靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

校勘注記

汗の汚『諸病源候論』巻第三十二の癰疽諸病上の癰候の末尾に、「又云人汗入諸食中食之則作丁瘡癰癤也」とあります。
で、対校していて、「汗」が「汙」になっている写本が見つかったら、麗々しくそれを記すべきなんですか。筆書きで、はねるか、はねないかなんて、ほとんど書き手の気まぐれみたいなんですが。読み手は、文脈から判断するしかないじゃないですか。はねる、はねないじゃないけれど、巳・已・己なんて、つくの、つかないのって、漢字のテストには出るかも知れんが、古籍では版本でもほとんどみな巳じゃなかったっけ。
それは「汙」になっている本を見つけたら、ちゃんとメモしておくべきだとは思いますよ。だって人の汗って、うっかり口にしたら丁瘡癰癤になっちゃうほど、危険なものなんですか。そりゃまあ、不潔には違いないけれど。実は「汙」で、だから「汚」の異体字で、だから「人汚」は例えば人糞なんだったら、そりゃまあかなり危険かも知れない。汗だって排泄物だし、汚いには違いないから、五十歩百歩だけれど、この五十歩は結構大きいんでないの。
で、つまり「汗、一本作汙」と注記することもさることながら、「汙」は「汚」の異体字であると、教えてくれないと価値が相当に下がるんでないの、ということ。逆に、発汗すれば風の初期は治るとかいう文章でだったら、汙に作る本が有るなんてのは余計なことなんじゃないの、ということ。汙に見えるけれど、はねているのは間違いで、汗だよという注記は、あるいは有効かも知れないから、やはりややこしい。

人民衛生出版社『諸病源候論校注』(丁光迪主編 1992年)にも、「汚」じゃないかなんて記事は有りません。この本、随分と異体字を気にかけて、50頁ちかい表を載せてるんですがね。

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