パレート最適

(ぱれーとさいてき Pareto optimality)


イタリア人経済学者兼社会学者兼哲学者パレート (Pareto, Vilfredo Marchese, 1848-1923)の名にちなんだ社会厚生 (社会的選択)の基準。

この基準によると、 ある状況が最適なのは、 誰かの利益を損なうことなしにはいかなる人も利益を高めることができない という、いわば飽和状態にあるときである。 逆に言えば、ある人の利益を高めることが、 他の人の利益を損なうことなしにできるならば、 まだ最適状態にあるとは言えない。

この基準は、帰結主義的であり、 個人の選好充足を単位とするという点で 功利主義と共通している。 一方、総和最大化を特徴とする功利主義と比べると、 個人間の効用比較をしなくて済み、 また、 効率(=望ましい帰結の最大化)だけでなく、 配分の問題も考慮に入れられるという利点があるとされる。 しかし、 功利主義ほど選択肢のランクづけを完全にできないという批判や、 一人でも利益を損なうような政策は支持しえないことから、 現状維持的政策しか支持できないのではないか、といった批判がある。

パレート自身は、完全な市場競争が行なわれることによって この最適状態が達成されると考えたが、 現実の資本主義では独占や寡占などの弊害によって 完全な市場競争を達成できないため、 むしろ社会主義によって 「完全な市場競争の結果」を達成すべきだと考えた(Tuck)。

個人間の効用比較をすることなしに社会的選択ができるこのパレートの理論は、 その後の経済学においてしばらく不動の地位を得ていたが、 アローの不可能性定理(1951)によって 大きなダメージを受けた。

ちなみに、「パレート」と聞くと、 わたしなどはついつい「油絵や水彩画を描く時、 絵の具を混ぜ合わせて色を作るために用いる板。 一端に親指のはいる穴があって握り持つようになっている」(『大辞林』より) あのプラスチックの板のことを思い出すのだが、 当然ながらあれとはまったく無関係である。

11/23/99; 22/May/2003追記


参考文献


関連文献


KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Thu May 22 10:37:24 JST 2003