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がん医療フォーラム 香川 2018 がんになっても幸せに暮らそう~ちゃんと決めまい自分のこと~
【第2部 フォーラム】がんになっても幸せに暮らすための準備
ディスカッション

モデレーター: 渡邊清高さん、辻 晃仁さん
パネリスト: 吉澤潔さん、三宅敬二郎さん、長内秀美さん
ディスカッションの様子写真1
ディスカッションの様子1

渡邊:これまで、3人のパネリストの皆さまから、がん治療、在宅医療、そしてご家族としてご主人を見送られたというそれぞれの視点で、これからの意思決定や話し合うことの大切さについてお話しいただきました。
治療中の方からのご質問や、これからの過ごし方のご意見など、会場からたくさんお寄せいただきました。

娘さんが療養中の方や、老老介護の方、独居の方など、さまざまな種類のがんでまさに現在過ごしていらっしゃる方から、本当に家や施設で過ごせるのか、大丈夫なのか、というお声をいただきました。どういったお話をしていらっしゃるのでしょうか。

吉澤:家で生活することは決して不可能ということではないと思います。ただ、どうしても家でないといけない、ということではなく、家でできるだけ過ごして、最期は病院で過ごすという方法もあります。人の気持ちは揺れるものですから、ご家族が後悔することのないように、家か病院のどちらかというように決めてしまう必要はないと思います。

三宅:独居、老老介護の方から相談を受けることはよくあります。独居の方を看取ることはよくあります。最高齢の方は105歳でした。在宅が継続できるかどうか、判断できる目安がありますが、一番大切な要素はACPだと思います。本人が最期まで家で過ごしたいという気持ちがあれば、本人が意思決定できないときはご家族の気持ちがあれば、家で過ごすことができます。今は介護保険などの制度もあります。助けてくれる人もたくさんいます。

長内:いろいろな年代の方を看取ってまいりました。そのなかでも、脳腫瘍のお子さん達を看取ったときに、短い生を終えて逝く姿に考えさせられることがありました。「親を亡くすと、自分の『過去』を亡くす」「配偶者を亡くすと、自分の『今』を亡くす」「子どもを亡くすと、自分たちの『未来』を亡くす」とE.A.グロルマン氏の言葉にありますように、看取る人の立場によって、喪失感の状況も違います。その人らしく看取ることで、ご家族の再生を図ることができると思います。独居で亡くなられる方もおられますが、その人にとっても最期まで自分らしく過ごすことができたことは、幸せなことだったのではないかと思います。ご自身・ご家族の思いを受け止めてくださる、在宅の支援チームと出会うことが大切だと思います。

渡邊:いろいろなアドバイスや経験者の方の声を聞きながら、自分らしい判断ができるといいですね。大学病院ですと、診断して治療して、これからどう過ごしていくか悩んでいる方にお話しすることが多いと思いますが、お話しすることでうまくいくことや、逆に難しいと感じることはありますか。

辻:一つだけ大切なことは、患者さんや家族がイメージしているよりもっとよい未来があることと、サポートしてくれる人は「大丈夫ですよ」と引き受けてくださる、ということです。患者さんとご家族で「困った」と思うことがあっても、専門家に相談していただくと、悩んでいなくても、よい結果が得られるということを知っておいていただきたいと思います。元気なうちに、いろいろな選択ができるうちに決めておくことができるとよいと思います。いよいよというときに、体が弱って見学に行けなかったり、他に選べる余地がなくなってから相談するのではなく、自分で行ったり話し合ったりすることがあらかじめできていると、実際に利用するのに向けて十分な準備ができます。ぜひ患者さんとご家族で話し合っていただきたいと思います。

渡邊:お一人お一人にとって初めてで大変なことであっても、在宅医、訪問看護、ケアマネジャーの方など、経験をたくさんお持ちです。まず聞いていただくと、ヒントやアドバイスをたくさん得られそうですね。知らないことだと、不安や心配が先立つと思います。うまくいく場合だけでなく、うまくいかない場合も含めてたくさん経験を持った身近な専門家の方に聞いていただくことで、準備ができます。ご自身なりのイメージや希望をまとめておくことも大切だと思いました。

もう一つ、これも大事な視点だと思います。「いつ、誰に相談すればよいのか」というご質問をいただきました。「在宅で過ごしたいが、どのくらいの時期に話してよいのか分からない」「治療が続いているときに、在宅での療養について話すタイミングがわからない」というお声です。


ディスカッションの様子写真2
ディスカッションの様子2

吉澤:高松市では在宅医療を介護とどう連携させていただくか話し合いをしています。「高松市在宅医療支援センター」が立ち上がる予定です。電話で「在宅医療を受けたい」「家で過ごせますか」と相談していただくと、在宅医や訪問看護ステーションを紹介してくれます。どんな手続きが必要か、介護保険や医療保険の手続きについても相談にのっていただけます。

渡邊:電話で相談すると、紹介していただけたり、在宅医療について必要な情報を得られたりできるということですね。相談することで、同じような悩みを持っていらっしゃる方の解決方法をヒントにすることもできそうです。

三宅:行政や医師会での準備に加えて、いろいろな学会が延命治療の中断などのガイドラインをつくっています。そのなかに、家族に加えて、血縁がなくても信頼できる人の存在が大切だということが示されています。患者さんのことを一番よく知っている人、いつもその人のことを見ている人があれば相談することもできると思います。

長内:病院に入院していて、「退院」という話になったときに、地域連携室を通して在宅についての話し合いが始まりますが、その際に私たち訪問看護師から訪問看護についてお話をすることがあります。最終的に利用につながらないこともありますが、知っていただくことがまず第一歩だと思います。地域連携室には、看護師、ソーシャルワーカーの方がいらっしゃいますので、いろいろな相談に対応していただくことができます。退院するときに退院前カンファレンスをすることで、自宅療養中に状況が変わってきても、そのときどきで必要な連携をとる体制をつくっておくことができます。

ご本人・ご家族の皆さんが「不安」に思うことがあれば、どのような内容でもご相談いただけます。

辻:診断して間もないお元気なうちでも、まず主治医に早く相談してほしいと思います。がまんしても、つらくなった時期になってからでは準備が間に合わないことがあります。遠慮があるかもしれませんが、気になったときにすぐに相談していただくとよいと思います。

ディスカッションの様子写真3
ディスカッションの様子3

渡邊:普段の診療のなかで、これからの先の話をすると、担当医との関係が悪くなるのではないかと考えて言い出しにくいことがあるかもしれません。ご本人が言いにくい場合にはご家族から相談してみたり、インターネットでの「がんの在宅療養」の情報をきっかけにしたり、あるいはこのフォーラムで在宅療養について耳にしたことを話題にしてお伝えいただくのもよいですね。話してみると、そこからいろいろな準備や体制づくりが広がっていきます。始めの一歩を踏み出していただくことが大切だと思います。

休憩時間に香川県内のがん相談支援センターのご紹介をしていただきましたが、がん相談支援センターはお近くのがん診療連携拠点病院に設置されていて、その病院にかかっていない方でも、ご家族だけでも相談することができます。

「がんになっても幸せに暮らそう」ということでこれまでお話をお伺いしてきましたが、多くの情報やヒント、これからがんと向き合うときの考え方について知っていただくことができたと思います。

吉澤:がんという病気は、少し前は「不治の病」と言われていました。結核は昔は同じような状況でしたが克服されました。がんを克服する、とまではいきませんが、がんになることは決して特別なことではなくなってきました。がんと向き合いながら、「どう生きていくか」「どう過ごしていくか」考えていくことができるようになっています。周りの人の助けを借りながら自分らしく生活ができる時代になってきています。

三宅:今日のフォーラムのタイトルに「決めまい」とあります。「(あなたが)決めなさい」というではなく、みんなで「決めましょう」というのがACPだと考えています。自宅で最期までというのが難しいように思われるかもしれませんが、かつては自宅での看取りの文化がありました。介護保険や在宅医療の仕組みが整備され、いろいろな医療が在宅でもできるようになってきています。在宅で過ごせることが、患者さんとご家族の満足につながると思います。看取りの文化がもう一度再構築できるとよいと考えています。

長内:人は必ず人生を終えていきます。死を遠い将来のものとして考えていると、「がん」という病名を聞くことで、死が目の前に近づいている事に気づき、何も考えられなくなります。しかし、そのような状況を「人生の転換期として考える時間を得られた」と捉えることもできます。そのときに、在宅や病院のチームと連携しながら、関わってくださる支援チームからの助言や支援を受け、ご家族やご友人との「最期の時」を穏やかに過ごしていただくことができたらよいと思っています。

辻:お話をお聞きいただいて、いままで聞きにくかったことや、分からなかったことについてお知りいただくことができたと思います。今日のお話だけですべてわかるということではなく、今日の機会をきっかけに担当医と話し合ったり、ご家族の方であればご本人に声を掛けていだいたりすると、きっとよりよい医療のかたちにつながっていくと思います。ぜひみんなで話し合って治療の方向性を決めていく、ということを知っておいていただきたいと思います。

渡邊:「がんになっても幸せに暮らす」にはこれからどう過ごしていきたいか。こうしたことを考えるときに、信頼できる情報や、相談できる専門の職種の方がこれだけたくさんいらっしゃるということを、今日のフォーラムで知っていただくことができたと思います。ご自分の味方や仲間がたくさんいるということを、こうした学び合いの場でお聞きいただくことができました。ご登壇いただいた皆さま、ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。

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掲載日:2018年7月17日
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