Gene Review著者: Christopher I Amos, PhD, Marsha L Frazier, PhD, Thomas J McGarrity, MD
日本語訳者: 岩泉守哉(ミシガン大学内科学講座 消化器内科学部門 研究員)
Gene Review 最終更新日:2011.2.22 日本語訳最終更新日: 2011.3.1
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疾患の特徴
Peutz-Jeghers症候群 (PJS)は消化管ポリポーシスと粘膜皮膚色素沈着が特徴の疾患である。
Peutz-Jeghers型過誤腫性ポリポーシスは小腸に好発(空腸、回腸、十二指腸の順に好発)するが、時として胃、大腸、鼻孔にも生ずる。消化管ポリープは慢性的な出血や貧血を引き起こし、再燃性腸閉塞や頻回の外科的手術を必要とする腸重積の原因となる。粘膜皮膚色素沈着は小児期に暗青色から暗褐色斑として口唇、眼、鼻、肛門の周囲、頬粘膜上に認められる。色素沈着斑は特に指に高頻度に認められる。これら色素沈着斑は思春期から成人期にかけて消退する。
PJS症例では、はさまざまな上皮性悪性腫瘍(結腸直腸、胃、膵臓、乳腺および卵巣癌)のリスクが高い。女性のPJS症例に限った場合、輪状細管を伴う性索腫瘍(Sex cord tumors with annular tubules; SCTAT)、卵巣良性腫瘍および子宮頸部悪性腺腫のリスクが高い。男性のPJS症例に限った場合、時として石灰型精巣セルトリ細胞種(エストロゲンを分泌し、女性化乳房を来たす。)を発症する。.
診断・検査
Peutz-Jeghers症候群の診断は臨床所見に基づく。臨床的にPJSと診断された症例のうち、家族暦のある症例ではほぼ全例に、家族暦のない症例でも約90%にSTK11(LKB1)遺伝子の分子遺伝学的検査で疾患感受性変異が認められる。STK11(LKB1)遺伝子の変異検査は日常診療で試行可能である。
臨床的マネジメント
症状に対する治療:
定期的な消化管内視鏡検査や術中小腸内視鏡検査におけるポリープ切除術を行うことで、腸重積発症による緊急腹腔鏡下腸切除の機会を減らし、短腸化のリスクを下げる。小腸ポリープの診断には、カプセル内視鏡検査を、非腹腔鏡下での小腸ポリープの切除にはダブルバルーン小腸内視鏡検査を考慮するのが適当である。腹腔鏡補助下ダブルバルーン内視鏡検査での小腸ポリープ切除術は、腸瘻造設術や悪性腫瘍に対して行われる標準的な外科的治療による短腸化を防ぐことが可能である。男女における生殖器腫瘍に対しては保存的管理がなされる。
定期検査:
プロトコール上、8歳以上になったら、最低年一回は適当な方法で胃、小腸、大腸、乳腺、精巣、卵巣、子宮および膵臓の検査が推奨されている。
高リスク症例の親族に対する検査:
家系内ですでに遺伝子変異が判明している場合、高リスク症例の親族に対する家系内特異的な変異の早期検出により、検出後の早期治療ならびに適切な定期検査へと管理が進み罹患率や死亡率が低下することを期待して分子遺伝学的検査を行う。もし、家系内の遺伝子変異が判明していない場合、家系内で誰が早期治療および定期検査をすべきかを判断するために臨床的評価、診断を進める。
その他:
個々のPJS症例に対し、検査がなされていない場合でも以下のことは考慮すること:1)乳癌のリスクを抑えるための予防的乳房切除術、2)35歳以上あるいは出産後の症例に対する、婦人科領域の悪性腫瘍防止目的の予防的子宮摘出術ならびに両側卵管卵巣摘出術。
遺伝カウンセリング
PJSの遺伝形式は常染色体優性遺伝である。罹患症例の約50%で罹患した親を持ち、約50%においてPJSの家族歴がない。両親が持つ微妙な異常徴候の頻度は徹底して検討されておらず、分子遺伝学的データが不十分であるため、de novo遺伝子変異による発症頻度は知られていない。疾患感受性SKT11変異がPJS症例からその子に遺伝する確率は50%である。疾患原因遺伝子変異が家系内で知られている場合、高リスク妊娠に対する出生前診断は可能である。
PJSと診断する場合の必要条件は、粘膜筋板から樹枝状に分岐した筋線維束を伴う粘膜所見を認める過誤腫性消化管ポリープを病理組織学的に認めることである。PJSの小腸ポリープで認める上皮置換は偽上皮腫性浸潤、すなわち筋線維束に覆われた良性ポリープ上皮が粘膜下層、固有筋層、あるいは腸管壁にまで進展した様子を呈する。
PJSの定義に関してはGiardielloらによって提案され、さらに最近のコンセンサス会議によって再定義された[Beggs et al 2010]。
個々の症例において以下に示す項目を少なくとも1つ認める場合にPJSと臨床診断される。
分子遺伝学的検査
遺伝子
これまでのところ、STK11(LKB1)遺伝子の変異のみがPJSの原因として同定されている。
他の遺伝子座
STK11に加え、PJSの臨床的特長の素因となる遺伝子座が存在するのではないかと報告されているが未だ明確な報告は存在しない。
臨床的検査
シーケンス解析および遺伝子欠失/重複解析.臨床的にPJSと診断された56例のうち、点突然変異同定のためのシーケンス解析、およびSTK11 の遺伝子大欠失同定のためのMLPA法を行った症例の94%で何らかのSTK11変異が認められた。この検討報告では、
ミスセンス変異、スプライシング変異、小欠失あるいは挿入欠失変異といったさまざまな変異が同定されている。
STK11遺伝子全体の欠失を含めた遺伝子大欠失や、遺伝子内小欠失はPJSの約15%で認められる。遺伝子内組換えにより、STK11 遺伝子のエクソン4-7の欠失が誘導されると報告されている。統合失調症を合併したPJS症例で、エクソン2-7とエクソン8の一部を含む遺伝子大欠失が認められたとの一例報告がある。
表1.Peutz-Jeghers症候群で利用される分子遺伝学的検査
遺伝子記号 | 検査法 | 検出された変異型 | 変異検出率1,2 (家族歴有) |
変異検出率1,2 (家族歴無) |
検査の実施レベル |
---|---|---|---|---|---|
STK11 | シーケンス解析 | 塩基配列変化3 | 55% | 70% | 臨床レベル |
重複/欠失解析4 | エクソン欠失および全遺伝子欠失 | 45% | 21% | 臨床レベル |
検査結果の解釈
検査手順
発端者の確定診断.BurtとNeklasonら(2005)はPJSポリープや典型的な口唇周囲の色素沈着を認めた者すべてに遺伝学的検査を推奨している.
予測診断.PJSの症候は認めないが高リスク家系の成人に対し、優先して疾患感受性遺伝子変異の同定検査を行う。
出生前診断と着床前診断(PDG).リスクのある妊娠に対し、優先して家系内における疾患感受性遺伝子変異の同定検査を行う。
遺伝学的に関連する疾患
STK11遺伝子のナンセンス変異を認め、ゴナドトロピン非依存性思春期早熟症を合併した一例や、遺伝子大欠失を認め、若年性ポリポーシスを合併した一例の報告がある。これらの症例は、多彩なポリープの数および形態を認めるため、PJSの臨床的不均一性、あるいは臨床診断上の不確実さを反映している可能性も否定できない。
自然経過
PJSは消化管ポリポーシスと粘膜皮膚色素沈着を特徴とする。消化管および消化管外悪性腫瘍のリスクは増加する。良悪性の卵巣腫瘍および婦人科腫瘍も認められ得る。同じPJS家系内でもポリープのみを認める者もいたり、口唇周囲の色素沈着のみを認める者もいたりと表原型はさまざまである。
消化管ポリポーシス.
PJタイプの過誤腫性ポリープは小腸に好発する。ポリープの密度は空腸において最も高く、次いで回腸、十二指腸と続く。ポリープは胃や大腸を含む消化管のいかなる部位にも発生しうる。報告では腎盂、膀胱、外鼻孔にもポリープが発生しうる。
消化管において、腺腫も高頻度に認める。
両性であってもPJS型過誤腫性ポリープは腸閉塞や直腸脱、あるいは緊急腹腔鏡下腸切除術の必要な重度の消化管出血といった合併症を引き起こす可能性がある。78年間フォローされているPJS家系において、罹患者22例中16例で腸閉塞に対する腹腔鏡下手術を計33回施行されていたとの報告がある。
早い時期には生後2-3年以内で症状が出現する小児例もいるように、ポリープに起因する症状出現の年齢はさまざまである。ポリープが最初に認められる年齢は、同一家系内でも個々で異なることから、家系内でのポリープに関する自然経過により子孫の重症度を推測できる可能性がある。MDアンダーソン癌センターの検討では、消化器症状が出現した初発年齢の中央値は10歳、初めてポリープ切除術を行った年齢の中央値は13歳であった。韓国での症例報告では、消化器症状の初発年齢は12.5歳であった。PJSの32家系のまとめでは、腸閉塞に対する内視鏡下手術は10歳までに30%の症例で、18歳までに68%の症例で行われている。
粘膜皮膚色素沈着.強度な色素沈着斑は出生時にはほとんど認められないが、5歳前に認められるようになる。しかし、思春期および成人になると消失することがある。小児では、暗青色、暗褐色の粘膜皮膚斑が口唇、眼、鼻翼、肛門および頬部周囲にしばしば認められる。指の色素沈着斑も一般的に認められる。
組織学的には、メラノサイトの増加が表皮真皮結合部に認められ、基底細胞ではメラニンの増加を伴う。
生殖腺腫瘍.PJSに罹患した女性では、輪状細管を伴う性索腫瘍(Sex cord tumors with annular tubules; SCTATs)および粘液性卵巣卵管腫瘍のリスクが高い。症状としては不規則な月経や過多月経を認め、思春期早熟症を伴うことがある。一般的なSCTATsは大型の腫瘍で、片側性であり、20%で癌化のリスクを伴うのに対し、PJSに合併したSCTATsは両側性、多病巣性であり、良性の経過をたどる小型の腫瘍であるのが特徴である。
男性では時として精巣の石灰化型セルトリ細胞腫を認める。この腫瘍はエストロゲン産生性のため女性化乳房を合併する。
悪性腫瘍.PJS症例では腸管および腸管外悪性腫瘍のリスクが高い。
Boardmanらは、PJS症例において癌の合併リスクは相対危険度が9.9と報告している。消化管癌が相対危険度151と最も高く、乳癌も20.3高値である。多くのPJS患者における癌発症年齢は大変若い。
Choiらは、PJS症例における癌発症の相対危険度は11.1と高値であり、原因として若年PJS症例での発症が一般若年者に比べ高リスクであることを報告している。しかしながら、PJS症例の家族や子孫と癌発症との関連性は明確ではない。
Limらの報告によると、65歳までに37%のPJS症例で癌を発症し、相対危険度は9.9とのことである。STK11遺伝子変異を認めるPJS症例240例において、20歳、40歳、60歳、70歳での発癌の累積リスクはそれぞれ1%、19%、63%、81%である。性別では有意差を認めなかった。Hearleらによる、PJS症例419例(そのうち297例でSTK11遺伝子変異の記載あり)における解析でも同様に報告されている、すなわち発癌の累積リスクは40歳で17%、50歳で31%、60歳で60%、70歳で85%である。
PJS症例において、大腸癌および胃癌は線腫から発生する。Hearleらによると、消化管癌の生涯リスクは50歳で15%、70歳で57%である。
膵臓癌のリスクは非常に高い(Giardielloらによる)。Hearleらによると、膵臓癌の生涯リスクは50歳で5%、70歳で17%である。
PJS症例における乳癌および卵巣癌については、年齢特異的なリスクに関しての詳細な報告はないが、発症年齢は低い傾向にある。PJS家系において、若年発症の乳癌との関連性に関して報告されているものもあり、このことは過誤腫性ポリープが認められない場合でも疾患感受性遺伝子変異が検出された症例では、しばしば乳癌をはじめとした癌を発症することがある。Limらの報告では、女性PJS症例の8%で40歳までに、32%で60歳までに乳癌を発症する。Hearleらも同様の報告をしている。
女性では子宮頚部悪性腺腫も発症しうる。
遺伝子型と臨床型の関連
STK11遺伝子変異における遺伝子型-臨床型に関する情報は少ない。さらなる解析結果が必要である。
297例のPJS症例において、STK11遺伝子の変異部位および変異様式の違いによる発癌リスクの差は認められなかった(Limら2004、Hearleら2006)。報告によってはExon3(Limら2004)あるいはExon6(Mehenniら2007)が発癌のリスクを挙げているとのことであるが、以後この結果を支持する報告がみられていない。
それに対し、Amosらによると、ポリープの初回診断年齢、初回ポリープ切除術試行年齢について、STK11短縮型変異を認める症例、あるいは検査上変異が検出されなかった症例では差は認められなかったが、ミスセンス変異を持つ症例では遅い傾向にあった。Sallochらによると、短縮型変異を持つ症例では短縮型変異を持たない症例に比較して消化管手術の回数が多く、ポリープの個数も多く、初回ポリープ切除年齢が早い傾向にあった。
腸重積のリスクについて、STK11変異の有無との関連は認められていない。
浸透率
自然経過の項参照のこと。
臨床症状を伴わないSTK11変異例に関する報告は今のところ存在しない。212例に関するSTK11変異の解析報告では、1種類の変異がJPS以外にゴナドトロピン抵抗性思春期早熟症と関連性があるとのことであった。
表現促進現象
表現促進現象は認められない。
病名
Peutz-Jeghers症候群という病名は1954年にBruwerらによって紹介された。
以下に示す病名も、PJSといった略名で呼ばれている。
Polyp and spots syndrome
Inherited hamartomatous polyps in association with mucocutaneous melanocyte maculesHutchinson Weber-Peutz syndrome
頻度
出生頻度については定かではないが、1人/25,000-280,000と推定されている
PJSはいかなる人種にも、また、いかなる民族にも発症しうる。
本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.
STK11遺伝子変異を伴わないPJSと診断された一例でDNA修復遺伝子のひとつであるMYHのヘテロ変異が検出されたとの報告がある。
若年性ポリポーシス症候群(JPS)は消化管、特に胃、小腸、結腸直腸に発生する過誤腫性ポリープを特徴とする。ここで使用される“若年性”という用語はポリープの型を表現するものであり、ポリープの発症年齢を意味するものではない。若年性ポリープは、密な間質組織を伴う正常上皮組織の所見を呈し、炎症細胞浸潤を伴い、表面平滑で粘液に充満されのう胞状に拡張した腺管が粘膜固有層に広がる、過誤腫の形態をとる。多くのJPS症例では20歳までに何個かのポリープを認める。ポリープの個数は症例により様々である。JPS症例の家系で消化管悪性腫瘍に進展するリスクは9-50%であり、関係する癌腫としては大腸癌、胃癌、他の上部消化管悪性腫瘍、および膵臓癌が報告されている。JPSは、黒子を身と得ない点、およびポリープの組織型からPJSと鑑別する。JPS症例の20%でSMAD4遺伝子変異を認め、25%でBMPR1A遺伝子変異を認める。JPSは常染色体優性の遺伝形式をとる。
遺伝性混合ポリポーシス症候群の症例では、若年性ポリープと腺腫の特徴が混合した形態をとり、大腸癌のリスクが高い。いくつかの家系ではSMAD4遺伝子変異を伴っている。
PTEN過誤腫症候群(PHTS)は、常染色体優性の遺伝形式をとる、PTEN遺伝子変異が原因のcancer syndromeであり、Cowden症候群、Bannayan-Riley-Ruvalcaba症候群およびProteus様症候群を含む。Trichilemmomas、粘膜乳頭腫、先端角化症、大頭症、および甲状腺、乳腺、内分泌腫瘍の存在の有無でCowden症候群をPJSと鑑別する。Bannayan-Riley-Ruvalcaba症候群において、大頭症、腸管ポリープ、脂肪腫の存在がPJSとの鑑別点である。Proteus様症候群はいまだ定義があるが、Proteus症候群の臨床所見を呈するが診断基準に合致しない症例をさす。説明不能な過誤腫性混合型ポリポーシス.49例の説明不能な過誤腫性混合型ポリポーシスでの検討で、Sweetらは様々なタイプの生殖細胞系列変異を22%で検出した。
カーニー複合(NAMEあるいはLAMB症候群)は常染色体優性遺伝形式をとる、皮膚の色素異常、皮膚、心房、乳腺の粘液腫、内分泌腫瘍あるいは機能亢進症、神経鞘腫を特徴とする。淡褐色から黒色の色素班が最も特徴的な所見であり、典型例では思春期に数を増す。カーニー複合で見られる内分泌腫瘍は、原発性色素沈着性結節性副腎皮質病変(PPNAD;クッシング症候群の原因になり得る)、成長ホルモン産生性下垂体腺腫、大細胞石灰型セルトリ細胞腫(LCCSCT)、甲状腺腫、甲状腺癌 (乳頭腺癌、ろ胞腺癌)、多発性甲状腺結節である。PJS型ポリープはカーニー複合の所見を呈さない。臨床的にカーニー複合の所見とPJSの所見がオーバーラップしていても、カーニー複合の症例でSTK11遺伝子変異が検出された報告は今のところ存在しない。40-50%の症例でPRKAR1A遺伝子変異が認められる。カーニー複合は2p16領域とも連鎖している。
表2.PJSとオーバーラップする症候群の症状および所見一覧
病名 | 遺伝子 | 色素沈着 | 消化管腫瘍 | セルトリ細胞腫 | 癌 | その他 |
---|---|---|---|---|---|---|
PJS | STK11 | 顔面++ 粘膜+++ |
腺腫+ 過誤腫++ |
+/- | 大腸 胃 子宮頚部 卵巣 乳腺 膵 |
エストロゲン高産生 |
JPS | SMAD4 | - | 腺腫+ 過誤腫+++ |
- | 大腸 | 心欠損 |
Cowden症候群 | PTEN | 腋下+ 鼠径+ 顔面+ |
腺腫+ 過誤腫+++ |
- | 乳腺 脳 |
Trichilemmoma 皮膚過誤腫 過形成ポリープ 大頭症 乳腺線維症 |
カーニー複合 | RPKAR1A | 顔面+ 粘膜+ |
- | ++ | 甲状腺 | 皮膚および心房粘液腫 |
FAP | APC | - | 腺腫+++ | - | 大腸 脳 |
デスモイド腫瘍 骨腫 CHRPE |
HNPCC | MLH1 MSH2 MSH3 MSH6 PMS1 PMS2 |
腺腫+ | - | 子宮内膜 胃 腎 骨盤部 尿路 卵巣 |
脂腺腺腫 |
+:症状の出現あり+の数は症状の強さを表す。
+/-:時々、あるいは稀な出現
?:関連が間接的である
JPC:若年性ポリープ症候群
FAP:家族性大腸腺腫症
CHRPE:網膜色素上皮の先天性肥大
HNPCC:遺伝性非ポリポーシス大腸癌
口唇の色素沈着を認めるときの鑑別診断は以下のとおりである。
PJSで認められる稀な悪性腫瘍の鑑別診断は以下のとおりである
最初の診断時における評価
PJSと診断された症例に病変の範囲および程度と確認するためには、以下の検査が推奨される。
症状に対する治療
ポリープ.ルーチンの内視鏡検査や術中小腸内視鏡検査および検査中に発見されたポリープの切除は緊急腹腔鏡下腸切除や腸重積の治療による腸管喪失の頻度を減らす。
ポリープ径が1.5cm以上の場合、腹腔鏡下および術中内視鏡科のポリープ切除術が適当である。
通常内視鏡検査では到達不可能な遠位小腸ポリープは管理が困難であり、これまではバリウムを使用した小腸造影検査を推奨されてきていた。しかし、腹腔鏡を必要としない、また、放射線検査を極力最小限に抑えることが可能な以下の二つの検査の進歩により診断と切除技術が向上した。
腸重積は標準的な方法で治療される。
悪性腫瘍は、標準的な方法で治療される。男性においても女性においても生殖器腫瘍は保存的管理が適当である。
一次病変の予防
PJSでは臨床試験での報告はないが、婦人科悪性腫瘍の予防のための子宮および卵巣卵管切除術を35歳以上あるいは出産終了後に考慮されることがある。他の婦人科悪性腫瘍の高リスク群であるHNPCCでは、予防的子宮、卵巣卵管切除出は根拠に基づいたものとされている。
経過観察
発癌リスク臓器における経過観察について、Table3に概要を示す。(注:このような経過観察における罹患率および有病率への効果は臨床試験としては報告されていない。)
出生時から、ルーチンの血液検査と精巣の診察を含む年一回の病歴聴取と診察が推奨される。
Table3. PJSにおける定期検査と経過観察の概要
部位 | 処置 | 開始 (歳) | 間隔(年) |
---|---|---|---|
胃 | 上部消化管内視鏡検査1 | 8 | 2-3 |
小腸 | カプセル内視鏡検査 MR enterography2 |
8 | 2-3 |
大腸 | 下部消化管内視鏡検査 | 18 | 2-3 |
乳腺 | 触診 マンモグラフィー.MRI |
253 253 |
月1回 1 |
卵巣 | 経膣超音波検査.血清CA125 | 25 | 1 |
子宮頚部、体部 | papスメアーと骨盤部診察4 | 18 | 1 |
膵 | MRI/MRCP.超音波内視鏡検査.CA19-9 | 25 | 1-2 |
精巣 | 診察.症状や異常があれば超音波検査 | 出生時から | 1 |
避けるべき薬剤および環境
ポリープの発育および癌のリスクとなる薬剤は今のところ報告されていない。
リスクのある親族の検査
症例で判明している遺伝子変異の家族に対する検索.疾患感受性遺伝子変異が同定された場合、リスクのある親族に分子遺伝学的検査を行うのが適当である。親族の遺伝子変異が同定された場合、以下の項目の実施で彼らの罹患率及び死亡率を下げる可能性がある。
症例で判明していない遺伝子変異の家族にたしする検索.疾患原因遺伝子変異が不明である場合、以下の実施が適当である。
遺伝カウンセリング目的でのリスクのある親族に対する検査については“遺伝カウンセリング”の項参照のここと。
研究中の治療法
CinicalTrials.govのサイトを参照のこと。本疾患の関する、結果の得られている臨床試験は今のところ存在しないと思われる。
その他
STK11遺伝子のノックアウトマウスを利用したPJSの動物モデルが樹立されている。消化管過誤腫性ポリープはSTK11のハプロ不全の状況下で発育する。これらの動物モデルでは、ポリープにおけるCOX-2の発現上昇が報告されている。ヒトPJSにおける過誤腫性ポリープおよびPJS関連癌におけるCOX-2の発現上昇も検出されている。Celecoxib投与でCOX-2の発現を抑制させたマウスでは、ポリープの発育を抑えるとの報告がある。STK11遺伝子のヘテロノックアウトマウスでは、Celecoxib 1500ppmの投与によりポリープが発生したマウスの86%でポリープが減少した。
選択的COX-2阻害剤は家族性大腸腺腫症における大腸ポリープの予防として承認されている。しかしながら現在のところ、PJSにおけるポリープに対するCOX-2阻害剤の効果については臨床試験がなされていない。選択的COX-2阻害剤の使用により、有害事象としての心血管障害および脳血管障害のリスクが増すためその使用が制限される。
PJS過誤腫において、mTORの活性化が認められることより、mTOR阻害剤がPJSの管理に有効である可能性が報告された。Weiらは、STK11+/-マウスにrapamycinを投与すると、非投与群に比べ有意にポリープの発育が抑えられた。ポリポーシス発症以前に投与しされた場合は発症以後に投与された場合に比べ、有意にポリープの発育が抑えられた。他の報告では、経口的にrapamycinが投与されたSTK11+/-マウスでは、腫瘍だけではなく、ポリープの微小血管の発育が抑制された。
さらに、2つの小規模な臨床試験で、低用量rapamycin (mTOR阻害作用)は結節性硬化症において星細胞腫と顔面線維性血管腫の成長を抑えることが示された。PJS症例に対する悪性腫瘍の治療として、everolimus(rapamycinの誘導体)の非盲検第II相臨床試験(ユタ大学)、および非盲検の臨床試験(アムステルダム大学)が導入されているが、ヒトの臨床試験でrapamycinがPJSにおけるポリープの発育を抑えるか否かは明らかにされていない(clinicaltraialsfeeds.com参照)
以上より、mTOR阻害剤がPJSの治療となり得るかの研究解析の対象になっている。
臨床遺伝学専門スタッフによる遺伝科外来では患者およし家族に対し、遺伝カウンセラー主導で提供される情報だけでなく、疾患に対する自然経過、治療、遺伝形式および家族に対する遺伝学的なリスク因子に関する情報も提供される。
疾患に対する支援団体や消費者情報を参照のこと。これらの組織団体は個々の患者やその家族に各種情報、各種支援、他の罹患患者との交流に関する情報を提供してくれる。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
PJSは常染色体優性の遺伝形式をとる。
患者家族のリスク
発端者の両親
注:早期死亡症例あるいは症状出現に早期死亡した近親者に関してはPJS症例と認識されないため、家族歴はnegativeに記録される。さらに、家系内でPJS症例が単発の場合、発症原因はheterogeneousであるため、疾患感受性遺伝子座の遺伝様式が常染色体優性でない場合がある。
発端者の同胞
発端者の子
発端者の他の家族
発端者の他の家族の発症リスクは発端者の両親の状況による。親が罹患している場合、罹患親の家族はリスクがある。
遺伝カウンセリングに関連した問題
遺伝的不均一性
PJSの家族歴を持たないPJS症例の発症原因はSTK11遺伝子以外の遺伝子変異である可能性があり、その遺伝様式はSTK11関連PJSとは異なった遺伝様式をとり得る。鑑別診断の項を参照のこと。
癌リスク評価と遺伝カウンセリング
分子遺伝学的な、あるいは非分子遺伝学的な癌のリスク評価に対する医学的、心理学的、倫理学的な事項に関しての包括的な記載はElements of Cancer Genetics Risk Assessment and Counseling(NCIのPDQ(R)の一節)を参照のこと。
無症候性リスク成人例に対する検査
無症候性リスク成人PJS例に対する検査は、STK11遺伝子変異が罹患家族内で検出された後に実施可能である。短縮型変異例に比べ、ミスセンス変異例で発症が遅いとAmosらが報告しているように、検査の結果から発症年齢に関する洞察が可能となる。しかしながら、Amosらの報告ではわずか6種類のミスセンス変異の報告であるが、発症時期の差はSTK11蛋白の構造や機能に影響を与えるミスセンス変異の程度によると思われる。Limらは、STK11遺伝子変異を伴う症例では、発癌リスクが高いと報告している。疾患特異的な症状を認めない家族に対する疾患原因遺伝子変異の検査は予測診断である。
無症候性であるがリスクを有する成人では、定期検査、出産、財政上の問題、あるいはキャリアプランについての決定のために、分子遺伝学的検査が実施され得る。それ以外では、ただ単に“知る必要がある”といった動機から分子遺伝学的検査がなされることがある。無症候性のリスク例に対して検査を実施する場合、検査の動機、PJSに関する知識、検査結果を知ることでどのような利点と欠点が可能性として考えられるか、が検査前の面談で議論される。また、ここでは健康、生活、保険の填補範囲、雇用待遇、および社会的、家庭的関わりの変化について、可能性としてでてくる問題点についてのカウンセリングもなされる。他に考慮すべきことは他の家族のリスクも含まれる可能性があるということである。インフォームドコンセントがなされ、記録は内密にしておかなくてはならない。検査で陽性であった症例に対しては、長期的なフォローアップと評価について計画を再度立てるべきである。
小児期におけるリスクの検査
PJSに対する小児期におけるリスクの検査は、罹患家族例でSTK11遺伝子変異が同定された後に実施可能である。
STK11遺伝子変異が早期に検出された場合、医療上の管理、特に定期検査に影響が出る(Table3参照)。小児期のリスク検査は利益のあるものと考えられている。STK11の短縮型変異例に比べ、ミスセンス変異例で発症が遅いとAmosらが報告しているように、検査の結果から発症年齢に関する洞察が可能となるが、発症年齢分布は個々によりさまざまである。
de novo変異を持つ症例の家族に対する配慮
発端者の両親共に常染色体優性遺伝形式をとる疾患原因遺伝子変異が認められない場合、発端者はde novo変異である可能性がある。しかし、代替父親(母親)本人に知られていない養子縁組などの可能性も考慮する。
家族計画
DNAバンキング
DNAバンキングは、将来使用するときのためのDNA(典型的には白血球から抽出されたもの)の保管庫である。遺伝子や遺伝子変異に対する検査法や知識、あるいは疾患についての理解が将来向上すると思われるため、その時のために罹患症状のDNAを保管することは考慮すべきである。DNAバンキングは特に現在可能な分子遺伝学的検査の感度が100%に満たない場合に重要である。DNAバンキングを提示している研究室のリストを参考にすること。
出生前診断
リスクのある妊娠に対し、妊娠15-18週に採取した羊水中細胞や妊娠10-12週に採取した絨毛から調製したDNAを解析することで出生前診断が可能である。罹患家族の疾患感受性アリルは出生前診断が行われる前に同定されなければならない。
注:胎生週数は超音波による胎児の計測や最終月経第1日から算定される。
PJSのように、知能に影響を与えることはなく、治療可能な疾患に対する出生前診断の以来は一般的ではない。医学的専門性と家族の間で、出生前診断をどのような目的で利用するか(とりわけ出生前診断を早期診断目的というより妊娠の目的に考慮している場合)といった観点では、出生前診断に対する視点が異なる。ほとんどの施設では出生前診断を行うか否かの決断は両親によってなされるが、このことに関しては議論の余地がある。
家族で疾患感受性遺伝子の変異が認められた場合、着床前診断(PDG)は有効である。PDGを提示している研究室を参照のこと。