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「伝えること」 京都大学医学部附属病院 丹羽 紀実

 先日人前で話をする機会がありました。

 お題は「主題:学校に望むこと」。

 卒業した医療短大(現在は医学部保健学科)全体の同窓会があり、その催し物の一環として開催されるパネルディスカッションで、学生時代にもっと勉強したかったこと、こんな授業があればいいと思ったこと、実習に出てくる学生に望むことなどについて話をしてくれとの依頼です。対象は卒業生と現役の学生、それに教員。

 まずなんといっても私には一番不似合いな内容です。
なんせ学生時代に結構いい点をとったはずと信じて疑わなかった臨床化学のテストがクラスで最低点だったり、生協のおばちゃんに余ったご飯を譲ってもらうため、昼からの授業を犠牲にしていた劣等生だったからです。そんな私がなぜ呼ばれたかのか。10年遅れの追試でしょうか?はてさて。

 まあでもとにかく引き受けた手前、やらねば話は進みません。
ということでリサーチ開始。同僚にそのままの質問をぶつけたり、他職種の人に臨床検査技師に対するイメージを聞いたり。しかし内容が広すぎていまいち感じがつかめません。スライド初稿はなんとかできたものの時間換算すると5分も持ちそうにありません。与えられた時間は10分。2日程悩んだ挙句、あきらめて職場紹介の写真でも入れるかと、デジカメ片手に早朝の病院をうろうろ。さらにスライドもいつもより丁寧に作り、内容がない分写真と併せて作りこんだ感を演出してみました。
よし、なんとか10分程度にまとめれそうな感じです。

 ここでちょっと真面目な話をひとつ。
スライドを作りながら、学生時代どんなだったか、そして今自分がどんな仕事してるかを思い返してみました。学生時代のことを考えると前述のような感じで過ごしていたので、恥ずかしくて誰にも何もいえなくなってしまいます。のでそれはさておき、いやこれが結構学生時代には想像もしなかったようなことしてます。勉強で一番苦手だったのが血液学と微生物学で「絶対この分野の仕事にはつきたくない」と思っていたのが、卒後3年間は血液、間に1年間輸血を挟んで、あとはずーっと微生物。神様のいたずらでしょうか。
それに臨床検査技師は机に向かいただひたすら検体を処理するものだと思ってました。ところがどっこい(表現が古いか?!)現状を考えてみるとそういった処理をしてる時間より、医師との対応、学生への教育などヒトと対話する仕事や、データの整理や文献読みなど学術的なことに時間をとられています。おまけに自分の時間なんてほとんどなし。内向的な趣味はプラモデル作りなのですがここ何年かは満足に時間も取れません。自宅には購入したまま積んである商品が鬼のようにあります。あれれ?真面目な話だったのに、どこから脱線!?

 さて話を戻します。
当日、会場へ向かう電車の中でスライドを頭に浮かべながらもう一度何を話そうかいろいろ考えました。卒業生の方には現状報告みたいな感じでいいかなと思ったのですが、学生には一般にいわれているほど無機質な仕事ではないこと、むしろそういった面よりヒトと対話することに非常にストレスを感じること、また希望する職場への就職が難しく他の医療職種に比べると冬の時代であるけども、現代医学の屋台骨を支えていることは間違いのない事実であり、やりがいもあり、そしてそんな現状を打破するための有能な人材が求められていることなどを伝えたかったのでそのあたりはちゃんと聞いてもらえるように面白可笑しく、でも現実味をこめて話してきました。

 でもねえ、始まった途端ふと前を見ると学生時代からお世話になっている大先輩が前方席にいるではありませんか。や、やりにくい。。。頭が2/3くらい真っ白になりました。まあこうしたこともあろうかと各スライドにキーワードは忍ばせておいたので、少しはいいたいことが伝えられたかもしれません。いや、思ってたことの半分も伝えられたかどうか。。。

 終了後、その大先輩に「まあまあよかったよ」といわれたことが心の救いです。

 あらためてヒトに何かを伝えることの難しさを実感した一日でした。

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