概要
2025年8月1日にFrontiers in Immunology誌に掲載されたレビュー論文「COVID-19: a vascular nightmare unfolding」は、SARS-CoV-2が引き起こすCOVID-19が単なる呼吸器疾患に留まらず、広範な血管系合併症、特に血栓症を伴うことを包括的にレビューしています。本論文は、COVID-19における血栓症の病態生理学的メカニズム、現在の抗凝固療法に関する臨床試験の進捗、および関連ガイドラインの推奨事項を詳細に検討し、将来の研究方向性についても示唆を与えています。
主要なテーマと重要なアイデア・事実
1. COVID-19における血栓症の疫学と臨床像
- 高頻度な合併症: COVID-19は、動静脈血栓症のリスク増加と関連しており、特に微小血管および大血管の両方における血栓症が患者に多く見られます。「pulmonary embolism (PE) and deep vein thrombosis (DVT) are frequently observed thrombotic complications in patients with COVID-19. Arterial thrombosis is a notable occurrence in COVID-19 patients, leading to various complications, such as acute ischemic stroke, acute coronary syndrome (ACS), acute limb ischemia (ALI), mesenteric infarction, renal infarction, and spleen infarction」。
- 高い死亡率との関連: 「High mortality is associated with hypercoagulability in COVID-19 patients」。血栓塞栓性合併症を伴うCOVID-19患者の死亡率は5%から48%に及ぶと報告されています。
- 集中治療室(ICU)患者と高齢者における高リスク: ICUの重症患者では、血栓症、肺塞栓症、深部静脈血栓症の発生率が有意に増加します。同様に、高齢患者においてもこれらの発生率が高いことが示されています。
- 退院後も続くリスク: 回復したCOVID-19患者においても、急性肺塞栓症 (PE) および深部静脈血栓症 (DVT) の累積発生率はそれぞれ1.2%と2.3%であり、これらの合併症を発症するハザード比は感染していない患者と比較して有意に高いです。
- 男女差: 全体的なCOVID-19の有病率は女性の方が高いですが、重症化する可能性は女性の方が低い傾向にあり、女性ホルモンが炎症を調節する役割を果たすことが示唆されています。
2. 血栓症のメカニズム:多因子性病態
COVID-19における血栓症の根底にあるメカニズムは多因子性であり、「vascular endothelial damage, dysregulation of the body’s coagulation system, the presence of viral particles, and subsequent immune responses」が主な要因です。炎症が血栓症を促進し、それがさらに炎症反応を悪化させるという悪循環が存在します。
- 2.1 血管内皮細胞の損傷:
- SARS-CoV-2の直接影響: SARS-CoV-2はACE2受容体を介して内皮細胞に直接感染し、細胞損傷とアポトーシスを引き起こし、正常な内皮細胞の抗血栓作用を低下させます。
- レニン-アンジオテンシン系 (RAS) の影響: ACE-2へのウイルス結合はアンジオテンシンIIの蓄積を引き起こし、これが炎症促進性および血栓促進性の影響を増幅させます。
- 組織因子 (TF) の発現増加: ウイルス感染による血管損傷は、内皮細胞におけるTFの発現を増加させ、外因系凝固経路を活性化します。
- フォン・ヴィレブランド因子 (vWF) とADAMTS-13の不均衡: COVID-19患者ではvWFレベルが著しく増加し、ADAMTS-13レベルが低下することで、血小板の接着と凝集が促進され、血栓形成が促されます。
- 低酸素症の影響: 重度のCOVID-19患者によく見られる低酸素症も、内皮機能不全と凝固を誘発し、P-セレクチンや接着分子のアップレギュレーション、炎症性サイトカインの放出を通じて血栓形成を促進します。
- 2.2 炎症と免疫系の活性化:悪性トライアングル
- サイトカインストーム: COVID-19関連凝固障害は、SARS-CoV-2に対する宿主の炎症反応および自然免疫の活性化の下流の結果である可能性があります。特に、IL-6、IL-1β、TNF-αなどの炎症促進性サイトカインの過剰な放出(サイトカインストーム)は、凝固とトロンビン産生を活性化する「血栓炎症」または「免疫血栓症」として知られる現象を引き起こします。
- 補体活性化: 補体系の制御されていない活性化は、細胞損傷、炎症、血管内凝固の増加につながり、多臓器不全と死亡を引き起こす可能性があります。SARS-CoV-2感染患者では、補体系の調節不全が観察され、特に代替経路と古典経路の持続的な活性化が特徴です。
- 好中球細胞外トラップ (NETs): NETsは、活性化された好中球から放出されるDNA、ヒストン、抗菌タンパク質からなる網状構造で、血小板の活性化と凝固を促進します。COVID-19患者では過剰なNET形成(NETosis)が見られ、これが高凝固状態と血栓症につながります。
- 2.3 血小板:
- 血小板の活性化: COVID-19患者の血小板は、「hyperactive phenotype」を示し、低濃度の作動薬に対しても過敏に凝集反応を示します。この過剰活性は、炎症反応、サイトカインストーム、内皮機能不全、vWFとADAMTS-13の不均衡、および免疫複合体による血小板活性化など、複数のメカニズムによって説明されます。
- 凝固促進性血小板: 活性化された血小板の一部は、ホスファチジルセリンを露出させ、トロンビン産生を促進する「procoagulant platelets」となります。重症COVID-19患者の血清は、健常ドナーの血小板のアポトーシスを誘発し、凝固系に変化をもたらすことが示されています。
- 2.4 細胞外小胞 (EV) メカニズム:
- EVsは、細胞から分泌される脂質二重層に包まれた粒子で、「“coagulation – inflammation – viral transmission”」の三重の機能を促進します。COVID-19患者では、EV関連組織因子 (TF) の活性レベルがD-ダイマーレベルと密接に関連して上昇しており、これは血栓症のマーカーとなっています。EVsはホスファチジルセリンの露出を通じて凝固プロセスを促進し、組織因子 (TF) の表面発現によって凝固を開始します。
3. 血栓症の予防と治療:進化する戦略
パンデミックの4年間で、COVID-19関連凝固障害の発生率と症状は変化しており、診断基準と管理戦略の再評価が必要とされています。
- 3.1 臨床試験の現状:
- ヘパリン系薬剤が主流: ほとんどの臨床試験では、未分画ヘパリン (UFH) または低分子量ヘパリン (LMWH) が使用されています。
- 非入院患者: 非入院患者に対するエノキサパリンの早期使用は、疾患の経過を改善しませんでした。退院後の高リスク患者における長期血栓予防は、全体的な予後不良と有意に関連していましたが、大出血イベントのリスクを増加させませんでした。
- 入院患者(非重症): 初期治療量のヘパリン抗凝固療法は、従来の血栓予防と比較して、退院までの生存確率を高め、心血管または呼吸器サポートの使用を減少させましたが、大出血の発生率は高くなりました(1.9% vs. 0.9%)。
- 入院患者(重症): 重症COVID-19患者において、治療量のヘパリン抗凝固療法は、退院までの生存確率や臓器サポートなしの日数を増加させませんでした。しかし、D-ダイマーレベルが著しく高い非ICU患者では、治療量のLMWHが主要な血栓塞栓症と死亡率を減少させました。
- DOACsとTF阻害剤: 新しい経口抗凝固薬 (NOACs) や組織因子 (TF) 阻害剤(rNAPc2)の有効性も評価されましたが、ヘパリンと比較してD-ダイマーレベルの有意な減少は見られませんでした。
- 治療効果の差異: 重症度によって抗凝固剤の治療効果が異なることが指摘されており、これは病態生理学的メカニズムの動的な変化(軽症/中等症では血管内皮の微小炎症と局所的過凝固、重症では免疫血栓症と全身性凝固活性化)と、ヘパリンの抗炎症作用の有無による薬物動態の違いが原因であると仮説が立てられています。
- 3.2 関連ガイドラインの推奨:
- 非入院患者: 症状のあるCOVID-19非入院患者に対する直接経口抗凝固療法や抗血小板療法の開始は、入院、動脈・静脈血栓塞栓症、死亡のリスクを効果的に減少させないとされています。
- 非重症入院患者: 低用量(予防/標準量)のLMWHまたはUFHの使用が推奨されています。進行リスクが高い非重症患者では、治療強度のLMWHまたはUFHによる血栓予防を考慮することが推奨される場合もあります。
- 重症入院患者: 禁忌がない限り、すべてのガイドラインが予防的抗凝固薬の使用を推奨しています。VTEが疑われる、または確認されている患者を除く、重症COVID-19関連疾患患者には予防的用量の使用が推奨されています。高リスクで出血リスクが低い重症患者には、治療用量のLMWH/UFH抗凝固療法が推奨される場合があります。
- 退院患者: 通常、退院後のVTE予防のルーチン継続は推奨されませんが、高リスク患者にはリバーロキサバンによる約30日間の予防的治療が考慮される場合があります。
- 血栓塞栓症治療: COVID-19関連血栓塞栓症と診断された患者には、最低3〜6ヶ月間の抗凝固療法が推奨されます。重症COVID-19患者の近位DVTまたはPEには、経口薬よりも非経口抗凝固薬(LMWHまたはフォンダパリヌクス)が推奨されます。
4. 長期COVID-19(PASC)と血管合併症
- 持続する症状: COVID-19急性期後、約10%の患者が「long COVID-19/postacute sequelae of COVID-19 (PASC)」と呼ばれる持続的または新たな症状を発症します。
- 血管合併症: PASCでは心血管合併症(血栓塞栓症を含む)が重要な問題として浮上しています。主なメカニズムには、免疫調節不全、自己免疫、内皮機能不全 (ED)、凝固障害などが含まれます。
- 微小凝固とミトコンドリア機能不全: 「numerous procoagulant inflammatory molecules have been identified within microclots associated with long COVID-19」。循環NETバイオマーカーは感染後約4ヶ月まで正常値に戻りません。ミトコンドリア機能不全もPASCの病態形成、特に心血管後遺症において重要な役割を果たす可能性が示唆されています。
- 遺伝的要因: 血液凝固に関連する遺伝子(例:F5 (R506Q) とF2 (G20210A) の多型)も、長期COVID患者の血管合併症への感受性を高める可能性があります。
- PASCにおける抗凝固療法: 長期COVID-19患者に対する抗凝固薬または抗血小板薬のルーチン使用は推奨されていませんが、血栓症と診断された場合には関連ガイドラインに従って治療が推奨されます。
5. COVID-19ワクチンと血栓症のリスク
- ワクチンの効果と安全性: 全体として、COVID-19ワクチンは疾患の発生率と死亡率を減少させるのに効果的です。ワクチンによる血栓のリスク(例:VITT、約25万回接種に1件)は極めて稀であり、「the benefits of global vaccination for individuals and the public far outweigh the adverse effects of the vaccines」。COVID-19自体による血栓のリスクははるかに高く(入院患者の約16.5%がVTEを発症)、数学的モデルではワクチン接種が血栓関連死を40倍以上防ぐとされています。
- ワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症 (VITT): アデノウイルスベクターワクチン(ChAdOx1またはnCoV-19など)接種後に血栓症または血小板減少症を発症するVITTという極めて稀な副作用が報告されています。主なメカニズムは、抗PF4抗体による血小板活性化、ワクチン成分による免疫応答の誘発、遊離DNAや負電荷タンパク質とPF4の結合によるPF4-ポリアニオン複合体の形成です。
- VITTの管理: VITTの主な治療法は、静脈内免疫グロブリン (IVIG) による免疫調節療法です。IVIGが無効な場合や重症例では、グルココルチコイドが補助的に使用されます。抗凝固療法には、非ヘパリン系抗凝固薬(アルガトロバンまたはフォンダパリヌクス)が優先されます。
6. 考察と今後の方向性
- 診断と治療の個別化: COVID-19患者の血栓症予防には、血栓と出血のリスクのタイムリーな評価、抗凝固の禁忌の明確化、および高凝固状態や線溶状態を評価するための診断検査の使用が重要であると著者らは提言しています。
- 他の呼吸器疾患との比較: COVID-19以外の呼吸器ウイルス感染症も血栓イベントのリスクを高めますが、COVID-19患者の血栓症発生率は他のウイルス性呼吸器疾患患者よりも有意に高いことが示されています。
- D-ダイマーの重要性: D-ダイマー値の上昇は、COVID-19関連凝固疾患の最も一般的な特徴であり、VTEリスク予測におけるその価値が多数の臨床研究で実証されています。
- 新たな治療標的の可能性: 長期SARS-CoV-2感染症で広範に観察される「アミロイドフィブリン微小凝固」は、毛細血管を閉塞し、酸素交換を妨げる可能性があります。また、フィブリンはSARS-CoV-2スパイクタンパク質と相互作用して炎症促進性凝固を形成し、全身性血栓炎症と神経病変に寄与します。フィブリンを標的とした免疫療法が、急性期および長期的なCOVID-19の治療介入として機能する可能性が示唆されています。
結論
本レビューは、COVID-19が血管系に与える壊滅的な影響を明確に示し、血栓症が疾患の重症度と死亡率に大きく寄与することを強調しています。血管内皮損傷、炎症性サイトカインストーム、補体活性化、NETs形成、血小板過活性化、および細胞外小胞の関与を含む、複雑な多因子性メカニズムが血栓形成の根底にあります。現在の臨床試験とガイドラインは主にヘパリン系薬剤による抗凝固療法に焦点を当てていますが、病態生理学的変化の理解が進むにつれて、患者の重症度に応じた個別化された治療戦略の必要性が浮上しています。長期COVID-19における血管合併症と、ごく稀なワクチン関連血栓症のリスクも認識されており、COVID-19自体による血栓症のリスクと比較して、ワクチン接種の全体的な利益ははるかに大きいことが示されています。フィブリンやアミロイド微小凝固を標的とした新規治療法は、将来の研究において有望な方向性を示しています。
フォームの終わり
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原著のリンク:
https://www.frontiersin.org/journals/immunology/articles/10.3389/fimmu.2025.1593885/full
ライセンス:
CC-BY 4.0
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0
書誌事項:
Yin Q, Huang Y, Wang H, Wang Y, Huang X, Song Y, Wang Y, Han L, Yuan B. COVID-19: a vascular nightmare unfolding. Front. Immunol. 2025;16:1593885. doi: 10.3389/fimmu.2025.1593885.
改変と限界:
本コンテンツは参照した論文の内容に基づいて、生成AIによりその内容をまとめなおしたものです。
AIの限界としてハルシネーションが知られています。漢字の読み間違いが存在します。
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