● 血管腫・血管奇形について
血管腫・血管奇形などの血管の病気については、はっきりとした原因が不明のものが多く、古くから色々な名前で呼ばれます。古くは血管腫と呼ばれていた病気が、最近では血管奇形と呼ばれていたりすることもあり、医師の中でも統一されていないのが現状です。ここでは、血管腫・血管奇形という呼び方自体の論議にはふれず、血管の構造について説明ののちに、以下の代表的なタイプの病気について説明します。
・ 乳児血管腫(いちご状血管腫)
・ 毛細血管奇形(単純性血管腫)
・ 静脈奇形(海綿状血管腫)
・ 動静脈奇形
・ リンパ管奇形
● 血管の構造について
心臓から拍出された血液は動脈に送りこまれます。動脈は枝分かれを繰り返し、体の隅々までいたると血管は毛細血管とよばれる非常に細い血管になります。毛細血管の中を通った血液は静脈を通って心臓へ帰っていきます。
動脈、毛細血管、静脈は、どれも血液を運ぶ管ですが、少しずつ異なった性質を持っています。心臓の強い血流をうける動脈の壁は厚く丈夫であるのに対して、酸素や栄養を血管外へ積み下ろす場所である毛細血管の壁は非常に薄くなっています。静脈の壁も動脈に比較すると、薄くできています。
動脈、毛細血管、静脈、いずれも管状の構造をしており、内側を血管内皮、外側を血管壁とよびます(左図)。特に血管内皮は血管内皮細胞とよばれる「細胞」が隙間なく並び、血管の内張りを形づくっています。右の図は血管の内側から撮影した電子顕微鏡写真ですが、細長い「細胞」が隙間なくならんでいるのがわかります。
血管腫・血管奇形の原因はさまざまで、まだ明らかになっていない部分も多くありますが、少なくとも一部はこの「血管内皮細胞」に異常があるためにおこるということがわかっています。
● 乳児血管腫(いちご状血管腫)
いちご状血管腫は生後間もなく、生まれたての赤ちゃんにできることが多い血管腫です。生まれたときにできていることもあります。体中どこにでもできる可能性があります。
典型的な経過
典型的には、生後間もなく皮膚表面に赤い斑点ができ、やがて盛り上がり始めます。生後半年くらいまでの間に表面が光がかった「いちご状」とよばれる状態になりますが、その後は大きくなることなく、むしろ自然に色が落ちていくようになります。多くの場合、小学校低学年くらいまでの間に赤みがひいていきます。
完全に周囲の皮膚と見分けがつかないくらいきれいになおることもありますが、少し皮膚の質感に異常が残ったり(ざらざらした感じ)、赤みや茶色みが残ったりすることがあります。
代表的な治療方法
基本的には、経過観察のみでよくなる、とされますが、最近では早期から色素レーザー治療を行うことがあります。レーザー治療を行うことによって、より早期に赤みが消えることが期待されます。
*非典型的な例
眼の周囲や、口の周囲などに大きな病変ができた場合には、より積極的な治療を行う必要がある場合があります。経過の中で、血管腫の中に潰瘍(きず)ができることがあります。血管腫の一部に消えない成分が含まれていて、のちに治療を要することもあります。
積極的な治療よりも経過観察が優先される病気ですが、いずれにせよ専門医師による経過観察が望ましいと考えられます。
● 毛細血管奇形(単純性血管腫)
毛細血管奇形(単純性血管腫)は、毛細血管レベルで血管に異常がある病態です。通常は、毛細血管レベルで血管が異常に増えているものを指します。
皮膚などの体の浅い部分にできると「赤あざ」となります。皮下脂肪や筋肉にできて、ふくらんだ「できもの」となり、形の異常となることもあります。
部位や大きさなどによって経過はさまざまですが、基本的にはゆっくりとした速さで病気が進んでいきます。(赤あざが濃くなったり、できものが大きくなったりしていきます。)治療としては、状況に応じてレーザー治療や、手術的な治療などが行われます。
● 静脈奇形(海綿状血管腫)
静脈奇形(海綿状血管腫)は、静脈レベルで血管に異常がある病気の状態です。静脈には太いものから細いものまで様々ですので、病気の状態も様々です。皮膚のすぐ浅いところにあるものから、筋肉内に入り込むものもあります。静脈は本来左の図のように管状をしておりますが、静脈奇形の部位では右図のように「とぐろ」をまいているような状態になっています。
さらに、大きな静脈奇形においては複数の静脈が絡み合い、図のように内部がスポンジのような構造になっていたりします。スポンジ部分は大きな部屋でできている部分(ピンク線)や小さな部屋でできている部分(黄色線)、血管壁ばかり厚くなっている部分があります(みどり線)。
経過や、治療の必要性は部位や程度によってさまざまです。からだの浅い部分にある場合には、見た目が問題になります。特に大きいものや、筋肉の内部にできた場合には、痛みの原因になることがあります。
治療方法も部位や大きさによって変わってきますが、手術的に切除したり、硬化療法が有効であったりします。治療方法は内部の様子によってことなってきますので、MRIや超音波などの画像検査が有効です。
● 動静脈奇形
動静脈奇形は、動脈レベルから、静脈レベルにかけて異常がある病気の状態です。血流が動脈から毛細血管を通ることなく(細い通路を通ることなく)静脈に抜けてしまうことによって、できもの自体の血流が非常に速い状態になっていることが多くあります。
動脈と静脈が直接つながっていることを「短絡する」というようにいいます。つながっている場所を「動静脈シャント」とよびます。
小さな病変の場合には、手術的な切除を行うことが可能ですが、大きな病変では切除が困難なことも多く、治療に難渋することがあります。重度の出血の原因となったり、シャントを流れる血流の量が多くなると心臓の機能に影響を与えたりすることもあります。なるべく早い段階で、血管腫・血管奇形の治療に習熟した医師の診察を仰ぐことをお勧めします。
● リンパ管奇形
リンパ管奇形は、いわゆる血管の病気ではなく、リンパ液の流れるリンパ管の病気です。広い意味の血管奇形(vascular malformation)の一部であり、治療方法として、手術的治療、硬化療法など、血管腫・血管奇形と同様の治療を行うため、血管腫・血管奇形研究会の研究対象としています。
多くは特に症状のない「できもの」として発症します。血液の流れる血管腫・血管奇形に比較すると、大きくなっていくのも遅いことが多いですが、形の問題や、皮膚からリンパ液が染み出てくるなどの症状が出てきた場合には、治療を行います。