ご挨拶

本研究室にようこそ

2018年4月1日

主催者の山田です。ホームページにいらして頂き有難うございました。

我々の研究室は、主に循環器疾患を対象とし、急性期ならびに回復期における疾病ならびに障害の重症化予防について研究しています。ここでは、ご挨拶に代えて、各研究領域におけるこれまでの取組と今後の方針について述べてみたいと思います。

まず、障害予防の研究ですが、これは主に心大血管外科術による筋タンパク分解の促進が術後身体機能低下の関連因子となることを明らかにした(Iida論文)ことと並行して、その抑制方策として誘発できない強度の筋収縮を誘導できる神経筋電気刺激波形(NMES)を開発したことに始まります。臨床研究としては、心臓外科術後早期におけるNMESの安全性や非ランダム化比較試験を報告し(Iwatsu論文)、現在はその適応ならびに効果に関するランダム化比試験の結果を投稿中です(Kitamura論文)。さらにその結果を受けて対象を絞ったランダム化比較試験が進んでいます。これら手術侵襲による急速な異化亢進と類似の背景を有するものに、心不全急性増悪による骨格筋機能低下があります。そこでまず急性心不全に対するNMESの実行可能性について研究結果を投稿中です(Kondo論文)。また、心不全増悪で入院したフレイル併存患者を対象としたNMES効果を検証するランダム化比較試験も進んでいます。これら一連のNMES研究は高齢心不全患者のみでなく、重症心不全における埋込型補助人工心臓前後の骨格筋維持・改善療法としても期待され(小林論文)、今後は様々な場面での応用が進むものと思っています。

一方、脳梗塞や心筋梗塞など、大血管病を発症した後の重症化予防は、発症リスク因子の管理がカギとなります。我々はリハビリテーン医療の対象とならない軽症虚血性脳梗塞を対象とし、ライフスタイルが再発リスク因子となることを明らかとし、またその改善により再発予防ができることをランダム化比較試験により検証してきました(Kono論文)。その結果は脳梗塞のライフスタイル改善による予後を検討したメタ解析(国際誌)にも引用されています。また、別コホートにて、退院時の身体機能により再入院リスクが予測可能であることも投稿中です(Kawajiri論文)。これら一連の研究結果を踏まえ、現在、ライフスタイル是正による虚血性脳梗塞の再発予防効果とその想定される機序について総説を投稿しました(Yamada論文)。その基本的考え方は、大血管病発症後のライフスタイル是正は薬剤の “残余リスク改善” を担う、というものです。脳梗塞と同様、動脈硬化という同じ病態背景を有する心筋梗塞にも通じますので、いつかお読み頂ければと思います。

最後に現在取り組んでいる研究について述べたいと思います。現在、研究室では二つの大きな研究に取り組んでいます。一つは今年で3年目に入る“心不全のフレイル診断基準開発”です。この大規模コホート研究に関しては他のページに詳しく記載していますのでご覧下さい。この研究により、フレイル診断基準のみでなく、退院後の病態推移からみた心不全再入院リスクなど、多くの質の高い論文が発信できると思っています。この他に、研究室は本年2月より近隣の研究室関連施設とともに経皮的冠動脈血行再建術後のライフスタイル是正による重症化予防研究を始めました。この研究ではまずコホート研究により重症化リスク因子を明らかにした上で、投与薬剤とライフスタイル是正により重症化リスク因子を是正する “新しい方法論” を開発していきます。本年4月よりリハビリテーション療法学に着任する松井准教授はデータサイエンスの専門家ですが、このような異分野との融合研究を進め、近未来の新しい重症化予防医療の形を開発していく予定です。

今、本邦の医療には大きな変革が訪れようとしています。どのような社会になるかは具体的には予想し難いところがありますが、大きく変わることは間違いありません。そのような近未来社会の医療に思いを馳せ、新しい分野に挑戦する若い力と共に、これまでの多くの研究室OBの努力の成果を次につなげていきたいと思います。

山田純生