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「グッ・ジョブ!」 市立舞鶴市民病院 白波瀬浩幸

 同点で迎えた最終回、先頭バッター8番Mちゃんが大きなバウンドでショートの頭を越えるヒットで出塁。9番のY君が送りバントを決めて、2塁ベース上にはピンチランナーのT君がいる。1番バッターのY君が今日3本目のヒットを決めて、1アウト1・3塁。そして、2番バッターK君が打席にたった。初球を見逃したあとの2球目、叩きつけた打球はサードの前に転がった。3塁ランナーはスタートを切っているが、タイミングは本塁で憤死。『まずい!』と思った瞬間、相手チームのサードが1塁に送球し、ホームイン!夏の大会、6年ぶりの1回戦突破である。

現在、我が家の子供が通う小学校は全校生徒数41名の小規模校。その学区内に弱小学童野球チームがある。3年前、その学童野球チームは前監督の都合で解散の危機となった。二男、三男が在籍していた僕としては何とかチームが続けばと願っていたが、長男がお世話になっていた頃は、たまに応援に行く程度であったため、あまりエラそーなことは言える立場ではなかった。しかし、同じような思いの親が集まり、何とか三男が小学校卒業するまではチームを続けることになった。何故、「ウチの三男が卒業するまでか?」と言えば、当時2年生だった彼らの学年は12人も(?)生徒がいたからである。

役場に勤務されているK君のお父さんが監督に就任され、春から新チームで始動することになった。チーム存続が決まったのはよかったけど、『指導者の一人に』と声をかけられたら断る訳にはいかなくなった。前チームのコーチ2人(一人は保護者ではないが、野球と子供好きの好青年)がおられたので気楽ではあったものの、毎週練習につき合うのは正直、気が重かった。その当時は6年生1人、5年生3人、4年生4人と新入団の2年生が8人で、2年生がいきなりレギュラーとならざるを得ない台所事情であった。勿論、試合に勝てる筈はなかったが、チームのモットーは『エンジョイ・ベースボール』である。

そう言う私は、野球を指導するなんて自信も全くなかったが、『子どもが育つ魔法の言葉』(ドロシー・ロー・ノルト、レイチャル・ハリス共著、石井千春訳、PHP研究所)を読んで、ヒントを得た。親はついつい、「オイ、何やってんだ。3塁だろ、3塁。」、「何であんなボール球に手ぇ出すんや。エエ球だけ打ちに行けや。」とか、大きな声で叱咤する。指導者も同じである。子どもによかれと思ってアドバイスしているつもりでも、子どもにとっては人前で恥をかかされているとしか思えないそうである。

野球技術も大事だけど、ゴチャゴチャ言っても始まらない。他のチームに笑われるかも知れないけど、当たり前のフライを受けても「ナイス、キャッチ」、内野ゴロ打っても「ナイス・バッティング」。受け損ねても、カバーに入った子が上手く処理できたら「ナイス・カバー」。できなくても、「惜しい、惜しい」と声をかける。本当にマズいプレーは、ベンチに帰ってから「あそこは、こうした方がエエと思うけど、どうや?」と聞いてやる。人前で褒めたり励ましたりするのがコツである。まあ、そうと心に決めていてもついつい熱くなって声を荒げてしまうのが人情ではあるが・・・。

6年生が2人(新チーム結成時には二人とも入っていなかった)と5年生7人がレギュラーを固める今年のチームも相変わらず頼りないが、着実に成長している。キャッチボールもままならなかったのが正面で捕球できたり、ノックでポロポロとボールをこぼしていたのがグラブに収まったり、外野飛球でバンザイした子でも目測がだいたい出来ようになったり。空振りのときにバットとボールの距離が縮まって、結構バットの芯でボールを捉えるようになっている。いろんなレベルの子どもがいるが、それぞれが目に見えて上達しているのである。

そして、この前の試合は全員が活躍するいいゲームであった。先制の口火となる3塁打を含む3安打のY君とサヨナラ安打のK君。見事なリリーフで相手の攻撃を押さえたT君。同点打を放ったキャプテンM君に四球が少なかったエースのH君。最終回、相手の盗塁を阻止したキャッチャーT君。チーム一のお調子者H君。サヨナラ勝ちのきっかけを作ったMちゃんとナイスバントのY君。最後のホームを踏んだT君。ランナーコーチやベンチでの声援した補欠のみんな・・・。「ゲーム!」主審の力強いコールのあと、場内にサイレンが響く。惜しみない拍手の中で14個の誇らしげな笑顔が咲いた。

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