川崎病は中小動脈を首座とした小児特有の血管炎症候群で、日本においては年間約15000人が発症しています。冠動脈病変などの心後遺症が長期予後に関係しますが、多くの臨床研究の成果に基づいたガイドラインの普及により、川崎病の初期治療の標準化がなされ、日本国内における心後遺症は減少傾向になっています。一方で、初回大量ガンマグロブリン治療(IVIG)への治療効果が得られない不応例は約20%存在し(1)、近年の川崎病急性期治療研究の潮流は、リスクスコアの高い症例を同定し、初期治療を強化することにあります。しかし現時点では完全に不応例を予測することは困難であり、IVIG不応例の心後遺症合併リスクは20-48.6%と高いことからも(2)、初回IVIG不応後の治療選択が重要となります。
不応例に対する追加治療としてどの治療選択の組み合わせが炎症を効果的に抑え、心後遺症を予防するのかは明確になっておらず、治療の選択は患者や施設によって異なるのが現状です。また、これまでの研究は、生物学的・医学的側面のみが精査され、患者とその家族のQOLという観点、さらには費用対効果という視点からの評価は十分になされていないのが現状です。
適切な追加治療は発熱期間や心合併症予後の改善のみならず、患者とその家族のQOLを改善させることが期待される一方、初期治療への不応は、入院期間の延長をもたらし、患者とその家族のQOL低下に直結します。冠動脈病変が生じた場合には、長期的なフォローアップが必須であり、日常の活動制限は患者とその家族の生活様式にも大きく影響を与える可能性があります。
本研究は、初回IVIGに不応だった初発川崎病の治療において、セカンドライン以降の治療の費用対効果を評価することを目的とします。特に、本研究では、保険適用拡大されてから使用の増えているインフリキシマブ(IFX)の費用対効果の評価を主眼とします。初回IVIG不応例に対するセカンドラインでのIFX治療による費用対効果を、IFX以外の薬剤(IVIG、ステロイド、免疫抑制剤など)と比較することで、今後の初回治療不応の川崎病に対する治療戦略に貢献することが期待されます。
参考文献
- 日本川崎病研究センター川崎病全国調査担当グループ, 26回 川崎病全国調査, 2021 https://www.jichi.ac.jp/dph/wp-dph/wp-content/uploads/2021/10/c3f41fb53f1d28ec45f82150d43089fb.pdf
- Hashino, K., Ishii, M., Iemura, M., Akagi, T., & Kato, H. (2001). Re-treatment for immune globulin-resistant Kawasaki disease: A comparative study of additional immune globulin and steroid pulse therapy. Pediatrics International, 43(3), 211–217. https://doi.org/10.1046/j.1442-200x.2001.01373.x