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病院にカブト虫 京都第二赤十字病院 菊池 鈴予

 去年、血液検査室に異動となり、今までと違って、患者様に接するようになりました。痛くも痒くもない心電図とは違い、血液検査室で行われることと言ったら、皆さんの大嫌いな“採血”です。特に小さなお子さんが来ると、“かわいそう”でも“採血しなければ検査が出来ない”と、他の技師が採血しているのに、一人でオロオロしておりました。

“こんなに頑張って痛いのを我慢したんだから、採血が終わった子に何かご褒美をあげたい”と言う思いと、“職場の同僚がカブト虫を50匹も卵から成虫に育てた話”が結びつき、“よし、カブト虫を育てて、来年にはたくさん羽化させて、頑張った子のご褒美にしよう”と単純に思いついたのでした。

 オスとメス二匹ずつ、四匹の親から29匹の幼虫が生まれました。親が死んでから一ヶ月間は、卵をいじってみたい気持ちをじっと我慢して、卵が幼虫になるのを待ちました。こんなもの育てるのは初めてなので、職場の“生き物大好き人間”に、あれやらこれやら教えてもらい、インターネットで“カブト虫通信”という、ホームページを見つけて調べたり。多分職場のみんなは、あきれていたでしょうね、大の大人が、カブト虫に夢中になっているのですから。

 幼虫の住む木屑に、小麦粉を混ぜると大きく育つと聞き、せっせと小麦粉を混ぜました。カブト虫の幼虫の糞って、けっこう大きくて、2週間に一度は子供の砂ふるいで、木屑から取り除きます。この糞のお掃除が結構面倒なのです。一回でスーパーの袋に一杯分出るのですから、プランターやら植木鉢に肥料として入れても余ってしまい、実家の母にプレゼントしました。木屑は“昆虫マット”と言う商品名で売っているのですが、幼虫はこれを食べて糞をするわけですから、昆虫マットの減るのもすごい勢いです。冬になって売切れてしまうと困ると思い、夏の終わりには大量に買い込みました。でも結局、冬は幼虫の食欲も落ち、減り方も少なくなり、こんなに買い込む必要はありませんでした。また、私みたいな人が他にもいるのか、冬でも“昆虫マット”って、売ってるんですよね。驚きました。

春になって暖かくなると、幼虫の活動も開始です。と言っても、再びあの食欲が戻り、私はせっせと糞掃除に励むのみですが・・・ 掃除の際は、幼虫が傷つかないように木屑から取り出します。割り箸でつまもうと思いましたが、幼虫をつぶしてしまいそうでやめました。スプーンにのせようと思いましたが、大きくなるとうまく乗りません。結局、UFOキャッチャーのようにして、手で移動することになりました。手で持つ?(移動する)と、重みが分かり、よく育ったなあと、実感・・・。

五月の末になると、去年カブト虫を羽化させた同僚のところでは、すでに成虫になって出てきているとのこと。さなぎの部屋(幼虫は、さなぎになる時、口から液体を出して、木屑を固めて部屋を作ります)を壊すと、羽化できないと言うことなので、ひたすら待つこと二週間。オス、メス2匹づつ、ゴソゴソと出てきました。その夜から、毎日2匹位づつ地上に現れ、ついに15匹が成虫になりました。

さて、成虫になったのは良いのですが、ガサゴソ、ぶんぶん(狭いかごの中で、飛ぼうとするんですよね、夜になると)、おまけにプラスチックの入れ物を足でカリカリ、キーキー引っかいて、結構うるさいのです。娘たち(高校生と中学生)には、早く何とかしろ、と言われる始末。

そうです、私の初心は“子供たちにあげる事”だったのです。しかし、実際には、そんなに子供が採血に来ることは無いのですよね。そこで、小児病棟のプレイルームに置いてもらう事にしました。本当は、退院する子で欲しい子があったら、持って帰って貰いたかったのですが、“それはだめです”と、看護師長さんに断られてしまいました。

“小児病棟にカブト虫を”という話を同僚にした時、子育て真っ最中のお父さん技師からは、“それいいですね”と賛同の返事をもらい、細菌検査経験者の“生き物大好き人間”からは、“しかし、元気な子ばかりじゃありませんからね。(もっともです、なんてったって病院ですから)土とかあまり良くないかもしれませんね。”とのご意見をいただき、躊躇していたのですが、小児病棟の看護師さんに聞いたところ、すでに何か虫がいるとのこと。勇気百倍で、看護師長さんにお願いに行ったわけです。

しかし、カブト虫を持ち込んだが為に、何か問題が起きてはいけません。ダニ防止の薬?(カブト虫用)を昆虫マットに混ぜ、昆虫にかかっても大丈夫という、防虫?消臭スプレーを吹きかけ、これまた虫除けシート(昆虫用)を蓋に取り付け、容器の回りはアルコール綿で拭きました。完璧なまでのできばえ、と思っているのですが・・・

 それでも心配はありました。せっかく苦労したカブト虫、子供たちが見向きもしなかったらどうしよう。でも、エサをやる為に、プレイルームに行くと、四人の子供たちが、カブト虫の容器をくるくる回しながら、ワイワイ話していました。マスクをしている子もいましたので、蓋を開けないほうがよいと思い、エサは後であげることにしました。入院生活って、退屈ですものね。みんなに喜んでもらえて、とっても嬉しかったです。

 現在は、昼休みになると霧吹き(乾燥防止のため)とエサを持って、小児病棟へ向かう毎日です。

実は、まだ残りの十四匹のさなぎが成虫になって出てきていないのです。これは、別の容器に入っている分なので、飼育状況が何か違っていたのか、一匹も出てきていません。毎日どきどきしながら眺めている次第です。でも、これが羽化して出て来たら、今度はどこにあげようかと、悩んでしまいます。
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