脳と心は免疫システムで繋がる?うつ病とストレス、TLR4が解き明かす新常識

概要

本資料は、大うつ病性障害(MDD)における免疫システムの役割、特にToll様受容体4(TLR4)が神経免疫系および神経内分泌系とどのように相互作用し、ストレス応答とMDDの病態生理にどのように関与しているかについてレビューします。現在のMDD治療法の限界を踏まえ、TLR4が新たな治療標的となる可能性が示唆されています。

1. MDDの病態生理における免疫システムの関与

  • 治療の限界: MDDは世界的に高い疾患負荷を持つにもかかわらず、現在のセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SSRI, SNRI)による治療は、ほとんどの患者に長期的な症状緩和をもたらすには不十分であり、新たな治療標的の必要性を示唆しています。「current treatments targeting serotonergic and noradrenaline reuptake systems are insufficient to provide long-term relief from depressive symptoms in most patients, indicating the need for new treatment targets.
  • 免疫マーカーの増加: MDD患者は、炎症性または抗炎症性の免疫シグナル分子である末梢サイトカインの循環レベルが増加しています。抑うつ症状の改善は、免疫シグナルレベルの正常化と関連しています。
  • 「神経炎症」と「神経カインシグナル伝達の増加」の区別: 従来の「神経炎症」という用語は、CNSにおける広範な免疫活性化と組織損傷を指しますが、MDDで見られる免疫シグナル伝達は、より軽度な「神経カインシグナル伝達の増加」または「中心免疫シグナル伝達の増加」に似ています。これは、可逆的な神経変化を伴いますが、大規模な損傷には至りません。「In regards to MDD, current evidence indicates a milder immune signaling phenotype more akin to increased neurokine signaling, rather than neuroinflammation.
  • 免疫シグナル伝達の可逆性: MDDにおける免疫マーカーの可逆性は、疾患の状態と密接に関連しており、中枢免疫系を標的とすることがMDDの有望な治療選択肢となり得ることを示唆しています。

2. Toll様受容体4(TLR4)のMDDにおける役割

  • TLR4の機能: TLR4は、先天性免疫のパターン認識受容体であり、内因性の危険関連分子パターン(DAMPs)、外因性の病原体関連分子パターン(PAMPs)、および微生物関連分子パターン(MAMPs)を認識します。TLR4の活性化は、IL-1β, TNF-α, IL-6などの炎症性サイトカインの産生を引き起こします。
  • TLR4の発現とMDD: CNSでは、TLR4は主にミクログリアに発現し、ニューロンにも発現します。MDD患者の末梢血単核細胞(PBMC)はTLR4レベルが高く、この発現増加は治療後に減少し、抑うつ症状の改善と並行します。「peripheral blood mononuclear cells (PBMC) of patients with MDD express higher levels of TLR4… This heightened expression was reduced following treatment, and paralleled improvement in depressive symptoms.
  • 行動への影響: 末梢TLR4の活性化は、リポ多糖(LPS)をアゴニストとして用いると、モチベーションの状態の変化や病態行動(無快感症、倦怠感、運動能力低下、食欲不振など)を引き起こすのに十分です。「Using LPS as an agonist, peripheral TLR4 activation is sufficient to cause changes in motivational state and can trigger sickness behavior… strong parallels can be drawn between sickness behavior and depressive behavior, namely reduced locomotion, anhedonia, and dysregulated sleep and food intake.」これは、免疫系と抑うつ症状の直接的な関連性を示唆しています。
  • 末梢から中枢への免疫伝達メカニズム: 末梢免疫活性化が行動に影響を与えるメカニズムとして、サイトカインのBBB通過、活性化免疫細胞のBBB通過、迷走神経などの求心性経路刺激、および単球がBBBを通過せずに脳血管に接着し中枢免疫シグナル伝達を増加させることなどが挙げられます。

3. グリア細胞(アストロサイト、ミクログリア)の役割

  • アストロサイト: CNSで最も豊富な細胞種であり、構造的・栄養的サポートを提供し、神経伝達を影響します。MDDにおいては、TNF-αの存在下でセロトニントランスポーターの再取り込みを増加させ、SSRIがこの効果を減弱させることから、セロトニン神経伝達におけるアストロサイトの役割が示唆されています。
  • ミクログリア: CNSの常在性免疫細胞であり、サイトカイン放出、ケモカイン放出、貪食などを通じて神経免疫活性を直接調節します。TLR4の活性化は、ミクログリアをM1(炎症誘発性)表現型に移行させ、CNSで炎症反応を引き起こします。ストレス誘発性抑うつ様行動にはミクログリア反応性の変化が関連しており、ミクログリアの過剰活性化または活性不足が抑うつに関連する可能性があります。「depression is related to either an over or under activation of microglia, and treatments should strive toward a balance in activation states.

4. TLR4活性によるCNS神経伝達物質活性への影響

  • セロトニン神経伝達の障害: MDDにおける神経病態生理の最もよく特徴付けられたものは、セロトニン神経伝達の調節不全です。グリア細胞はセロトニントランスポーターを発現し、炎症中にインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を産生することでセロトニン産生を阻害し、神経毒性を引き起こす可能性があります。MDD患者では、キヌレニン/トリプトファン比の増加が観察され、IDO活性の増加が示唆されています。

5. MDD治療法と免疫シグナル伝達

  • SSRIの免疫調節効果: SSRIは、LPS誘発性の末梢IL-6およびTNF-α産生を減少させ、ストレス誘発性のCRH、TNF-α、IL-1β mRNA発現を減弱させることが示されています。SSRIはまた、グリア細胞の活性を低下させ、ミクログリアの形態変化を抑制します。これは、セロトニン神経伝達の変化がグリアおよび中枢免疫活性に影響を与え、抗うつ効果に寄与する可能性を示唆しています。

6. ストレスとTLR4、HPA軸の相互作用

  • ストレスの役割: MDDの発生にはストレスが不可欠であり、ストレスは個人の基礎的な素因を顕在化させるために必要であるというストレス-脆弱性モデルが提唱されています。「stress is essential to the development of MDD, as stress is required in order to unmask the underlying individual predisposition to the disorder.
  • HPA軸の活性化: ストレスは視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸を活性化し、グルココルチコイド(GC)の産生を引き起こします。TLR4活性化はHPA軸を刺激し、CRH、ACTH、GCの放出を促進します。
  • MDDにおけるHPA軸の異常: MDD患者は、朝のコルチゾールレベルの増加や、日中の日内変動の平坦化を示し、HPA軸の調節不全が示唆されます。また、グルココルチコイド抵抗性が見られ、GCの免疫抑制作用が低下している可能性があります。「GR function is modified in MDD, and patients develop what is termed GC resistance.
  • サイトカインとHPA軸: 炎症性サイトカイン(IL-1β, IL-6, TNF-α)は、GRの有効性を低下させることでHPAシグナル伝達の負のフィードバックを抑制したり、HPA軸の順方向シグナル伝達を直接刺激したりすることで、HPA軸活性を増強します。
  • 長期的な影響: 生後早期のTLR4活性化は、成人期におけるHPA軸の過敏反応を引き起こし、ストレス関連障害への個人の素因を形成する可能性があります。
  • ストレスと全身性免疫: GCは通常免疫系を抑制しますが、MDDで見られるストレス誘発性の免疫シグナル伝達の増加は、GC抵抗性や、低用量でのGCによる炎症誘発性サイトカイン(MIF)産生の誘導、CRHによる肥満細胞の脱顆粒など、直接的または間接的なメカニズムによって引き起こされる可能性があります。
  • TLR4を介したストレス誘発性炎症反応:
  • 免疫プライミング効果: ストレスやGC曝露は、その後の免疫刺激に対する神経炎症反応および末梢炎症反応を増強する免疫プライミング効果を引き起こします。TLR2およびTLR4活性は、このGC誘発性免疫プライミングに不可欠であると考えられています。「there appears to be crosstalk between the GR and TLR4 pathways, and both receptors appear to be important in driving immune cell sensitization and increased central immune signaling following stress.
  • DAMPsの放出: ストレスを受けた細胞から内因的に放出されるDAMPs(HMGB1、HSPなど)は、TLR4経路を活性化し、免疫反応を誘発または増強します。
  • 腸内微生物の転座: ストレスは腸のタイトジャンクションを破壊し、微生物の全身への転座を増加させることで、TLR4を介した炎症反応を引き起こす可能性があります。抗生物質治療がストレス誘発性抑うつ様行動をブロックする可能性があることは、この腸-脳軸の関連を示唆しています。

結論と今後の方向性

  • 多方向性コミュニケーション: 免疫系、神経系、神経内分泌系は常に多方向的にコミュニケーションしており、ストレスとMDDにおいてはこれら3つのシステムの調節不全が見られます。
  • TLR4の重要性: TLR4の活性化は、動物モデルで抑うつ様症状を引き起こすことが示されており、ストレス誘発性の免疫シグナル伝達(末梢およびCNS内)を媒介し、DAMPs、MAMPs、GCシグナル伝達との相互作用を通じてストレス誘発性の免疫活性を根底から支える可能性があります。「TLR4, an innate immune receptor, could therefore be important in investigating the immune involvement in the pathophysiology of MDD.
  • LPS以外の研究の必要性: TLR4と抑うつの直接的な関係はまだ完全には解明されておらず、特にMDDにおけるTLR4活性化のタイミングと場所が重要です。細菌感染が主な要因である可能性は低いため、LPSの使用から離れ、DAMPs、神経内分泌、神経原性シグナル、または微生物叢の腸内転座の増加など、内因性メカニズムに焦点を当てた研究が必要です。
  • 治療への示唆: MDDのより効果的な治療法を模索する際には、神経系、神経内分泌系、免疫系への影響を、疾患の代表的なモデル内で考慮する必要があります。TLR4は、MDDの病態生理における免疫学的関与を調査するための重要な標的となる可能性があります。

原著のリンク:

https://www.frontiersin.org/journals/neuroscience/articles/10.3389/fnins.2014.00309/full

ライセンス:

CC-BY 4.0

https://creativecommons.org/licenses/by/4.0

書誌事項:

Liu J, Buisman-Pijlman F, Hutchinson MR. Toll-like receptor 4: innate immune regulator of neuroimmune and neuroendocrine interactions in stress and major depressive disorder. Front Neurosci. 2014 Sep 30;8:309. doi: 10.3389/fnins.2014.00309. PMID: 25324715; PMCID: PMC4179746.

改変と限界:

本コンテンツは参照した論文の内容に基づいて、生成AIによりその内容をまとめなおしたものです。

AIの限界としてハルシネーションが知られています。漢字の読み間違いが存在します。

注)今回は以前より長時間になってしまいましたので音声を圧縮しています。ファイル形式をaacとして、拡張子m4aで送出しています。うまく再生されないなどの問題がございましたらコメント欄でご教示ください。よろしくお願いします。
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