靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

足りないのは何行か

仁和寺本『太素』巻14真蔵脈形で,前の行の経文が「大骨枯槀,大肉陷下,胸中氣滿,肉痛中不便,肩項身熱,破䐃脱肉,目匡陷,真」(灰色の文字はさらに前の行)で,続く行が楊上善注「真藏脉見,少陽脉絶,兩目精壞,目不見人,原氣皆盡,故即立死。真脉雖見,目猶見人,得至土時而死也。」というのはおかしいだろう。そこが紙の継ぎ目であるから,修理の際に貼り間違えて何行かを覆ってしまった可能性が有る。恐らくは前の用紙を後ろの用紙の上に貼っている。
それでは覆われてしまった行は何行であるか。各紙がこの巻では何行づつになっているかを調べることによって,推測はできると考えた。
現に仁和寺に蔵されている巻子の冒頭には,「首二紙缺」とある。影印本では,大正の摸写で補われているが,分量は22行であり,巻頭がまだ缺けている。おそらくは2紙のうち1紙は失われたということだろう。第3紙から以降の行数は,保存状態と影印の精度のせいで正確さを缺くかも知れないが,おおむね各紙22行である。例外は第12紙の10行。
問題の楊上善注「真藏脉見少陽脉絶兩目精壞目不見人原氣皆盡/故即立死真脉雖見目猶見人得至土時而死也」(/は行替え)は第12紙の最初の行である。したがって,第12紙の何行かが覆われた可能性があるが,現状で10行しか無いとなると,まさか12行もが覆われたというわけにはいかない。各紙の行数から推測して脱した文字数を割り出そうとしたのは空ふりであった。
では,どうしてこのような事態となったのか。実はここのあたりは同じ文句が何度となくでてくるところである。うっかり重複して写して,後に気がついて切り取ったつもりが,今度はうっかり何行か余分に切り取ったということではないか。
『素問』によって補うとすれば「......藏見,目不見人,立死,其見人者,至其所不勝之時則死。」の21字であろうが,前の行が15字なのに比して,21字は1行には多すぎるし,2行にしては少なすぎる。また,途中に注の入る可能性も低いだろう。
結局,何もわからない。

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