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「知名度向上委員会 〜青春編〜」 京都大学医学部附属病院 増田 健太

先月の知名度向上委員会、委員長の報告に引き続き、今月は副委員長の体験談であります。もうかれこれ8年前、高校を卒業して保健学科検査技術科学専攻への入学が決まりました。検査技師の名をこんなにもたくさん説明する機会に恵まれるであろうことを知るすべもなかったあの頃。臨床検査学を修める長い旅が始まったのです。

大学に行っているというと、親戚・知人・友人、誰もが必ずこう尋ねる
「学部は?」
(まずそれ訊くわなぁ)と思いつつ、
「医学部」
と答える。嘘でもハッタリでもない。医学部保健学科。
「えっ?! じゃあ将来お医者さんになるんやねぇ」
と好奇の視線と尊敬の眼差しを受ける。
「いや、医学部は医学部でも医者になるわけではなく、臨床検査技師っていう資格の‥」
と答えると、先ほどの尊敬の眼差しが疑問の目つきとなる。が、好奇心の目はまだ残っているようだ。初めて聞く言葉に接して、まず冒頭の“臨床”にしか意識がいかないらしく、
「臨床‥???? って?」
若かりし頃の副委員長はめげずに説明する。
「まぁ検査全般をする仕事で、血液とか尿の検査、超音波検査、心電図検査とかするんよ」
と力説。あの頃は若かった。
「あぁ、レントゲン撮る人やね」(そんなの一言も言ってないよ‥)
これまでの統計上、レントゲンを連想する人が圧倒的に多い。
「あっ、それは診療放射線技師って言って放射線を使う場合は‥」
などと、今の自分なら絶対にここまで説明しないようなことまで語ったりすると、
「放射線使う人ってやっぱり体によくないんよね?」
もうすでに臨床検査技師への興味はどこかに飛んでいってしまっている。放射線について語り始めた副委員長も悪いのだが、こうして結局は、臨床検査技師の知名度向上にはなかなかつながらないもので。
がんばれ副委員長。

 入学して約8ヶ月、もうそろそろ臨床検査技師の説明に疲れ始めた、初めての正月。年配の親戚と会う機会のふえる時期がきてしまった。親戚への説明というのは、適当に話を流すこともできず、いい加減なことも言えない。お互い普段会わないだけに、そんなに話題もあるはずもなく、自然に会話は学校や臨床検査の方向に。
若い世代よりも、病院のお世話になっていることが多いであろう年齢層ではあるが、やはり臨床検査技師はほとんど知られていない。病院できっとすれ違っているはずなのに、一般の人にとっては、病院を白衣着て歩いている人は、男性ならお医者さん、女性なら看護婦さん、というような認識なのでしょう。
ドラマの失楽園で菅野美穂がしていた役、というと意外と相手の反応は芳しい。といっても
「あぁ〜、それ知ってるわ、そうなんやぁ〜。でもどんなんやっけ?」
というような程度。親戚一同膝突き合わせて、失楽園の話をする気にもなれないので、適当にお茶を濁すことになる。臨床検査技師が主役のドラマではないので、まぁそれも当然。
そして、お決まりのレントゲンがどうの、放射線がどうのというやりとりを繰り返す。入学当時と比べて副委員長、大して成長してはいないようだ。理解していただけたのかどうか分からないまま「まぁ、がんばりや」という激励を受けて親戚家を後にする。来年の正月は、まぁ少しは楽だろう。という期待を胸に。

大学四回生、ファーストフード店でアルバイトを始める。ここでも、臨床検査技師とは‥を語る機会にめぐりあうのだろうと覚悟を決める。ファーストフードのアルバイトというのは、まわりはほとんど高校生。臨床検査技師がどうのこうのというようなことにはあまり興味を示さない(大人だからといって決して興味を示す人が多いわけではないが)。ただ医学生らしいということは理解してもらえたようだ。
期末試験前になると、高校生はアルバイトの休憩室でも生物IBの教科書を広げて勉学にいそしむ。試験や受験などから開放されて、のんびり大学生活を送っている副委員長はそれを横目に見ながらマックフライポテトをほおばる。生物のことは医学生に訊けばいいという短絡的な発想で、分からないことにぶつかると質問の矛先はこちらに向く。
「この生体防御ンところ、なんか訳分からんから、ちょっと簡単に説明して〜や」
と言われる。もちろん敬語ではない。
左手で拳を作りそれを抗原に、右手で二本指を立ててそれを抗体に見立てて、
「外から異物が入ってきた時にな、それを抗原として抗体が認識して‥」
と、両手を最大限に活用して、抗体が抗原にくっついて生体防御が始まる様子を分かりやすく説明。
「ってことは体ン中ではグーよりチョキが強いんかぁ」
‥‥‥長々説明させてそんな感想??もっと勉強しなさいよ、まったく‥‥
まぁ、医学生としての面目躍如。

 あっという間だったなぁ、学生時代‥‥なんて感じつつ4年。

思春期まっただなかの18歳、まったく臨床検査技師という職業の存在すら知らない中で、なぜか偶然にもこの学部を選んで、いま臨床検査技師になっています。でもこの職業、なかなか気に入っており、青春時代の選択は間違っていなかったなぁと感じる副委員長。というわけで、これからも臨床検査技師の知名度向上のためにがんばります。えっ?その前に検査技師としての技術の向上? とりあえず、4年間お疲れ様でした。

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