心不全フレイルの診断基準開発

研究背景

Frailty(フレイル)は、欧米で提唱された虚弱高齢者を示す概念であり、予後不良な医学的症候群と位置づけられている(Morley JE, et al. J Am Med Dir Assoc. 2013)。フレイルは加齢に伴う骨格筋量の減少(サルコペニア)を中核症状とするが、慢性心不全では加齢に加え、悪液質(カヘキシア)など病態による二次性サルコペニアによるものが多い。これまで、心不全の予後予測や心臓リハビリテーション(心リハ)の効果指標には、運動耐容能の指標である最高酸素摂取量や6分間歩行距離用いられてきた。しかし、6ヶ月間の運動トレーニングでも、最高酸素摂取量の増加は平均10%と少なく反応性が乏しい(予備調査より)。加えて、心肺運動負荷試験が実施困難な高齢心不全も増加している。近年、フレイルは心不全予後と関連することが報告され、心リハ効果をより鋭敏に反映する新たな予後指標となる可能性が示唆されている。我々も以前行った多施設コホートデータ(N=181)の二次解析より、フレイル項目の該当率が多いほど、心イベントの発生率が高いことを報告した(Yamada S, et al. ESC Heart Fail. 2015、図1)。

しかしながら、その診断基準は確立されておらず、国際的な関心事となっている。一例を挙げると、学術研究に最も用いられている Fried らの診断基準(Fried LP, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2001)は、米国の地域在住高齢者コホートデータより作成されたもので、その表現型の一つである筋力(握力)は体格差があるアジアの高齢者には適用できない。近年、アジアの高齢者を対象とするサルコペニア診断基準が提示されたが、未だ意見段階であり、縦断的調査に基づくカットオフ値の決定が課題とされている(Chen LK, et al. J Am Med Dir Assoc. 2014)。さらに、Friedらのコホートデータは地域住民が対象であり、診断項目やその基準は心不全特異的な診断基準ではない。心不全予後との関連が強いフレイル基準を開発することは、質の高い心不全管理のための臨床指標を提供するのみでなく、心不全再入院予防への取り組みを促す端緒となることが予想される。

そこで我々は、心不全フレイルの基準開発を目的とした前向きコホート研究(A multicenter prospective cohort study to develop frailty-based prognostic criteria in heart failure patients:FLAGSHIP)を開始した(科学研究費補助金基盤研究A [16H01862]、PI:山田純生)。FLAGSHIPは、全国30施設以上の共同研究施設の協力を得て実施される大規模コホート研究であり、急性心不全または心不全急性増悪で入院した者、および急性心筋梗塞で入院した70歳以上の者(いずれも歩行可能な者)を対象者としている。退隠時にFriedらの提唱した表現型を含む複数の心不全フレイルの候補項目を評価し、退院後2年間の追跡調査に基づいて、心不全予後を予測する診断項目とそれらのカットオフ値を同定する。2018年2月までに約2600例が登録されている(心不全85%、AMI15%、図2)。心不全3000例の縦断データ集積後、世界に先駆けて本邦発の心不全フレイル基準を報告できる予定である。

研究助成

2016-2020年度 基盤研究(A):研究課題/領域番号:16H01862 (研究者代表者:山田純生)

研究目的

大規模コホートを構築し、精度の高い心イベントの予後指標となる心不全Frailty基準の開発を行うと同時に、Frailtyの改善に対する退院後の心リハ効果を検証すること 。

研究プロトコル

Frailty評価:体重、10m歩行速度、握力、PMADL-8(質問紙)、SEPA-W(質問紙)

研究スケジュール

研究協力施設