研究紹介

1.医師主体の臨床研究

堀口明男,新地祐介,浅野友彦

光音響イメージングは超音波断層法と同様の手法で、造影剤を使用することなく高コントラストに微小血管内のヘモグロビンの画像化が可能なモダリティーであり、次世代の画像診断技術として活発な研究が進んでいる。経直腸的超音波断層法は、人口の高齢化により急速に患者数が増加している前立腺癌の診断、治療のガイドに頻用されるが、技術付加による精度の向上が望まれている。我々は世界初となるオリジナルの経直腸用プローベを有する光音響イメージングのプロト機を構築し、腫瘍内の微小血管構築をランドマークとした前立腺癌の局在診断における有効性を検討中である。

2.光音響画像との比較

1)生検前MRI

新本弘

前立腺癌に対する局所診断の画像モダリティーは、現在MRIが最も優れている。T2強調、拡散強調、ダイナミックMRIを組み合わせた、いわゆるmultiparametric MRIによる前立腺癌の診断能は他のモダリティーの追随を許さない。しかしMRIではサイズの小さな癌や高分化癌はしばしば見逃されることも経験する。今回の研究ではMRI画像と光音響画像を比較し、MRI所見と光音響画像所見との関連を見いだすことを目的として、両者の画像の比較を担当している。MRIの弱点を、空間分解能に優れる光音響画像が補うことができれば、前立腺癌の画像診断における大きな前進だと期待を寄せている。

2)病理

津田均,松原亜季子

光音響画像による前立腺がん診断の開発に関わる病理学的検討を担当させていただいている。光音響画像が前立腺のどのような病変を高信号、低信号で描出するのか、がん診断法としての特異性、感度はどの程度なのかなどの課題を、病理学的所見と詳細に対比させながら明らかにしていければと考えている。当初は癌と非癌の領域との間の血管の密度、分布様式、管腔径などを比較していき、その後、いくつかの代表的な良性の病変、悪性度の異なる癌、広がりの程度の異なる癌の間で、血管の指標、さらにそのほかにも光音響信号と関連するような生化学、免疫組織化学、その他の指標を探索する予定である。

3.装置

1)経直腸光音響プローブと撮像装置プロト機の改良開発

辻田和宏,入澤覚

我々が現在までに試作したプロト機と光音響経直腸プローブを用いて、in vivoで前立腺周囲血管の画像化が可能なことは既に確認できている。しかしながら予備的な臨床計測を実施した中で、経直腸プローブの挿入困難例も経験している。そのため、挿入性を向上させつつ、画像化性能の維持・両立を目指して、経直腸プローブの改良品の設計製作を進めた。
その結果、従来に比べ細経化したプローブを試作でき、挿入性の向上が確認できた。また、簡易ファントムにて従来のプローブと今回試作プローブで画像を比較した結果、遜色ない画像が得られていることが確認された。

2)実用化のための性能試験と安全性評価

辻田和宏,入澤覚

光音響プローブには、従来の超音波プローブにはない機能として照明系が必要となる。臨床的に使用するためには、超音波部分と照明部分を一体化したプローブが不可欠である。照明部分の窓部材は、光音響イメージング装置の独自部材であり、一時的に組織に接触する可能性のあるため、生物的安全性について評価を実施しておく必要がある。そのため細胞毒性試験、皮内反応試験,皮膚感作性試験を実施し結果として、細胞毒性作用は無い,皮内反応試験適合,皮膚感作性を示さないとの結果が得られた。性能評価に向けて、経直腸プローブの視野範囲全域にわたって画像評価するためのファントムを作成し、あらゆる視野方向に対して画像評価が可能になった。

4.光音響技術の研究動向の調査

平沢 壮

SPIE Photonics West BiOSは生体光学分野の世界最大の国際会議であり,約2,000件の発表が行われる。Photon plus Ultrasoundは,光音響技術を用いた診断・治療技術に関するカンファレンスであり,2010年からBiOSの中でも最大の規模を有している。本カンファレンスではTranslational researchに関する研究発表が数多くされており,光音響画像化技術の研究動向を調査するうえで最適である。本分担研究では,2015年2月7日~12日の期間に開催されるSPIE Photonics West BiOS2015において,他の研究グループによる研究発表を聴講し,光音響画像化技術に関する臨床研究の進行状況及び新技術の開発動向を調査して報告する。