各種研究に関する解説

E. coliKlebsiella spp.P. mirabilis

カルバペネマーゼとプラスミドAmpC産生性の調査研究

◇ 目的

 β-ラクタム系抗菌薬は、優れた有効性と安全性を有し臨床で広く使用され続けており、国内外の治療ガイドラインにおいて多くの感染症に対して第一選択薬に推奨されている。そのため、β-ラクタム系抗菌薬に対する耐性菌の出現は、臨床における感染症治療と感染制御を困難にする大きな要因となる。グラム陰性桿菌におけるβ-ラクタム系抗菌薬高度耐性の機序としては、β-ラクタマーゼによる加水分解が大きなウエイトを占めている。特にR-プラスミドにコードされる広域βラクタム系抗菌薬を加水分解する基質拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase:ESBL)、プラスミド性AmpC β-ラクタマーゼ(plasmid-mediated AmpC β-lactamase:pABL)、およびプラスミド性カルバペネマーゼ(plasmid-mediated carbapenemase:PCA)などは、異なる菌種間を高頻度に伝播して拡大することから、院内感染の原因菌としても注目されている。本邦においてはESBL産生菌が主ではあるが、その他の酵素産生菌においてもアウトブレイク事例が散見されている。特にPCAは臨床的ブレイクポイントを下回る低いMIC値を示すステルス型の存在が知られており、水面下での拡大が懸念されている。そのため、本研究会ではこれらのプラスミド性β-ラクタマーゼ産生菌の分離疫学調査を実施している。

◇ 対象菌種

 Escherichia coliKlebsiella pneumoniaeKlebsiella oxytoca および Proteus mirabilis を対象とする。

◇ スクリーニング基準

1) 1次スクリーニング
 cefpodoxime(CPDX)のMICが≧2μg/mL,または
 piperacillin/tazobactam(PIPC/TAZ)のMICが≧32μg/mL

2)2次スクリーニング
 pABL産生菌:cefoxitin(CFX)ディスク拡散法が阻止円径≦18mm
 PCA産生菌:faropenem(FRPM)ディスク拡散法が阻止円径≦15mm



◇ 確認試験

◇ 確認試験(pABL)

 pABL産生菌の確認試験として三次元拡散法(3D test)を用いている。3D testは,ディスク拡散法により生じる阻止円が、同一平板上スリット内に添加された被検菌溶液中に存在する酵素の作用により,既知の薬剤を分解する酵素の存在を調べる試験である。AmpC酵素を検出するためにセファマイシン系薬であるCFXを用いて実施した。実際にはスクリーニング陽性株をトリプチケースソイブロスにて増菌培養して遠心集菌した菌液を5回の凍結融解により菌体を破壊して粗酵素液とし、Mueller-Hinton寒天培地(MHA)平板にCLSIディスク拡散法に従いE. coli ATCC25922株を接種後,薬剤ディスクを配置し、ディスク端から5mmの位置から外側に切れ込みを入れて粗酵素液20~30μlを分注して培養した。酵素分解により、切れ込みと阻止円が交差した地点に発育増強を認めれば陽性と判定した1)

1. Coudron, P. E., E. S. Moland, and K. S. Thomson. 2000. Occurrence and detection of AmpC beta-lactamases among Escherichia coli, Klebsiella pneumoniae, and Proteus mirabilis isolates at a veterans medical center. J. Clin. Microbiol. 38: 1791-1796.


◇ 確認試験(PCA)

 PCA産生菌の確認試験として、CLSIM100-S27が推奨するmodified Carbapenem Inactivation Method test (mCIM)を実施した2)。まずトリプチケースソイブロス2mL に1μLループ1杯分の被検菌株を接種したものにmeropenem(MEPM)ディスクを加え、35℃,4時間インキュベートする。MHAにMcFarland 0.5に調整したE. coli ATCC25922菌液を塗布し、中央に被検菌液にてインキュベートしたMEPMディスクを取り出して設置し、35℃で培養する。18時間後にE. coli ATCC25922に形成されたMEPM阻止円の直径を測定する。カルバペネマーゼ陽性であれば菌液によりMEPMディスクが不活化されるため阻止円が形成しないか縮小するが、陰性であれば阻止円の形成が認められるため、表1の基準に従って判定した。

2. Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI). Performance standards for Antimicrobial Susceptibility testing 27th ed CLSI supplement M100-S27. Wayne PA: CLSI; 2017.

表1.mCIMの判定基準
阻止円直径 判定
6~15mm Positive
16~18mm
(SCあり)
Positive
16~18mm
(SCなし)
Indeterminate
≧ 19mm Negative
SC:Satelite colony


◇ プラスミド遺伝子の検索

PABL:
CFXを用いた3D test陽性株を対象とし,MOX (CMY/MOX)、CIT(CMY/LAT)、DHA、ACC、EBC (ACT)、およびFOX 型のPABL産生遺伝子の検出を目的とした6セットのプライマーを用いたマルチプレックスPCR法を実施した。

PCA:
mCIM陽性株および判定保留株を対象とし、IMP-1、IMP-2、VIM、NDM、GES、KPC、およびOXA-48型PCA産生遺伝子の検出を目的とした7セットのプライマーを用いたマルチプレックスPCR法を実施した。


◇ 調査成績(2020年 特別講演会報告から抜粋)

◇ 年度別 pAmpC検出状況


◇ 年度別 CPE検出状況


◇ 報告論文

Kuchibiro T, Komatsu M, Yamasaki K, Nakamura T, Nishio H, Nishi I, Kimura K, Niki M, Ono T, Sueyoshi N, Kita M, Kida K, Ohama M, Satoh K, Toda H, Mizutani T, Fukuda N, Sawa K, Nakai I, Kofuku T, Orita T, Watari H, Shimura S, Fukuda S, Nakamura A, Wada Y. Evaluation of the modified carbapenem inactivation method for the detection of carbapenemase-producing Enterobacteriaceae, J Infect Chemother. 2018 Apr; 24(4):262-266.

Yamasaki K, Komatsu M, Ono T, Nishio H, Sueyoshi N, Kida K, Satoh K, Toda H, Nishi I, Akagi M, Mizutani T, Nakai I, Kofuku T, Orita T, Zikimoto T, Nakamura T, Wada Y, Nosocomial spread of Klebsiella pneumoniae isolates producing blaGES-4 carbapenemase at a Japanese hospital, Journal of Infection and Chemotherapy 23 (1), 40-44, 2017.

山﨑勝利,小松 方,福田砂織,豊川真弘,西 功,幸福知己,中井依砂子,戸田宏文,佐藤かおり,小野 保,西尾久明,末吉範行,木田兼以,折田 環,中村竜也,直本拓己,木下承皓,和田恭直:2011年に臨床材料から分離したプラスミド性AmpC β-lactamase産生腸内細菌の調査.日本臨床微生物学雑誌 23:194-202,2013.

Yamasaki K, Komatsu M, Abe N, Fukuda S, Miyamoto Y, Higuchi T, Ono T, Nishio H, Sueyoshi N, Kida K, Satoh K, Toyokawa M, Nishi I, Sakamoto M, Akagi M, Nakai I, Kofuku T, Orita T, Wada Y, Jikimoto T, Kinoshita S, Miyamoto K, Hirai I, Yamamoto Y.: Laboratory surveillance for prospective plasmid-mediated AmpC β-lactamases in the Kinki Region of Japan. Journal of Clinical Microbiology 48, 3267-3273, 2010.

Yamasaki K, Komatsu M, Shimakawa K, Sato K, Nishio H, Sueyoshi N, Toyokawa M, Sakamoto M, Higuchi T, Wada Y, Kofuku T, Orita T, Yamashita T, Kinoshita S, Aihara M.In vitro activity of beta-lactams and quinolones against AmpC beta-lactamase-producing Escherichia coli.Journal of Infection and Chemotherapy,11, 9-13, 2005.