.

MYH9および関係のありそうなその他の遺伝子(鑑別診断参照)を含むマルチジーンパネルを考慮してもよい.注:(1)パネルに含まれる遺伝子の種類や各遺伝子に用いられる検査の診断感度は, 検査機関によって異なり,経時的に変化する可能性がある.(2)マルチジーンパネルによっては,このGeneReviewで扱っている病態に関連のない遺伝子が含まれている;そのため,意義不明のバリアントや根本的な表現型を説明しえない病的バリアントの検出などの制約のある中,医師はどのマルチジーンパネルが,最適なコストで,当該病態の遺伝的要因を検出できそうか,見極める必要がある.(3)パネルで用いられる手法には, 配列解析, 欠失/重複解析や/または,他の配列に基づかない検査がある.

マルチジーンパネル検査に関する概論はここをクリック. 遺伝学的検査を発注する臨床医向けのより詳細な情報についてはこちらを参照のこと.

Table 1. 
MYH9関連疾患に用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 検査方法 この方法により検出可能な病的バリアント2を有する割合
MYH9 配列解析3,4 98%5,6
標的遺伝子欠失/重複解析7 不明8
  1. 染色体座位とタンパク質については,Table A. 遺伝子とデータベース参照
  2. この遺伝子上で検出されるアレルのバリアント情報については,分子遺伝学の項参照
  3. 配列解析で検出されるバリアントは,良性 (benign), おそらく良性 (likely benign), 意義不明 (variant of uncertain significance, VUS), おそらく病的 (likely pathogenic), 病的 (pathogenic)がある. 病的バリアントには小規模な遺伝子内欠失/挿入やミスセンス, ナンセンス, スプライス部位バリアントが含まれる. 通常, エクソンや全遺伝子の欠失/重複は検出されない. 配列解析結果に対する解釈について考慮すべき問題については,ここをクリック.
  4. 配列解析は,はじめは病的バリアントが最もよく検出されるエクソンに絞って,次にこれまでに病的バリアントが同定されているエクソンを,最後に残りの遺伝子を調べるという,段階的アプローチ法により行われることがある.
  5. 罹患者:好中球にMYH9タンパクが凝集分布している者[Savoia et al 2010]
  6. 臨床所見からMYH9RDが疑われるが,免疫蛍光染色でMYH9タンパクの凝集が認められなかった2つの症例研究(それぞれ36名,39名の患者)では,MYH9の病的バリアントは1つも検出されなかった [Savoia et al 2010Kitamura et al 2013].
  7. 標的遺伝子の欠失/重複解析では, 遺伝子内の欠失や重複が検出される. 検査方法は, 定量的PCR, ロングレンジPCR, MLPA(multiplex ligation-dependent probe amplification)法, 単一エクソンの欠失や重複の検出を目的とする標的遺伝子マイクロアレイなどである.
  8. エクソン25の 欠失をもたらす1,220塩基の広範囲の欠失がMYH9で同定されているため [Kunishima et al 2008b],配列解析でMYH9病的バリアントが検出されなかったが濃厚な臨床歴のある家系においては,標的遺伝子の欠失/重複解析が適している可能性がある.

臨床的特徴

臨床像

すべてのMYH9関連疾患(MYH9RD)罹患者において,出生時より巨大血小板性血小板減少症がみられる.血小板直径の中央値は,健常な対照群55名では2.6μm(95%信頼区間,2.4-2.7)だったのに対し,MYH9RD125名では4.5μm(95%信頼区間,4.2-4.8)だった [Noris et al 2014a].血小板減少症の症状は,軽度から重度まで幅広く,生涯にわたって持続する.血小板数は,MYH9RD患者の一部で,基準値の下限範囲内の値が報告されている.そのため,すべての罹患者に共通してみられる所見は巨大血小板のみである.

特発性出血傾向の有無や重症度は血小板減少の程度と相 関 している.多くの罹患者では特発性出血はみられないか,痣ができやすい程度である. MYH9RD患者の28%では,鼻出血,歯肉出血あるいは,過多月経のような特発性粘膜皮下出血が起きる[Pecci et al 2014a].致命的な出血は稀である.
MYH9RDの非先天性の症状は,幼少期~成人期を通して,いつでも起こりうる.罹患者100人当たりの年間発症は,感音性難聴が1.71人,腎症が0.77人,白内障が0.57人である(例えば1年間にMYH9RD患者の0.57%が白内障を発症する) [Pecci et al 2014a] .肝酵素の変化は,検査を受けたMYH9RD患者の50%でみられている [Pecci et al 2012a].

感音性難聴. 難聴の発症時期は,0歳~50歳代の間で一様に分布している.難聴を発症した人の中で,36%は20歳未満で,33%は20~40歳で,31%は40歳以降で発症している.診断後は,しばしば経時的に難聴が進行するが,一部,少数ではあるが症状が安定する者もある [Verver et al 2016].日常生活動作に支障をきたす難聴は,聴力検査で異常のみられた患者の90%にみられる.

糸球体腎症は、蛋白尿と顕微鏡的血尿を呈する。しかしながら,MYH9RDでは,血尿は腎疾患よりも血小板減少に起因している可能性がある;それゆえ,蛋白尿は糸球体病変のより信頼性の高い指標となる.発症中央値は27歳である.腎疾患を発症した患者の72%は35歳未満で診断されている.腎症を発症した罹患者の多くは,腎障害が進行して末期腎不全に発展する(ESRD).腎症を発症した罹患者100人当たり年間6.79人がESRDに進行する.追跡期間中央値36か月後では,61名の腎症患者の64%が腎不全になり,43%がESRDに 進展した [Pecci et al 2014a].

白内障. 白内障の発症中央値は37歳であるが,先天性の病態も報告されている.多くの症例では,白内障は両側性であり,経時的に進行する.

肝酵素値の上昇. ASTおよび/またはALTが上昇するが,通常,時間が経過しても安定している (GGT/γ-GTPの上昇も関連する可能性がある).一部の罹患者では,正常の酵素レベルを呈することもある.罹患者における肝機能障害の進行は報告されていない[Pecci et al 2012aFavier et al 2013a].

遺伝型と表現型の関連

家系特異的なMYH9の病的バリアントの同定により,非先天性の症状の発症リスクを評価する一助となりうる.
MYH9タンパクの頭部ドメインに病的バリアントをもつ罹患者は,尾部ドメインに病的バリアントをもつ者より,より重症の血小板減少症を呈する.腎障害や難聴,白内障を発症するリスクも,特定のMYH9病的バリアントに依存する [Pecci et al 2014a].分子遺伝学の項の,ドメイン構造による通常の遺伝子産物および,分子遺伝学,病的バリアント,Table 2参照.

  • 頭部ドメインの短い機能的なSH1ヘリックス領域the short functional SH1 helixに位置する,コドン702のアルギニン残基における病的バリアントは,最も重症の表現型と関連する.Arg702置換の患者では,重症の血小板減少症(通常,血小板数<150 x 109/L)を呈し,全例が40歳未満で腎症と難聴を発症すると予測される.さらに,これらの患者では一般的に腎症が早急にESRDに進行する.
  • p.Asp142His置換は,中間~高リスクの非先天性症状に関連する.p.Asp142Hisバリアントをもつ罹患者の多くは60歳未満で腎障害を発症し;60歳までに全例において難聴を発症すると考えられ;白内障のリスクは他の遺伝型よりも高い.
  • SH3様モチーフとモータードメインの間の境界にある残基,あるいは1165のアルギニン残基の置換( Table 2参照)に起因する病的バリアントでは,難聴のリスクは高く,腎症および白内障リスクは低い.
  • p.Asp1424およびp.Glu1841Lys置換 は,非ヘリックス構造の尾部領域nonhelical tailpiece(α-helical coiled-coil構造がほどけた領域)が変化した ナンセンスあるいはフレームシフトの病的バリアント と同様に,非先天性の症状を発症するリスクは低い[Pecci et al 2014a].

今のところ,肝酵素の変化を起こす遺伝型と表現型の関連はみつかっていない [Pecci et al 2012a].

浸透率 

以下の先天的な所見については完全浸透である.

  • 巨大血小板
  • 好中球中のMYH9タンパクの凝集

従来の血小板減少症のカットオフ値(150 x 109/L)をわずかに上回る少数の例を除き,血小板減少症はこの疾患において先天的にみられる.
感音性難聴や糸球体腎症,早発性白内障,肝酵素値の変化について,その発症時期や重症度は様々である.

病名

以前は,MYH9RDに含まれる病態は以下のものとして知られていた.

  • Epstein 症候群
  • Fechtner 症候群
  • May-Hegglin異常
  • Sebastian 症候群(Sebastian血小板症候群)

巨大血小板を伴う血小板減少症を特徴とするこれら4つの疾患は,デーレ様小体やその他のMYH9RDの症状(難聴,糸球体腎症,白内障)の組み合わせによる形態学的側面に基づいて分類されていた.しかしながら,MYH9病的バリアントを持つ人の表現型はしばしば経時的に変化するため,新たな所見が表れるたびに診断が変化しうる.さらに,この4つの疾患は,ヘテロ接合性MYH9病的バリアントによってもたらされうるすべての症状を定義しているわけではない.また,同じ家系内であっても,異なる表現型を呈し,MYH9RDスペクトラムにおける異なる診断を受ける可能性がある.これらの理由から,好中球の表現型(デーレ様小体のような形態学的側面など)や臨床所見(遅発性の非血液学的所見)に関わらず,ヘテロ接合性MYH9病的バリアントを持つすべての者を包括するMYH9RDが新たな疾病分類として提案された [Seri et al 2003].

頻度

MYH9RDは非常にまれな疾患であると認識されている.イタリアのMYH9RDレジストリには180名のイタリア人患者が登録されており,イタリアでの頻度は10万人に3人程度であることが示されている.軽症者は偶発的にしか発見されず,重症者はしばしば他の疾患と誤診されるため,正確な頻度はこれよりも高いと考えられる.
MYH9RDは世界中で診断されており,人種による頻度の違いがあるというエビデンスはない.


遺伝学的に関連する疾患

血小板減少を伴わない非症候群性優性遺伝性難聴であるDFNA17は,MYH9病的バリアントとの関連が知られる唯一の別の表現型である.1つの病的バリアントNM_002473.5 : c.2114G>A (p.Arg705His)が無関連の2家系から同定されている [Lalwani et al 2000Hildebrand et al 2006] (遺伝性難聴および聾概説参照)が,p.Arg705His病的バリアントを持つ別の4家系では,巨大血小板性血小板減少症と好中球のMYH9凝集および感音性難聴を伴っている [Saposnik et al 2014Verver et al 2015].


鑑別診断

先天性の血小板減少および巨大血小板を呈するすべての患者において,MYH9関連疾患(MYH9RD)を疑うべきである.幼少期あるいは成人してから偶発的に巨大血小板性血小板減少症が見つかり,その症状が先天的なものか後天的なものかを判断するための,過去の血小板数検査の結果がない場合もこの疾患の鑑別を考慮する.
家系内で新規に(de novo)病的バリアントが見つかる頻度が高い(~35%)ため,他の家系員に血小板減少症患者がいなくてもMYH9RDを除外することにはならない [Balduini et al 2011].
MYH9RDの診断は,Ⅳ型コラーゲン関連腎症ならびに,後天性/先天性血小板減少症との鑑別を考慮するべきである.

後天性血小板減少症. MYH9RDと後天性血小板減少症との鑑別は難しく,多くのMYH9RD患者が特発性(自己免疫性)血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura;ITP)と誤診されている.このことにより,MYH9RDには効果のない治療(免疫抑制剤や脾臓摘出術)がおこなわれている.MYH9RD患者の血小板はITP患者より明らかに大きいため,血小板減少症の家族歴がないあるいははっきりしない場合であっても,MYH9RD患者とITP患者を区別する上で,末梢血スライドの評価は簡単で効果的な手法である.具体的には,ITPとMYH9RDを区別するために用いられる,血小板の直径中央値>3.7 µmは,感度86%,特異度87%である.また,直径>3.9 µm(赤血球の半分程度)の血小板の割合が40%以上では,ITPとMYH9RDの鑑別の感度は85%,特異度87%である[Noris et al 2014a].

先天性血小板減少症. 以下の巨大血小板を伴う血小板減少症は,MYH9RDとの鑑別診断が必要である.

  • Bernard-Soulier 症候群(BSS(OMIM 231200), 血小板膜糖タンパク(GP)であるGRVとともにフォン・ヴィレブランド因子受容体GPIb/IX/Vのサブユニットを構成する,同じくGPのGPIbα, GPIbβ, およびGPIXをコードする遺伝子の病的バリアントに起因する常染色体劣性非症候性血小板減少症である.BSS患者の血小板は,MYH9RDと同様に巨大であることがある.Bernard-Soulier 症候群は,(1)in vitroのリストセチン刺激後の血小板凝集不全,および(2)フローサイトメトリーによって検出される血小板表面のGPIb/IX/V複合体の欠損あるいは重度の減少によって認識される.これまでに200例以上の分子診断の症例が文献に報告されている.
  • 灰色血小板症候群(gray platelet syndrome; GPS)(OMIM 139090), NBEAL2の病的バリアントに起因する非常に稀な常染色体劣性非症候性血小板減少症である.灰色血小板症候群を決定づけるのは,α顆粒が消失することによる末梢血スライド上の“淡い”血小板の所見である.血小板の電子顕微鏡検査または,NBEAL2の両側性の病的バリアントの所見により,診断を確認する.これまでにおよそ30家系が報告されている.
  • GATA1関連X連鎖性血球減少症, 軽度~中等度の溶血性貧血を特徴とする稀な病態で,時折ヘテロ接合性βサラセミアのようなヘモグロビンの変化を起こす.これまでに14家系が報告されている.

Ⅳ型コラーゲン関連腎症には,X連鎖型,常染色体(優性/劣性)型のアルポート症候群,菲薄基底膜腎症などがある.後者は主に持続性の顕微鏡的血尿を特徴とし,腎不全に至ることは稀である一方,アルポート症候群は,顕微鏡的血尿から蛋白尿,進行性腎不全,ESRDへと発展する腎疾患を伴う.また,進行性感音性難聴(一般的に小児後期または思春期前半に発症),前円錐水晶体,黄斑部網膜病変,角膜内皮細胞の小水疱様所見,再発性角膜びらんなど,腎外の異常所見も特徴的である.血小板減少は早期のアルポート症候群や菲薄基底膜腎症では報告されていない.そのため,巨大血小板性血小板減少症を伴う腎症では,MYH9RDを強く疑うべきである.


マネジメント

最初の診断後の評価

MYH9関連疾患(MYH9RD)と診断された人の疾患の程度と必要な治療を確かめるために,以下の検査が推奨されている:

  • 血小板減少症の程度を判断するための血小板数の顕微鏡的評価(血球計算盤をつけた位相差顕微鏡)
  • 出血エピソードのある患者では,貧血を調べるための全血球計数検査
  • 貧血のある患者では,鉄欠乏を調べるための血清中の鉄およびフェリチン濃度
  • 聴覚検査

重度の難聴から聾の患者では,語音聴力検査speech recognition tests

  • 血清AST,ALT,GGT(γ-GTP)濃度の測定
  • 24時間尿中タンパク量,あるいは随時尿におけるタンパク(アルブミン)/クレアチニン比と,血清クレアチニン濃度測定を含む尿検査
  • 腎障害と診断されている患者では,腎疾患の重症度に応じた検査
  • 眼科的検査
  • 臨床遺伝専門医あるいは遺伝カウンセラーへの紹介

症状に対する治療

出血傾向

  • 局所的な処置は粘膜皮下出血に対する第一選択の治療であり,軽度または中等度の出血をコントロールするのには十分であることが多い.局所的な処置には,ガーゼ圧迫留置や鼻出血に対する内視鏡的焼灼止血法;偶発的外傷に対する縫合;皮膚出血に対するトラネキサム酸に浸したガーゼの塗布および圧迫などがある.トラネキサム酸を用いたうがいは,歯肉出血を抑える可能性がある.
  • 血小板濃厚液の輸血は,今のところ,一過性に血小板数を増加させるために使用される.血小板輸血は同種異系免疫や血小板輸液に対する後遺症,感染症,急性反応などを惹起するリスクがある.それゆえ,血小板輸血は他に手段のない活動性の出血や致命的な出血,および/または重症部位の出血に対してのみ行われるべきである.また,血小板濃厚液は手術前やその他の主要な出血ストレスに対する予防としても用いられる.同種異系免疫の予防または克服のために,可能であれば,HLA型の適合するドナーからの血小板を用いることが望ましい.
  • エルトロンボパグ. MYH9RDおよび重症の血小板減少症患者12名の参加した第2相試験では,血小板の生成を刺激する天然のホルモンを模倣した経口薬であるエルトロンボパグは,血小板数を増加させ,多くの症例において出血傾向がなくなった [Pecci et al 2010].その後,大手術前の成人1名とMYH9RDで重度の血小板減少症の小児1名にエルトロンボパグの短期投与をおこない,成功している [Pecci et al 2012bFavier et al 2013b].現時点では,この薬はUSとヨーロッパにおいて,ある病態における後天性の血小板減少症患者にのみ承認されている.
  • デスモプレシン(1-デアミノ-8-D-アルギニン-バソプレシン, DDAVP は,MYH9RD患者において出血時間を短縮させた [Balduini et al 1999].DDAVPを予防的に投与した手術の成功例が報告されている [Pecci et al 2014b].すべての罹患者がこの治療に反応するわけではないため,この治療が将来的な出血エピソードに有効もしくは,侵襲的処置施行時の出血を予防しうるかを見極めるため の試験投与 が推奨されている.

難聴. MYH9RDの確定診断と重症難聴~聾の計11名の患者が人工内耳埋込術を受けた [Pecci et al 2014bNabekura et al 2015].うち10名は人工内耳が有効に働き;9名は実質的に正常な聴力および言語伝達能力が回復した.

糸球体腎症

  • 腎不全の4名の罹患者では,アンギオテンシン受容体拮抗薬および/またはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬による治療で蛋白尿が大幅に減少した [Pecci et al 2008].この治療法がESRDの発症を予防するのか,遅らせるのかを結論づけるのは時期尚早である.
  • ESRD患者に対しては,透析または腎移植が必要となる.

白内障. 白内障の手術によって,水晶体の懸濁が改善される.

肝酵素の上昇に対しては,特別な治療は必要としない.

主な症状に対する予防

血小板減少症は予防できない;しかし,血小板機能に影響する薬剤について教育をすることで,出血のリスクを大幅に減らすことができる(避けるべき薬剤/環境の項参照).
手術や侵襲的処置の際は,患者ごとの血小板数や出血歴に応じて,血小板輸血やデスモプレシン,抗線溶薬,あるいはエルトロンボパグなどを事前に準備するべきである.
経口避妊薬はしばしば過多月経の予防や調整に効果的であるが,血栓のリスクが増加し, MYH9RD患者においても報告されている.それゆえ,経口避妊薬の使用については,リスクとベネフィットのバランスを考慮する必要がある[Heller et al 2006Nishiyama et al 2008Girolami et al 2011].
定期的な歯科診療と口腔衛生は,歯肉出血予防の基本である.

サーベイランス

以下の間隔を最大として,下記検査を実施する:
6か月ごと. 出血エピソードのある罹患者においては,貧血を調べるために血球計数検査を実施;再発性多量出血の症例ではより頻回の検査が望ましい

1年ごと

  • 尿検査(24時間タンパク量,あるいは随時尿におけるタンパク[アルブミン]/クレアチニン比)
  • 血清クレアチニン濃度測定
  • 腎不全患者については,腎臓内科への紹介

3年ごと

  • 聴力検査.難聴が確認されれば,フォローアップ評価の頻度は,治療を行っている聴力専門医によって決定される.
  • 眼科的評価.白内障が確認されれば,評価の頻度は,治療を行っている眼科専門医によって決定される.
  • 血清AST, ALTおよび GGT(γ-GTP)の測定
    • 肝酵素値が変化した患者については, 肝障害の他の要因がないか調べるべきである.
    • 他の要因がなければ,肝酵素測定の頻度は変化の度合いに応じて決定する.

避けるべき薬剤および環境
出血傾向

  • 薬剤. 血小板の機能や血液凝固を阻害する薬剤.
    • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),特にアスピリンは血小板凝集の強力な阻害剤である.
    • その他,一部の抗菌薬を含む,血小板機能を阻害する物質;心血管薬,向精神薬,がん治療薬;血小板のcAMPに影響を与える薬;一部の麻酔薬,抗ヒスタミン薬,およびX線造影剤
        注:(1)血小板機能を阻害する薬剤は,リスクとベネフィットを注意深く評価した上でのみ処方されるべきである.(2)医師はMYH9RD患者の出血リスクを増大させる,その他のいかなる薬剤も処方を避けるよう心がけるべきである.(3)MYH9RD患者は,血栓塞栓症を起こしうる[Girolami et al 2011].(ヘパリンのような)抗血栓薬を使用する際は,それぞれの罹患者の全体の臨床像から考えられるリスクに応じて,慎重にバランスをとる必要がある.
  • 環境. 中等度~重度の血小板減少症の患者は,外傷のリスクの高い活動(例えば,コンタクトスポーツ)は避ける.

難聴

  • 薬剤. 耳毒性薬剤(例えば,アミノグリコシド系抗菌薬,大量のサリチル酸塩,ループ利尿剤,化学療法レジメンで使用される一部の薬剤).これらは,リスクとベネフィットを注意深く評価した上でのみ処方されるべきである.
  • 環境. 有害騒音への暴露.騒音への暴露を避けられない場合は,激しい音量を低減させるためにイヤーデバイス(耳栓やヘッドフォンなど)を使用する.

腎症

  • X線造影剤や抗菌薬,NSAIDs,利尿剤,がん治療薬のような腎機能を傷害しうる薬剤.腎障害と診断されている,あるいは腎障害の高いリスクと関連するMYH9病的バリアントを持つ患者においては特に,これらの薬剤のリスクとベネフィットを慎重に考慮すべきである.

白内障

  • 薬剤. 白内障の原因となりうる,グルココルチコイドおよび放射線治療.

肝酵素の上昇

  • 薬剤. 肝酵素値が上昇している患者では,肝毒性の可能性のある薬剤を使用する際は,リスクとベネフィットを考慮する.

リスクのある血縁者の評価

リスクのある血縁者については,治療の開始や予防策が有益であるため,可能な限り早期に評価を行うことが望ましい.

  • MYH9RDのリスクがあれば,出血のリスクを同定するために,新生児期に血小板数と大きさを評価する.
  • 家系内特異的な病的バリアントが判明していれば,リスクのある家系員に対する分子遺伝学的検査が可能であるため,早期診断につながり,治療に役立てられる.

遺伝カウンセリングの目的である,リスクのある血縁者を検査することに関する問題は, Genetic Counselingを参照のこと.

妊娠中の管理

分娩については,他病態の血小板減少症の女性と同様に管理する(MYH9RDは通常,血小板機能は損なわれない).妊娠前の血小板減少症や出血歴が重症である女性では,分娩に関連した出血が高率で発生することが予測される.一般に,安全な出産のためには,血小板数≥50 x 109/Lが推奨される.重度の血小板減少症の女性における経膣分娩では,新生児頭蓋内出血のリスクが増加することを考慮するべきである [Noris et al 2014b].

現在研究中の治療

広範な疾患や症状の臨床研究に関する情報は, アメリカではClinicalTrials.govを, ヨーロッパでは www.ClinicalTrialsRegister.euを参照のこと. 注:この疾患に関する臨床試験は現在行われていない.


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

MYH9関連疾患(MYH9RD)は,常染色体優性遺伝形式をとる.

患者家族のリスク

発端者の両親

  • MYH9RDと診断された患者の約65%は, 罹患した親がいる.
  • MYH9RDの発端者では,新規de novoMYH9病的バリアントに起因して発症する者もいる;罹患者の35%は孤発例(家系内で1人だけ発症している)であり,その半分は新規de novoの病的バリアントを有していることが判明している [Balduini et al 2011].

    注: 35%の発端者が,新規de novoの病的バリアントに起因した孤発例であることから,巨大血小板性血小板減少症の家族歴がないことは,MYH9RDの診断を除外することにはならない [Balduini et al 2011].

  • 発端者で見つかった病的バリアントが両親の白血球DNAに検出されなかった場合,発端者のバリアントが新規de novoの病的バリアントであるか,片方の親の体細胞/生殖細胞系列モザイクの2つの理由が考えられる.生殖細胞系列モザイクおよび,生殖細胞系列を含む体細胞モザイクのどちらも既報がある [Kunishima et al 2005Kunishima et al 2009Kunishima et al 2014] (注参照).
  • 明らかな新規de novoの病的バリアントを有する発端者の両親に対して,家系特有の病的バリアントが判明している場合は,分子遺伝学的検査などの評価が推奨される.あるいは,家系特異的な病的バリアントがわからないか,片方の親で体細胞モザイクに起因する軽症の表現型が疑われる場合は,血液検査(血小板数や大きさの評価や好中球中のMYH9タンパクの分布など)を考慮する.
  • 明らかに健康な両親の場合,家系内の正確な遺伝カウンセリングのための評価を慎重に行わなければならない.両親を検査することにより,医療職がこの疾患について知識がなかったり,かつ/または,表現型が軽症だったりすることで,これまで診断がついていなかった片方の親の罹患が判明する可能性がある. それゆえ,分子遺伝学的検査および/または適切な血液検査を実施するまでは,家族歴がないとは言い切れない.

    注:病的バリアントが親で最初に発生している場合,彼/彼女は病的バリアントの体細胞モザイクである可能性があり,軽度/最小限の影響を受けうる.2つの家系において,典型的なMYH9RD患者の明らかに健康な両親が,新規de novoの体細胞病的バリアントを有しており,好中球中のMYH9凝集は14%と24%だったが,血小板減少はみられなかった [Kunishima et al 2005Kunishima et al 2014].別の家系では,重度の症候性表現型を呈する発端者の父に,体細胞モザイクに関連する軽度の巨大血小板性血小板減少症がみられた [Gresele at al 2013].

発端者の同胞

発端者の同胞のリスクは,両親の状態に依存する: 

  • 発端者の親が罹患していれば,同胞のリスクは50%である.
  • 両親が臨床的に罹患していない場合,同胞のリスクは低くなる.
  • 発端者で見つかった病的バリアントが両親の白血球DNAに検出されなかった場合,同胞のリスクは低いが,親の生殖細胞系列モザイクの可能性もあるため,一般集団におけるそれよりは高い.

発端者の子

MYH9RD患者の子どもはいずれも,MYH9病的バリアントを受け継ぎ,罹患する可能性は50%である.

発端者の他の家族

他の家系員におけるリスクは,発端者の両親の状態に依存する:親が罹患していれば,彼または彼女の家系員はリスクがある可能性がある.

遺伝カウンセリングに関連した問題

早期診断・早期治療を目的とした,リスクのある血縁者の評価に関する情報は,“マネジメント”および“リスクのある血縁者の評価”の項,参照.

明らかな新規de novoの病的バリアントの家系における考慮事項. 常染色体優性遺伝形式において発端者の親が病的バリアントを有しておらず,臨床的に証明された疾患がなければ,その病的バリアントは新規de novoと考えられる.しかしながら,精子提供や代理母(生殖補助医療など), 非公開の養子縁組などの非医学的解釈も考慮される

家族計画

  • 遺伝学的リスクの決定や出生前検査の可能性についての話し合いは妊娠前に行うのが適切である.
  • 罹患しているあるいはリスクのある若年成人に対し, 遺伝カウンセリング(子どもの潜在的リスクや生殖に関する選択肢を含む議論)を行うのが適切である.

DNAバンキングは, 将来的に使用するためにDNA(通常は白血球から抽出されたもの)を保管しておくことである. 遺伝子やアレルバリアント, 疾患についての検査手法や理解が将来改善する可能性があるため, その時のために罹患者のDNAを保管することは考慮すべきである.

出生前診断および着床前の遺伝学的診断

罹患した家系員にMYH9病的バリアントが同定されていれば,MYH9RDのリスクの高い妊娠における出生前診断および着床前の遺伝学的診断は可能である.
医療の専門家の間や家族内においても,特にそれが早期診断ではなく妊娠中絶を目的とした場合には,出生前診断に対する考え方の相違が存在しうる. ほとんどの施設では出生前診断を行うか否かの決断は両親に委ねているが, この問題に関しては議論することが適切である.
(訳注:日本ではMYH9RDにおける出生前診断および着床前診断は行われていない)   


関連情報

GeneReviewsスタッフは罹患者と家族のための疾患特異的および/または支持組織および/または登録所を選別した. GeneReviewsは他団体による情報について責任を負わない. 情報の選別基準はここをクリック.

  • American Society for Deaf Children (ASDC)

800 Florida Avenue Northeast
Suite 2047
Washington DC 20002-3695
Phone: 800-942-2732 (Toll-free Parent Hotline); 866-895-4206 (toll free voice/TTY)
Fax: 410-795-0965
Email: info@deafchildren.org; asdc@deafchildren.org
www.deafchildren.org

  • Medline Plus

Thrombocytopenia

  • National Association of the Deaf (NAD)

8630 Fenton Street
Suite 820
Silver Spring MD 20910
Phone: 301-587-1788; 301-587-1789 (TTY)
Fax: 301-587-1791
Email: nad.info@nad.org
www.nad.org

  • National Eye Institute

31 Center Drive
MSC 2510
Bethesda MD 20892-2510
Facts About Cataract

  • National Kidney Foundation (NKF)

30 East 33rd Street
New York NY 10016
Phone: 800-622-9010 (toll-free); 212-889-2210
Email: info@kidney.org
www.kidney.org

  • Platelet Disorder Support Association (PDSA)

8751 Brecksville Road
Suite 150
Cleveland OH 44141
Phone: 877-528-3538 (toll-free); 440-746-9003
Fax: 844-270-1277
Email: pdsa@pdsa.org
www.pdsa.org

  • Italian Registry of MYH9-Related Disease

Clinica Medica III IRCCS Policlinico
San Matteo Foundation
Piazzale Golgi, 2
Pavia 27100
Italy
Phone: +39 0382.526284; +39 0382 501358
Fax: +39 0382 526223
Email: c.balduini@smatteo.pv.it; alessandro.pecci@unipv.it
www.registromyh9.org


分子遺伝学

分子遺伝学およびOMIMの表の情報はGeneReviewの他の情報と異なることがある. 表にはより最近の情報が含まれていることがある.

Table.A
MYH9関連疾患:遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体座位 タンパク質 座位特異的データベース HGMD ClinVar
MYH9 22q12​.3 Myosin-9 Hereditary Hearing Loss Homepage (MYH9)
MYH9 database
MYH9 MYH9

データは以下の標準的参照資料をもとに作成した. 遺伝子は HGNC, 染色体座位は OMIM, タンパク質は  UniProtを参照した. リンクが提供されたデータベース(Locus Specific, HGMD , ClinVar )の詳細についてはここをクリック.

Table.B
MYH9関連疾患に関するOMIMの情報 (View All in OMIM)

155100 MACROTHROMBOCYTOPENIA AND GRANULOCYTE INCLUSIONS WITH OR WITHOUT NEPHRITIS OR SENSORINEURAL HEARING LOSS; MATINS
160775 MYOSIN, HEAVY CHAIN 9, NONMUSCLE; MYH9

遺伝子の構造. 

MYH9は41のエクソンで構成されている.1番目のエクソンはアミノ酸をコードしていない; 読み枠を開始する最初のメチオニンはエクソン2にある.エクソン番号は検査をする研究室により,様々に異なる.遺伝子とタンパク質の詳細な概要は, Table A, 遺伝子の欄を参照.

良性バリアント. Table 2参照.

病的バリアント

Table 2参照.病的バリアントはMYH9タンパクの頭部あるいは尾部ドメインをコードする領域に発生する(正常な遺伝子産物参照).頭部ドメインに関わるほとんどすべての病的バリアントは,1つか2つの特異的な領域にみつかる一塩基置換である:(1)クラスター化して共にSH3様モチーフとモータードメインの間にある各々の疎水性界面を形成する残基のグループ,Trp33, Val34, Asn93, Ala95,Ser96など; または(2)モータードメインの短いSH1ヘリックスに位置するArg702残基 [Eddinger & Meer 2007Balduini et al 2011Pecci et al 2014aSaposnik et al 2014] (正常な遺伝子産物参照).尾部ドメインに関わる病的バリアントの多くは,コイルドコイル領域の一塩基置換か,C末端の非ヘリックス構造の尾部領域 の欠失および/または変異に起因するナンセンス/フレームシフトバリアントである[Balduini et al 2011Pecci et al 2014aSaposnik et al 2014].少数の家系で,通常コイルドコイルのN末端タンパクをコードする領域で,短いインフレーム欠失または重複がみつかっている [Balduini et al 2011Pecci et al 2014a].およそ80%の罹患者の病的バリアントが,たった6つの残基に関連している: 頭部ドメインのSer96,Arg702;尾部ドメインのArg1165, Asp1424, Glu1841, Arg1933 [Balduini et al 2011].

Table.2
注目すべきMYH9バリアント

バリアント分類 DNA塩基変化 MYH9タンパクドメイン MYH9 タンパク領域 予測されるタンパク質の変化 参照配列
Benign c.2900T>A 尾部 Coiled-coil p.Val967Glu NM_002473​.4
NP_002464​.1
c.4876A>G 尾部 Coiled-coil p.Ile1626Val
Pathogenic c.279C>G 頭部 SH3/MD i p.Asn93Lys
c.287C>T 頭部 SH3/MD i p.Ser96Leu
c.2104C>T 頭部 SH1 helix p.Arg702Cys
c.2105G>A 頭部 SH1 helix p.Arg702His
c.3493C>T 尾部 Coiled-coil p.Arg1165Cys
c.3494G>T 尾部 Coiled-coil p.Arg1165Leu
c.4270G>C 尾部 Coiled-coil p.Asp1424His
c.4270G>A 尾部 Coiled-coil p.Asp1424Asn
c.4270G>T 尾部 Coiled-coil p.Asp1424Tyr
c.4340A>T 尾部 Coiled-coil p.Asp1447Val
c.5521G>A 尾部 Coiled-coil p.Glu1841Lys
c.5797C>T 尾部 NHT p.Arg1933Ter
c.5821delG 尾部 NHT p.Asp1941MetfsTer7

SH3/MD i = SH3様モチーフとモータードメインの界面
NHT = 非ヘリックス構造の尾部領域nonhelical tailpiece(α-helical coiled-coil構造がほどけた領域)
バリアント分類における注釈: 表に記されたバリアントは著者達から提供された.GeneReviewsのスタッフは,バリアントの分類を独自に検証していない.
病名に関する注釈: GeneReviewsは、Human Genome Variation Society  (varnomen​.hgvs.org)の標準的な命名規則に従っている. 病名の説明は, Quick Reference参照.

正常な遺伝子産物.

MYH9の1960のアミノ酸産物は,非筋細胞ミオシンIIAの重鎖(MYH9タンパクまたはミオシン9)である [Sellers 2000].非筋細胞ミオシンIIAは,多くの細胞形質および組織で発現する細胞質ミオシンで,細胞の運動,細胞質分裂,細胞分極,細胞形状の維持など,細胞骨格による化学力学的な力の発生を必要とする様々な重要な工程に関わっている [Sellers 2000Vicente-Manzanares et al 2009].他のすべてのミオシン同様,非筋細胞ミオシンIIAは,重鎖の2量体と2対の軽鎖からなる6量体酵素 である.

MYH9タンパクは,解剖学的に異なる2つのドメインから成る: N末端の球状頭部ドメイン(1-835残基)およびC末端の尾部ドメイン(836-1960残基)である [Sellers 2000Eddinger & Meer 2007].3次元構造をとる球状頭部ドメインは,フレキシブルなリンカーで接続された4つのサブドメインから構成される: N末端のSH3様モチーフおよび,その上流と下流それぞれ50kdのサブドメイン,コンバーターサブドメイン[Sellers 2000].この2つの50kdのサブドメインは,アクチン結合やATP結合領域,‘リレー(中継)’ループ,短い機能的なSH1ヘリックスなど,化学力学的な力を生み出す根源となる,高度に保存された機能領域を含むため,‘モータードメイン’と呼ばれる [Dominguez et al 1998Sweeney & Houdusse 2010Baumketner 2012].尾部ドメインは2つの領域から構成される:2つのMYH9タンパクを結合して2量体を形成し,機能的なミオシンフィラメントを形成するために異なる2量体との結合部位となる,長いαヘリックスのコイルドコイル構造(836-1927残基),および調節機能を持つリン酸化部位であるC末端の非ヘリックス構造の尾部領域 (1928-1960アミノ酸)である[Eddinger & Meer 2007Sanborn et al 2011].

異常遺伝子産物.

近年の報告では,MYH9の病的バリアントは細胞のタイプによって異なるメカニズムで機能し,MYH9RDにおける細胞特異的な調整メカニズム機能があることが示唆されている.好中球において,欠損のある遺伝子産物は凝集し,野生型タンパク質を含む封入体を形成する[Kunishima et al 2008a].血小板や巨核球中でも変異したポリペプチドは発現するが少量であり,封入体は形成しない [Deutsch et al 2003Kunishima et al 2008a].腎臓や水晶体,内耳中での,欠陥のあるタンパク質の発現についてはよくわかっていない.MYH9RDは常染色体優性疾患であり,ミオシンは2つのMYH9タンパク分子の2量体から成るため,病因となるメカニズムは,病的バリアントによる優性阻害効果に関連している可能性が高い.この仮説は,既知の4つの病因となるアレルから発現した変異型のMYH9タンパクが,野生型のミオシンフィラメントの適正な会合を妨害したことを示す,in vitroの研究によって支持されている.しかしながら,MYH9RDを惹起するメカニズムは,分子レベルでも細胞レベルでも,不明な点が多い.
マウスの巨核球中では,ミオシン軽鎖のリン酸化が血小板前駆細胞の形成と血小板放出の調節において重要な役割を持つ.マウスのミオシン9(myh9タンパク)は,Rho-ROCK経路を介した血栓形成の負の制御因子である.myh9タンパクが機能しないと,血小板は洞様毛細血管中ではなく,未熟なうちに骨髄間質へと放出されるため,血小板減少症を惹起すると考えられている.


更新履歴

  1. Gene Reviews著者: Anna Savoia, PhD and Alessandro Pecci, MD, PhD
    日本語訳者: 箕浦祐子(札幌医科大学大学院医学研究科遺伝医学),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
    Gene Reviews 最終更新日: 2015.7.16.  日本語訳最終更新日: 2020.6.13.. (in present)

原文: MYH9-Related Disorders

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