重商主義

(じゅうしょうしゅぎ mercantilism)


国家の富を国内に蓄積されたお金(金や銀といった正金)の量で測る立場。 この立場によれば、国家の富を蓄積するには貿易黒字 (すなわち、輸出を増やし、輸入を減らすこと)を生み出すことである。 17世紀にはイギリスとオランダおよびインドとの貿易差額の問題、 さらに18世紀にはイギリスとフランスとの貿易の問題(国内毛織物産業の保護) を背景に、イギリスを中心に流行した思想。 代表とされるのはトマス・マン(1571-1641) の『外国貿易によるイギリスの財宝』(1664年)、 ジェイムズ・ステュアート(1712-1780)の『政治経済学原理』(1767年)など。

この立場には矛盾があることを最初に気付いたのは、 ヒュームである。 というのは、富の蓄積に伴って他国より物価価格が上昇するため、 結果的に貿易は赤字に転落し、失敗するからである。 これはspecie-flow theory (正価流出入理論)として知られている。

たとえば、日本と米国だけの商業関係を考えてみよう。 日本が外貨を得ようとして米国に自動車をたくさん輸出して、 なるべく輸入は抑えるとする。するとはじめは、 日本は貿易黒字になり米国は貿易赤字になり、 日本はお金持ちになる。 しかし、お金持ちになった日本では、物価が上昇し、 労働賃金も高くなるだろう。 そうすると、米国は高い日本の商品をあまり輸入しなくなるし、 また相対的に米国の商品は安くなるため、 日本は(高い関税障壁を設定しないかぎり) 米国からの輸出を増やすことになるだろう。 そうなると、けっきょく重商主義の立場に立つと、 日本は一定量以上の富を蓄積することはできないことになる。

また、この発想は「自国が富を蓄積すれば、他国は富を失なう」 というゼロサムゲーム的であるため、国際関係が悪くなるという欠点もある。 実際、イギリスとフランスは国外の市場の拡大のために植民地を取り合い、 さらに軍事費の膨大な増加は国内に社会不安をもたらした。

これに対して、 ヒューム自身は新しい発想や技術革新によって需要を生み出すことが 富を増やす方法だと考えていた。 各国はお互いを刺激しあって新しい需要を生み出すことができるので、 彼にとっては商業とはお互いに利益を生みだす行為なのである。

また、スミスも『国富論』 第四編で、「貨幣の増加=富の増加」と考える重商主義を批判し、 貨幣の増加は富の増加の結果でしかなく、 富の増加とは資本の蓄積と労働者の増加によってこそなされるのだとした。 それゆえ、貨幣を増加させよう貿易に制限を加えることによって 資本の蓄積を妨げるような政策は間違いであり、 自由市場による資本の蓄積を認めることによってこそ 一国の富を増やすことができるとした。

重農主義の項も参照せよ。

31/Mar/2003; 05/Apr/2003追記


参考文献


KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Sat Apr 5 23:48:15 JST 2003