自明な

(じめいな self-evident)


自明な知識あるいは明証的な知識とは、 見ただけで明らかに正しい知識のこと。 推論を必要としないというところがポイントで、 論証的(discursive)な知識と対比して用いられる。

たとえば、ユークリッド幾何学の公準である 「任意の点と、これと異なる他の任意の点とを結ぶ直線は、 一つ、そしてただ一つひくことができる」 (要するに、「異なる二点を結ぶ直線は一本しかない」ということ)は、 証明を必要としない、自明な知識である。

中学生のときに幾何学の証明をやったと思うが、 証明は、「AとBは正しい知識である。CはAとBから導きだされるから、 やはり正しい知識である」 というように、こうした自明な公理・公準から出発して行なわれる。

しかし、何が自明な知識であるか、また、 どうやって自明な知識がえられるか、 というのは哲学における大問題の一つである。 (この点については、合理論を参照せよ)

たとえば、倫理学ではときどき「無実の人を殺すことは不正である」 というような主張が自明なものとみなされるが、 なぜ自明なのかと尋ねると、 理性的直観によって明らかだと答える人や、 道徳的感情によって明らかだと答える人がいて、 議論は尽きない。 また、不敬虔な倫理学者たちは、「いや、それはけっして自明ではない、 証明を必要とする」と批判したりする。

(15/Jan/2001)


KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Fri Jan 28 03:34:47 JST 2000