第57回東海公衆衛生学会学術大会の報告
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1. 大会の概要
第57回東海公衆衛生学会学術大会は、平成23年7月23日(土)にあいち健康の森健康科学総合センターで開催した。大会長 津下一代氏(あいち健康の森健康科学センター長兼あいち介護支援センター長)は、「東海から発信!新しい健康づくり・地域づくりをはじめよう」をメインテーマとした。
午前は、一般演題発表、大会長講演、スペシャルトークセッションを行った。
一般口演では、21題を3会場に分け、アセスメントと健診、高齢者、感染症、健康づくり等をテーマに討議を行った。示説では、母子保健、疾病対策、健康なまちづくりに分けて発表をおこなった。医学、看護・保健、栄養、体育、社会福祉士などの研究者や実践家が集まり、学際的なネットワーク構築の契機となる討論を展開した。各会場では積極的な質問、コメントがあり、参加者の熱意が強く感じられた。
大会長講演は、「健康日本21最終評価にむけて」をテーマに、現状分析、次期のアクションに向けた課題、国の動向を踏まえた方向性について提示した。講演に引き続き、「健康なまちづくりを推進するために必要なことは」と題し、愛知県東海市の取り組みを鼎談形式で紹介した。
午後は、総会とシンポジウム「健康課題の分析、PDCAを回転させる保健活動とは」を行い、プログラム最終にエクササイズ体験「1エクササイズをLet’sエクササイズ」で楽しい汗を軽く流して終了を迎えた。
大会参加者は284名であり、内訳は、学会員91名、非学会員88名、学生等105名。地域別では愛知県198名、名古屋市36名、岐阜県19名、静岡県12名、三重県7名、その他12名であった。主な職種は保健師84名、医師42名、栄養士11名、教員9名の参加であった。
日本公衆衛生学会から助成金・後援をいただき、当日は、愛知県および東海公衆衛生学会事務局の方々のご尽力で大会を終えた。
2. 大会長講演 「健康日本21最終評価に向けて」
国においては、生活習慣病対策として10余年間取り組んできた「健康日本21」の最終評価作業が始まっている。各自治体においても生活習慣・健康指標の変化等を評価し、次期計画につなげていくための議論が始まっているが、1. 健康づくり計画の理念、2. 数値目標の評価、3. 保健事業等の対策の評価、4. 推進体制の評価、という各段階を確認する必要がある。また、人口動態の変化や社会経済情勢の変化なども考慮に入れて、次期計画につなげることが大切である。
特定健診制度やレセプトの電子化、介護保険の導入などにより、食事・運動等の生活習慣や肥満、糖尿病の有病者数、介護を必要としない寿命等、自治体(保険者)単位での健康指標の分析が可能となってきた。次期計画では、より戦略的な予防施策投入が可能となると考えている。
3. スペシャルトークセッション 「健康なまちづくりを推進するために必要なことは?」
愛知県東海市では、「生きがいがあり健康なまち東海市」を目指した全庁的な健康づくりの推進を開始した。トークセッションでは、そのきっかけとなるエピソードや取り組みを東海市長と担当保健師、大会長の鼎談形式で紹介した。
・体制整備:組織横断的な「いきいき元気推進委員会」の設置
・健診データを活用したその人に合った運動・食事の実践メニューの作成
・企業・商工会などとの連携による「健康応援店制度」の構築
など、これからの健康なまちづくり施策、公衆衛生へ期待にあふれた、今大会のテーマにふさわしいセッションであった。
4. シンポジウム 「健康課題の分析、PDCAを回転させる保健活動とは?」(座長:尾島、松本)
保健活動におけるあるべき姿の確認(理念)、現状認識(データ分析)、対策(介入)、評価と改善というPDCAサイクルを回した活動を取り上げ、公衆衛生をマネジメントの視点でとらえることを目的としたシンポジウムを開催した。
保健活動のテーマを1「思春期」、2「働き盛り」、3「特定保健指導対象」、4「壮年期」、5「高齢者」と5つの世代に分け、行政、企業、地域などが課題に対してどのように取り組んでいるかを討論した。
- 「思春期の子どもたちを通じた健康な町づくり〜ちくさふれあい1/2成人式のあゆみ〜」(名古屋市):思春期のこども達への保健対策の強化と健康教育の推進を目指した活動について、実践と評価結果を報告した。
- 「企業における健康づくり活動」〜生活習慣病による休務日数削減への取組み〜(豊田自動織機):企業で取り組む働き盛りの保健活動について報告した。1)節目健康教室(一日型健康教育)、2)特定保健指導、3)主治医による指導の3つの方法を組み合わせた健康管理体制を行っているが、その背景、事業評価と展開について紹介した。
- 「特定健診・特定保健指導の取り組み」(静岡県):特定健診、特定保健指導における、周知、啓発、医療保険者の体制整備に向けた受診促進のための取り組みを紹介した。
- 「自殺対策の評価と課題」(三重県):「ヘルシーピープルみえ・21」では、こころの健康づくりを重点課題としているが、担当者の設置や人材育成などメンタルヘルス対策を実施してきた結果を報告した。
- 「潜在する要援助者の健康問題の把握と援助による町づくり」(岐阜県安八町):町民が安心して暮らせる町づくりの一端として早期援助が必要な方への援助活動を行っている。早期に援助を行うためのニーズ把握と、ニーズに対応する充実した保健活動の取り組みを報告した。
5. エクササイズ体験 「1エクササイズをLet’sエクササイズ」
「体を動かすように心掛けましょう」。それは、1回あたりの持続時間にこだわらず、1回5分の掃除でも、その細切れの身体活動の積み重ねが効果につながるという“健康づくりのための運動基準2006”と“健康づくりのための運動指針2006”からのメッセージである。本大会では、簡単で親しみやすい軽い身体活動を会場で実施することで、合計で1エクササイズの身体活動量を体験した。
6. 一般演題(口演・示説)
一般演題は、口演21題、示説15題の計36題の発表を行った。
口演は、特定検診・特定保健指導の実施や評価をテーマにした「メタボリックシンドロームの疫学と介入」、学校健診の試みや中年男性の食生活をテーマにした「ライフステージにあわせたアセスメントと健診」など、演題の特長を生かしたセッションを3会場に分け実施した。
示説では、「母子保健」、「疾病対策・高齢者」、「健康なまちづくり」の3つのセッションを展開した。「健康なまちづくり」のセッションでは、岐阜県での保健師による保健福祉活動支援方法の開発、愛知県津島市による全庁で取り組む健康対策など、次期健康施策に向けた実践活動について発表があった。
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