本研究会の概要

 昨今の情報技術の進歩と普及は都市部のみならず過疎地域へも浸透し、我々の生活環境における情報共有のあり方にも大きな変化をもたらしています。 もちろん医療・介護・福祉分野においてもこの変化の波は押し寄せており、情報収集方法や現場での判断材料はより多岐多様にわたり、 個々の資質限界を大きく凌駕しています。 こうした潮流の中で、人口集中の進んだ地域では医療情報技師の集合体、医療情報技師を中心に医療情報に関わる様々な職種の集合体がすでに形成され、 活動が続けられています。 しかしながら過疎化の進んだ地域では点在する医療機関や施設で担当者が個別に医療情報技術の習得や運用の取り組みを担っているのが現状です。 加えるに医療政策の転換や地域の高齢化への対応、不確定要素の多い数多くの情報からの選択、患者の生活領域まで介在する多種多様な職種との調整など、 医療・介護・福祉の抱えている問題は枚挙にやみません。 こうした現状に鑑み、この研究会の設立にあたっては広域に点在する医療機関や施設で情報化が進む状況で孤立する医療情報関係者を結び付け、 幅広い観点から話題を提供し、個々の医療情報関係者の資質向上を図り、各施設内外でのシステム運用が円滑に進められることを目的とします。
これまで「科学」は標準化した事例報告を行い、批判し、改善することで進歩をとげ、多くの学会や研究会でもこの手法が学問として定型化されています。 一方、「技術」は社会の営みの中で伝承された経験と知識の集大成ですが、その中にはサイエンスの領域では計り知れないほどの英知を内包しています。 本研究会では科学よりも技術を追求し、失敗学や事故報告を含む事例から学べる実学を重視したいと考えています。 具体的には企画、体験(成功のみならず失敗)、過程で苦労や工夫をした点、事故報告などの共有をもとに、いわゆるチップス(ちょっとしたヒントや秘訣、コツ) の共有を財産(データベース化)とする有機的な共同体を目指します。 ここで最も強調したい点は他者への批判ではなく共感が最低の必要条件で他者のナラティブ(物語り)に傾聴する姿勢が必要と考えています。 100の現場にはそれぞれの問題と解決方法が凝集されており、それは他山の石になりうる原石であると考えています。 すなわちこのことは本研究会の存在意義が立場を越えた現場の福音でありたいという趣旨に基づいています。 情報化が医療の現場に取り入れられてそこに多くの人々が関わるようになってきた現状で、過疎地で孤立し迷う多くの現場で すぐに応用可能な情報化を利用した共有財産(経験則や技術継承)を私たちは育てて行きたいと思います。
われわれの地域ではかつて「たたら場」が山間部に点在しており、日本古来の製鉄業の先進地域を形成していました。 たたら場は村下(むらげ)など各職種の技能集団(山内)で共有した技術を継承していました。 個々の山内は決して大きなものではありませんでしたが、長い歴史を重ねる中で鉄穴流しによる多くの不自然な独立丘や 崖面の形成のみならず下流では沖積平野を拡大し出雲平野、備前平野のみならず弓ヶ浜半島を形成するほど中国地方に 大きな地形変化をもたらした文化は他に類を見ません。 今は過疎地となってしまいましたが、私たちはこの文化圏の誇りを胸に抱き、過疎地域における医療情報技術の共有共同体の創生に旗印を上げる事を決意します。

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