日本尿路結石症学会理事長のご挨拶
役員改選に伴い、平成26年(2014年)8月1日から郡 健二郎前理事長の後任として日本尿路結石症学会理事長に就任いたしました千葉大学大学院医学研究院泌尿器科学の市川智彦でございます。経験的にも実力的にも歴代の理事長の先生方には遠く及びませんが、諸先輩の先生方が創設し、発展させてこられた本学会を、その思いの上にさらに発展させ次の世代にバトンタッチしていくことが、私に与えられた責務と身を引き締めております。会員の先生方のご支援を頂戴しながら、全力で任務にあたらせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
我が国における尿路結石症の全国疫学調査は1965年から約10年に1回実施されてきました。2005年からは日本尿路結石症学会が中心となって行っております。それから10年が経過し、現在2015年全国疫学調査を準備しています。2005年の調査では、男性では7人に1人が、女性では15人に1人が一生に一度は尿路結石症に罹患することになり、国民病といえる状況となっています。肥満、糖尿病、高血圧といった生活習慣病が尿路結石症と関連していることは、多くの疫学研究で示されており、食生活の欧米化が影響していると考えられます。また、「尿路結石症はメタボリックシンドロームの1疾患である」との概念も生まれています。
最近では、尿路結石の形成機序に関する遺伝子レベルの解析、尿路結石の有機成分の同定、など分子レベルでの研究が行われています。また、興味深いことに尿路結石の核の形成機序は動脈硬化の石灰化と類似しているということもわかってきました。シスチン尿症など尿路結石の原因疾患における責任遺伝子の解析も進み、診断のみならず予防や治療への応用が期待されています。
30数年前の内視鏡を用いた経尿道的結石破砕術や経皮的結石破砕術、1984年に国内に導入された体外衝撃波結石破砕術などにより治療の低侵襲化が進みました。最近では、6Frまでに細径化された半硬性尿管鏡や細径軟性尿管鏡の開発、レーザー破砕装置の普及など、尿路結石症の治療はめざましい進歩を遂げています。
結石の成因に関する研究や治療の急速な低侵襲化と比較して、再発予防への取り組みがやや軽んじられているようにも見えます。発症・再発予防の基本は、①十分な水分の摂取、②肥満の防止、③食生活の改善、であることはいうまでもありません。尿路結石発症は、メタボリックシンドローム発症の警鐘とも捉えることができることから、泌尿器科医と一般内科医が連携して尿路結石の再発防止に取り組むことも重要であると思います。
日本尿路結石症学会は、日本尿路結石症研究会(Japanese Symposium on Urolithiasis Research)として平成2年(1990年)2月1日に設立されました。その後、平成13年(2001年)8月30日に日本尿路結石症学会(Japanese Society on Urolithiasis Research)に改名され現在に至っています。この間、会員数は決して増えているわけではありませんが、結石の成因、診断・治療、再発予防など本学会の英文表記であるJapanese Society on Urolothiasis Researchに示すように、会員の先生方のすばらしい研究成果が世界に向けて発信されてきました。2016年には13th International Symposium on Urolithiasisを我が国で開催することが決定しており、現在鋭意準備を進めています。これをさらなる発展のためのステップとして、本学会の使命である尿路結石の研究を通じて、国民の健康と社会の発展に積極的に貢献していきたいと思います。会員の先生方におかれましては、本学会の趣旨をご理解頂き、引き続きご指導ならびにご支援を頂戴いたしたく、よろしくお願い申し上げます。
平成26年8月
日本尿路結石症学会理事長 市川智彦