靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

格闘家とウサギ

先日の読書会で、『霊枢』の本蔵篇を読んで、その中の「廣胸反骹者、肝高、合脇兔骹者、肝下」について、桂山先生が「攷字書、骹無胸骨之義」といっているのが話題になりました。そして今朝、読書会に来ている乗黄氏からメールがとどいていました。
 「獣面紋長骹矛」と「獣面紋長骹矛」と呼ばれる"矛"があります。「ソケット状の首(骹)に耳のようなループが付くのは、巴蜀青銅器の矛の特徴である。首は刃と同じぐらいの長さで、断面は円形である。柄はソケットに棒を入れて取り付ける。」云々と説明されています。

 ソケット状の部分が「骹」と表現されています。また、この全体像は、人体の「胸骨」の形状に似ています。

 つまるところ、反骹の"骹"は「胸骨」それ自体ではないでしょうか。胸骨は、少し反り返っているのが自然であります。肋骨形状が拡ければ、当然、それにともなって胸骨体も大きくなり、その反り返りも大きいはずであります。「廣胸反骹」とは、今で言う、格闘家の体格の様な胸板の厚い胸腔を意味すると思います。つまり、肝の蔵の納まりも当然よい訳で、肝高となるのではないでしょうか。

 一方、「合脇兎骹」でありますが......、これを思いっきり飛躍させて、「兎」はやはり「ウサギ」のことだとすれば、「兎骹」は「ウサギの胸骨」であります。ウサギの胸腔は、肋骨と胸骨体で構成されていますが、それが極端に小さい事はウサギを知るものには当然のお話であります。

 当然、その"胸腔体積"が小さいわけですので、肝の蔵は納まりは悪く「肝下」になるのもうなずけます。事実、ウサギは"腹部"に臓器が集中しています。

 少しばかり、極端な説でありますが「胸腔」の体積の大小を「廣胸反骹」の胸板の厚い者とウサギに特徴的な小さな胸部である、「合脇兔骹」を対比させただけではないでしょうか。

いや、面白い。

骹が胸のあたりの骨を指すこともあることさえ認めれば、なかなかの説得力じゃないですか。

ただ残念なのは、やっぱり大型の字典や詞典にも、骹の意味としては脛骨しかほとんど載ってない。胸のあたりの骨というのは、『霊枢』本蔵篇と、多分それにもとづいた清の沈彤『釈骨』くらいじゃないか。

矛の部分を指すというのは、大型の字典や詞典には載ってました。前漢の揚雄『方言』に「骹謂之銎」とあって、西晋の郭璞が「即矛刃下口」と注しているそうです。何かの下方でやや細くなった部分を、おしなべて交ということは、あったのかも知れません。で、骨のはなしだから骹。

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