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2009RIJIKAITSUSHIN

理事会通信 平成21年12月

 平成21年12月発行号のダウンロード

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  • 今年度の理事会通信は、A4版カラー4枚で編集しました。

ぜひPDF版をご覧下さい。ここをクリック!
 

 名古屋大学大学院医学系研究科予防医学/医学推計・判断学 教授 浜島 信之


徳留信寛理事長の後任として理事長を本年4月に拝命致しました。微力ではありますが、当地区の公衆衛生の発展のために努力致したく存じます。理事・評議員・会員の皆様のご支援を宜しくお願い申し上げます。
本年の4月、就任早々に新型インフルエンザの問題が起きました。初期段階における行き過ぎた指針により現場の負担は大変なものであったと思います。そのため東海公衆衛生学会では、理事会の承認のもとで5月28日に現実的な対応が必要であることを示した「新型インフルエンザへの対応に関する見解」を発表させていただきました。理事の先生方のご協力のもとに、遅れることなく同見解を発表することができましたことありがたく思っています。新型インフルエンザへの対応は常識的なレベルになってきましたが、まだ他の感染症に比べれば過重なような気がしています。
近年、倫理という言葉が多く使用されるようになってきました。行為の善し悪しの評価基準に用いられます。倫理学は大きく2つにわかれており、1つが義務論倫理学(Deontological ethics, Kantianism, Obligation-based theory)で、既存の価値体系に基づき行為自体を評価する方法です。行為の結果の善し悪しは評価の対象となりません。もう1つが結果論倫理(Consequentialism, Consequence-based theory)で、その行為により社会における善が増大するほうをよいと判断する方法である。功利主義(Utilitarianism)に合致した立場で、公衆衛生学や臨床試験、医療判断学は基本的にはこの立場をとります。結果の予測が判断者により分かれる場合には、倫理的手法は同じでも結論が異なることがあります。もちろん、結果論倫理でも全体の善の増加のために、特定の者の犠牲を容認するというわけではありません。規則、指針、マニュアルが多く出てくると、そのようなルールに違反することが義務論倫理学での悪い行為となるため、そのルールが現状に適していない場合にも人々の行動がそれに縛られるという弊害がでてきます。社会に役立つという視点を欠いては公衆衛生の実践が意味のないものになってしまいます。義務論倫理学が結果論倫理よりも優勢となってきているわが国の現状で、公衆衛生活動はより困難になってくるかもしれません。
公衆衛生の課題は多いですが、会員の皆様とともに、この地域での公衆衛生の維持発展のため努力していきたいと考えています。宜しくお願い申し上げます。


 事務局より


今年度から事務局が名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野から名古屋大学大学院医学系研究科予防医学/医学推計・判断学に移り、新役員による理事会、評議員会が発足いたしました。本会の発展に力を尽くして参りますので、ご指導ご鞭撻の程宜しくお願い申し上げます。
さて、2005年度より年一回理事会通信を発行しています。今年度も各地区各分野から選ばれた公衆衛生のエキスパートである理事の先生方から会員の皆様へのメッセージをお届けいたします。
ぜひ、理事会通信を通して、東海公衆衛生学会ならびに理事の先生方の活動を身近に感じていただけたら幸いです。
 

 名古屋市中保健所 所長 明石 都美


21年度は東海公衆衛生学会学術大会の開催にあたり、会員の先生方には、大変お世話になり有難うございました。学術大会の会場となりました名古屋市立大学の小嶋雅代先生始め、各県の先生方にはシンポジストの推薦、座長などご協力頂き、学会のネットワークを心強く感じました。その時のテーマの一つでもあった「格差社会」を、日々の仕事の中で強く感じているところです。中保健所は繁華街を抱え、外国人、ホームレスの方も多く、複雑な背景を持つ結核患者、DVなど、都市が抱える問題なのでしょうが、今の時代も反映しています。例えば、結核患者さんの定期外検診の調査をするために、職場訪問は必ずしますが、派遣先の派遣といった感じの職場が本当に多くなり、働く場の脆弱さを実感しています。シンポジウムで改めて感じたのですが、保健所は、例えば「児童虐待事例」であっても、あくまでも「育児支援」というスタンスで、住民が生活してゆく上で、少しでもよい方向にもってゆけるように、仕事をしてゆきたいと思っているところです。他県の衛生行政の先生方、大学の先生方との交流の中で、気づかされることも多く、学会の活動に期待をしています。


 愛知県健康福祉部健康担当局 局長 五十里 明


私共に取りまして、今年の最大の出来事は、何といっても4月に発生しました新型インフルエンザの発生でありました。改めて感染症対策の重要性を痛感致しました。当初は、毒性が未確定で、行動計画に沿って対策を進めて来ましたが、弱毒性とされてからは、行動計画から離れて、基本的対処方針、運用指針に基づいて対策を行ってまいりました。現在は、年末から年始、年度末まで、優先順位に基づきワクチン接種を順次進めておりますが、初めての接種体制に加え、限られた配給量に希望量が追いつかず、医療現場に大変なご苦労をおかけしております。今年度中には十分なワクチンが供給される予定ですので、今暫くのご協力をお願い致します。さらに、今回のウィルスの強毒化、H5N1の新型インフルエンザへの変異も想定した対策にも取り組んでまいります。


 岡崎市保健所 所長 犬塚 君雄

保健所に復帰しました

本年4月、岡崎市に派遣出向となり、岡崎市保健所に勤務しています。6年ぶりの保健所勤務であり、私にとっては豊田市に次いで2回目の中核市保健所勤務です。この3年間は児童相談所業務に専念していたため少し浦島太郎状態でしたが、保健所が公衆衛生の第一線機関であることを再確認させてくれたのは、現在流行中の新型インフルエンザです。4月に異動したときには全く予想しなかった事態ですが、市民の健康を守るために、常に最新の情報を収集して市民に提供するとともに、市民の相談に対応するため、保健所を上げて取り組んでいます。また、本学会が流行初期に出した見解は、現場で方向性を見失いそうな時に考え方を整理していただき、大変時宜を得たものであったと感謝しています。なかなか先の見えない状況が続くと思われますが、今回の経験を次の流行対策に活かすべく、本学会でも臨床の立場、行政の立場、研究の立場からなど幅広い視点で議論されることを期待しています。


 浜松医科大学健康社会医学講座 教授 尾島 俊之

グーグル・スカラーと機関リポジトリ

医学系の先行研究・学術文献を検索する方法として、国際的な文献はPubMed、国内文献は医学中央雑誌が一般的に使われてきました。最近、もうひとつの方法、グーグル・スカラー(Google Scholar) http://scholar.google.co.jp/ が広く使われるようになってきました。長所は、参照されることが多い注目文献が上位に表示される、日本語による操作で日本語と英語の両方の文献が検索できる、無料で使用できる点、短所は、発展途上で文献の網羅性はやや落ちるかもしれない、細かい検索条件が設定しにくい点があります。
機関リポジトリ http://jairo.nii.ac.jp/ は、研究機関の図書館ホームページ等で研究論文の執筆者等が論文の全文を無料で公開するものです。前述のグーグル・スカラーで検索することができます。近い将来、東海公衆衛生学会の抄録集が機関リポジトリに掲載され、グーグル・スカラーによる検索で多くの方に研究成果を活用して頂けるようになると良いなあと思っています。


 愛知県半田保健所 所長 澁谷 いづみ

東海公衆衛生学会に寄せて

公衆衛生の専門性とは何か、と問われる場面をこの頃しばしば経験します。医師臨床研修の必須科目の見直しによる地域保健・医療はずし、保助看法の改正と保健師教育のあり方、日本公衆衛生学会の専門職制度のスタート、行政刷新会議の事業仕分けでの国立保健医療科学院の議論など等、公衆衛生そのものの危機感があります。せめて保健所は公衆衛生の第一線の活動を大切に地域と向き合っていきたいものです。とりあえず、委員会のメンバーでもあり、専門職の認定に応募しました。賛否議論はありますが、自己研鑽と仲間づくりを期待しています。多くの保健所長が応募されることを望みます。


 岐阜大学大学院医学系研究科医療経済学分野 兼疫学・予防医学分野 准教授 高塚 直能


本年度より東海公衆衛生学会理事に加わることとなりました岐阜大学の高塚と申します。若輩ゆえに理事など不相応に思いますが、適任者が見つかるまで役目を全うしていきたいと思いますので、今後とも宜しくお願い致します。
さて、今後は都市部を中心に少子高齢化の急速な進展が見込まれます。それに起因する保健医療問題に対して、行政においては益々政策決定のスピードが求められることになると思います。一方、大学のプライオリティーは真実の追求にあります。厳しい財政状況による人材不足も相まって、今後、行政と大学との関係はより乖離していくのではと危惧しております。本学会がそのようなギャップを少しでも埋めるものになることを切に願います。


 岐阜大学大学院医学系研究科疫学・予防医学分野 教授 永田知里


引き続き理事を務めさせていただくことになりました。よろしくお願い申し上げます。岐阜大学医学部ではチュトーリアル教育が行われており、先週も、当分野が担当する「地域・産業保健コース」が終了したところです。旧来の公衆衛生学はこのコースに相当し、チュトーリアル方式に実習や講義を加えた形で教育が行われています。公衆衛生学は知識の丸暗記とは全く異なるので、議論や問題追及を求められるチュトーリアルにはふさわしいと思うのですが、学生の反応を見ては、もどかしがったり反省したりです。この時期に公衆衛生に興味を持ってもらい、またその考え方を少しでも身につけて欲しく、そのために一層努力が必要と感じた次第です。


 藤田保健衛生大学医学部衛生学講座 教授 橋本修二


はじめての学会発表は東海公衆衛生学会でした。ずいぶん昔のことながら、けっこう覚えています。繰り返し発表の練習をして、想定される質疑応答を頭に入れました。そして、本番は緊張のため、きちんと発表できませんでした。座長は緊張を察してくれたのでしょうか、若い研究者への励ましのコメントを頂戴して無事に終わりました。よき経験、よきスタートだったと思っています。その後、いくつかの演題を本学会で発表してから、東海地方を15年ほど離れました。そして5年ほど前に会員に復帰し、本年度から理事を務めています。いま、多くの全国学会、地方学会ともに、様々な難しい問題を抱えているようです。本学会は長い歴史からみて、私と同様、よき経験をされた方が多いのではないでしょうか。そういう方々がたくさん集っていることで、今後、さらに多くの方々によき経験の機会を提供し続けることと確信しています。


 岐阜県岐阜保健所 所長 日置敦巳

地域保健の今後

暗い話になって申し訳ありませんが,岐阜県では著しい財源不足に陥っており,予算や職員の削減が進められています。さらに日常の保健所業務の多くが,「アート」から「ステレオタイプ」へと移行する中で,岐阜県保健所等倫理審査委員会に諮問される案件は殆どなく,職員による学会での発表も著しく少ない状況です。今回の新型インフルエンザ対策でも,膨大な通知文書と上部からの統制の中,何も考えずに業務をこなすという場面も少なくなかったように思います。これでは,「事務職の正規職員一人にマニュアルと非常勤職員」といった,ファーストフード店のような保健所の構成もあり得なくなるかもしれません。こうした中,多くの方からエネルギーを分けていただきつつ,地域保健の今後のあり方について,広く意見を聞き,何ができるか模索していければと思っています。

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