靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

肺主聲

四十難曰:經言肝主色,心主臭,脾主味,肺主聲,腎主液。鼻者,肺之候,而反知香臭;耳者,腎之候,而反聞聲,其意何也?

然,肺者,西方金也。金生於巳,巳者南方火也。火者心,心主臭,故令鼻知香臭。腎者,北方水也。水生於申,申者西方金。金者肺,肺主聲,故令耳聞聲。
この経言は、『霊枢』順気一日分為四時篇と関係が有ると思う。ただし、それなら「肝主色,心主時,脾主音,肺主味,腎主藏」のはずである。「肺主聲」になってしまったのは、味であれば脾に配当するのが相応しいとして入れ替えたのから生じた食い違いだろう。音と声の入れ替えくらいはどうということはない。
「腎主藏」が「腎主液」に変わった理屈はわからない。
「心主時」を「心主臭」に変えたのは、五官器の問題に統一したいという意識だろう。確かに「時」というのは良くわからない。
長夏と秋を入れ替えるくらいなら、いっそのこと「肝主色,心主☐,脾主味,肺主臭,腎主音」までもっていけば良さそうなものではないか。五行説的に何か問題を生じるのだろうか、この難のようにしておくことに、五行説的に何か意義が有るのだろうか。
四十九難にも、別に大した問題は起きないと思うがなあ。
「心主☐」の☐には、目口鼻耳から得た情報から、それが何であるかを判断する能力、それを表現する文字が相応しい。
六十八難には「井主心下滿,榮主身熱,俞主體重節痛,經主喘咳寒熱,合主逆氣而泄」とある。これは結局のところ、五蔵に関わる症状だろう。「心下滿」の「心」字に拘らなければ、支えるというわけで肝との関係と言って差しつかえない。四十難に「肝主色,心主臭,脾主味,肺主聲,腎主液」といううち、体重節痛=食べ過ぎ=味、喘咳寒熱=咳こむ=声、逆気而泄=水分代謝異常=液というのは、まあこじつけられなくはない。『霊枢』順気一日分為四時篇には「病在藏者、取之井;病變于色者、取之滎;病時閒時甚者、取之輸;病變于音者、取之經;經滿而血者、病在胃、及以飮食不節得病者、取之於合」とある。みぞおちが支えるのは蔵の病であると言えなくもない。身熱が有ると色に出るというのは少々つらい。体重節痛だから時に間し時に甚だしいというのはちと無理だろう。喘咳寒熱なら咳こむ音が気になるというのは良い。逆気はともかくとして泄するのはやはり飲食の問題である。だからどうした、と言われると困るんですがね。「肺主聲」の「聲」は、聴覚でなくて咳の音のことかも知れない。四十難で「聴覚は肺の官である鼻の役目でなくて、腎の官である耳の役目だろう」と悩んでいるのが、そもそも馬鹿馬鹿しいのかも知れない。

四十九難の五邪の法でも,中風、傷暑,飮食労倦,傷寒,中湿を知るのは,それぞれ色,嫌う臭い,好む味,声の質,液の違いによっている。別に傷寒は肺に関わり,だから聴覚に異常を起こす,などということは言ってない。

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