思想文化学専攻倫理学専修 児玉聡
ベンタムの倫理学=法哲学思想の検討と応用
本研究は、 ジェレミー・ベンタムの倫理学=法哲学思想の解明を行なうものであると同時に、 一般に功利主義の名で知られる彼の思想が現代の倫理問題に対して持つ意義を 追究するものである。 博士後期課程1年次においては、 近代英国倫理思想史の中にベンタムを位置づける試みを行ない、 2年次においては、 彼の法・政治哲学者としての側面を重点的に検討した。 3年次では、これまでの研究の総括として、 ベンタムの功利主義を現代の倫理学=法哲学思想とつきあわせて比較検討し、 彼の思想の現代的意義を探る予定である。
1年次においては、 ベンタムの著作および二次文献の精読に努めた。 とりわけ二次文献として、 D.D. Raphael編のBritish Moralists、 H. SidgwickのOutlines of the History of Ethics、 J.B. SchneewindのThe Invention of Autonomy などを詳しく読むことにより、 近代英国倫理思想史におけるベンタムの位置を明らかにしようとした。 その成果の一部は、「ベンタムにおける徳と幸福について」(口頭発表、論文)、 「ベンタムの自然権論批判--法実証主義者としてのベンタム--」(口頭発表) という題目ですでに公表されている。
2年次においては、 主にベンタムの法・政治哲学者としての側面、 すなわち彼の法実証主義(自然権論批判)と民主主義理論を詳しく検討してきた。 ベンタムの法実証主義および 近代英米の法・政治思想史について必要な知識を身に付けるために、 2000年の9月から一年間、 現在もっともベンタム研究がさかんに行なわれている University College London (UCL)に留学し、 研究を行なっている。
さらに3年次では、ベンタムの後期の著作(『憲法典』など)を精読するとともに、 J・ロールズ、R・ノージック、R・ドウォーキン、 J・ラズなどの現代の倫理学=法哲学思想の研究を進め、 現代の倫理・法・政治的議論の文脈の中でベンタムの功利主義がどのような 意義を持ちうるのかを検討する。 とくに、ベンタムの民主主義論、配分的正義の議論に焦点を当てることにより、 彼の功利主義の性格を明らかにする。 そして、以上の研究をもとに、 ベンタムの倫理学=法哲学思想に関する博士論文を作成する。
(以上)