靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

楊上善の注ってこんな具合

『太素』巻2調食
其大氣之槫而不行者,積於胸中,命曰氣海,出於肺,循喉嚨,故呼則出,吸則入。
楊上善注:槫,謗各反,聚也。……
原鈔の被釈字は,歴然として木旁に専である。専は專の通であるから,木旁に専もまた「槫」の通であろう。また「槫」は「摶」に通じるし,そもそも原鈔では木旁と扌旁は区別しがたいことが多い。その意味では「摶」としてよい。しかしながら反切からは,「搏」の方が相応しい。楊上善注には先に標準的な訓詁を書き,後にその場での意味を示すことがある。楊上善は専と尃を混同していて,音には咄嗟に「搏」を思い浮かべて「謗各反」とし,義では正しく「槫」と見て「聚也」と説明しているのかも知れない。楊上善注に「聚也」とあり,原鈔の傍書は「アツ」と思われる。「槫」に「アツ・ム」の語義は,普通の漢和辞典にも載るが,「搏」には見あたらない。なお,明刊未詳本『霊枢』は「搏」に作るが,趙府居敬堂本『霊枢』は「摶」に作る。
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神麹斎
巻5陰陽合に「三經者,不得相失,摶而勿傳,命曰一陽。」とある。原鈔は手偏と人偏に明らかに「専」であるから,新新校正もそのように整理したのだけれど,実はそんなに確かでもない。
楊上善は右上の一点の有無による文字の違いを認識していたかどうか,それがそもそも疑わしい。楊注に「相得也」とあり,「摶」は「手でものを丸める」,「散らばっているものを集めかためる」だが,「傅」にだって「うつ」の他に「捕らえる」の義がある。「傳」と「傅」のほうは,どちらをどうやったら「失所守也」になるのか。『素問』陰陽離合論では「搏而勿浮」になっている。「浮」ならなんとか「失所守也」と言えなくもない。何が正解かはともかくとして,『素問』が「傳」を「浮」に作るということは,古代中国の他の医家も多くは「摶」とは思ってなかった可能性が高いだろう。
2010/01/12

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