研究題目・学修および研究計画届 (2000年春) / 博士論文作成計画書 (2000年春) / 研究題目・学修および研究計画届 (2001年春)

博士課程研究計画書

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研究題目: ベンタムの倫理学=法哲学思想の検討と応用

思想文化学専攻倫理学専修 児玉聡

1. 博士後期課程全体を通じての研究主題

現代の実践問題に取り組む場合、個人の内面にかかわる倫理問題と、法規制と の二つの側面を考察することが欠かせない。本研究は、J・ベンタムの倫理学= 法哲学思想の理論的検討を行ない、その成果を現代の実践問題に活かすことを 目指すものである。

60年代以降、英米圏では、新ベンタム全集の編集プロジェクトに伴ない、ベン タムに関する幅広い研究--法・政治思想、倫理学、経済学はもちろん、言語学、 論理学、宗教思想に至る--が活発化している。しかし日本では、ベンタムの思 想は主に経済学や法学の分野にやや偏った仕方でのみ研究され、純粋に倫理学 の観点からなされたベンタム研究は今日では数少ない。ましてや、ベンタムに おける倫理学と法哲学との双方をフォローし、実践問題に活かす方向で彼の思 想の意義を明らかにした研究者は皆無と言ってよい。そこで、英米圏での新た な研究を踏まえつつ、J・ベンタムの倫理学=法哲学思想の理論的検討を行なう ことが本研究の第一の目標である。

さらに本研究は、ベンタムの思想史的ないし倫理学史的研究にとどまることな く、応用倫理の一分野である情報倫理において、ベンタム流功利主義の立場か ら提言を試みる。今日、応用倫理の諸問題が活発に議論されているが、特に、 個人倫理と法規制との区別が曖昧なまま一括して「倫理問題」として語られる ことにより、論議が混乱したものとなっていることがしばしばある。これに対 して本研究では、ベンタム流功利主義の立場から、情報倫理における諸問題に ついて道徳的側面と法的側面の双方から分析を加え、一つの明確な立場を確立 することを試みる。


修士論文までの研究実績との関連性

現在まで、(1)ベンタムの倫理学=法哲学思想の研究、(2)功利主義と他の規範 倫理学説の比較検討、(3)現代の倫理的問題に対する功利主義的立場からの考 察を行なってきた。

1. まず、卒業論文「ベンタムにおける法と道徳の区別について」では、J・ベ ンタム(18C-19C、英)の主著『道徳と立法の諸原理序説』を主に研究し、「法 の規制すべき個人の行動とは、他人に危害を加えるようなもののみであり、そ れ以外の行動は道徳に任せるべきである」という彼の主張を、その哲学的基礎 をなす功利原理の吟味も含め、詳しく検討した。その結果、功利原理という堅 固な基礎によって法と道徳を明確に区別するベンタムの見解は、細部には検討 すべき点もあるが、明快かつ一貫した根拠に支えられており、的確な再解釈を ほどこせば現代でも必ず有効なものになる、との知見を得た。次に、修士論文 「ベンタムにおける功利性の原理--彼の規範に関する主張と人間本性に関する 主張が両立しないという批判について--」においては、ベンタム流功利主義の 基礎にある心理的利己主義と功利原理の関係を、両者が齟齬をきたしていると いう根本的な批判も含めて検討し、今後の研究を進める上で欠かせない土台の 確認を行なった。

2. ベンタム研究のほかに、功利主義と他の倫理学説とのより幅広い比較検討 を行なうために、自然法思想、義務論、権利論、徳論などの主要な倫理学説に ついて英米圏の論文を読み進めている。

3. (1)、(2)の理論的な研究を行なう一方で、死刑廃止論、企業倫理、情報倫 理、環境倫理など応用倫理学の分野において、功利主義理論を実践に適用する 試みを行なってきた。いくつかの考察は文章化し、すでに研究室の個人ホーム ページに公開している。たとえば死刑廃止論においては、誤判可能性のみを根 拠とする廃止論を批判し、死刑制度がもたらす利害の比較考量に基づくべきこ とを主張した文章を掲載してある。


研究の年度ごとの具体的計画

(1年目)


(2年目)


(3年目)

なお、2000年の秋から1年ないし2年間程度の英語圏の大学への留学を考えている。


KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Fri Apr 14 03:26:54 JST 2000