研究の背景
肥満症は、糖尿病をはじめ高血圧症や脂質異常症、高尿酸血症といった様々な疾患と関連することが分かっています。肥満症を背景に発症する脂肪肝も注目されています。肝臓に中性脂肪が沈着して肝障害をきたすもので、国内では少なくとも2千万人の脂肪肝患者がいると言われています。近年においては、脂肪肝のなかでも飲酒歴がないにも関わらず、肝炎が持続し肝硬変に進展する非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が増加して問題になっています。脂肪肝は動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中を発症するリスクを高めますが、NASHはさらに肝硬変や肝癌になる危険性も高め、肝不全による死亡にもつながります。
海外の研究では集中的で徹底した食事管理による減量によって体脂肪率や血糖値等が改善され、糖尿病の寛解さえ可能であることが分かってきており、浅間総合病院でも2017年9月に開設したスマート外来(肥満症や脂肪肝、またそれらに起因する糖尿病や脂肪肝炎を発症した患者さん対象)で、一定の成果を上げてきました。しかし、その半面、食事や身体活動などの自己管理がうまくできないためか体重減少の成果を得られない患者さんが一定割合存在するのも事実です。さらにはスマート外来が地域に広く知られるようになったことで受診を希望する新規の患者さんも増えており、効率のよい生活習慣改善指導をすることが必要となっています。
研究の目的
Information and Communication Technology(ICT:情報通信技術)を応用したPersonal Health Recordシステムアプリ(以下PHRアプリ)を研究に参加する患者さんのスマートフォンに導入し、その機能を活用することによって、通常の診療に院外から遠隔栄養指導を組み合わせた介入を行い、従来よりも多くの患者さんを体重や体脂肪の減少に導き(肥満症の解消)、その結果、脂肪肝や糖尿病を改善したり、QOL(Quality of life:生活の質)を向上させたりすることが可能かどうか検証することを目的としています。
研究の対象者
対象となるのは、下記の適格基準を全て満たし、かつ除外基準のいずれにも該当しない患者さんです。
適格基準
- 20歳以上75歳以下の男女
- 肥満症と診断された患者
- 本研究の参加に関して同意が文書で得られている患者
★肥満症の診断
日本肥満学会、肥満診療ガイドライン2016に基づき次の通りとする。
肥満と判定されたもの(BMI≧25)のうち、以下のいずれかの条件を満たすもの
a) 肥満に起因ないし関連し、減量を要する(減量により改善する、または進展が防止される)健康障害を有するもの
b) 健康障害を伴いやすい高リスク肥満(ウエスト周囲長のスクリーニングにより内臓脂肪蓄積を疑われ、腹部CT検査によって確定診断された内臓脂肪型肥満)
除外基準
- インスリン使用中の患者
- 最近のHbA1c≧12.1%の患者
- 過去6ヶ月以内に5 kgを越える体重減少のある患者
- 最近のeGFR<30 ml/min/1.73m2の患者
- 薬物中毒患者
- 担癌患者
- 過去6ヶ月以内に心筋梗塞を発症した患者
- ニューヨーク心臓病会(New York Heart Association : NYHA) のグレード3以上の重症心不全患者
- 学習障害を有する患者
- 抗肥満薬で治療中の患者
- 摂食障害と診断されている患者
- 妊婦、授乳婦および妊娠の可能性(意思)のある患者
- うつ病で入院治療が必要な患者あるいは抗精神病内服中の患者
- 他の臨床研究に参加中の患者
- その他、医師の判断により対象として不適当と判断された患者
介入の具体的内容
浅間総合病院のスマート外来に通院する肥満症・脂肪肝患者さんのうち、前述の選択基準に合致した方に研究内容の説明を行います。研究参加に同意された患者さんに対し、通常の診療に加え、PHRアプリ等を活用した遠隔栄養指導の介入を実施します。
PHRアプリ等を活用した遠隔栄養指導
- 本研究に参加する患者は全員スマートフォンにPHRアプリを導入
- PHRアプリを用いて、毎日の食事・間食、体重・体脂肪等を記録
- 開始から3カ月は遠隔栄養指導の担当管理栄養士から日々の食事に翌朝コメント送信
- 併せて開始時点から1カ月は2週間毎に担当管理栄養士とICTによる個別面談指導実施
- 1~6カ月は1カ月毎にICT面談をし、生活習慣全般の個別面談指導を実施
- ICT面談時にはPHRアプリで記録した食事や体重・体脂肪等の記録を患者と参照し検討
- PHRアプリによる記録データは院内からも確認可能で、診察時に新たな目標設定に利用
- 通院は1ヶ月毎
研究実施期間
2019年10月~2023年3月(研究参加登録は2020年3月まで)
倫理的事項
- 「ヘルシンキ宣言(2013年10月修正)」および「人を対象とする医学系研究に関する臨床研究に関する倫理指針(平成29年2月28日改正、以下臨床研究倫理指針)」を遵守し、被験者の人権の保護、安全の保持及び福祉の向上を図り、本研究の科学的な質及び成績の信頼性を確保します。
- 研究に参加を検討する患者さんに対し、説明・同意文書を使って本研究に参加する前に研究の内容について十分に説明します。研究参加について十分考える時間を持ってもらい、患者さん本人の自由意思による研究参加の同意を書類に署名してもらって確認します。
- 研究説明書では、研究への参加は任意であり、同意しなくても不利益を受けないこと、同意は撤回できること等患者さんの権利を研究説明書で十分に説明します。
- 臨床研究に参加いただく患者さんの個人情報及びプライバシーの保護について、ヘルシンキ宣言及び臨床研究倫理指針遵守して細心の注意を払います。
※詳細な研究計画書が必要な場合は、研究事務局にお問い合わせください。