東京大学 医学部 衛生学教室は1885年(明治18年)に初代教授である緒方正規が開設して以来130年以上の歴史を持つ東京大学で最も古い研究室です。その間現在に至るまで疾患の予防に繋がる重要な研究を行う拠点であり、また国の衛生行政の中核となる人物の育成・輩出に務めてきました。
衛生学教室はその志は一貫しながらも、感染症や産業衛生などその時の社会情勢に対応するようにその研究対象を変えてきています。
近年のヒトゲノムの解読と分子生物学の発展を背景として衛生学は分子予防医学と名称を変え、8代目の松島綱治教授のもとでサイトカインを中心とした疾患背景の炎症・免疫現象の解明と2次・3次予防への臨床応用に関する活発な研究が行なわれました。
衛生学教室では医学部医学科M1の衛生学の講義及びM2における実習、大学院医科学修士の衛生学概論を担当しています。社会変化に伴う疾病構造の変化、産業衛生・精神衛生等の基本的考え方、疾病素因の基盤となるゲノムや多量のバイオ・ヘルスデータの理解のための情報技術に力を入れ、衛生学の講義・実習を通じて予防医学の考え方を教えています。
現在の衛生学教室では、がんを中心とした保健衛生上の課題に対し、ゲノム科学・情報科学の視点から適切に予防・治療等で介入するポイントを探索する研究を行っています。がんや炎症・免疫疾患など多種の細胞によって構成される複雑系について、ゲノムレベルで多量のデータ計測を行うことによりその動態を明らかにし、介入可能な予防・治療ターゲットやバイオマーカーになりうる特異的現象の探索と疾患における意義について解析を行っています。
また多量・多次元のゲノム配列・画像等の生物情報のなかから次元圧縮・可視化等により本質的な情報を抽出し人が解釈するための人工知能を含めたバイオインフォマティックスの技術開発にも取り組んでいます。