東京受精・胚培養研究会の発足に当たって

佐藤 嘉兵

日本大学生物資源科学部 名誉教授

  • 謹啓 時下ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
  •  さて、日本から発信されたiPS細胞(induced pluripotent stem cells、人工多能性幹細胞)が再生医療の資源として世界レベルで注目され、実用化に向けての研究が急進する状況になっている昨今であります。古くからES細胞に関する研究が行われてきましたが、現実的に再生医療を用いた治療が希求される風潮が、続く体性幹細胞の研究、そして今、iPS細胞の誕生を導いたのです。言うまでもなく、ES細胞の樹立や器官形成誘導・個体発生の研究は、動物を中心とした発生工学や発生生物学の進歩と共に歩んできた研究であります。
  •  これら発生工学や発生生物学の進歩のもう一つの大きな功績は、ヒトを含めた様々な種の体外受精を可能にしたことです。胚の栄養代謝要求を反映させた、より生理的な培養液の開発や、胚の培養技術の改良などによって初期胚培養が安定して行えるようになり、これがヒト不妊症の治療法としての生殖補助医療(ART)にも多大な貢献を与えました。
  •  この様な研究・技術の発展の流れを受けて、私どもは平成17年より「生殖科学懇話会」を立ち上げて、ARTに関する話題を中心に胚培養士および基礎研究に関与する人たちのための勉強会を行ってきました。しかし前述のように、最近のARTに応用される技術およびその背後にある生殖科学の進歩は急速であります。そこで本年、この急速な発展に対応すべく組織を整えて「東京受精・胚培養研究会」を発足する運びとなりました。
  •  本研究会は、この様な背景から今後ますます変化していくことが予想されますART、ならびに基礎生殖科学の情報を、幅広く発信できる研究会として活動を進めて行きたいと考えております。ARTに従事される医師・看護師・エンブリオロジスト・カウンセラーの皆様、また生殖科学の研究者の皆様に多くご参画いただき、互いにより多くの知見を得ることができれば幸いに存じます。

謹白

  • 平成20年5月吉日
  • 東京受精・胚培養研究会
  • 会長 佐藤 嘉兵
佐藤 嘉兵 (日本大学生物資源科学部 名誉教授, 農学博士)
昭和43年東京農工大学大学院農学研究科終了
昭和43年日本大学農獣医学部助手
昭和58-59年. Department of Anatomy and Reproductive Biology、University of Hawaii School of Medicine,(柳町 隆造教授のもとで研究に従事)
平成6年 日本大学農獣医学部教授(平成8年に現学部名称変更)
平成24年 日本大学生物資源科学部 名誉教授
学会役員
日本生殖免疫学会 理事長
日本哺乳動物卵子学会 理事
日本受精着床学会 理事
日本ヒト細胞学会 理事

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