第58回東海公衆衛生学会学術大会の報告
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1. 大会の概要
第58回東海公衆衛生学会学術大会は、平成24年7月21日(土)三重県立看護大学に於いて、大会長 村本淳子氏(三重県立看護大学長)『災害を機に、共に考えるこれからの公衆衛生活動in東海』をメインテーマとして開催した。
午前は、一般演題発表を行った。
一般口演では、39題を6会場に分け、災害支援、人材育成、結核、疫学、高齢者対策、保健指導等の分科会で発表を行った。示説では、24題を1会場で、産業・母子・歯科保健、人材育成、災害支援、高齢者保健の分科会で発表を行った。医学、看護・保健、栄養、社会福祉、関連企業などの研究者や実務者が集まり、学際的なネットワーク構築につながる討論を展開した。各会場では積極的な質問、コメントがあり、参加者の熱意が強く感じられた。
午後は、総会、特別講演(公開講座)、シンポジウムを行った。
特別講演は、学会関係者のみでなく多くの方に興味をもってもらい共に考えてもらえる場となるよう三重県立看護大学公開講座と同時開催した。福島県立医科大学公衆衛生学講座 安村誠司氏にテーマ「東日本大震災後の福島における県民健康管理調査の現状と今後」と題しご講演いただいた。シンポジウムは、テーマ「自然災害を機に活動を振り返って-健康を守るために必要なネットワーク-」と題し、東海4県1市の災害活動事例をもとに、災害ネットワークの構築に向けての意見交換を行った。
大会参加者は235名であり、内訳は、学会員122名、非学会員75名、その他ボランティア等38名。地域別では愛知県41名、名古屋市45名、岐阜県13名、静岡県10名、三重県88名、その他1名であった。日本公衆衛生学会から助成金、三重県・東海公衆衛生学会事務局関係者の方々のご尽力で大会を終えた。
2. 特別講演・公開講座 「東日本大震災後の福島における県民健康管理調査の現状と今後」(座長:毛利一平)
東日本大震災後の福島県内の避難状況や全県民を対象に実施した県民健康管理調査の中間報告を基に、現状の健康課題や支援の方向性についてご講演いただいた。県民健康管理調査は基本調査 (外部被ばく線量の評価)と詳細調査(甲状腺検査、こころの健康度・生活習慣調査、健康診査、妊産婦に関する調査)から成り、今後県民の長期に渡る健康管理と治療に活用されるほか、得られた知見は次世代に活用される予定である。
本講演を通して、公衆衛生という観点で災害に備えてどのような取り組みが必要なのか、参加者がそれぞれの立場で考えることのできる機会となった。
3. シンポジウム 「自然災害を機に活動を振り返って-健康を守るために必要なネットワーク-」(座長:濱嶋信之、村本淳子)
災害にかかる実践活動のご紹介を通し、今後の災害ネットワークの構築につながることを目的としてシンポジウムを開催、医療・保健・防災等それぞれの立場から意見交換を行った。
1:「紀伊半島大水害からの学び〜これからの健康づくり活動への提案〜」(三重県)
平成23年9月の三重県熊野市・紀宝町での水害における避難所での保健師活動についてご紹介いただいた。災害直後より、保健所や近隣市町の保健師等による派遣活動が行われ、避難所巡回・家庭訪問・夜間健康相談や被災状況の確認等を行った。支援が円滑に行えた背景には日頃からの近隣市町の関係性によるものが大きいと考える。また、支援活動を通して、一日でも早く元の生活に戻れるよう支援することの必要性を痛感した。
派遣終了後には、関係職員を対象として災害支援活動の研修会を行ない、今後に活用できるよう情報の共有と課題の検討を行った。災害時には、「健康」が後回しになるという状況を目の当たりにし、日頃から「住民と共に健康づくりに取り組む」ことの大切さを痛感すると共に、自分たちの力の限界や住民の力の大きさを実感した。水害という身近な事例を基に日頃の健康づくり活動について考える機会を得ることができた。
2:「地域住民の立場で考える災害に備えた防災協働社会つくり」(岐阜県)
日頃の様々な警報発令にどう対処行動を行うか防災士の立場で発言をいただいた。
自助:共助は7割:2割。公助に至っては1割である現況の中、どのように情報を入手して動くかということが重要であり、「いつ」「どこに」「どのように逃げるか」につながる。
日々の備え、自宅では家具の転倒防止、伝言ダイヤルの活用に関心を持つように心がけることが大切であり、「隣人が支援者となれるようにご近所の力(地域力)を日頃からつけるよう意識する」「自治会名簿に、自宅の間取りを記入する欄を設ける」「各自4名の支援者を見つけておくようにすること」等の行動目標を示し、取り組んでいる現況をご紹介いただいた。参加者各自が「生活の中で自分自身が日頃から取り組めること」について考える機会をえることができた。
3:「東日本大震災の長期派遣に赴いて」(名古屋市)
2011年4月22日から陸前高田市に派遣され保健支援チームの総括としての活動をご紹介いただいた。陸前高田市役所では、保健師9名中6名が犠牲となり被災当初は、1名が負傷入院という状況で2名の保健師での活動を強いられていた。
国からの派遣要請によるものではなく、最も甚大な被害を受けた陸前高田市を、政令市である名古屋市の総合力によって中長期的にバックアップしようとする「全国初の取組み」であり、住民票の交付や罹災証明に関する事務、保健・福祉・医療に関する事務など市町村本来の事務に加え、今後の復興計画や防災計画にも携わる“丸ごと支援”として、総勢30名程度の職員を一挙に派遣し、陸前高田市の職員と一緒になって活動を行った。
長期派遣保健師は「災害関係保健指導業務」を担い、総括保健師の役割は「保健支援チームの派遣体制・地区担当等の管理」「保健支援チームの相談役」「業務遂行コーディネート」「関係機関との対外的な窓口」「会議出席」など管理等であった。心の健康チーム、栄養支援チーム、地域リハビリチーム、在宅ケアチーム等と協力し、被災者の健康管理のみではなく、生活全体の支援をしていた。
支援活動を通して、チームで働くことや地区担当制の重要性(保健師はエリアマネージャーとしての力を発揮する)を再認識した。自治体が被災地になった場合、保健支援チームが集結できる拠点を設置すること、拠点の総括者を置きマネージメントを行うこと、派遣された多職種が情報交換できる場の設定の3点が重要であることが報告された。
具体的な支援活動の内容に触れ、日頃の活動の重要性について考える機会を得ることができた。
4:「災害医療に関する現状と課題」(愛知県)
愛知県における阪神淡路大震災以降の災害医療体制への取り組み、東日本大震災後の体制の見直し等についてご紹介いただいた。現在2次医療圏ごとに災害拠点病院を整備、するとともに、医療圏単位で災害時に備えて地域の関係機関と災害拠点病院などで構成する地域災害医療対策会議の設置や地域の災害医療コーディネーターの任命ついて検討している状況である。災害拠点病院が災害時に有効的に機能できるよう日頃からの情報共有等も含め体制づくりに尽力していくことの重要性について考える機会を得ることができた。
5:「東海地震に備えて、静岡県の取り組みとこれから」(静岡県)
静岡県からは、東日本大震災と同様に同時多発・広域激甚災害となると予想されている東海地震への取り組みについてご紹介いただいた。課題として、阪神淡路大震災を例に、医療機関に比べて遅れがちになる発災時の行政機関での初動体制の確保、広域災害における国レベル・県レベルでの情報収集・伝達手段の確保、災害医療コーディネーターへの権限付与とその実効性を含む災害医療における指揮命令系統の確保などが提示された。さらに、静岡県では初動体制確保のため遠距離通勤の職員は最寄りの行政機関に出向く体制となっていることが紹介されたほか、発災時には誰でもリーダーになる可能性があることを平時から意識する重要性や、復旧・復興の過程では多業種・多職種間でのコミュニケーション能力や粘り強く問題解決に取組む姿勢が求められることなど、具体的な対応方法について考える機会を得ることができた。
4. 一般演題(口演・示説)
一般演題は、口演39題、示説24題の計63題の発表を行った。
口演は「災害支援・結核・人材育成」「予防活動の新たな取り組み」「小児・母子・学校保健」「疫学」「疫学・食品衛生」「高齢者対策・保健指導」の6分科会に分かれ、示説は「予防活動の新たな取り組み」「産業・母子・歯科保健」「人材育成・災害支援」「高齢者保健」の4分科会に分かれて発表された。各セッションでは日頃の業務や研究の成果に対し活発な議論が行われた。
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