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私の音楽巡礼 京都府立医科大学附属病院臨床検査部 石澤 衛

 先月の流れからいくと私も一応独身ですので、今月も恋のリレーコラムといきたいところですが、残念ながらネタがありません。それと、この“一応”という言葉の使い方も気を付けなければいけません。「一応独身です」と言うと「バツイチですか?」とよく言われます。今後なるべく使わないことにします。

数ヶ月前のことでした。レコード店(今はCD店とは言うのでしょうか?)の試聴コーナーで、新垣勉というテノール歌手のCDが目に留まりました。私の記憶に間違いなければ、NHKのみんなの歌で“ざわわざわわ”っていう歌詞の歌を歌っていた人です。で、その新譜を聴いてみました。“盲目のテノール歌手。沖縄生まれで父は米兵、母は日本人。両親の別離と父帰国のため祖母に育てられ、12歳のときその祖母も亡くなり天涯孤独に・・・・”といった説明がありました。
1曲目の“愛燦燦”、その新垣勉が“わずかばかりの運の悪さを恨んだりして?”と歌っているのを聴いて涙が溢れてきました。レコード店で涙を流すわけにはいかない、いや流したっていいのでしょうが、そこはこらえました。もちろんそのCDを買って帰ったことは言うまでもありません。

でも、2月に大阪であったコンサートでは涙を流してしまいました。ブラームスの交響曲第1番の第4楽章で・・・。
私がクラシック音楽を聴き始めたのは就職してしばらくしてから。それまでは、今風に言うと洋楽とか邦楽、昔風に言うとポップスとかフォーク、ニューミュージック、ロックも少々、それに加えてカントリー、ブルーグラス等々を聴いていました。当時は、クラシックなんか一生聴くことはないと思っていたんですが、今ではこの有様です。
それで、そのコンサートへいっしょに行った友人が、初めてのブラームスの交響曲第1番を聴き終えて“あまりいいとは思わなかった”という感想を漏らしました。実は、私も以前レコードで初めて聴いたとき、“どこが名曲なん?”と思ったものでした。それが、今ではこの曲のCDを9枚持っています。これは、私の持っているCDのなかで、同じ曲の異なった演奏のCDとしてはトップです。
余談ですが、今回その他の曲についても調べてみたところ、8枚がブラームスの交響曲第3番と交響曲4番。6枚がこれもブラームスの交響曲第2番で、4位までがオールブラームス。5位の5枚で、やっとマーラーの9番と、ベートーヴェンの“運命”というありさまで自分でも驚きました。4枚となるとぐんと増えるので省略します。

ブラームスは、交響曲第1番を着手から完成まで20年間いじくりまわしていました。そして発表後は、“ベートーヴェンの真の後継者だ”とか“進歩がない”とか“第4楽章のメロディーは第九にそっくり”だとか賛否両論いろいろ言われたそうです。第4楽章は、しばしばコマーシャルにも使われていて、実はみなさんも知らないうちに聞いているんですよ。
ブラームスの曲というのは、一言で言うとちょっぴり大げさで、暗くて、そして情けない。でも、その情けないところがなんかこう自分とだぶって共感をよぶのでしょう。ベートーヴェンだと“ダダダダーン”という具合に一気に階段を駆け上がるのに、ブラームスは階段を一歩一歩あえぎながら上って行くという感じなんです。
ある音楽評論家は、ブラームスの音楽を“成熟した男の音楽だ”というふうに言ってます。もし、機会がありましたら是非一度聴いてみて下さい。いや、一度では“どこが名曲なん?”となりますから、何回も何回も。

現在私は、時間があって気が向いたときに、昔ラジカセやカセットデッキで録音したテープを、CDに焼き付けています。古いものでは30年位前のやつなんかもあって、テープの補修をしたりして面倒くさいのですが、まあ楽しんでいます。もちろんその頃のは、クラシック音楽ではありませんが、私の中ではクラシックもジャズも洋楽も邦楽も共存しているのです。

※ なお表題の“音楽巡礼”という言葉は、“五味康祐 音楽巡礼(新潮文庫)”から拝借しました。

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