研究代表者挨拶

 平成26年5月に「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)が成立し、平成27年1月に施行されました。この法律の制定によって、難病の発症機構、診断及び治療方法に関する調査と研究を推進し、療養生活環境整備事業が実施されています。 本研究班は、指定難病の中でも神経変性疾患領域である①球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、②筋萎縮性側索硬化症(ALS)、③脊髄性筋萎縮症(SMA)、④原発性側索硬化症(PLS)、⑤進行性核上性麻痺(PSP)、⑥Parkinson病(PD)、⑦大脳皮質基底核変性症(CBD)、⑧Huntington病(HD)、⑨神経有棘赤血球症(NA)、⑩Charcot-Marie-Tooth病(CMT)、⑪特発性基底核石灰化症(IBGC)、⑫脊髄空洞症、⑬脊髄髄膜瘤、⑭遺伝性ジストニア、⑮神経フェリチン症、⑯Perry 症候群、⑰前頭側頭葉変性症(FTLD)、⑱紀伊ALS/Parkinson認知症複合(紀伊ALS/PDC)、⑲本態性振戦(ET)、⑳Vici症候群、合計20疾患を対象(①~⑰が指定難病)として政策研究を進めています。すなわち、上記疾患に関する、1)患者レジストリの構築、患者情報や生体試料の収集を含む疫学調査、2)診断基準や重症度分類の改訂に向けての検討、3)診療ガイドラインの作成・改訂、4) 患者・介護者向けの療養の手引きやケアマニュアルの作成・改訂に取り組んでいます。

 本研究班は、日本神経学会や日本神経治療学会などの神経変性疾患関連学会と連携し、さらに、関連する実用化研究班などと連携して議論し、我が国における神経変性疾患全体に関する研究・診療について検討しています。さらに、現在検討を行っている20疾患以外の疾患に関する課題を含めて神経変性疾患全体についての議論も進めるように努めています。関連研究班と連携して疫学調査による実態把握や試料収集の検討も行っており、精度の高い臨床情報を伴った生体試料収集を行なうように努めています。神経変性疾患の鑑別診断は困難なこともあり、初期・軽症例の診断には課題が多く、症状が揃った進行期のみならず診断が不確実な早期の段階からの検討が必要です。早期診断・早期介入に向けて、診断不確実例を含めた患者情報収集について検討しています。

 診断基準・重症度分類改訂についても検討しており、たえず見直しを行い、より適切な基準・評価法の策定に向けて継続的な検討を行っています。神経変性疾患では臨床亜型の存在なども指摘され、各疾患の診断のみならず臨床亜型別の診断基準に関する検討も行っています。 診療ガイドライン・診療マニュアルの作成による難病医療の均霑化により我が国における診療向上に貢献しようと、取り組んでいます。また、ケアマニュアルや療養の手引きを作成して療養の改善に取り組み、患者・家族・介護者や医療スタッフの皆様の参考書として情報を提供しています。本ホームページから読むことができるようにしていますので、ご活用頂きたいと考えます。

 一方、神経変性疾患に共通する課題、例えば、サイバニクスを含めたリハビリテーション、遺伝子診断体制や遺伝子検査体制の情報提供、療養に関する相談・支援体制、神経病理診断体制構築などの検討も進めています。

 本ホームページは、「神経変性疾患領域における難病の医療水準の向上や患者のQOL向上に資する研究」班の活動状況や班会議やワークショップなどの開催予定も掲載し、成果物を広く活用して頂く目的も持っています。このホームページが活用されることを期待しています。

令和5年4月1日

厚生労働科学研究費補助金
(難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業))
『神経変性疾患領域における難病の医療水準の向上や患者のQOL向上に資する研究』班
研究代表者(東京大学大学院医学系研究科神経内科学 教授)
戸田達史