洋上の要塞、新型コロナとの戦いの始まり!ダイヤモンド・プリンセス号の英断と感染制御の軌跡

この論文は2020年2月に出版された、今ほどはCOVID-19について情報がなかった、ワクチンも治療薬もなかった時期にまとめられた文献です。今となってみれば他の選択肢もあったのではないかと思うところがあるかもしれませんが、情報のない中でご自身の感染リスクもある中で、当時現場で対応された先生方スタッフの方々には敬意を表します。
Journal of Travel Medicine, 2020, 1–7 doi: 10.1093/jtm/taaa030 Advance Access Publication Date: 28 February 2020

Diamond Princess号は、COVID-19の感染拡大に独特の環境を提供しました。これは、限られた空間に多数の人々が閉じ込められ、比較的均質に混ざり合うためです 。
2020年2月3日にDiamond Princess号でのCOVID-19アウトブレイクが報告され、当初は10件の症例がありました 。2月20日までに、乗客と乗組員3700人のうち619人(17%)が陽性となりました 。

研究では、SEIRモデルを使用してアウトブレイク初期の基本再生産数を推定しました 。初期の基本再生産数は14.8と推定され、武漢の流行の中心地よりも約4倍高い値でした 。

検疫や感染者の隔離といった公衆衛生対策により、推定2307件の追加症例が防止され、基本再生産数は1.78にまで低下しました 。

しかし、アウトブレイクの初期段階で乗客全員を避難させていれば、より多くの感染を防げた可能性が示唆されています 。2月3日の早期避難であれば潜伏期間中の感染者は76人であったと推定されています 。

COVID-19軽症・中等症の治療薬:本当に効くのは?大規模研究で判明した意外な真実

https://www.bmj.com/content/389/bmj-2024-081165

タイトル: Drug treatments for mild or moderate covid-19: systematic review and network meta-analysis (軽症または中等症のCOVID-19に対する薬物治療:システマティックレビューとネットワークメタアナリシス)

掲載情報:

  • ジャーナル: BMJ
  • 初版掲載日: 2025年5月29日
  • DOI: 10.1136/bmj-2024-081165

著者と所属:

  • Sara Ibrahim (マクマスター大学医療センター)
  • Reed A C Siemieniuk (マクマスター大学医療センター) – 連絡先著者
  • María José Oliveros (マクマスター大学医療センター)
  • Nazmul Islam (マクマスター大学医療センター)
  • Juan Pablo Díaz Martinez (マクマスター大学医療センター)
  • Ariel Izcovich
  • Anila Qasim (マクマスター大学医療センター)
  • Yunli Zhao (マクマスター大学医療センター)
  • Carlos Zaror (マクマスター大学医療センター)
  • Liang Yao
  • Ying Wang (マクマスター大学医療センター)
  • Per O Vandvik
  • Yetiani Roldan (マクマスター大学医療センター)
  • Bram Rochwerg

研究の目的: 軽症または中等症のCOVID-19患者における、様々な薬物治療の有効性と安全性を評価すること。これには、死亡率、入院の必要性、機械換気の必要性、治療開始からの症状改善までの期間、有害事象の発生率などが含まれる。

研究デザイン: システマティックレビューとネットワークメタアナリシス。これは、複数のランダム化比較試験(RCT)のデータを統合し、直接比較(異なる治療法が同じ研究で比較されている場合)と間接比較(異なる治療法が異なる研究で比較されているが、共通の比較対象がある場合)の両方を用いて、治療法の相対的な有効性を評価する手法である。

主な内容・論点:

  • COVID-19は公衆衛生上の大きな課題であり、効果的な治療法が求められている。
  • これまでの研究では、COVID-19の治療に関する多くのRCTが行われてきたが、エビデンスは断片的であったり、結論が不確実であったりすることが多かった。
  • 本研究は、既存の最高品質のエビデンスを統合し、軽症または中等症のCOVID-19患者に対する薬物治療の包括的な評価を提供する。
  • このレビューは、COVID-19の治療に関するCochraneのLiving Mapping of Research and Living Systematic Reviewや、LIVING Projectなど、既存の包括的なエビデンス統合プロジェクトの継続または補完として位置づけられている。
  • 特に、非重症COVID-19に対する抗ウイルス薬治療や、重症・非重症COVID-19患者に対する既存薬の有効性と安全性に関する過去のネットワークメタアナリシスなども参照されている。
  • 論文全体として、どの薬剤が軽症・中等症COVID-19患者に最も効果的で安全かについて、統計的な証拠に基づいた推奨を提供することを意図していると推測される。

重要性: この研究は、軽症または中等症のCOVID-19患者に対する臨床ガイドラインの策定や、医療従事者の治療方針決定に重要な情報を提供する。また、今後の研究の方向性を示す上でも貢献することが期待される。

具体的な治療薬の結果や推奨については、この概要では触れられていないため、論文本文を詳細に読む必要がある。

二次医療データは「真実」を語る?薬剤疫学研究の落とし穴と賢い情報の読み解き方

https://bmcmedresmethodol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12874-019-0695-y

Guillermo Prada-Ramallal氏らが執筆した「Bias in pharmacoepidemiologic studies using secondary health care databases: a scoping review」というタイトルの論文で、BMC Medical Research Methodology誌に2019年に掲載されたものです。

この論文は、医療記録や行政データベースから得られる臨床データや治療データが、臨床研究や疫学研究に新たな機会をもたらす一方で、これらのデータベースには固有の限界があり、新たなバイアスが生じやすいという背景に基づいています。

この研究の目的は、二次データベースに基づく観察的臨床研究に特有のバイアスを構造的にレビューし、それらのバイアスを軽減するための戦略を提案することです。

調査方法としては、2000年から2018年までの科学文献をMEDLINE、EMBASE、Web of Scienceで自動検索し、さらに参考文献リストの手作業による相互チェックで補完したスコーピングレビューが行われています。対象となったのは、二次データベースを用いた医薬品疫学研究における何らかのバイアスの存在を指摘することを主目的とした、意見論文、方法論的レビュー、分析研究、シミュレーション研究、編集者への手紙、または撤回論文です。

結果として、合計117の論文がこのレビューに含まれており、潜在的なバイアスに関する出版物の数が増加傾向にあることが示唆されています。

この論文はスコーピングレビューであるため、個々のバイアスの詳細なメカニズムを深く掘り下げるというよりは、どのようなバイアスが存在し、それらに関する出版物が増加傾向にあることを示唆している点が主眼となります。

  • 情報バイアス (Information bias):
    • 誤分類 (Misclassification):
      • 曝露(薬剤使用)やアウトカム(疾患の発生)の定義が不正確であることによる誤分類。例えば、診断コードが正確でない場合や、薬剤処方データが実際の服用状況を反映していない場合などが考えられます。
      • 論文の参考文献にも “Misclassification of current benzodiazepine exposure by use of a single baseline measurement” (Ref. 164) という記述があり、これは薬剤曝露の誤分類を示唆しています。
    • 測定バイアス (Measurement bias): データベースのデータ収集方法や記録方法に起因するバイアス。
  • 選択バイアス (Selection bias):
    • 適応による交絡 (Confounding by indication): 薬剤が特定の症状や疾患を持つ患者に処方されるため、その薬剤の効果と疾患の重症度や他の特性が混同されること。これは二次データベース研究で最も一般的なバイアスの一つです。
    • 健常者バイアス (Healthy user bias): 健康意識の高い人が特定の薬剤を服用する傾向があるため、その薬剤が実際以上に良い効果を持つように見えてしまうバイアス。
    • プロトコール逸脱による選択バイアス (Selection bias due to protocol deviation): データベースの特性上、特定の患者群が分析から除外されたり、逆に過剰に含まれたりすることによって生じるバイアス。
  • 交絡 (Confounding):
    • 残余交絡 (Residual confounding): 既知の交絡因子が十分に調整されていない、あるいはデータベースに利用可能な情報がないために調整できない交絡因子によるバイアス。
  • 時間関連バイアス (Time-related bias):
    • イモータルタイムバイアス (Immortal time bias): 観察期間中に「生存している」ことによってのみ曝露される期間が生じ、それが観察期間中に「死亡する」といったアウトカムから保護されるように見えてしまうバイアス。これは特に、薬剤曝露の開始時点とアウトカムの観察開始時点の定義が不適切だと発生しやすくなります。論文の参考文献にも “Immortal time bias in observational studies of drug effects in pregnancy” (Ref. 167) や “Understanding and avoiding immortal-time bias in gastrointestinal observational research” (Ref. 166) といった記述が見られます。
    • 不測の期間バイアス (Immeasurable time bias): 病院での入院期間など、特定の期間がデータとしてうまく捕捉できないことによって生じるバイアス。参考文献にも “Immeasurable time bias due to hospitalization in medico-administrative databases” (Ref. 165) とあります。
    • 追跡期間の不均一性 (Heterogeneity in follow-up time): 患者によって観察期間の長さが異なることによって生じるバイアス。

これらのバイアスは、二次医療データベースの特性(データの二次利用、臨床目的で収集されたデータ、非体系的なデータ収集など)に起因することが多く、医薬品の効果を正確に評価するためには、これらのバイアスを理解し、適切に対処することが極めて重要となります。

体内の隠れた味方たち:マイクロバイオームとがんの驚くべき関係

https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2833859#google_vignette

「JAMA | 総説 | トランスレーショナル・サイエンス:マイクロバイオームとがん:トランスレーショナル・サイエンスの総説」というタイトルの文書には、消化管やその他の解剖学的部位に存在する微生物が、がんの発生、進行、治療反応、および治療関連の有害事象に影響を与えるという証拠が増加していることが論じられています。

主な所見は以下の通りです。

  • がん患者の腫瘍内に存在する微生物は治療反応に影響を与える可能性があり、これらの微生物を減少または排除する治療法は患者の予後を改善する可能性があります。
  • 糞便微生物叢移植や食事介入(例:高繊維食)などの介入を通じて腸内微生物を調節することは、がん免疫療法を受けている患者を対象とした小規模な研究で予後を改善することが示されています。
  • 対照的に、免疫療法前に広域抗生物質を投与することによる腸内微生物叢の破壊は、固形腫瘍に対する免疫チェックポイント阻害剤治療やCAR T細胞療法を受けている患者において、全生存期間の短縮と有害事象の発生率の増加に関連しています。

この文書は、がんにおけるマイクロバイオームの役割を理解することが、トランスレーショナル・サイエンスにとって重要であることを強調しています。

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