高齢者の障害予防

血管機能の加齢変化

地域在住後期高齢者における末梢動脈疾患の実態とその関連因子に関する検討

末梢動脈疾患(PAD)は、本邦において、加齢とともに増加し、PAD患者の5年での心血管イベント罹患率と死亡率を合わせると約30%でることが報告されていることから、予後不良な疾患であると考えられる。本邦の地域在住後期高齢者を対象として、足関節上腕血圧比(ABI)を用いてPAD(ABI<0.90)の有病率や関連する因子を調査した研究は少なく、詳細な実態は明らかではない。また、心血管イベント発症および死亡のリスクが高くなる可能性が示唆されているABI境界領域(0.90≦ABI≦0.99)に関しては、本邦・海外ともに実態が不明である。そこで本研究では地域在住後期高齢者を対象にPADおよび境界領域の実態を調査し、さらに動脈硬化危険因子の関連性を検討することを目的とした。

ABI測定風景

関連文献

  1. 加藤正規 他.地域在住高齢者における末梢動脈疾患の実態とその関連因子に関する検討,日本循環器病予防学会誌, 2015; 50:35-40.

FMD(血管内皮機能)研究

血管内皮機能からみたインターバルトレーニングと一定負荷有酸素運動の急性効果

血管内皮機能障害は動脈硬化の初期病変であり、心血管イベント発症の独立した予測因子である。そのため血管内皮機能の維持及び改善は疾病予防の観点から重要である。運動は血流とずり応力を増加させることで血管内皮機能を改善させると報告されている。有酸素運動にはaerobic interval training (AIT) とcontinuous moderate exercise (CME)があるが、先行研究ではどちらの運動様式が血管内皮機能改善により有効であるか一致した見解は得られていない。本研究室では、FMD検査の前腕圧迫中に生じるL-FMCが再現性に影響することに着目し、L-FMCを含めた%FMTDを提唱し、その良好な再現性を報告した1)。しかし、AITやCME後の%L-FMCや%FMTDの変化は不明である。従って本研究は、健常若年者におけるAITとCMEの血管内皮機能に対する急性効果を%FMTDを指標として検討することを目的とした。

関連文献

  1. 奥村比沙子、他.血流低下由来の血管収縮は血流依存性血管拡張反応の再現性に影響する, 脈管学、2011; 51:203-208.

圧迫刺激の血管内皮機能への効果

血管内皮機能の改善には血流による血管内皮細胞への力学的刺激(ずり応力)の増加が重要となる。現在のリハビリテーション介入方策には、運動や物理療法が報告されている。物理療法には、入浴と運動の併用、電気刺激、全身周期的加速度運動装置、サウナを用いた和温療法がある。しかしながら、従来の改善方策には、運動が困難な対象者には適応できないことや、特別な設備や装置を必要とすることなどの問題がある。そこで我々は身体運動を必要とせず、簡便にずり応力を増加させる間欠的圧迫刺激を新たな介入方策とすることを発案した。間欠的圧迫刺激は血管内皮機能を改善させることが期待され、本研究では健常若年男性を対象として刺激の影響を検討する。

頚動脈内膜中膜複合体厚の調査

高齢者に対する疾病予防の観点からは動脈硬化の評価が重要になると考えられる。動脈硬化性疾患発症の予測因子である頚動脈内膜中膜複合体厚(IMT)は、年代別の基準値が示されているが、70歳以上では少数例での検討のため、高齢者の実態を十分に反映していない。そこで我々は、地域在住高齢者を対象に頚動脈エコー検査を実施し、高齢者の頚動脈IMTの実態を調査した。全対象82名では頚動脈IMTは年代が上がるに連れて増加の傾向を示し、女性においてもその傾向が認められた。さらに頚動脈IMTを中央値で分けた2群間の比較では、動脈硬化危険因子に差を認めなかったが、肥厚している群で年齢が高い傾向を示した。これより75歳以上の地域在住高齢者においても加齢により頚動脈IMTの上昇を認め、その平均値は先行報告と同程度であることが示された。

高齢者の障害予防

地域在住後期高齢女性における中等強度以上の活動時間と普通歩行速度低下との関連

歩行速度低下は高齢期の様々な健康アウトカムを予測する予後不良因子である。一般に3METs以上の活動時間と定義されるmoderate to vigorous physical activity (MVPA) は高齢期の身体機能維持に重要との報告が散見されるが、後期高齢者のエビデンスは乏しい。そこで、身体活動量と歩行速度低下(普通歩行速度<1.0 m/s)の関連を横断的に調査した。75歳以上の地域在住後期高齢女性350名を対象とし、10m普通歩行速度、身体活動量(加速度計付き歩数計で歩数・MVPAを測定)、潜在的交絡因子を測定した。ロジスティック回帰分析の結果、MVPAは歩数を含めた交絡因子とは独立して歩行速度低下と関連したが、歩数は関連しなかった。早歩きなどMVPAの時間を確保することが、後期高齢女性における歩行速度維持に寄与する可能性が示唆された。

関連文献

  1. Adachi T, et al. Duration of moderate to vigorous daily activity is negatively associated with slow walking speed independently from step counts in elderly women aged 75 years or over: A cross-sectional study, Arch Gerontol Geriatr. 2018; 74:94-99.

日本の軽度要介護者における認定度別介護度重症化リスク

介護度の重度化を予防するためには、筋力、栄養状態、抑うつといった改善可能な因子に着目する必要がある。本研究は、改善可能な因子について、コープあいちおよびコープかながわのホームヘルプサービス利用者417名(要支援~要介護1:278名、要介護2:139名)を対象に調査し、要支援~要介護1と要介護2との間で比較を行った。要介護2では、握力および下腿周囲長が低値であり、痩せ、低栄養、抑うつが多く、これらの因子は介護度重度化に対する潜在的なリスク因子であると考えられた。ソーシャルサポートは、抑うつと負の相関を示したことより、疾病や負のライフイベントが精神的な健康に及ぼす影響をソーシャルサポートが緩和することを示唆する結果であると考えられた。

関連文献

  1. Kamiya K, et al. Predictors for Increasing Eligibility Level among Home Help Service Users in the Japanese Long-Term Care Insurance System, Biomed Res Int. 2013;2013:374130.

日本の介護サービス利用者における介護度増悪のリスク因子

要支援~要介護2であるコープあいちおよびユーコープのホームヘルプサービスの利用者を対象に、要介護3以上の認定もしくは公的介護施設への入所をアウトカムとして3年間追跡した。ベースライン調査で欠測値があった者と追跡期間中の死亡者を除外した386名のうち、106名(27.5%)にアウトカムが発生した。Cox比例ハザードモデル解析にて、年齢、性別、ベースライン時の介護度で調整しても、記憶能力が低いことはアウトカム発生と有意に関連した。また、ガンの有無を調整因子に加えると、握力がアウトカム発生に関連する傾向を示したことより、握力が障害増悪に及ぼす影響は疾患によって修飾を受けることが示唆された。

関連文献

  1. Kamiya.K,et al.
    Risk factors for disability progression among Japanese long-term care service users: A 3-yearprospective cohort study. Geriatr Gerontol Int. 2017; 17:568-574.