がんの在宅療養 地域におけるがん患者の緩和ケアと療養支援情報 普及と活用プロジェクトfacebook

「がん医療フォーラム出雲 2017」開催後記~がん療養者と家族が安心して暮らせる地域を目指して~

「がん医療フォーラム出雲2017」開催の経緯

2017年7月23日に「地域におけるがん患者の緩和ケアと療養情報 普及と活用プロジェクト」と、私が代表を務めている「出雲いのちをみつめる市民の会」の共催で「がん医療フォーラム出雲 2017」を開催しました。出雲市役所 くにびき大ホールで開催したフォーラムには、出雲圏域の市民を中心に250人の方が参加してくださいました。

私たち「出雲いのちをみつめる市民の会」は、市民ひとりひとりがその人らしい人生を全うできる社会を目指して活動しており、日頃から最期の時の過ごし方について考える機会を提供する目的で「いきかたカフェ」を開催しています。いきかたカフェでは毎回テーマを決めて参加者と語り合っていますが、在宅医療や在宅看取りの話がよく話題にあがっていました。そんななかで在宅療養に関する情報の普及と活用を推進する活動をしている「地域におけるがん患者の緩和ケアと療養情報 普及と活用プロジェクト」の存在を知り、このたびのフォーラムを共催させていただくこととなったのです。

フォーラムの概要

前半は帝京大学医学部内科学講座腫瘍内科准教授の渡邊清高さん、爽秋会岡部医院の河原正典さん、私の順に基調講演を行いました。渡邊さんからはがんの在宅療養におけるがん患者さんとご家族を支える情報の大切さ、情報の入手方法、および市民への普及と活用についてのお話を、河原さんからは仙台でのがん在宅診療の取り組みと調査結果、都市別の在宅看取り率などのお話をいただきました。私は自身が所属しております、出雲市で訪問診療を積極的に実施しているすぎうら医院の診療の実際、訪問管理栄養士の活躍、連携型機能強化型在宅療養支援診療所としてのチーム医療の取り組みについてお話しさせていただきました。

フォーラムの様子1の画像
フォーラムの様子1

後半は出雲市健康福祉部医療介護連携課課長の森口修三さん、在宅看取りを経験されたご遺族の山崎順子さんからご講演をいただきました。森口さんからは出雲市の在宅医療・介護連携推進事業の取り組みや、2015年に行った在宅医療についての市民アンケート結果、地域住民への啓発事業の内容についてお話しいただきました。そして山崎さんからは、実際に在宅でお父様を看取ったご経験とそこから学んだことについてお話しいただきました。

そして最後に、渡邊さんがモデレーター、パネリストとして河原さん、私、森口さん、山崎さんに加え、島根県立中央病院総合診療科部長の今田敏宏さん、島根県立大学出雲キャンパス在宅看護論講師で前訪問看護ステーションやすらぎ所長の加藤典子さんにご登壇いただき、会場からの質問に答える形でディスカッションを行いました。ディスカッションの前に加藤典子さんから、山崎さんの事例について訪問看護師の視点で療養支援のポイントについてお話しいただきました。ディスカッションでは、がんの積極的な治療継続が難しくなった場合の過ごし方を医療者からご本人やご家族へどのように伝えるか、地域の医療スタッフの療養支援、意思決定支援について、各パネリストからコメントをいただきました。

詳細は、このウェブサイトの「がん医療フォーラム出雲 2017」の開催記録をご覧いただけたらと思います。

フォーラムの様子2の画像
フォーラムの様子2

フォーラム開催を通じて感じたこと

講演の中で河原さんは「在宅で看取るのは医療者ではない。看取るのは家族。そのお手伝いを私たち在宅医がするのだ」とおっしゃいました。私たち在宅診療医は、患者さんご本人が穏やかになれるように、居たい場所にいられるように支援します。また看取りのときには、ご本人のケアはもちろんご家族の悲しみや辛さにも気を配り、時にはともに涙し、ともに笑いあい、ご本人とご家族との時間を共有します。在宅診療医として、これからも患者さんご本人とご家族が主体となって在宅療養と在宅看取りをしていけるように、「最後まで『生きる』こと」を支えられるように、きめ細やかな支援をしようと改めて思いました。

山崎さんはお父様との思い出、20日間の在宅療養とお看取りまでの様子を、たくさんの写真を使ってお話しくださいました。参加者アンケートでも、山崎さんのお話が一番心に響き、具体的に在宅療養と在宅看取りのイメージを持つことができたとのご意見を多くいただきました。山崎さんは「元気なときから、生き方、逝き方について語り合う大切さを父から教わった」「総合病院の先生が予後の見通しを伝えてくれたことで、本人も段取りができ、その通りになった」「父に教わったことを大切にして、今度は自分自身の”終活”をしようと思う」とおっしゃいました。在宅看取りを経験したことで娘である山崎さんにお父様の生き様が伝えられ、しっかりと受け継がれていることを感じました。もちろん、一緒にお看取りを経験した山崎さんのご親族、お子さん方やお孫さん方にも同様に受け継がれていると思います。在宅で最期のときを過ごすことは、ご本人の希望を叶えるということはもちろんですが、残されるご家族にとっても大きな意義があります。ご本人が旅立たれたあと、ご遺族はともに過ごした最期のときのこと、ご本人が大切にしていた教訓などを想うことで悲しみが癒され、前を向いて生きていくための糧となり、人生の指標ともなるのです。

「ご家族のための がん患者さんとご家族をつなぐ在宅療養ガイド」と、地域での在宅療養情報普及・啓発活動

フォーラムでは「ご家族のための がん患者さんとご家族をつなぐ在宅療養ガイド」についても紹介しました。この本は在宅療養を始めるに当たっての相談先や準備・手続きのこと、療養中のケアの仕方など具体的なことがらも充実していますが、ご家族と患者さん本人のコミュニケーションのポイントや、「最期のとき」に向き合うこと、お別れの時期についてなども詳しく書かれており、ご家族の不安や辛さにも十分配慮した内容になっています。フォーラムの参加者アンケートでは70%を超える参加者が「現在または過去に、ご自身、ご家族や周囲にがんにかかっている方がいる」と回答しており、閲覧用の冊子を手にとって読んでいただいた方も多かったと思います。またフォーラムの後半で来場者に向けて、島根県立大学出雲キャンパス在宅看護論講師の阿川啓子さんが中心となり作成した冊子「子どもに迷惑をかけない!幸せな在宅介護」の紹介、島根県立大学看護学部学生の卒業研究に関する調査へのご協力のお願いをさせていただきました。地域での地道な活動や、地域でのがん治療・療養に興味を持つ看護学生に対して温かく応援してくださり、ご配慮くださった渡邊さんには深く感謝しております。

フォーラム開催に当たっては、登壇してくださった皆さまはもちろんのこと、出雲での準備を万全のものにすべく阿川さんとともに奔走してくださった斐川中央クリニック看護師の園山純代さん、素晴らしい会場を快く提供いただき、広報や会場設営、運営に至るまで手厚くサポートしていただいた出雲市健康福祉部医療介護連携課の福間さんはじめ出雲市職員の皆さま、開会に当たり市民に向けて温かいメッセージをいただいた出雲市副市長の伊藤功さん、きめ細やかな事務手続きをしてくださった帝京大学の西田さん、配布物の準備や事前送付でお世話になった正力厚生会事務局の皆さま、当日にボランティアで会場設営、駐車場での交通整理、受付など、暑い中で多岐にわたりお手伝いいただいた島根県立大学出雲キャンパス看護学部の職員と学生の皆さま、そのほかにもたくさんの方々に大変お世話になりました。この場をお借りして心より御礼申し上げます。

掲載日:2018年2月19日
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