《ご褒美は細かく何度でも》
「馬の鼻先に人参」という言葉があるように、「苦手な国語で90点以上取ったら、ご褒美で好きなものを買ってやろう」という、心理学でいう「外発的動機付け」と呼ばれる手法を使った方、または使われた方は多いと思います。報酬を使う方法である「外発的動機付け」は、仕事効率を高めるために、昔からよく使われます。
サルを使った実験で、モニタに赤色のサインが表示されたらレバーを押し、緑色でレバーを離すという一連の工程で、ミスがなければご褒美のジュースをあげるというのがあり、この程度の簡単なものなら成功率は97%を超えます。しかし、4回連続成功で、初めてご褒美がもらえるとなると、成功率は格段に落ち、初回では75%以下になるそうです。そして2回目80%、3回目93%、4回目97%と徐々に成功率は上がり、元の成績に戻るというのです。つまり報酬にたどりつくまでのステップ数が多くなると仕事のエラー率が高くなり、残りの作業が少なくなると失敗が減る。
このような報酬への"期待"と仕事の"精度"の関係には、前頭葉の働きが関与しているようです。仕事の正確度を高めたければ、多くの工程をひとまとめにせず、細かなステップに分けて、そのたび報酬を与えるほかないというわけ。ちなみに、報酬は目に見えるご褒美でなくとも、何かをやり遂げた達成感も外発的動機付けになります。目標達成の"感激"は十分な報酬のようです。
「目標は高いほうがよい」とよく言われますが、これでは達成して報酬を得る回数が減るばかりか、達成できずに挫折を味わうことになりかねません。それより、最も原始的で安上がりな報酬、「褒めること」を多用するのがいちばんです。褒められると嬉しくなるなんて、脳もよく出来ています。
《逃げ道を用意しておく》
−重要なのはストレス解消ではなく、解消する方法を持っていること−
こんな実験があるそうです。
●直接体内にストレスを作り出す(=ストレスホルモンの量を増やす)薬を点滴する
●治験者に「あなたの体はストレスを感じます。つらくなったら手元のボタンを押せば、点滴は止まります」と伝えておく
●すると、ストレスホルモンの量は増えない
このように化学的にストレスが増えるように仕向けられているのに、「逃げる手段(ボタンを押すこと)がある」というだけで、その効用を抑えることができてしまうわけです。実際にその「逃げる手段」を使わなくても「その手段がある」という安心感さえあればよいのです。
物事はとらえ方1つでいかようにも変わるもの、とはよく言われます。それならば、ストレスもとらえ方を変えることで、あっさり解消できるかもしれません。
《好奇心は持ち続けよう》
「最近、歳をとったせいか、記憶力が衰えちゃって」⇒これは、間違い。
ポイント1:海馬の性能は歳をとっても衰えない
ポイント2:歳をとって何が変わるかというと、Θ(シータ)波
これも、ウサギを使ったある論文の実験結果から、立証されています。シータ波が出ているときに学習すれば、歳をとっていても若いウサギの脳と同じ性能を発揮できるそうです。
では、シータ波はどんなときに出るか。
シータ波は、面白いなと感じている、知的好奇心をもっている、探索心を持っている、などといった注意力に関係するそうです。勉強が面白いと感じたら学力は伸びる、というのも納得です。
逆に、脳の性能をダメにするのは「当たり前」感覚とも言えます。つまり、私たちにとって最大の敵は「マンネリ化」だったんです。
・・・と言うことで、「どうせ、いつもと一緒でしょ。面倒だなぁ」なんて、決して思わないようにすれば、われわれもまだまだ伸びるかも?
参考)「脳はなにかと言い訳する―人は幸せになるようにできていた!? 」池谷 裕二 (著)、(祥伝社)
<あとがき>
大脳研究家である池谷祐二さんの著書、『脳はなにかと言い訳する』を読んで、「モノは考えよう」であることを改めて感じたので、京臨技メールマガジンで3週続けて紹介しました。その内容をコラムとしてまとめてみました。 |