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新型インフルエンザへの対応に関する見解

新型インフルエンザへの対応に関する見解

東海公衆衛生学会理事長 浜島信之 


渡航歴がなく感染者との接触も明瞭でない新型インフルエンザ症例が国内で診断され、新型インフルエンザ対策もこれに応じた体制へと移行してきている。 この新型インフルエンザは弱毒型であり、重症例もまれであることから、病態としては季節性インフルエンザに類すると考えられる。まだ不明な点も多く残されており、今後判明してくる情報に基づき対応は修正していく必要があるが、東海公衆衛生学会理事会はこれまでの情報に基づいて以下の提案を行う。(2009年5月28日)  PDFファイルはこちら

1.新型インフルエンザH1N1への対応は新型インフルエンザH5N1への対応ではなく、季節性インフルエンザに準じた対応でよい

  • 新型インフルエンザ(H1N1)の感染性についてはまだ十分明らかとなっていないものの、重症化は顕著でなく、抗インフルエンザウイルス治療薬が奏功する。このことから、行動計画で想定された強毒型インフルエンザ(H5N1)への対応方法によるのではなく、季節性インフルエンザに準じた対応でよい。従って、 診療および接触者調査において完全な個人防護具(PPE)の着用は必ずしも必要ではなく、積極的疫学調査を全例に行うことが必要とは思われない。新型インフルエンザの確定診断は定点となっている医療機関などで必要に応じて行えばよく、一般医療においては確定診断のための検査は多くの場合不要である。ただし、より正確迅速に流行が把握できるよう、インフルエンザ定点医療機関および情報取りまとめ部局の機能強化に必要な支援を流行拡大の前に行うべきである。

2.発症率の調査は必要である

  • これまでの調査では不十分であることから、新型インフルエンザへの曝露とその後の発症が確認できる集団において発症率調査を実施することが重要である。濃厚接触者集団における発症状況のモニタリングは発生率に関する有益な情報を提供するものと思われる。

3.重篤な状態となる可能性の高い個人や集団で感染防止を積極的に行うべきである。

  • インフルエンザの流行は抗体陽性者が集団の中で一定の割合に達するまで続くものと思われる。ワクチンが利用可能となるまでは、重篤な状態となる可能性の高い個人(妊婦、慢性疾患患者など)や集団(入院患者など)に感染予防対策を優先すべきであり、軽症例で終わると予想される者への感染予防対策は季節性インフルエンザに準じる方法で行うのが現実的である。

4.発熱外来および入院施設の整備について今後も継続して検討する必要がある

  • 新型インフルエンザのみならず他の病原微生物が医療施設受診者や入院患者に感染しないよう、発生患者数に対応した柔軟な対策が必要である。各医療施設は感染症に今後どう対応するか検討を続け、他の感染症にも対応できる発熱外来の整備や非感染入院患者に感染が起きない収容方法の検討が望まれる。新型インフルエンザ対策を過剰に行うことにより他の優先度の高い医療が後退することのないよう、政府および医療機関は体制を検討し、蔓延期での対策の準備を行うべきである。

5.毒性に応じた新型インフルエンザへの対応

  • 新型インフルエンザの行動計画で想定していたのは強毒型である。今回の新型インフルエンザは弱毒型であったが、発生の初期の段階においては情報が十分でなく、策定されていた行動計画に従った対応はやむを得ないものと思われる。強毒型を想定した行動計画は弱毒型の新型インフルエンザに対しては適切でないことから、今後は弱毒型の新型インフルエンザへの行動計画も準備しておくことが重要である。一方で、強毒型の新型インフルエンザへの適切な対応は社会にとって極めて重要であることから、今回の経験を生かした強毒型の新型インフルエンザへの対応方法の改訂も必要であろう。

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