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ゲーテとパルとLove49 (前編) 大阪府済生会野江病院 清水恵子

「あなたの座右の銘は?」誰もが一度は尋ねられていると思う。
私の場合は‘不断の実行’である。ドイツの文豪ゲーテの「なんじの一生は不断の実行であれ」という言葉にちなんでいる。もう少し現実味のある文言がいいかな?と思いつつも、座右の銘に達成率があるわけではなし、まあいいか・・・と思っている。
ゲーテのこの言葉について詳しく知ったのは、高校生の頃に遡る。私は大阪府立今宮高等学校の出身である。高校時代は大阪環状線に乗り、寺田町駅から新今宮駅まで通学した。間には天王寺駅があり、クラブ活動をしなくなると、参考書を見に行くという名目のもと、しょっちゅう天王寺駅で友人と途中下車をして寄り道をした。その日のことはいまでも覚えている。いつになく一人で天王寺のユーゴ書店内をうろうろしていたとき、文庫本のコーナーで一冊の本が目に入った。手塚富雄博士の著した「いきいきと生きよ」である。
題名に引き付けられ手に取ると、難しいながら、今で言うところの‘やる気スイッチ’を押してくれる文言のオンパレードである。その本の最初の章のタイトルが‘不断の実行’であった。以来、私の座右の銘となったのだが、この本の中で、もう一つ気に入った文言があった。‘心が開いている時だけこの世は美しい’である。もしも、このふたつの文言を本当の意味で座右の銘にできていたならば、これまでの人生をもう少し‘いきいき’と生きられたのかもしれない。たいがいの人がそうであるように、私の場合も感動はひと時で終わり、この本は机の奥にしまい込まれることとなる。その存在を思い起こさせてくれたのが、我が家のパルであった
。 さて、パルちゃん。トイ・プードルのオスで5月9日に三歳になる。同居している母のためのテラピー犬にと、それこそ一大決心をして飼い始めた。子供の頃に校庭に捨てられていた子犬を拾って来たことはあるが、本格的に飼うのは初体験である。飼う前は色々な事を心配した。既に犬を飼っている人に勧められて、飼育本を4−5冊読んで勉強もした。トイ・プードルの飼育本には、「まるで人間のような犬」とか、「とにかく人が好き」とか、「すねると厄介なので、上手く躾をしよう」などというフレーズが登場する。
犬がすねるって?犬って服従本能があるという話はどうなるの?
ますますトイ・プードルに魅力を感じた。その頃、時間の余裕のない暮らしをしていた私は、知れば知るほど飼うのは絶対トイ・プードルとの思いを強めながらも、なかなか次の一歩が踏み出せないでいた。日常起こる些細な事柄には実は意味があったりするものであるが、今日こそ!とペットショップに寄るとトイ・プードルの子犬がいない。
おまけに、他の子犬は背中を向けてお昼寝中・・・。
トイ・プードルじゃなくても、可愛らしい瞳で見つめられていたら、この子でいいや!・・になった可能性は高いと思う。何度か繰り返すうちに、ブリーダーさんから直接購入するというのもいいかな?と思いつきネットで検索してみる。
トイ・プードルを扱うブリーダーさんは意外と少なく、子犬が産まれると直ぐに売約が成立してしまうことが分かった。そんなに人気があるの?数ヶ月が経ち、またなんとなく思いついて検索すると、いいかも?と思っていたブリーダーさんのHPに‘子犬が生まれました’文字が躍っている。ためらいは一切無かった。翌日のお昼休み。病院の植え込みの新緑がキラキラ輝くのを見上げながら、ブリーダーさんに電話をしていた。
我が家にパルがやって来たのは、三年前の7月1日。パルが生後54日目の時である。とにかく、食いしん坊で愛想がいい。初日こそサークルの隅でションボリしていたが、二日目ともなると、おなかを出してクークー寝ている度胸のよさだ。
ニューオーナー・シンドロームなるものの勉強もしていた私には、拍子抜けもいいところ。検診やワクチネーションに獣医さんのところへ行っても、ちぎれるほど尾を振りペロンペロン・・・なんだか恥ずかしくなって来る。お散歩デビュー後も、何頭仲良くなったら気が済むんだ!と言いたくなるくらいに愛想を振りまく。もちろん、飼い主さんへのご挨拶も欠かさない。あまりに自分のワンちゃんがパルに会うと喜ぶので、‘お散歩会’ができてしまった。私の散歩時間に合わせて、近所のロート公園(ロート製薬の隣なのでそう呼ばれている)でワンちゃんと飼い主さん達が集う。たいていは私が遅くなるので適当に遊ばせているのだが、遊びに飽きるとパルがやってくる方向を向いてマテをしている。そんなワンちゃん達がパルの登場により、一気にテンションが上がる。その様子に、飼い主さんの一人が言った言葉。「パルちゃんはロート公園の551やねえ」パルって、豚まん?食いしん坊にはもってこいのネーミングだ。この‘お散歩会’で、私にも多くの友人ができた。そして、ある日、散歩中にふと‘心が開いている時だけこの世は美しい’の文言を思い出した。まさしくパルの心は開きっぱなし。そして、みんなに愛されている。しかめっ面のおじいさんまで、すれ違いざまに「かわいらしいなあ」などと笑顔を向けてくれる。
母のテラピー犬にと飼ったパルであるが、私の心も癒してくれている。ただし、飼い主の命令にはほとんど従わない。ワンコなのに文句が多い。なにかご褒美がある時にはなんでもこなすので、アホではないようだ。叱られている時には、本当に私が怒っているかどうか確かめることも欠かさない。
そんなパルではあるが、とっても大変だったLove49の時には、ヘロヘロになった私の手をペロンペロンといつまでも舐めて慰めてくれた。人は言葉を得たけれど、相手の気持ちを推し量る能力は失ったのかもしれないなあ・・・暖かい舌で舐められながら、
「あんたは偉いねえ」とパルに話しかける。
Love49は‘らぶ・しきゅう’と読む。「アラフィフの49歳を楽しもう!」などというキャッチ・コピーではない。子宮頸がん予防の啓発活動の名前だ。このLove49奮戦記については後編に書かせて頂こうと思う。
では、我が家のテラピー犬、パルのとっておきの笑顔を見て下さいね。
執筆の機会を与えてくださった芦田英之氏に感謝しつつ前編を終えさせていただきます。
(芦田wrote・・他府県からの投稿に感謝です。可愛いね!!パルちゃん!!)

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